第八章 支配者01
とても悲し夢を見ていたような気がする。
ふと人の気配に気が付いた私は、目を瞠ってしまう。
「金森さん?」
「記憶、戻ったみたいだね」
小さく微笑んだ金森を見た瞬間、例えようのない悲しみが私の中に広がる。
「どういうことですか?」
金森が私に向け手をかざすと、どこからともなくぺんぎんが現れる。
「これを君に預けて、正解だった」
「それはいったい何なんです?」
「真実の鏡」
そう告げた金森は、ふと空を見上げる。
その姿が、夢の中で何度も見た青年と重なり、私は目を見開く。
「今、真実を君へ明かそう」
金森の姿が再び白い翼を持つ姿へと変わり、ぺんぎんから強い光が放たれ始める。
暖かな陽だまりの下、一人の天使が果実を大事そうに一つ抱え、走って行く。
「ギルバード。いったいどこにいるの?」
「ヒラーヌ、あなたが付いておきながら、何て事です」
のどかな空気が一変し、鋭い目をした猛獣たちが草花をざわめかせながら地を這っていく。
「あの者たちよりも早く、ギルバードを見つけ出さねばなりませぬ」
その頃、ギルバードは盗み出した数々のものを手に、雲の切れ目から梯子を垂らし、地上へと降り立とうとしていた。
「ギルバード、待て」
いち早く見つけ出したヒラーヌの手を免れ、転げ落ちるように地表へ降り立ったギルバードは、強い光を放つ。
「これは?」
ゆらゆらと揺れる鏡に映し出された光景に、私は戸惑う。
それは私が恋しくて恋しくてたまらない相手。あの少年だった。
「愚かな弟は、秘伝書を持ち出し、あらゆる力を試したのです。幻影を映し出しあなたをおびき寄せた」
「何の、何のためにです?」
ヒラーヌは踵を返し、私へ背を向ける。
「ここも、そう長くはおられぬまい」
振り返ったヒラーヌを見て、私は思わず息を飲み込む。
エメラルドグリーンに澄み切った瞳の片側が、黒く沈んだ色へと変わりかけていた。
「早く、ギルバードを、テーデから取り戻せねばならぬ」
片目を押さえたヒラーヌが苦々しい表情で、私を見る。
「その目は……」
「何でもない。娘、時間がない。私を信じてくれぬか」
瞳の奥に、青空が広がって見えた。
半信半疑のまま、私は頷く。
そして、ヒラーヌは大きな翼を広げ、私を抱きかかえるように、再び舞い上がったのだった




