三人目のポジション
はーい、おっさんのポーションクッキングの時間だよ!
まず用意するのは、ミントの葉っぱ。
異様な繁殖力で周囲の草を駆逐してるからすぐにわかるよー。
根っこから取ろうとすると力がいるから、あきらめて葉をむしろうね。
次に適当な雑草。
香辛料代わりだよ!
ここでワンポイント!
ドクダミを入れるのはやめようね。
……えぐいから。
そしてここからが本番!
用意するのはおっさんの心臓。
カサンドラとえっちしたときにえぐられた破片を記念に天日干ししたやつ。
日本だって昔はミイラを薬にしてたんだよ。
人間の肝だって結核の薬だったし。
それを思い出して、なんとなく入れてみたら、変化が起きたのよ。
まずは紫色になる。
加齢のアクにしては濃いなあと思ったら魔術的な作用みたい。
しばらく煮込むと、シュワーって泡が出る。
そして冷やすと青いポーションになるわけ。
どうよ、なんとなく効きそうでしょ。
そして自分で飲む勇気がかけらも起きないでしょ。やだー!
敵側に人間がいたら飲ませてみようっと♪ てへ。
きっと不死族だから拒否反応が起きただけだよ……たぶん。
さて、不死族討伐をしているはずの俺が、なぜこんなことをしているかというと……
暇だったのだ。とんでもなく。
なにせ五千人もいると、動き始めるまでに時間がかかる。
ほら十数人程度の社員旅行でも、途中で行方不明になるやつ出るじゃん。
集合時刻なのにお土産物でまだ買いものしてやがるの。イチゴを堪能するお局とか。係長が秘宝館を堪能してたりとか。
……あのときはマジで殴ろうと思ったぜ。昭和の風習マジ根絶してください。
それが五千になるともっと大変。
水と食料の現地調達とか、点呼とか、料理作ったりとか、あとやっぱりいなくなるやつとか……従軍経験があるカサンドラにまとめてもらっているが、俺だけだったら無理ゲーだっただろう。
しかもこれはまだイージーモードらしい。
これが略奪するものがある人の住む都市だったら、略奪祭りの管理までせねばならない。
よかった、相手がアンデッドで。
今はみんなでテントを立ててるんだ。偉い偉い。アウトドアできる子ってうらやましい。
それでね、みんなお仕事がんばっているんだけど総司令官の俺はやることがないわけ。
獅子族の女の子たちが俺にいやらしい視線を浴びせているんだけど、おじさん痛いの嫌い。
だから仕事をするフリをして遊んでるんだ。
これ、円滑な会社員生活には必要なスキルよ。
はい、獅子族とは目を合わせない。しらないふりー。
だけどね、カサンドラはそこまでよくわかっているの。嫁だから。
問答無用で俺の肩に噛みついてるのね。
俺は意地でも知らんぷり。
「ねー、ねー、しようよー」
ほんとね、この時の獅子族って「きゅーん」って声出すの。
かわいそうになってくるの。
でも無視。
すると他の獅子族も俺に噛みつく。
「ちょっとぉ、ポーション作ってるんですけどー」
痛い。マジ痛い。
めっさガジられている。
「いいじゃーん」
きゅーん。くーん。きゅきゅきゅきゅきゅーん。
獅子族の大合唱だ。
「やはり魔王様ってパネェ……」
猫耳モヒカン。
「獅子族の女があの姿だぜ……」
オークさん。
「子作り神様。ありがたやありがたや」
犬耳の老人。
なぜか獣人族たちの中で俺の評価が上がる。
わけがわからん。
すると奥から人が走ってくるのが見える。
ジャガーの人かな?
「魔王様。ひ、光の使徒を名乗るものが面会を申し立ててます」
あらま、光の使徒。
つまり俺と対極の存在だ。たぶんスマホ持ってる。
でも殺しに来たんじゃないな。
だって面会を申し出てるんだもの。
「じゃあ、連れてきてもらってもいいかな」
俺はそう言うと真面目な顔をして獅子族の女の子たちにかじられ続けていた。
めッ! 少しは自重して!
しばらく待つと鎧を着た使徒がやって来る。
近くで見ると少女だ。しかも俺が治療した子。
あっらー、奇縁ってのはあるんだね。
少女は俺に頭を下げる。
「先日は命を助けていただきありがとうございます。私は光の使徒レミリア。暗黒神の使徒である貴方が魔王ヴァレンティーノの討伐に出発されたと聞き参上いたしました」
「は、はあ」
JKくらいの年の子だ。
なんか緊張するよね。エロス一切なしに。
接点まるでないし、このおっさん臭えよとか思われそうで。
「つきましては貴方様の旗下にくわえていただきたいと思います」
「いいですよ」
これでパーティ増員だぜ。
俺が近接戦闘もできる魔道士で、カサンドラが戦士でー、この娘が勇者……あら脳筋。
って、うーん?
うーん!?
俺……サマル●リアの王子のポジション……じゃね……
「どうされました?」
「い、いや……ああ、すません。名乗ってませんでした。ジャギー・アミーバです。と言っても名前が思い出せないのですが……あはははは」
俺はごまかした。
なにせ、まさかの終盤役立たずの可能性が浮上である。
「やはり……暗黒神は名前を奪い、その代わりに力を与えるという話は本当でしたか……」
まさかの千と●●説浮上。
「そうなの!」
「ええ、伝承にはそうあります」
そういうからくりか!
じゃあ、俺はなにを願ったのだろう?
ハーレムだ。
異世界転移者がハーレム以外を願うはずがない。
嫌がらせのようなかなえ方をしやがったが、一応はハーレムを作ったぞ!
暗黒神の野郎ぉッ!
「おじさん、暗黒神と話をつけないといけないかも」
「はい?」
「いえなんでもないです」
「ところで……あのジャギー様」
レミリアが言った。
「なんだい?」
「痛くは……ないので?」
そのようなやりとりをしている最中も、俺はガジガジと獅子族の女の子たちにかじられていた。
「痛い」
「やめさせないので?」
「もうあきらめた」
こうして俺のパーティに勇者が加入した。(笑)がつかないやつ。
よい子のみんな!
お友だちに噛みついちゃダメだよ。
シンプルに痛いから。
ホントマジで。
ジャギーさんとのお約束だよ!