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おっさんを異世界に召喚してはいけません! ~逆転チートの魔導師~  作者: 藤原ゴンザレス


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光の使徒

 私はレミリア。

 光の神の使徒にして勇者と呼ばれている。

 神託により死と腐敗の王ヴァレンティーノの討伐に挑んだ。

 結果は返り討ち。

 随伴した騎士の7割が死に、私や仲間たちも半死半生の身になった。

 私は片眼を失い、その時にヴァレンティーノに呪われた。

 外から見ると火傷の跡に見えるが、それは徐々に体に広がっていた。

 心臓まで届いたとき、私は灰になって死ぬだろう。

 それに動けなくなるのも時間の問題だった。

 体を治すためにあらゆる手段を試した。

 エルダーエルフにまで会って助言を求めた。

 だがどれも効果はなかった。

 七人の魔王の力にあらがうことはできないのだろう。

 私は死を覚悟していた。

 私たちのパーティの中で唯一無事だったリオーネ。

 エルフの姫である彼女だけは守らなければならない。

 命を狙うものだけではない。

 彼女の政治的立場もだ。

 失敗した勇者である私から遠ざけねばならない。

 私が死ぬ前に。

 そう考えていたある日のことだった。

 私は地方のとある街に来ていた。

 獣人族に会いに行く、その途中の街にいた。

 獣人族の秘薬。

 どんな病気でもたちどころに治すという薬だ。

 それは私の体を治す可能性のあるものだった。

 これがダメなら暗黒神の使徒を探さなければならない。

 暗黒神の使徒は(ことわり)を曲げ、人の命を操る。

 その数は他の神の使徒と比べて、極端に少なく一時代に一人しか現れないとも言われている。

 謎に包まれた存在だ。

 だがその日、私は出会ってしまった。

 突然に……偶然に……


「やっほーお姉さん♪」


 それは中年の男だった。

 普通の人間ならそう感じただろう。

 だが光の使徒である私にはわかった。

 彼は闇の使徒だ。


(強い……)


 それが第一印象だった。

 魔王ヴァレンティーノと同格か、やや格下。

 本当の力を隠しているだけかもしれない。

 襲われたら、私たちは逃げることもできずに死ぬだろう。

 私は戦うことを覚悟した。

 だが、その男はふざけた動きで私に寄ってくると、私の眼帯をむんずと取り上げた。


(恥ずかしい!)


 戦闘意欲や憎しみよりも羞恥が先に立った。

 私は顔を真っ赤にしながら聖剣に手をかけた。

 だが彼はそんな私に言った。


「傷を治しましょう。ヒール」


 死の呪いが解けるのがわかった。

 リオーネがなにかを叫んだが、私の耳には入らなかった。

 なぜ光の神はこんな試練を私に与えたのだろうか?

 私はパニックを起こして固まっていた。

 すると男は言った。


「あ、ごめん。勝手に治しちゃった! 美しいお嬢さん。えへへへへ……」


 そして男は謝罪を述べて逃げ出した。


「うううううう、美しい!?」


 そんな言葉をかけてもらったことはない。

 幼少より魔王を殺すための武器として鍛錬に次ぐ鍛錬を課せられ完成した兵器だ。

 女の幸せなど得られるはずがない。

 光の使徒というだけで男たちは縮み上がるのだ。

 この男はなにを言っているのだろう?

 自分が女として見られていると感じた瞬間、私は顔をさらに真っ赤にした。

 変な男だ。

 だがまた逢いたいと思わせる面白い男だった。


 ……なんて一人で納得していたところ、男が8番目の魔王になろうとした不死族を討伐したとの報が舞い込んだ。

 それよりも獣人族最強の戦士と名高いカサンドラをものにしたらしい。具体的な意味はわからないが……

 民は彼を「勇者」と呼んで慕っているらしい。

 ……さすがだ。


 そして彼の素性に関する情報を得た次の日……

 私は彼がヴァレンティーノ討伐に旅だったことを知った。

 なんと高潔な魂を持つものだろうか。

 彼を助けねば!

