最終決戦 2
半分ミイラのヴァレンティーノが切っ先を俺に向けた。
あまり気にしていなかったが素手だと圧迫感がある。
間合いってのは大事なようだ。
ヴァレンティーノは、ずさ、ずさ、とすり足で間合いを詰めた。
剣の使えない俺では達人かどうかまではわからないが、少なくともクレストンよりは強そうだ。
俺はとりあえず腰を落とし、アマチュアレスリングみたいに構える。なお、この構えに意味はない。
俺は頭の中で考えた。
風車の理論だ。
相手の攻撃を受けきって相手のポテンシャルを出し切ってから、さらに強い力で倒す。
それがエンターテイメントなのだ。
そうだそうすべきだ。
するとヴァレンティーノが叫んだ。
「ふはははは! ジャギーよ! うぬの正体見破ったり!」
な、なんだってー!
自分の名前も思い出せない汚い中年の正体を見破ったなんて……なんて暇なんだ。
なにを暴かれたのだろうか?
小学校の時にクラスメイトの笛を……いや、やってねえよ! 俺はそこまでは変態じゃない。
深夜の全裸戦隊ごっこは……もう異世界なので逃走完了で無罪だ。
横領や背任はしていない。
オタクであることは、汚いおっさんであることよりはだいぶマシだ。
しかもこの世界で暴露されても痛くもかゆくもない。
獅子族との関係は誰でも知っている事実だ。一部の街では俺は子宝の神として奉られている。
オフィス街のど真ん中でウ●コマンに関してはダメージこそあるが、ほとんどの人に近い経験があるに違いない。
秘密と言えば名前くらいだろうか。呪術的効果でもあるのだろうか? 真名で縛るとかの中二病的な?
「そうだ、その兜だ。どんなに攻撃しても兜だけは壊れなかった。そして貴様はその兜から再生した! 貴様の正体はその兜だ!」
な、なんだってー!
いきなり俺に謎の筋書きがぶち込まれた。
どうする? この筋書きに乗るか!
いや、乗るしかない!
「くくく、だからどうした? さあ、壊してみろ! 貴様の力を見せてみろ!」
俺は胸が鳴っていた。
やべえ、どうしよう……適当なこと言っちゃったよ。
これって武器屋で買った市販品なんですけど。
チャームポイント以上の意味はないんですけど。
ビッグバン・ベ●ダーの甲冑と同じなんですけど!
「我に邪神の天啓あり! 暗黒神の使徒よ。滅びるがよい!」
はい、今、ヴァレンティーノさんが重要な事を言った!
なんてことだ。邪神と暗黒神は別だったのか!
本当に暗黒を司る神ってことだったのだ。冥府の神に違いない。
やっぱり俺は勇者じゃん!
「しねええええええいッ!」
俺の兜にヴァレンティーノが剣を振り下ろす。
二指なんとか!
俺は剣を指で挟もうとする。
だが剣の勢いを指で押さえられるはずがない。
俺の腕を剣は容赦なく切り裂き、腕の中ほどで止まった。
あ、骨まで斬れてる。やっぱり達人でやんの。兜ごとばっさり斬ろうと思ってやがったな。
「お前は……バカなのか?」
ヴァレンティーノのミイラ顔がさらに青くなった。
まじまじ言うな。
誰にでも失敗はある。
そして俺はあきらめが悪いのだ。
俺はヒールをかけ剣を肉に取り込む。
「ほぁたーっ!」
俺はかけ声でごまかすと自分の腕にめり込む剣をチョップした。
剣はへし折れ、俺の腕からすっぽ抜けると地面に落ちた。
「剣は折れたぞ」
俺は眉毛を太くしながら言った。
よし、ごまかせた!
「う、うるさい!」
ヴァレンティーノは剣を拾う。
まだその辺にたくさんある。
「生半可な技では俺は沈まぬ。貴様の全力をぶつけてみろ!」
無駄に熱い方向に誘導中。
これで黒歴史化は避けられる!
