蹂躙と報酬
コウが薬草をとっているころ、ギルドの酒場では魔剣同好会のメンバーが酒場でのんびりしていた。
「しかし、ナイアが簡単にやられるとはねぇ。その新人君すごいな。」
「そうだな。ナイアは戦闘で手を抜く事は無い。ましてや油断なんてもっとないからな。その少年はよほど修行をしていたのだろうな。」
「彼本当に凄いんだよ!まさか小回りの効かない大剣で受け流しからの、踏み込みでトドメとか、すごいセンスだよ。パーティに入ってくれないかなぁ。」
会話の内容はもっぱら今日の新人のことである。
パーティメンバーのカインとトラスは共に個人でCランクの実力を持ち経験豊富で、ギルドからの信任も厚い。
この街で今最もBランクに近いパーティそれが魔剣同好会である。
「本人が入る気がないって言ったんなら何かしら事件でもないと入らんだろ。たまに臨時で組む時があるかもしれないから、そん時また誘えばいい。」
カインはノイアの親友であるためこんな時は話が長くなることを知っていたため無理やり話を終わらせる。
「そうだな。いくら強くても限界はあるその時に声をかければいい。
それに俺たちは俺たちでやる事が有るだろ?」
「やる事?あぁ、最近ゴブリンの数が増えている件か、
あいつらどこから湧いてくるのやら。」
トラスの出した話題に二人の顔が険しくなる。
ナイアは忘れていたようだがすぐ思い出して愚痴をこぼす。
ゴブリンは単体では、大人なら誰でも倒せる程度の力しかない。しかし数が増えるとCランクの実力を持つ冒険者でも一人では返り討ちにあってしまう。
100体を数えようものなら4パーティ以上の合同依頼になる事も珍しくない。
さらに、素材が売れるわけでも無いし肉は食べれるようなものでもないため、余計人気がなく割りに合わないことも多い。
それに、繁殖のために多種族の雌をさらい、苗床にし用が済んだら殺すという、残酷な面もありゴブリンは群れ以外は見つけ次第討伐が推奨されている。
群れの場合は倒そうが倒すまいがギルドへの報告が義務付けられている。一体いたら周囲に五十体いると思えという、地球でいう、黒光りするあいつのような奴である。
「とにかくだ。明日からは森に入って探索をする事になるからな。泊まりがけになるかもしれないしゆっくりしよう」
ナイアはビールを掲げて乾杯といおうとした時、ギルドの扉が音を立てて開かれる。
中にいた人は何事かと入り口を見る、そこには全身に傷を負いながらも、肩で息をする顔見知りの顔が有った。
「大変だ!俺はDランクパーティグリフォンの牙のトーラス!森で百体以上のゴブリンが確認できた!至急討伐の準備を!統率が取れていた事から上位種がいる可能性あり!俺たちも奇襲されて他の奴らの詳細は分からない!」
ゴブリンの上位種とは魔法使いや戦士、キングなどのことを指すが、どれも単独でCランクであり、キングはB級扱いになる。
この街には今、BランクパーティとCランクパーティは1つずつしかいない。だから魔剣同好会もすぐに動けるように準備をするが、内心ではかなり焦っている。グリフォンの牙は最近実力が伸びてきたパーティで、驕らず油断せず慎重な行動をすることから同業者からの評価も高い。
そんなパーティが全滅に近い被害を受け、奇襲を成功させるほどの統率力。上位種がいるのはまず間違い無いだろう。
考え事をしている三人の元に、受付嬢の一人が駆け寄ってくる。
「サリアさんどうしたんだい?ちゃんとこれには参加するから大丈夫だよ」
受付嬢もといサリアは首を振り、用件を伝える。
「コウさんが今どうも森に入っているみたいなんです!しかも武器を持たずに!私、ゴブリンのことを本人に言ってなくて、まさかこんな近くにいるなんて!」
今にも泣き出しそうな顔で話した内容に、愕然とする。たしかに戦闘に関してはCランクを超えるだろう。しかしそれは武器を持っているからであって素手で出来たわけじゃない。もしかしたら出来るかもしれないけど大剣使いのことは間違いないはずだ。
自殺行為もはなはだしいが、後の祭りだ。
本当はアイテムボックスの中に入れているということなど全く知らないため起きた悲劇とも言えるが。
「今すぐ行くぞ!」
「落ち着けノイア!まだ襲われたと決まっているわけじゃない。
準備出来次第すぐに行くぞ」
「カインの言う通りだ。迅速に準備して出るぞ」
「皆さんよろしくお願いします。
今このあたりにいる人は聞いてください!今回の依頼は緊急依頼です!対象はDランク以上の冒険者!
