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意地でもポーションを開発したのでゴザル

 鎧を着たケンタウロスが俺の乗った馬車を引く。

 馬車と言ってもサ●ザー仕様のあれだ。

 そんな俺の横にはべるのは獅子族の女たち。

 完全に悪役のビジュアルですね。

 ジャバ・●・ハットと見分けがつかないとか言うな!

 少し痩せたんだから!

 我がけんおうぐ……げふんげふん……我が軍勢はあっと言う間にふくれあがった。

 あっと言う間すぎていつから管理不能になったのかわからん。

 不死族の圧政に抵抗する獣人数十名だったはずの我が軍は、不死族の最初の街に辿り着く頃には五千を越えていた。

 ゴブリン、オーク、あとよくわかんない連中……チャリオッツに乗って両手に斧持ったモヒカン(猫耳)がヒャッハー。

 中世ファンタジー世界なのに世紀末感満載でお送りしてます。

 俺は足を組みながら……すいません嘘つきました。デブには足を組むのは苦行なのよ。

 とにかく王者然として座席に座っていた。

 獅子族の女の子たちが俺に『においつけ』をする。すりすりすりすり。

 もうなんとなくわかっただろうが、すでに俺はサファリパークの肉になった後である。

 うわーい、ハーレムが手に入ったよ。


 ……愛ってなんでしょうか?


 ちなみにティアは獣人族の里で子どもたちとお留守番だ。

 俺が王者コスプレをしていると街が見えてくる。

 瘴気でよどんだ……と表現するのが一番楽だろうが、あえて身も蓋もない説明をする。

 臭い。死体のにおいだ。そこにかび臭さまで混じっている。

 街がよどんで見えるのは、誰も清掃をしないせいで極限まで汚くなっているからだ。

 霧のように見えるのはハエなどの害虫だろう。

 ゾンビを食べているのかもしれない。

 建物は遠目にもメンテナンスがされておらず、多くが崩れている。

 橋や塀も崩れている。

 あー、あー、あー、なんとなくわかった。

 防衛が必要な施設なのにコマンダー以外は最小限で運用してますね。

 ゾンビによる数でのごり押しスタイルだ。

 細かい命令を下せない連中を覆せない優しい世界。

 たぶん網と刺股、それに大八車があれば楽勝です。

 大八車ではねて潰して、刺股で押さえて、網で捕獲、そして焼く。

 もしくはシンプルに火計。ゾンビの住んでたインフラなんざ最初から作り直した方が早いよね。

 この世界には孫子の兵法という概念はなさそうである。

 いやね、幹部研修名目でビジネス書読まされるのよ。幹部じゃないのに。社長の思いつきで。

 ほらそういうのって孫子の兵法を曲解したのが定番じゃん。

 次の日には社長含めてほぼ全員が内容を忘れて、クソ課長がドヤ顔してるやつ。死ね。

 よーし、なんかムカついたから、おじさん兵法的にありえない手段でこの街乗っ取っちゃうぞー!


「この街には獣人族の人質はいますか?」


 俺はカサンドラに聞いた。

 誰彼構わず殺すのはよくない。

 ターゲットは絞って、サクサク虐殺よー!