 私は決心した。



 俺たちは、新たな村に辿り着いた。

 なにせシュシュの村との遭遇イベントから血まみれ血まみれ血まみれ……

 村から村の移動だけで何人殺すか予想もできなかった……

 もうやめてくれよ。

 俺は繊細なんだよ!

 ところがだ……


 歓迎 勇者ジャギー様ご一行


 のぼりが立っていた。

 この場合の勇者ってのは『獅子族を抱いて生き残った勇者』って意味だ。

 不死族を殺した方はどうでもいいらしい。

 おかしくね!

 村に入るとおっさんどもが寄ってくる。


「あなたがジャギー様ですか! あ、握手を!」


 握手を求められる。


「ありがたやー、ありがたやー」


 手を合わせて拝まれる。

 もうさ、意味がわからん。


「ここに寄った記念をお願いします!」


 なんてサインまで求められる。

 本当にここの連中は俺とカサンドラとの関係の方が重要なようだ。

 宿に行けば、サインやらを次から次へと求められる。

 まるで大スターのような扱いである。

 とは言ってもこちらは褒められなれていない身。

 なんだか悪いことをしているような気分になる。

 だから俺は村で簡易診療所などを開く。


「はいエリアヒール!」


「うおおおおおおッ! 暗黒神の恩寵を!」


 暗黒神はこの世界では大人気のようだ。

 意味がわからん。

 そんな俺を見てカサンドラは言った。


「へぇー。ダーリンかっこいい!」


 獣人、特に獅子族の『かっこいい』とは、耐久値が高いという意味である。

 確かに人間でも金を持っているという基準で伴侶を選ぶ人間が多いのだから、耐久値目当ても異常ではないのかもしれない。

 噛みついて引き裂くのは絶対に異常だけどな!


 治療の合間にふと見ると、そこらの屋台に『子宝のお守り』とか『子授けの札』とか『勇者ジャギーの精力剤』とか書かれている。

 俺の許可取ってねえよな?

 なんなの!

 俺がにらむと屋台の親父がゲスい顔をしながら、俺に近寄ってくる。


「げへへへへ。旦那。一つこれで」


 銀貨を何枚か渡される。


「見逃しますが公認はしませんよ」


 権利にうるさい日本人をなめるなよ!

 権利は最後まで渡さぬわ!


「へ、へい。で、では……」


 こんなのはいつでもあった。

 そのせいか俺たちの軍資金は減らない……どころか、増えていた。

 なにせ無料でいいと言っているのに、食い物や金、宿まで提供してくれるのだ。

 むしろ重すぎるので、村や街を出る前に孤児院とか、無償治療なんかの慈善活動をやっている施設に寄付してしまうくらいなのだ。

 すると領主や商人も額が少なくとも寄付せねばならない空気ができあがる。

 次の街では、噂を聞きつけた慈善団体が俺の活動場所や宿、それに次の街への足まで用意してくれる。

 俺は謝礼を受け取り、運べない分はその場で寄付してしまう。

 するとそれを聞きつけた……(以下略)

 ……俺、なんか新しい慈善ビジネス作ったんじゃね?

 しかも俺たちは無駄に有名なため、山賊や盗賊にも襲われないのだ。

 レアで有用な技術を持っていればどこに行っても食える。それは日本と同じらしい。


「甲斐性のある夫を持つと旅が楽だなあ!」


 カサンドラは笑う。


「おっさん……あんた、天才なのか!」


 ティアもカサンドラと一緒で上機嫌だった。

 普通の旅はバンバン金が減って野宿を余儀なくされるらしい。

 俺との旅はかなり快適なようだ。

 二週間ほどダラダラと旅を続けると広大な森が見えてくる。


「獣人族の領地だ。魔王軍の縄張りだが、人間とも密貿易してるぜ」


「なるほどね。国境地帯なんてそんなもんか」


 俺は近くの街からせしめた通行証を手に魔王領へ向かう。

 なんだか……うまく行きすぎているような気がする。

 いきなり襲われたりとか、ヒロイン登場かと思ったら人の内臓取り出す系女子だったりとか。

 そういうのがないと逆に不安なんですけど!

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