討伐対象はゴブリン!上位者のいる可能性もあります!十分注意してください!各リーダーとソロの人は受付に集まり他の方は行く支度をしてください!十分後に出発です。皆さんよろしくお願いします!」
「「「オォーー!」」」
冒険者たちの声が響いたあと着々と準備が進み十分後には門を出て駆け足で移動していた。
30分ほど走った頃前から驚きの声が上がり少し見上げればそこには紅い壁が立っていた。
前話の最後の場面に戻る。
急に現れた炎の棺に閉じ込められたゴブリンたちは慌てるばかりで誰もこちらに気づかない。これ幸いとアビスを構え、魔力を流す。紅い輝きと熱とが産まれる。
まずは踏み込みながら斬りはらいそれとともに炎が燃え上がる。あるものは両断され、あるものは炎によって吹き飛ばされる。
チッ!百は間違いだ。"でかいやつが"百だ小さい奴がウヨウヨいやがる!これじゃラチがあかない。仕方ない、ぶっつけ本番だがやるしかない。自分の中に黒い炎がある事を確認する。そしてそれをアビスに...
--やっとお前の力を認識したか。この力は地獄の業火。存分に使いこなせばこの世に燃やせぬものなどない。
存分に励め!ハッハッハッーー
おい!ちょっと待て!チッ、しかし今のはアビスの声か。
って今はそんな場合じゃねぇ。地獄の業火存分に使ってやる!
剣を振るたびにゴブリンが両断され燃えていく。魔法も飛んで来るが黒炎で燃やす。飛んできた方向へ黒炎を放つ。そしてまた斬る。斬りはらい、突き、振り下ろし。鎧や盾を持っていようが関係ない。全てを斬る。
剣が振り下ろされる、大剣で防ぎ炎で焼く。だが不思議と最初の普通の炎で燃やしたもの以外は目立って焼け落ちているわけではない。
しかしその目は生気を失って死んでることを分からせる。
周りのゴブリンを大半斬り捨て焼き殺した頃、中央にいた一際大きなゴブリンが動き出す。
その威圧感は他のゴブリンとは比較するのも出来ないほどのもの。大きく力強い肉体とこちらを見て逸らさない目がどれほどの相手かを思い知らせる。
この世界に来て初の強敵か。いいねぇ。斬り捨ててやる。
そいつに向かって踏み込む。
右下からの切り上げに対してギリギリのところでかわし、その手に持つ棍棒で打ち込んでくる。それに大剣で受け流すことは不可能と判断しとっさに後ろに飛ぶ。自分のいたところの足元が棍棒によって凹む。すぐに次の一撃が来る。大剣で棍棒を叩き切る。ゴブリンは、驚き、動きを止めた、そしてその隙を逃さずゴブリンの首をはねる。その巨体は血を吹き出しゆっくりと音を立てて倒れた。
本来なら勝敗は決したも同然だが相手は魔物であり、人に害をもたらす厄災である。
ひとところにまとまり構えているゴブリンたちに向かい手をかざす。
「国炎招来」
黒い炎が蹂躙する。そして動くものがいなくなったことを確認したコウは「炎の棺」の魔法を解除したのだった。
「ふぅ、大変だったな。こいつらどうし「貴様何者だ!」」
声の方向を見る、するとそこには多くの武装した人が驚きをあらわにして立っていた。
俺はノイアを見つけたのでとりあえず手を振っておいた。