序章01
現代恋愛のようでファンタジー。そんなものが読みたかったのさ。だから書いてみたのさ。期待はしてないけど、ちょっと覗いてみようと思う人、この指とまれ。
*これはオリジナル小説サイト、『遥か彼方のきみへ』で掲載されている作品です。
松野さゆり。
これが私の名前だ。
私は、この名前があまり好きではない。
誰が聞いても、性別をはっきり言い分けられけられる。間違えるのは、わざとか、余程いかれている奴。名前を変えてしまえば、私の人生、変わるのだろうか……。
そんなもので簡単に変わってしまうくらいなら、初めから無かった方が良い。
風呂上がり、鏡に映る自分の姿から目を逸らす。女に生まれてきて、いいことなんてちっともなかった。少しだけ、お洒落が苦手なだけ。疎まれるようなことでもない。あいつらが、ガキ過ぎるんだ。ボロボロにされた体操着。意味もなく飛んでくる暴力。女子たちの心無い言葉の数々。男であったら、少しは違っていたのだろうか。そうでもないか。男でも、やられる奴はやられる。なら、私の存在が必要ではないってことか。もう何でもいいや。考えるのも面倒だ。
酷く私は落ち込んでしまっていた。
不意に闇が心を覆う。
何も考えられなくなってしまうのだ。
本当に現実のことなのか、私の頭の中だけの出来事化、さっぱり分別が出来ないまま、私は何かに誘われるようにここへやって来ていた。
暗く成り切れない空。
すべてを擲って、何者かになりたいと願う心。
そんなものが私を支配していた。
「……ねぇ、きみ、そんなところで何をしているの?」
不意に声を掛けられ、私はぎくりとなったが、その言葉に答える気になれず、足をブラブラさせたまま、月を見上げていた。
薄っぺらい月。
何だか自分の人生みたいに思えて、ちょっぴりだけ、胸が痛くなる。
「ねぇってば、僕の声、聞こえています?」
ようやくその声が、震えているのに気が付いた私は、目をそちらの方へ向ける。
その瞬間、私の目から涙がぽろぽろと零れだす。
思いがけない事態である。
すべての感情が抜けきってしまっていると、私はずっと思っていたのに……。
「怖いね。よくそんなところで、お月見する気になれるね」
お月見?
風に吹かれ、髪がなびく。
その声の主が、ゆっくりゆっくり、私に近づいてくる。
「やっと着いた。だけど僕には、腰掛けれそうにないや。きみも、そろそろやめて戻らない?」
「何を……」
「お月見、にはまだ早いでしょ? それに、満月じゃないし」
そんな分りきっていることを言われ、私はその声の主を睨んだ。
「やべぇ、ちんこ、縮まって来た。だけど、ラッキーかも」
私は何も答えず、声の主をじっと見続ける。
「こんなものが付いているから、僕は自由になれない。この世は不条理な事ばかりで、僕も、いやになっているところだったんだ。けど、どうやら僕はきみほど、度胸がないようだ」
「いやなこと……、私の、何を知っていて言うの?」
「怒らせちゃったなら、ごめんなさい。でも今、言ったこと、嘘じゃないから。ごめん。本当に怖い。僕、戻るけど、きみはどうする?」
フェンスにしがみつきながら、本気で震えている姿を見ているうち、私も、恐怖感が湧いて来てしまった。別に度胸がある訳じゃない。その証拠に下を見ることが出来ず、動けずにいた。
「戻るなら、手、貸すけど」
片手を放すのも、ものすごい覚悟がいるようで、自分に言い聞かせるように大きく深呼吸してから、「せいの」なんて掛け声をかけて、声の主は私の方へ向かって手を伸ばして来た。
なぜこんな場所で二人は出会ったのでしょうね~。