「う、うわああああああああああッ!」
ヴァレンティーノは恐怖した。
まさか、俺の口から出てくる言葉が全てデタラメだとは思いもしてないのだろう。
真面目な暴君はこれだから。
「う、うるさい! この兜さえ壊せば俺の勝ちだ!」
そう言うとヴァレンティーノは俺の兜を狙って剣を跳ね上げる。
もちろん俺はよけることなどできない。
達人レベルの技は速いだけじゃないのだ。
斬られた俺はヒザをつくと苦しがった。
「う、うおおおおおおおッ!」
とりあえずアングルには従っておこう。
弱点を突かれたからには、それなりの反応を示さなければ干されてしまうのだ。
「き、効いた! ジャギーに我は勝てるのかー!」
ヴァレンティーノは喜んでいた。
悪いことをしてしまったかもしれない。
ヴァレンティーノは畳みかける。
俺の兜を狙い攻撃を繰り返す。
俺は倒れた。何度も何度も剣で斬られる。
兜は曲がり、中にある俺の頭もスイカみたいになっていた。
だが……それが、俺のしかけた罠だった。
「なんとかスパーク!」
俺は背中に手を回すとロケットランチャーを打つ。
ブリッジ状態の俺にぶち当たったヴァレンティーノが打ち上がる。
「な、なんだと!」
おらもう一丁!
俺はロケットランチャーを放つ。
脊椎とはらわたをぶちまけながら、俺はブリッジでヴァレンティーノにぶち当たる。
「な、なにをしようと言うのだああああああああッ!」
ヴァレンティーノの悲鳴が響く。
俺にもわからん!
さらに俺はロケットランチャーで自分自身をぶち上げ、ヴァレンティーノを巻き込む。
「これで最後だ!」
俺は普通にロケットランチャーでジャンプすると、空中でヴァレンティーノをつかむ。
足を首にかけ……両手をつかみ……つまりそういうことだ。
「げふッ!」
ヴァレンティーノが小さく悲鳴をあげた。
効かないと思ったが、ちゃんと有効打になったようだ。
問題はフィニッシュムーブだった。
ヘルニアが怖いのでブリッジしながらのフィニッシュムーブは無理だ。
だから俺はここからなんとかリベンジャーに切り替える。
手をつかんで……足に足をかけて……と、とにかく頭から落とすのだ。
「不死の王よ。滅びるがよい!」
「な、なぜだ! なぜ我は……我は!」
俺たちは落下した。
落下の衝撃で地面が揺れ、建物の屋根は崩れ、石畳が舞い上がった。
ヴァレンティーノは目をむいていた。
首が変な方向に曲がっている。
だが一瞬で元に戻った。
まだ死ぬ気はないらしい。
俺は兜が邪魔になってきた。
なにせヴァレンティーノの猛攻でひしゃげてしまったのだ。
俺は兜を取ると投げ捨てた。
それを見るとヴァレンティーノは目をかっ開いた。
「う、嘘つき……」
ヴァレンティーノは俺にそう言った。
あ、忘れてた。
どうも頭部を攻撃されると直近の出来事を忘れてしまうのだ。
ヴァレンティーノはプルプルと震える指で俺を指さす。
「心して聞け、魔王の座を譲ってやる。だがそれは新しい苦悩の始まりだ。お前は人間と魔族の間で苦労する。絶対にだ……ざ、ざまあ見ろ……我が滅べばすべてよくなるなんて幻想だ……」
「かもな」
俺がそう答えるとヴァレンティーノは満足そうな表情を浮かべた。
そして静かに塵になって消えていく。
「お前はロリを傷つけた……っと」
俺は兜を蹴飛ばした。
後で新しいのを買わねば。
できれば昔のアニメのような毒々しい色のやつ。
カサンドラたちが俺に走ってくるのが見えた。
「だ、ダーリン!」
レミリアも駆け寄ってくる。
これで俺の役目は終わった……と思うのよ。
元の世界には意地でも帰らねえけど。
俺は魔族たちを見た。
みんな不安な顔をしている。
戦争が終わったら、次は明日の生活だ。そりゃ不安になるわ。
だから俺は言った。
「はい、まずは瓦礫の片付け。住むところを作ったら、飯の確保。それが終わったら、みんなで商売を考えますよ!」
仕事を与えてやれば不安は少なくなる。
カサンドラは俺に抱きつく。
「そういうダーリンの頼りがいのあるところが大好き!」
レミリアも目を輝かせている。
昔の人が言った。
戦争は終わってからが大変だってな。
でも俺たちの心には希望ってやつがあった。
次回最終回です。
すいません10万字行かなかった……