「もう不死族の街だから、ネクロマンサーと不死族がいるくらいかな」


 よし、無差別破壊決定。


「火災旋風ぅーッ!」


 俺は手を差し出す。

 声は某猫型ロボットのマネだ。

 火柱が立ち、街を飲みこんでいく。


「ダーリンかっこいいー!」


 カサンドラは大喜びする。

 俺の魔法が死者の群れを焼き尽くしていく。

 久しぶりのヒューマンミートのバーベキュー。吐きそう。

 うーん、プロレスがしたい。

 火元になるものが焼き尽くされたのを確認すると、俺たちは街に入った。


「ま、魔王様……恐ろしいお手並みで」


 ケンタウロスが俺に言った。


「魔王じゃありませんって。やだー! むしろ勇者?」


 勇者(笑)なのだがそれは気にしたら負けだ。


「は、はあ、そうですか」


 奥歯にものが挟まった言い方だ。

 ひどいわ。

 俺はさらし者仕様のバイク……ではなく、馬車を降りて、使者の街に降り立つ。

 ほとんどが炭になった街をダラダラと歩くと黒焦げの死体が見える。ゾンビに違いない。

 あとで供養塔の一つも立ててやろう。

 そして俺は街の中心に辿り着く。

 傷一つない塔がそびえ立っていた。


「自分の生活圏しか掃除できなかったんですね。よくわかります」


 俺はそう言うと塔にロケットランチャーを撃ち込んだ。

 爆発は起こらなかった。

 やはり魔法無効化がされているらしい。

 さて、ここでわかるのは魔法無効化は都市全体には施せない。

 コストが高いのか、それとも技術的に不可能なのか。

 どちらにせよ無理なのだろう。

 だから俺は普通に塔に近づくと一昔前の消費者金融のように蹴りを入れた。


「オラァッ! 出てきてくださいよー! この街征服できないじゃないですかー!」


 ゲシゲシと蹴りを入れると上から声がした。


「き、貴様があのクレストンを殺した魔王か!」


「ほいよー!」


 俺は明るく答えた。

 だが冷静に考えると、もしかして……クレストンって大幹部だったのか?

 マジで役員内定済みの部長さんだったのか!

 それか支社長クラスとか!

 不死族(この会社)ヤバくね!?

 キャバクラに会社の金一千万つぎ込んだり、労働組合(ユニオン)に『セクハラだけが生きがいなのになぜ禁止にする!』と怒鳴り込んだりと、ダメ管理職だらけのうちの会社よりダメな会社……だと!


「降りてこないと次の街を滅ぼしちゃうぞー♪」


 俺は明るく言った。

 すると不死族が降りてくる。


「く、俺が滅びる日が来ようとは……」


 男のくっころ楽しくない。


「あきらめるな! ポジティブマインドだ!」


 俺はセミナーの講師のように無責任な台詞を吐いた。

 すると不死族は「はっ」として構える。

 あ、この子ダメな子だ……


「さあ、8番目の魔王よ! 決着をつけるときだ!」


「魔王じゃないってのに」


 俺はぼやくと一気に間合いを詰めローリング。

 俺の上を不死族の拳が通った。


「な、今のを避けた……」


 俺は不死族の後ろに回ると顔に手を回しフェイスロックをした。

 そのまま容赦なくアゴに力を加えた。

 ぱりんとガラスを割ったような音がして不死族のアゴが潰れる。


「え、えぶしゃッ、へ、へぶ」


 俺はにやあっと笑った。


「さて……ここにポーションがあります」


 俺は何もない空間からポーションを取り出した。

 倉庫魔法を会得したのよ。お約束的に。


「自分で試すのはこわ……げふんげふん。貴方に試す機会を差し上げましょう!」


「ふにゃふにゃ(や、やめろ! やめてくれ!)」


 俺は容赦なく不死族の頭にポーションを垂らした。

 ポーション作って大もうけ。これは転移者の義務なのだ!

 ふはははははははははー! ちゃんとフラグは回収するぞー!

 すると不死族の頭が膨らんでくる。


「んん~?」


 失敗しちゃったかな?

 そして次の瞬間、不死族の体までもが膨らんできた。


「フム……これはポーションではないらしい。って、みんな退避!」


 なんとなく展開が読めていたのか、部下たちはもう逃げ出していた。

 偉い! それでこそ俺の部下!

 俺も遅れて逃げる。


「ジャギー様! 乗ってください!」


 ケンタウロスが迎えに来ていた。

 俺はケンタウロスに飛びつく。

 不死族はどこまでも膨らんでいく。

 とうとう自分がいた塔まで崩し、すべてを肉塊に飲み込んだ。

 あわわわわわ。えらいこっちゃ!


「デンジャー! デンジャー! みんな全速力で逃げろ!」


「ジャギー様! 何をされたんですか!」


「ポーションを試しただけだって!」


「じゃあなんで巨大化するんですか!」


「わーかーらーなーいー!」


 不死族は消し炭になったゾンビを飲み込みさらに巨大になっていく。

 もしかしてポーションか?

 過剰な生命力で体の細胞すべてが癌細胞のように無計画に増加。

 そして肉塊になった……

 ポーションを作ったと思ったら劇薬を作ったのか。

 そう結論づけた瞬間、ぱんっと小気味のよい音を立てて不死族が破裂した。

 血の雨が街に降り注ぐ。

 俺まで血まみれ。汚いッス。


「どわあああああああああッ!」


 やばい!

 このサイズで暴れ回られたりしたら、被害が出てしまう!

 だが……次に待つのは沈黙。


「おっと……なにがあったのかな?」


 俺は不死族を見た。

 噴火したニキビのような有様である。

 だがピクリとも動かない。

 クレストンと比べてもあまりにもあっけない。


「……死んだようですね」


「おう?」


 どうやら俺はポーションではなく、不死者族殺しの毒薬を作ってしまったらしい。




 今回の犠牲者


 ジャックさん(不死族)

 死因。生命力の与えすぎによる細胞の暴走。

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