魔王の呪い
不死族の王、ヴァレンティーノは泣いていた。
何十年もかけた王国があっさりと崩壊してしまったのだ。
その悲しみはお父さんのガ●プラコレクションが捨てられてしまったのに相当する。
もしくは鉄道模型を勝手にオークションに出された状態。
……うん、少し感情移入した。
ただメンテナンスの仕方が悪かったんだけどな。
あ、おじさん、なんかわかっちゃった。
あれか……いじめっ子を学級会でつるし上げたら「お前らが俺をいじめたんだ!」ってブチ切れるやつ。
理屈で追い込んでも納得するとは限らないやつな。
そう結論づけると俺の勘は危険信号を発した。
いじめっ子を追い詰めると……ヤバい!
「みんな逃げろ! 退避! 退避! 退避!」
俺は叫んだ。
ヤバい! あの野郎は俺と同じ呪いの能力者……
次の瞬間、塔が爆発した。
「ブチ切れやがった……」
俺はつぶやいた。
塔の中から巨大な骨が出てくる。
巨大ロボットのサイズだろうか。比較対象が近くにないので何メートルかはわからない。
そいつは中途半端に皮膚と肉がついていた。
かび臭く、乾燥した皮膚だった。
数百年ものかもしれない。
この状態でも生きてる不死族って凄えな。
そいつがまず最初にやったのは、味方であるはずの不死族にビンタをかましたことだ。
腰の入ってない女の子ビンタだ。
ただサイズが桁違いだった。
夏の蚊のように不死族がぷちゅんと潰れた。
思っていたより三倍頭が悪かった!
いや仕方がない。
だって圧倒的な暴力のせいで根回しとかいらないもん。
不幸なことに彼らは帝王学を学ぶ機会がないのだ。
部下たちは真っ先に逃げた。
だってこのサイズだと俺しか勝てないもん。
偉い! わかってきてるじゃないか!
だけど光の使徒であるレミリアだけは違った。
「呪いに気をつけてください!」
「いいから逃げろ!」
俺は怒鳴った。
ここは戦場だ。多少の荒さは許してもらおう。
すると俺の意を汲んだのかレミリアも後退した。
「ロケットランチャー!」
俺はビンタしてくる手をめがけてロケットランチャーを撃つ。
「うがああああああッ!」
ヴァレンティーノが悲痛な声をあげた。
クソ、やっぱり重くてでかいってのはそれだけで強い。
人間だったら連続稼動時間に響いてくるが、不死族なら関係はないだろう。
簡単に言うと俺は攻撃力が不足していた。
火災旋風は自分も部下も巻き込む。
どうしたものか……って、考えているうちにビンタが来た。
俺は土壁を作って防御する。
土壁は一撃で壊れるが、ロケットランチャーを撃つ時間が稼げる。
とりあえず手を跳ね返す。
どうする?
新しい魔法か?
考えろ、考えるんだ……と、俺は無意識下であくまでキレイな勝ちにこだわっていたのだ。
それが判断を遅らせた。
皮膚の貼り付いた頭蓋骨が雲の上から見えた。
巨大化しやがった。
次の瞬間、頭蓋骨の目が赤く光る、口から色のついたガスが発射された。
毒ガスだったらどんなによかっただろう。だってそいつは呪いだったのだ。
俺の口から血が飛び出し、顔の肉がでろんと崩れた。
ヒール! ヒール! ヒール!
やっべえ、この呪いやっべえーッ!
正直言って軽く死にかけた。
即死レベルの呪いだ。
「バカじゃねえの!」
俺は言った。
ヴァレンティーノは敵味方関係なく呪いのブレスを吐き散らしたのだ。
俺の目に映るのは、次々と倒れる味方の姿。
それもレミリアにかけられた呪いと同じ症状を発症していた。
もちろんカサンドラもレミリアまでも倒れていた。
光の使徒ですら呪いにはあらがう術がないようだ。
俺は決断を迫られた。
カサンドラやレミリアだけを救うか、全員を助けようとして誰も助けられないか。
選べるかボケ!
だがちまちまヒールをかけていたら全員が死ぬのは明らかだった。
それはダメだ。全員を救う。
その瞬間、俺の頭の中で悪魔的考えが蛇のように鎌首をもたげた。
やるか? 痛いぞ。今までのとは別次元の痛さだぞ!
「やる!」
次に転生するときは最低でもちゃんとした孫子の兵法は読んでおこう。俺は心に誓った。
一人包囲●滅陣の一つもできなければ転移者失格なのだ。
俺はまず自分にヒールをかける。ヒールの効果がしばらく続くやつだ。
そして俺は自分でもバカだと思う行動に出た。
電子レンジでチンだ。
自分自身を。そう超グロ魔法バーニンファイアである。
次の瞬間、俺は爆ぜた。
体液が気体になったのだ。
一瞬、意識が飛ぶが、吹っ飛んだ脳みそが再生されるのと同時に意識が回復する。
爆発直後と比べて冷やされた、俺の血や様々な体液が霧状になって周囲にまき散らされた。
そう、俺はなんとなくわかっていた。
俺は人魚と同じだ。人魚と言っても八百比丘尼の伝説の方だ。
俺の肉は不老不死の妙薬……かはわからないが、死者を生き返らせるレベルの薬なのだ。
まあ、きちゃない。
でも我慢してもらおう。
そして、俺が再生する前とは違う存在で、俺は毎回きっちり死んでいるのではとかの余計な事は考えない。
だって怖いだろが!
俺の自爆によって、部下たちにかけられた呪いが解除される。
俺はなぜかお気に入りの仮面に接している部分から再生されていく。真面目に死ぬかと思った。
再生途中の脳がエラー起こしまくってありとあらゆる痛みの信号を出すのが、本気でしんどい。
「ニゲロ!」
さすがに一からの再生のせいか、まだ舌が不完全だった。俺は片言で言った。
ヴァレンティーノの動きが止まる。
さすが魔法使い系の理系ちゃん。メカニズムの方に興味があるようだ。
そして奴は言いやがったのだ。
「……お前は、狂っているのか?」
「うるしゃい」
まだ舌が回らない。
「いや頭おかしいだろ。部下の命を助けるために自爆するなんて」
「ふふふふふ、それが私とあなたの違いです。王の器とはこういうものですよ!」
俺はわざと指をさした。ただの嫌がらせだ。
だが相手には伝わった。
ヴァレンティーノの顔がゆでだこになった。
ようやく体を修復した俺は仁王立ちした。
身につけたのは兜だけ、そう、全裸で。
「どちらかが滅ぶまで存分に戦いましょう!」
股間が揺れた。
歩くたびに人間ドラムが鳴る。
さあ、最後の戦いだ!
プロレスするぞー!
……じゃなくて悪を成敗するぞ!
ち、違うんだからね!
願望を間違えて言ったわけじゃないんだから!