第八話「サンの誕生日 その1」
「サン、誕生日おめでとう」
「誕生日おめでとう、産まれてくれてありがとうサン」
「サンくぅん、誕生日おめでとうです~」
今日は俺の5歳の誕生日
前世含め43歳の誕生日だ!!!
……虚し
やめやめ、俺は生まれて5年だから5歳の誕生日
参加者はラルク、ユリ、サーシャ、レナ、レオと当事者の俺
レオとレナはさっきまで元気いっぱいはしゃいでいたが、今はお寝んねの時間だ。ぐっすり寝ている。
現在はお昼過ぎ、この世界は夜に祝わないらしい。毎年誕生日会を開かれているが全て昼頃だった。夜に祝うのは前の世界限定のようだ。
さて、そんな俺の誕生日だが今俺の目の前には大きなケーキがある。
二段のホールケーキ、去年までは一段だった。生前でも二段のケーキなど聞いたことはあるが見たことはない。
結構手間が掛かっているのが分かる。
「ママありがとう!!!」
ちゃんとケーキのお礼しないとな――
ケーキを買う習慣は無い。この家が特別なのかも知れないが
「うふふ、これはパパが作ったのよ」
……ん?
ラルクが作った……?
去年も一昨年もユリがケーキを作ってくれた。だから当たり前にユリが作ったものと思って言ったのだが、これはラルクの手作りのようだ。
お菓子も作れるの……?
初耳だ。
「パパが作ったの…?」
「あぁ、久しぶりに作ったな、美味いからいっぱい食えよサン」
そんなラルクはさも当たり前のように佇んでいる。
「あ、ありがとうパパ!!!」
さてお誕生日会は順調に進んでいる。
ケーキの蝋燭を消して切り分けていく、イチゴのショートケーキ、飾りは少なく実にシンプル、まさに王道だ。
さてさて、産まれて初めて食べるラルクお手製のお菓子のお味は……
勿論だが美味いかまずいかの心配はしてない。あんな自信満々のラルクがまずいものを出す訳がない。もし出したらドッキリかなにかだ。
遠慮なくケーキを口いっぱいに頬張る。
……………
(――あぁ、頬っぺたが落ちた。)
よく表現で頬っぺたが落ちるほど美味しいと聞くことがある。正直意味が分からない。想像が全く出来ない。そもそも頬っぺたが落ちるわけがない。今まではそう思ってました。
すいません訂正します。
本当に頬っぺたが落ちる感覚がしました。口元がにやけているのが分かる。今でも気を抜くと頬っぺたが重力に逆らえず地面に落ちていくのではないのだろうか。そう思える程だった。
美味い。もうこの言葉しかつけれない程美味い。
ただ、この一言で片付けるのは簡単だがそれでは勿体無い。こんな美味しいのに俺のボキャブラリーに適切な答えが見当たらない。凄く悔しい。
だが、そんな俺でも市販とこのケーキの決定的な違いが分かったからそれを解説しよう。
俺の頬っぺたが落ちた原因でもあるからな。
改めて言うが美味い。ユリの作るお菓子も美味いがラルクの作るお菓子は格別だった。
イチゴの甘さとスポンジの甘さ、生クリームは逆に甘さを抑えてある。その絶妙な計算がこの味を生んでいるのだろう。
そしてもう一つ他を圧倒するものがある、それが"匂い"だ。
風味とも言おうか、一口噛んだ瞬間にイチゴの豊潤で甘い匂いが口全体を占領したのだ。
圧巻だった。
人間は鼻を摘んで物を食べると味がぼやける。
これは舌と鼻、両方使って味を判断しているからだ。
その鼻に押し寄せるイチゴの匂い――ちょびっとだけお酒の匂いもした――がケーキの味を何倍にも引き上げてくれている。
これはまさしく、いや、これこそまさしく王の道そのものだ。
――美味しそうに食べる俺を見て満足したのかラルクはドヤ顔を決め込んでいる。
決してイライラしない。だって美味しいのだから
「ふわぁぁ、美味しいですぅ~」
「久しぶりにアナタのケーキを食べたけどやっぱり勝てそうにないわね…」
サーシャもユリも美味しそうに食べている。
ユリは何かぼやいていたがケーキを堪能している。
「俺はユリの作ったものならなんでも好きだよ」
「…もう」
ラルクはそんなユリを優しく撫でる。
ユリが年相応――推定18歳――に唇を尖らせるが本心は隠しきれていない、ニヨニヨが尖った唇から漏れている。
可愛い。
気持ちよさそうに撫でられている。
――何回目だろうか
人様の居る前で二人の世界に入らないで頂きたいのだが
「それにしてもとっても美味しいのですよぉ~、こんな美味しい料理イースの有名店でもあんまり見ないのですよ~、それに魔料理人ですしイースでお店出したら一生遊んで暮らせると思うんですよぉ?」
イースとはこの国の首都、【アルン大陸旅行記】で読んだ。ここアルト村はアルン大陸の北西の端に位置する。首都イースはアルン大陸の真ん中より少し北東の場所にある。地図で見る限り近いが実際は結構距離があるようだ。移動手段が限られてるから当たり前だろう。
「いや、俺は別にユリや子供達と一緒に暮らせればそれで満足ですので、それにサーシャさんも魔料理人ではないですか」
「私でもこんなに美味しい料理は難しいのですよぉ」
それにしても前々からちょくちょく出てる魔料理人とはなんだろうか。
いや、多分魔料理を作る人なのだろう。
魔料理がわからない。料理関係なのは今ので確定だろう。料理人の上位職みたいなものだろうか?
