おっさんは死にました
どこまでも永い垂直降下。
体がグルグルと螺旋を描きながら落ちる。
落下の衝撃を全身に受け、俺は悶絶を繰り返す。
痛みが少し引き、ふと気がつく。そこは草原だった。
意味がわからない。
俺は会社にいたはずだ。
39歳のおっさんが連続勤務60日目。
なんの嫌がらせだろうか?
だから……あの日俺は、オフィスに誰もいないのを確認してから、全裸になって頭にパンツを被り……
「しゃっきーん! おっさん戦隊加齢臭ー! 朝起きたら枕が臭いレッド! どぎゃーんばぎゃーん!」
徹夜仕事の高テンションのあまり一人戦隊ごっこに興じてた。
物語は佳境に入り、巨大怪獣とロボットの一騎打ちになったところ……
「うッ!」
突然胸が痛くなって……意識が……
なるほど。あのとき死んだのか。
死因は心筋梗塞だろうか。
年齢より徹夜とストレスが原因だろう。
最近10キロ太ったし。
そのせいで悲惨な姿で死んだわけだ……フルチンで頭にはパンツ、なのに靴下と靴は装着という姿で……
おいおい。変態とか言うなよ?
ブラック企業に勤めるおっさんが、少しくらいはっちゃける……そのくらいの息抜き認めてやれよ。な?
人には優しくしてやれよ。
たとえ相手が40歳を間近にした汚い中年だったとしてもだ。
昔の偉い人が言っていた。
天国ってのはあの世にあるんじゃない。
俺たちで作るんだって。
……無茶ぶりすぎるぜ。自分の口から言っても胡散臭いわ!
って、そうか。ここはあの世というやつか。
常々、死とは消滅と同義だと思っていたのだが、どうやら予測は外れたようだ。
魂的なものはあったのだ。
ではここは、噂に聞く地獄というやつだろうか?
下に落ちたし。
なにせ全身がひどく痛む。
特に右腕が痛いのだ。
きっと天国だったら痛みも苦しみもないのだろう。
俺は腕をまくる。
腕は血まみれだった。
だが落下の怪我ではない。
なにせ腕に文字が彫ってあったのだ。
下腹部が痛みと惨状できゅっとした。
『転移者よ。固有スキルを与える』
俺は文字を見て絶句した。
すいません……会話するならせめてスマホ渡してくれませんか……神様。