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獣人の里

 獣人の里に着いた。


『歓迎! 勇者様!』


 ……お前らもか!

 なぜ遠く魔王領まで俺の性生活が知れ渡っているのだろうか。

 これは暗黒神の嫌がらせに違いない。

 里に入ると獣人の男たち。

 いや漢たちがいた。

 モヒカンのウサ耳。

 弁髪の猫耳。

 剃髪入れ墨の熊さん耳……

 ビジュアルの暴力に俺は死にたくなった。

 すると入れ墨熊さんが、後ろ手に手を組む応援団スタイルで俺たちに言った。


「カサンドラ姐さん! お帰りなさいませー!」


 ……俺はカサンドラを凝視する。

 カサンドラはポリポリとほほを掻いた。


「い、いやね……獅子族はこういう扱いなのよ」


「そうっスか……」


 カサンドラが里の男たちになにをしたのかはあえて聞かない。

 それよりも重要なミッションがあったのだ。


「カサンドラ、子どもたちを親に帰してあげて」


「う、うん……あのね……ダーリン」


 なんだろうか。

 様子がおかしい。

 サボろうとゲーセンに入ったら会社の後輩に鉢合わせたときのようだ。


「みんな獅子族なんだけど……」


「ほう、なんでもいいからさっさと吐け」


「実はー、ウチらもともと絶滅しそうなんだけどぉー」


 目が泳いでいる。

 そりゃあの繁殖システムなら絶滅するのは当然だ。

 女遊びを極めようとする紳士たちのおかげで絶滅を免れていただけなのだ。


「お母さんたちは行方不明って言うかぁ……たぶん死んじゃった的な?」


 もうそこまで聞いてわかった。

 救出部隊にいたのだろう。

 言えなかったわけだ。

 優しいのか、単にそういうのが苦手なだけか……

 俺はカサンドラの頭をなでる。


「んー♪」


「はい、いい子いい子。それで誰が面倒見るの?」


「い、いやね、それなんだけどね」


 カサンドラの顔が赤くなる。

 あー、なんとなくわかっちゃった。


「上の位階のがみんな死んじゃって、今は獅子族の長は……私なんだよねえ」


 あー、なるほど。


「というわけで族長の私がママになります。パパよろしく!」


 俺は獣人の子ども軍団を見る。

 最近ではすっかり俺に怯えなくなったが、普段はティアにくっついている。

 ティアも面倒見がいい性分なので喜んで世話をしていた。

 いきなり20人子どもが出来た件。


「まあ……いいでしょう」


 大人は下の世代のために死ぬものだ。

 それに子ども時代から、徹底的に、他人様のはらわたを食い破らないように教育せねば。

 愛される獅子族を目指そう。うん。


「それで……不死族を倒すために獣人族の手を借りたいのですが」


 俺はカサンドラに言った。

 するとカサンドラはにやっとした。


「それは簡単。おーい、みんなー、不死族殺しに行こうぜ!」


 カサンドラが叫ぶと獣人たちが雄叫びを上げた。


「ほらな。ウチらってさあ、百年前に王様が殺されちゃってから、ずーっと不死族の奴隷やってるんだよね。不死族を殺すって言ったらオーク族やゴブリン族、ダークエルフも仲間になると思うよ」


 どんだけ嫌われてんだよ。不死族。

 まるでセクハラ係長、マタハラ家長、パワハラ部長の三連星を擁する派閥のようではないか!

 ……って、ちょっと待てダークエロフ(・・・)だと……

 なにを言ってるかわからないほど、俺の精神は限界だったのだ。


「ダークエルフ……だと……」


「そうそう。あのいい体した……」


 次の瞬間、俺の目から熱き血潮が流れ出た。

 長かった……

 殺人に次ぐ殺人。

 ゾンビに不死族との殺し合い。

 奴隷ハーレムしようと思ったら、獣人族のおなごは男子に優しくなかった。

 私、ジャギーさんは、とうとうダークエルフに会える日が来ました!

 エロフ! エロフ! エロフ! エロフ! エロフ!


「ひゃっほおおおおおおおおおお!」


 俺は拳をあげた。


「お、おう……」


「おっさん大丈夫か?」


 カサンドラもティアも変な顔をしている。

 いいのだ。男の浪漫をわかってもらおうとは思っていない。


「なんだかダーリンもやる気みたいだし、よかったよかった。うん、よかった。じゃあさ、ダーリン。こっちに来て」


「どうしたカサンドラ」


「うん、約束してたハーレムだよ。獅子族のきれいどころを……」


「無理」


 ノーサンクス。

 もうねカサンドラで手一杯なのだ。

 サファリパークの肉は勘弁して欲しい。


「まあいいや。不死王殺したらしようね」


 たべないでー!

 性的じゃない方の意味で。

 言いたいことはたくさんあったが、俺は大義を優先した。


「不死族殺したいやつは私に着いてきてください!」


 遊びたい人ー。この指止まれ!

 俺は暴力の果てになにを見るのか。

 つまりそういうことだ。

 自分でもわからん。

 すると獣人族の男たちが俺を囲み拍手をする。

 ロボットアニメであったなこの展開。

 もしくはプ●デター2。最後に集団でロックオンしながら「おめでとー」って記念品くれるやつ。

 俺は激しく拍手された。

 なぜか脱がないといけないような気がしてきた。

 たぶん気のせいだが。


「それで勇者ジャギー様。どこから攻めましょうか」


「近くから滅ぼしていきましょう」


 そう俺が言うと、カサンドラは目を丸くした。


「いや電撃戦とかそういうのは……」


「必要ありません。アンデッド相手なら、街中でやったクレストン戦みたいに手加減をする必要がありません。街ごと破壊しましょう」


「ダーリン……アレで手加減……してたの……?」


「まあね」


 俺はニヤニヤする。

 ようやくカサンドラに勝ったぞ!

 俺が少しだけ溜飲を下げていると、ガラガラと音がした。

 ケンタウロスがこちらになにかを引っ張ってくるのが見えた。


「ケンタウロスって獣人だったんですね」


 俺は思わず言った。

 いやなんとなく別ジャンルだと思ってたのよ。


「うん?」


「いえ、なんでもありません」


 ケンタウロスが引っ張って来たのは……戦車(チャリオット)だった。

 トゲトゲと鋲がついた世紀末仕様。

 ただし座席は聖●様が座るような王者的デザインだ。

 角が出ている。

 うっわ、すっげえフカフカ……

 座り心地は良さそうだが、座るのには勇気がいる。

 このデザインを考えたやつは、悪意に満ちているに違いない。


「ジャギー様は馬が苦手と聞きました。我らがジャギー様の足となりましょう!」


 なんだろう。

 この圧倒的、悪党感。しかもラスボス。

 知的生命体に戦車を引かせるって世紀末救世主に殺される悪党のビジュアルですよね?

 だがケンタウロスたちはやる気に満ちていた。

 不死族によほどひどい扱いを受けていたのだろう。

 その目を見ると……乗るしかない。


「あ、ありがとうございます……」


 日本人とはこうも押しに弱いものか。

 そう思わずにはいられない。

 俺……帰ってきたらドラムブレーキでハンドルがチョッパー系のアメリカンバイク作るんだ。

 名前的に。

すいません!

ドラさび③の書籍化作業で二日ほどお休みします。

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