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最終決戦 1

「よっし、おっさん俺とプロレ……」と、俺が言った瞬間である。


 ぐちゃり。


 迫力のないモーションから放たれたビンタ一発で俺はミンチになった。

 目算で少なくとも重さ数トンはある塊が、ダンプカーよりも速く俺にぶつかったのだ。そりゃ一発で死ぬ。

 幸いヒールをかけていたので俺は一瞬で肉体を再生できた。

 痛い! まじで痛い!

 なるほど。俺は反省していた。よく考えれば当たり前のことだ。

 俺とヴァレンティーノはサイズが違いすぎる! ゆえにプロレスが成立しない。ホント、そりゃ当然だわ。

 腰の入っていない女の子ビンタで俺はミンチになってしまう。

 だが俺は確信していた。

 ヴァレンティーノはわざわざ肉体を巨大化した。元は塔に入っていたはずだ。

 つまりだ、ヴァレンティーノは元のサイズは人並みのはずだ。こっちが正体のはずがない。

 あの女の子ビンタも重量を考えない巨大化で動きが制限されたのだ。

 そりゃタンパク質と骨じゃ、地上ならアフリカ象、海の中ならシロナガスクジラやダイオウイカくらいが最大のはずだ。

 植物だったらビルと同じ大きさのセコイアとか、山一つまるごとキノコってのがあるらしいが、地上の動物だったら重さはせいぜい7トンだ。

 重すぎてビンタしかできないのだ。

 こんなサイズの動物がいるはずがない。

 だが重さは強さに直結する。普通だったら手も足も出ないだろう。


 相手が俺じゃなければな。


 俺はそっと後ろを見る。部下たちは逃げていた。

 偉い。役割をわかっている。

 普通の戦いは部下にまかせ、俺は大物狩り。

 これが俺たちの役割分担なのだ。

 不死族と一緒になって部下が逃げたのは気にしない。

 絶対に気にしないからな!

 またもやビンタが来る。

 俺は潰され、即座に回復する。

 俺は全てを受けきるつもりだった。

 もっとだ! もっと俺に貴様の熱い思いをぶつけてみろ!

 そしてヴァレンティーノの目が光る。

 呪いのブレスだ。

 そうだ! それを待っていた。

 俺の全身が呪いで溶けていく。

 そういや化学薬品に漬かって、マッチョなヒーローになる映画があったな。

 モップで悪い連中をぶっ殺していくやつ。

 俺はどうでもいいことを考えながら、呪いをヒールで回復する。

 そして俺は確信した。

 ゲージが溜まった!


「行くぞおおおおおおおぉッ!」


 俺は叫ぶ。

 一瞬、ヴァレンティーノがビクッとしたような気がするが気にしたら負けだ。

 俺は病気を思い浮かべる。

 同僚がかかっていた最悪のやつだ。

 全裸の俺の体からカラスが飛び出していく。

 カラスはヴァレンティーノに襲いかかる。


「がッ!」


 ヴァレンティーノが面白くなく、それでいて切実な悲鳴をあげた。

 次の瞬間、ヴァレンティーノが転ぶ。

 俺はヴァレンティーノに潰された。ぐっちゃり。

 最後まで格好良くいさせてくれよ。ホント。

 だが俺はめげない。

 40年近い人生は屈辱と失敗の連続だったからだ。

 オフィス街のど真ん中で漏らしたことに比べれば、こんなのは屁でもないのだ。

 俺は再生した。

 ヴァレンティーノは足を押さえて苦しんでいた。

 その悲鳴はなによりも悲痛だった。


「痛いでしょう。それがあなたに虐げられた民の痛みです」


 通風。

 血中の尿酸が結晶を作って関節内で突き刺ささりまくる症状だ。

 別名:おっさんスレイヤー。※ジャギーさん調べ。

 痛い。冗談じゃなく痛い。

 発症者の9割が男という、おっさんを殺すためだけに存在する疾患だ。

 この人でなし!

 同僚が悶絶する姿を見て以来、恐怖を感じる日々である。

 お酒飲むのやめよう……

 この大きさと重量で痛風を起こすなんて悪夢そのものだ。


「な、なんだ。この呪いは! ただ痛みを与えるなんて!」


 ヴァレンティーノは泣き叫んだ。

 だが残念なお知らせがある。

 俺のゲージはまだ使い尽くしてない。

 俺は病気を思い浮かべる。


「これは亜人たちとレミリアの分!」


 さらに俺からカラスが飛び出す。

 カラスはヴァレンティーノに襲いかかった。


「うごふッ!」


 あ、悶絶した。

 ヴァレンティーノは腰を押さえながら浅く呼吸を繰り返す。もう虫の息のようだ。

 痛いだろう。本当に痛かろうよ。

 おっさんキラーその2。

 椎間板ヘルニア!

 軟骨が神経を圧迫する症状だ。

 痛いし、痺れるし、最悪の場合だと神経の麻痺で動けなくなるのだ。

 痛いなんてもんじゃない。本当に死にたくなる。

 台風の後とか軽く死にたくなる。

 ヴァレンティーノが、ちょっとかわいそうな気がしてきたぞ。

 だが、まだだ! まだゲージは残っている!


「そして……これがロリの分だああああああぁッ!」


 ロリ死ぬダメ絶対。

 たとえ事情があろうとも子どもを盾に使った時点で貴様は苦しむべきだ。


「ひぎゅッ! ぐぎゅッ! や、やめ!」


 ヴァレンティーノが股間を押さえた。

 重すぎて寝返りも満足に打てないようだ。

 おっさんキラーその3にして最凶。

 尿路結石。

 石ができる。ナニとその前の管に。

 キング・オブ・ペインと言われていて、その痛みは失神するレベルだ。

 実は俺はまだかかったことはない。

 だが痛みで軽く死ねるとは聞いている。やーね。

 ヴァレンティーノは口から泡を出しながら悶絶する。


「き、貴様ぁッ! な、なぜだ、なぜこんな仕打ちを……」


 おっさんスレイヤーの効果はばつぐんだ。


「子どもを盾にさえしなければ、私があなたと戦うこともなかったでしょう。恨むなら愚かな選択をした自分を恨むんですね」


 俺はあくまで平常心だった。

 心に波が立つこともない。

 どこまでも落ち着いていた。

 そして俺は言った。


「決着をつけましょう。元の姿に戻ったら呪いを解除します。どちらが死んでも責任者としてのつとめを果して死ぬ。名誉は守られます。私が勝っても不死族が逆らいさえしなければ、無体なことはしないと誓いましょう」


 これは脅しだ。はっきり言って脅迫だった。

 なぜなら俺はヴァレンティーノが断ったら、問答無用で自分ごと火災旋風で焼き尽くすつもりだったのだ。

 だがヴァレンティーノは俺の提案通り元の姿に戻った。

 どんどんと縮んでいく。

 俺は頭の中で呪いに解除命令を出す。すぐに呪いは解除された。

 人間サイズになったヴァレンティーノは落ちていた剣を広うと、サヤから抜き構えた。


「剣を取れジャギーよ!」


 だが俺は素手で大きく構えると言った。


「必要ありません」


「ところでだ……その……全裸だがいいのか?」


 いまさらそこ!

 みんな忘れてると思うのに!


「気にしないでください」


「お、おお……」


 ヴァレンティーノはとりあえず納得した。

 ……この戦いは後に思いっきり美化されるのである。

 だって、全裸の汚いおっさんと半分ミイラが戦うわけよ。

 まさにビジュアルの暴力じゃない。

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