不死族はこうして詰んだ 1
俺たちの進撃は止まらない。
なにせ俺が開発したポーションは希釈しまくってもアンデッドや不死族に有効だった。
ミントと俺の肉の相互作用……かどうかは科学的に分析せねばわからないだろう。
1万倍希釈のポーションを受けたゾンビは破裂寸前のあ●し状態で活動を停止。
不死族の方は殺虫剤を受けた夏のゴキブリのように動けなくなる。
そりゃちょっと頭に垂らしただけであのザマだんもんね。
子供のおもちゃの水鉄砲を大量に作り、背中にはポーションの入った壺を背負う。
水鉄砲と壺は森で獲った獲物の腸で作ったホースで繋がれている。
これを装備した我が軍団の兵士たちが、『汚物は消●だー!』とゾンビや不死族を退治していく。
死者どころか負傷者ゼロ。まさに一方的である。
なんだろうね、この作業感満載の害虫駆除。
街を丸ごと破壊する必要もないので、俺の出番は全く……ない。……どうしよう。
勇者レミリアも暇そうだ。
一方的な蹂躙が終わると、井戸職人が井戸を清掃しフタをする。
これでセーブポイント解放だ。
敗走したらここまで戻ってくればいい。
井戸の清掃が終わったら、アンデッドの死体を燃やせばすぐに使える街の完成だ。
俺たちはどこまでも順調だった。
一方、不死族側は、俺たちを止めることができない。
……そうか。不死族は獣人たちを敵に回した時点で詰んでいたのか。
不死族は力は強いし、死者を雑兵にする能力がある。
だがゾンビに細かい指令は出せないため、戦略の幅は極端に狭い。ごり押し以外の手段がないのだ。
つまり獣人やオークなどの随伴兵がいなければ烏合の衆である。
それでもなお、随伴兵たちは数で負けているので不死族に勝つのは難しいだろう。
俺一人だと移動の足がなかったりとか、物資の補給やらのせいで、不死王の所に辿り着くまでに何年かかっていたかわからない。
だがマップ兵器の俺と反旗を翻した彼らが手を組めば、行軍は迅速に、不死族は害虫レベルになってしまうのだ。なんというパワーバランスの崩壊!
たとえ俺のポーションがなくても、不死族の敗北は決定していたのだ。
不死族ヘイトためすぎ!
そこから考えると、レミリアが不死族討伐に失敗したのは、彼女が人間側だったからだ。
獣人族たちががんばったのだ。
なぜ彼らが寝返らなかったのか?
それは、いくら不死族の奴隷であろうとも人間側につくのが覚悟がいる。
その点で俺はカサンドラの婿という立場だ。獣人族の一員なのだ。
そして獣人族の魔王と……獣人族がプロパガンダに利用したからオークやゴブリン、それに他の種族も反旗を翻した。
かくして不死族側に残された戦略は、死体のある都市にこもって俺たちが来たらごり押し、それしかなくなったのである。
圧倒的に有利な立場にいるとそれが当たり前になって、下請けさんが不満を抱えているのが見えなくなっちゃう。数多の企業がコケたパターンだわ、これ。
『乱にして之を取り』、敵が不和を抱えてたら裏切らせちゃえか……孫子の兵法パネエ……異世界でも通用するぜ。
出展は斜め読みした『キャバクラでモテる孫子の兵法より』のからのあやふやな知識からだけどね。
しかも結果論でなんも考えてなかったけど。
それに俺は軍師キャラを名乗ることはできない。
なにせ転生者や転移者の間では、十倍以上の戦力差でも相手を囲んでフルぼっこにして覆すのが、軍師キャラとして求められる最低限の能力なのだ。
他の転生者や転移者って凄くね? おじさん素直に尊敬するわ。
と馬車に乗っている俺が目を細めていると、馬に乗ったレミリアが不思議そうな顔をした。
「ジャギー様。どうかなされましたか?」
「いやー、みんながんばってるなあって。おじさんも、もっとがんばらなきゃ」
レミリアはさらに不思議そうな顔をする。
そしてクスクスと笑った。
「ジャギー様は不思議な方ですね。だから亜人たちも貴方様の旗下に加わったのですね」
いや、それはたぶん親戚になったからだよ。……とは言わない。
俺は知っている。ハイティーンのプライドは山よりも高いのだ。
「そうかな。ありがとう。あははははは……」
誰か助けてください。
普通の女の子と会話を続けるのが難しいです。
女子校の男性教師ってチート能力者じゃね?
「ジャギー様……不死族討伐後はどうなされますか?」
どういう意味だろう?
文脈的に取りようはいくらでもある。
一緒に旅を続けようって線は……ないな……俺は汚いおっさんだもの。
「部下を食わせなければなりません。それには人間側と交易をすべきですね」
戻ったら亜人に産業があるか調べねばならない。
とにかく売れるものがないか調べねばならない。
今度こそ冒険者ギルドに入ってもいい。
手段は選ばない。傭兵でもなんでもしよう。
「いえそういう意味では……なんでもありません!」
……怒られた。
エロゲの選択肢なら楽勝なのに!
この娘、委員長タイプだ。
「……では人間側とは敵対するつもりはないんですね!」
なぜかレミリアはごまかすように言った。
「人間側が侵略してこなければ……ですが」
「そうですか……それはちゃんと報告しなければなりませんね」
そう言うとレミリアは先に行ってしまう。
……女子高生は難しい。
すると、これまた馬に乗ったカサンドラが近づいてきて俺に言う。
「ダーリン、モテモテだねー♪」
ニヤニヤしている。
「モテないからこの年まで独身だったわけでね」
カサンドラは嫁カウントしておこう。
心臓えぐり出されるから。
カサンドラはずっとニヤニヤしている。
だから俺は言う。
「そんなことを言ってられるのもあと数日ですがね」
「あー……首都が近いんだっけ?」
「そう、ネクロパレス。不死族の都だ」
今度はさすがの不死族もガッチガチに固めているだろう。
さーてと、事前に俺のやった小細工が効いてくれればいいんだけどねー。
そう、俺は不死族に計略をしかけていた。
ライバル企業を潰すときの常套手段だ。
俺の思惑通りなら、不死族はこれで完全に詰むはずなのだ。
ぐははははは!
社畜の気持ちは社畜にしかわからんのよ。
不死族よ!度肝を抜かれるがいい!
今回暴言多いけど許してください!