「ラルクさんの魔料理を一度食べてみたいのですよぉ」
「…………買えば出しますが、レシピを売るつもりは無いんだ、すまない」
「分かっていますよ~、私もレシピを売りたくないですからぁ」
「…………ほぅ」
その言葉を聞いてラルクの雰囲気が変わった気がした。少し居心地が悪い。
サーシャは涼しそうな顔をしている。
(なんのこっちゃ)
ユリは二人の会話をただ静かに聞いている。
「――サン」
先程の会話はこれで終わったのだろう。突然にラルクが俺の名前を呼んだ。
「…………ぅん?」
俺は首を傾け返事する。
「5歳の誕生日おめでとう」
改めてそう言いながら一冊の本を渡された。
【魔料理教本】
「これから魔料理を教える、ユリ」
「はい、サン、こっちへおいで」
ラルクの説明を引き継いでユリが手招きする。俺も抗う気がないので本を抱いて素直に手招きされる。
トテトテとユリの方に歩いていたが次の言葉で硬直した。
「サン、これでサンも魔法使いになれるのよ」
(…………何!?)
今魔法使いと言ったのだろうか?俺が魔法使い!?
驚きを隠せない。
「………え?……ママ?」
「大丈夫よ、私もパパもサンなら立派な魔料理人になれると思ったから、ほらサンおいで」
ユリが安心させるように柔らかい声で諭す。俺も少し驚いたが好奇心が大いにくすぐられる。ユリの膝にちょこんと座る。頭が回転する、回転するがこれから答え会わせだ、詮索するだけ無駄だと考えるのを止めた。
「じゃあまず魔法使いの説明をするわね、魔法使いはね、特別な料理を食べた人を指す言葉なの、何かわかる?」
おっとクイズ形式か――さっきの会話と今までの事柄を総合的に考えると答えは一つしか出てこない。
「…………まりょうり?」
「そう、魔料理、魔法使いが自分の魔力と技術を込めて作る料理、それを食べた人は魔法を覚える事が出来るの、パパはその魔料理が作れる魔料理人なの」
ほうほう、魔法に触れる事で魔法を使えるのかと思っていたのだが違ったのか、残念だ。
……ん?ちょっと待てよ?
前の脳内議論では俺は既に魔法を覚えている結論に至っている。願望かもしれないが可能性は十分あると言えよう。
てことはだな、もしかして俺は既に魔料理を食べているのかもしれない。
「……僕も、魔料理を食べるの?」
探るように慎重に言葉を選んだ。
「うふふ、偉いわね、実はねぇ…………サンはもう魔料理を食べているの!!」
ユリがオーバーリアクションで言ってくる。
どう?驚いたでしょ?って顔で聞いてくる。
俺の感想は"やっぱりか"だったがそれは内緒だ。
「え?僕もう魔法使いなの!?」
感想をそのまま出すのも良いけどユリがわざわざ可愛い事をしているんだ、乗らないのは野暮だろ、俺もオーバーに驚いた。
ユリは満足そうだ。
「えぇ、パパが作ってくれたのは2つ、治癒の低位魔法と覇気の中位魔法よ」
治癒は予想していたが覇気とやらも覚えているようだ。覇気とはなんだろうか、聞くからに強そうな魔法だが、睨んだだけで相手を怯ませる魔法かな?
しかもいきなり中位とやらを覚えたのか、と言うか魔法にも階級みたいなのがあるのか。疑問が増える。
「…………はき?ちゅうい?」
「…………あ、忘れてた、そうね、まずそれからよね……」
覇気は本で聞いたが具体的になんなのかはまだ知らない。
疑問の目で訴えるとユリが本を見ながら解説してくれた。
この世界には9種類の魔法がある。【火】【水】【土】【風】【治癒】【呪殺】【覇気】【光】【闇】
火、火を扱う魔法
水、水を扱う魔法
土、土を扱う魔法
風、風を扱う魔法
治癒、怪我や病気などを治す魔法
呪殺、対象者に対しなんらかの阻害行為を行う魔法
覇気、己の体を強化する魔法
光、光を扱う魔法
闇、闇を扱う魔法
そして魔法にもその力によって階位が決まっている。低い順から
低位・中位・上位・玄位・核位・無位・神位
魔料理にも同じ階位があるそうだ。魔料理イコール魔法と考えて良いみたいだ。
ただその階位の魔料理を食べたと言ってその階位の魔法が使えるかは別らしい。
例えば無位の魔料理を食べたのに何故か核位の威力しか出ないとかあるそうだ。むしろ無位の魔料理を食べて無位の威力を出せる人は余り居ないそうだ。逆に無位を食べて神位の威力を出せる人もごく稀にいるんだとか。
なんでと聞いたがそう言うものだと言われた。才能が関係しているらしい。
「そう言えばルルは才能に溢れた子だったな、中位覇気を作ったが上位以上の強さを出せていたよ、あれはまさしく天才だよ」
ルルも魔料理食べたんだった。
中位を食べたんだっけ、へぇ、ルルは天才なのか、俺はどうだろう。
気になるが話を進めよう。
今回俺が覚えていたのは治癒の低位と覇気の中位魔法
覇気の中位とか心踊る、だって説明文が"己の体を強化する"だよ?そんなの完全に改造人間じゃないですか!!
サイボーグ○○9じゃないですか!加速装置とか奥歯にあったりしないんですか!もしくは変身って言ってバッタ人間になったりしないんですか!!!しないですかそうですか。
変身や加速装置はないようだが覇気の上位にもなると通常の3~5倍の速度で走れたり100kgを軽々と持ち上げたり出来るそうだ。
なにそれ超人じゃん…………
3つ上がっただけでそれだと神位はどうなんだろうと聞いたが神位の覇気魔法はないと言われた。何故?と思ったがそう言えば【1人の死神ー下ー】で覇気、治癒、呪殺、火、光の神級魔法は無くなったと言っていたな。
イグネ・リーハ・バランとやらの仕業か、まじ許さん。
「さて、これからサンにも魔法の使い方を教えるわね」
――来た。
とうとうこの時が来た。
待ってましたユリ先生。
順調に話が進んでいき俺の待ちに待った瞬間が訪れた。
「魔法って覚えたからと言って闇雲に使おうとしても使えないの、魔法ってイメージを元に再現されるものなの、だからイメージをきちんと出来ないと魔法は発動されないの、それに魔料理は創作者のイメージで作り出した魔法を食べた人に覚えさせる手段なの、覚えさせるだけであって創作者のイメージを説明で受けないと魔法を発動することは出来ないの」
――んー…よく分からん。
一度整理しようか、魔法を覚える為には魔法の書もとい魔料理を食べなければならない。だが魔料理を食べるだけでは魔法は使えない、その魔法の説明を魔料理の創作者から聞いて同じイメージをすることで初めて魔法が扱えると
多分これで合っている…はず…
要はプロセスをきちんと踏まないといけないのか。
ゲームを買って説明書を見ずにプレイすると全く意味が分からないゲームみたいなものかな?
合ってるのかこの例え?少し不安だ。
だがまぁ、なんとなくは理解は出来た。
つまり前回俺が魔法を使えなかったのは覚えいた魔法が俺のイメージと違っていた為か
「さて実際に魔法を使うのはまた後で、今度は魔料理について――」
まだ頭が混乱しているがユリは話を進める。
魔法はお預けか、まぁ全部聞いてから整理してからでも遅くはないしいいか
「魔料理とはさっきも言ったけど創作者、つまり料理した人の魔法を第三者に伝える唯一の方法、魔法使いの誰でも魔料理が作れる訳じゃないの、魔法と料理両方を熟知しないと魔料理を作れないと言われている、実際低位の魔料理を作れるようになるまで最低3年掛かると言われている程難しいものなの、サンはもう十分料理を頑張ってるから後2年、もしかしたら1年で魔料理人になれるはずよ、ね?アナタ?」
「あぁ、サンには十分才能がある。これからもっと教えるからすