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異世界バイオレンス生活の前触れ

 ……いや待てよ。

 日本の感覚で全てを考えてはいけない。

 これが異世界の普通なのかもしれない。

 この世界の魔法のレベルが高いのではないだろうか?

 例えばアメリカの森林地帯では、熊よけのためにその辺の主婦が44マグナムを常に装備していると聞く。

 モンスターとか危険鳥獣が、ロケットランチャーや絶対零度を必要とするほど強いのではないだろうか?

 ドラゴンとかコカトリスとかの大型の肉食獣が普通にその辺歩いているとか。

 ……恐ろしい世界に来たようだ。

 と言いながら俺は辺りを見回した。

 ドラゴンなどの大型モンスターは見えない。

 ……ねえか。

 そこまで考えると現実的な問題が降りかかった。


「一発でモンスターを無力化し、周囲は巻き込まない魔法が必要だな」


 俺の魔法は強すぎる。大量殺戮が可能だ。

 罪のない人を巻き込んで非難されるのは避けたい。

 なにかないのか?

 ラリアットとかバックドロップとか、スタナーとかタイガードライバーとか片翼の天使とか。

 普通の炎出すやつとかビームとか。

 そうぼやく俺の尻は痛かった。

 なにせ俺の尻に『固有スキル プオタ おっさん魔法』と読むことのできる傷が彫られていたのだ。

 その時はまだ気づかなかった。

 なにせ落下の衝撃で全身が痛かったのだ。

 それだけではなく俺の体はボロボロだった。

 各種成人病に絶望的な血液の数字……ってそっちじゃない。

 単純に脱水症状を起こしていたのだ。

 草原を歩くのがこんなにキツいとは思わなかった。

 俺は額まで汗だくだった。……今なら良い出汁が出そう。

 問題は体のほてりが取れないことだった。

 このままだと脱水症状を起こすだろう。


「とりあえず水を出してみるか……」


 俺は独り言を言った。

 魔法で水が出せればいくらか命を長らえることができるだろう。

 今はロケットランチャーや液体窒素より水が欲しかった。

 俺は魔法を試すことにした。

 ウォーターサーバーのCMを思い浮かべる。

 すると水の玉が空中に現れた。

 だいたいコップ一杯程度と思われる。

 俺の口の前でふよふよと空中を漂う水玉を観察しながら、俺は自分の体に異変はないことを確認する。

 自分の体の中から強制的に水を絞り出したわけではないようだ。

 ウルト●マン方式じゃない。

 セーフ。セーフ。

 あれを今やったら死ぬからな。

 俺は両手で水をすくい口に運ぶ。

 カルキ臭も、泥臭さも、生臭さも、さびのにおいもしない。危なそうな感じも全くしない。

 それは水だった。飲んでも違和感を感じないほどの。

 あとで腹を下すかもしれない。

 だけど、とりあえず死ぬまでの期間は多少延びたようだ。


「よし!」


 少し元気になった俺は歩き出した。

 腕の血は止まったようだ。

 血が固まっていた。

 傷は消えているようだ。

 神様……マジで連絡方法考えてくれませんか?

 紀元前に流行った神託方式とかマジでやめてください!

 エロフとかエロフとかエロフに解説をお願いします!

 全身は相変わらず痛い。

 特になぜかケツが痛い。

 痔かもしれない。

 新たな病気とかいらんので。かなり真面目に。


 こういうときは妄想に逃げよう。

 ……俺、街に着いたらポーションとか適当な品で荒稼ぎして、若くて素直で従順な奴隷を買うんだ。

 それでエロゲみたいな恋愛をするんだ! 絶対にするんだ!

 気がついたら貴族の家を乗っ取って、メイドさんとエロいことをするんだ!

 エルフも手に入れるんだ!

 転移したからにはハーレムライフを目指すんだ!

 そして子孫をたくさん残すんだ!

 一説によると、チンギス・ハンの子孫は世界に1600万人いるらしい。

 そのくらいのスケールのでかいハーレムを築いてみたいものだ。

 この世界で俺はチンギス・ハンになるんだ!


 俺は欲望を剥き出しにした。

 あーないない。

 ありえないとはわかっている。

 でも妄想の一つもしないと心が折れそうだった。

 なにこのクソゲー!

 スタート地点で死にかけるとかマジなめてるの?

 なんなの? 昔の洋ゲーなの!

 俺はブツブツと文句を言いながら歩く。

 しばらく進むと道が見えてきた。

 とは言っても整地されたものというよりは、頻繁に何者かが通って草が生えなくなった道だ。

 みちには(わだち)と馬の蹄の跡があった。

 いや馬の蹄の跡見たことないけどさ。

 だいたいイメージ通りのものだ。

 なにせ、それはきれいなU字だった。これは蹄鉄の跡……だと思うのだ。

 ということは近くに人間の街とまでは言わなくても、集落くらいはあるはずだ。

 問題はどちらに進むかということだろう。

 どちらに進んでもそのうちどこかには辿り着くだろうが……遠回りするだけの体力はない。

 近くに別道もない。

 通りすがりの人もいない。

 俺が思い悩んでいると声が聞こえた。


「きゃあああああああああッ!」


 女性の切り裂くような悲鳴。

 俺はそれを知っていた。

 とうとう来たか!

 チュートリアルの終わり。異世界のお約束!


 盗賊の襲撃だ!


 ヒロイン出撃のお知らせ。

 そして俺の覇道の第一歩が!

 エロくて楽しい異世界生活の第一歩が!

 と、内心ほくそ笑んでいた俺だが、ここから俺は理想の転移を踏み外していくことになる。

次回からバイオレンス。

夜に投稿予定です。

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