二人の木こり
あなたは、どちらの生き方を選択しますか?
昔、ある森に二人の木こりがいました。真面目な木こりとずる賢い木こりです。
ある日のこと、真面目な木こりはうっかり斧から手を滑らせてしまいました。飛んだ斧は幸いなことに人や動物に当たることもなく泉に落ちました。すると、泉から神様が現れ真面目な木こりはびっくりしました。神様はどこからともなく金の斧を取り出すと
「お前さんが落としたのは、この金の斧か?」
と尋ねました。真面目な木こりは答えました。
「私の斧は、そんなに重くてなまくらな金の斧ではありません」
そこで神様は金の斧をしまうと、銀の斧をどこからともなく取り出して
「では、お前さんが落としたのは、この銀の斧か?」
と尋ねました。真面目な木こりは答えました。
「私の斧は、なまくらですぐ錆びてしまう銀の斧ではありません」
そこで神様は銀の斧をしまうと、真面目な木こりの斧を取り出して
「では、お前さんが落としたのは、この鉄の斧か?」
と尋ねました。真面目な木こりは答えました。
「はい。これは、間違いなく私の斧です。私の斧を拾ってくださりありがとうございます」
そこで神様は真面目な木こりに言いました。
「お前は正直者だな。さあこの金の斧と銀の斧も持って行くがいい」
神様は真面目な木こりの斧に加えて、金の斧と銀の斧を渡そうとしました。ところが真面目な木こりは自分の斧だけを持って、帰ってしまいました。神様は真面目な木こりを呼び戻そうと一瞬思いましたが、真面目な木こりとの会話を思い出して泉の中に消えました。
家に帰る途中、仲間の木こりに合った真面目な木こりは今日あった奇妙な出来事を話しました。それを聞いた仲間の木こりは「これは、いいことを聞いた」と思いました。その仲間の木こりはとてもずる賢い性格で木こりという仕事に辟易していたので、思いついたことを実行することにしました。
ずる賢い木こりは真面目な木こりから聞いた泉に行くと、その泉に自分の斧を落としました。すると神様が泉から現れましたが、ずる賢い木こりは驚くことはありませんでした。
神様はどこからともなく金の斧を取り出すと
「お前さんが落としたのは、この金の斧か?」
と尋ねました。ずる賢い木こりは答えました。
「いいえ、それは私の斧ではありません」
そこで神様は金の斧をしまうと、銀の斧をどこからともなく取り出して
「では、お前さんが落としたのは、この銀の斧か?」
と尋ねました。ずる賢い木こりは答えました。
「いいえ、それも私の斧ではありません」
そこで神様は銀の斧をしまうと、ずる賢い木こりの斧を取り出して
「では、お前さんが落としたのは、この鉄の斧か?」
と尋ねました。ずる賢い木こりは答えました。
「はい。これは間違いなく私の斧です」
そこで神様はずる賢い木こりに言いました。
「お前は正直者だな。さあこの金の斧と銀の斧も持って行くがいい」
ずる賢い木こりは言われた通り、金と銀の斧も持って帰りました。
それからというもの、ずる賢い木こりは毎日のように泉で斧を落とし神様と会話して金と銀の斧をもらって帰りました。ずる賢い木こりは休みなく泉に通い詰めたので、ずる賢い木こりの家は金と銀の斧でいっぱいになりました。ずる賢い木こりは、あと一回だけ泉に行ったら、金と銀の斧をお金にしてどこかでひっそりと暮らそうと思いました。
ずる賢い木こりは真面目な木こりから聞いた泉に行くと、その泉に自分の斧を落としました。神様はどこからともなく金の斧を取り出すと
「お前さんが落としたのは、この金の斧か?」
と尋ねました。ずる賢い木こりは答えました。
「いいえ、それは私の斧ではありません」
そこで神様は金の斧をしまうと、銀の斧をどこからともなく取り出して
「では、お前さんが落としたのは、この銀の斧か?」
と尋ねました。ずる賢い木こりは答えました。
「いいえ、それも私の斧ではありません」
そこで神様は銀の斧をしまうと、ずる賢い木こりの斧を取り出そうとしましたが、そうはせず別の斧を取り出し
「では、お前さんが落としたのは、この鉄の斧か?」
と尋ねました。ずる賢い木こりは思わず自分の斧だと言いそうになりましたが
「いいえ、それも私の斧ではありません」
とずる賢い木こりは答えました。すると神様はずる賢い木こりに言いました。
「毎日のように斧を落とすので疑ってしまった。申し訳なかった。お詫びとして、この特別な鉄の斧も持って行くがいい」
不思議に思ったずる賢い木こりは
「その斧は、なぜ特別なのですか?」
と神様に質問しました。神様はずる賢い木こりに言いました。
「この斧は、どんな大木も一回で伐採できる斧だ。滑り止めもついているから、もう斧を落とすことはないだろう」
そして神様は泉の中に消えました。ずる賢い木こりは自分の斧・金と銀の斧、そして特別な鉄の斧を持って帰りました。
家に帰る途中、ずる賢い木こりは真面目な木こりに会いました。ずる賢い木こりは、真面目な木こりの斧が刃こぼれしていることに気付きました。
「お前の斧、刃こぼれしているぞ」
真面目な木こりは言いました。
「長いことお世話になってきたが、もう買い換えないと」
ずる賢い木こりは言いました。
「ならこの特別な鉄の斧をお前にあげるよ」
真面目な木こりは言いました。
「その斧は、他の鉄の斧と何が違う?」
ずる賢い木こりは言いました。
「この斧は、どんな大木も一回で伐採できる。お前にふさわしい斧だと思ったよ」
真面目な木こりは言いました。
「そんな素晴らしい斧をもらってもいいのか?」
ずる賢い木こりは言いました。
「ああ。元々その斧は、お前が話してくれた泉の神様からもらった物だ。もうそれに俺は木こりをやめるよ」
真面目な木こりは言いました。
「それは残念だ。でもこの仕事は無理して続けるものでもないからな。」
ずる賢い木こりは特別な鉄の斧を真面目な木こりにあげると、自宅に帰りました。そして、金と銀の斧を全て売り払うと、森を去りました。行き先を知る者はいませんでした。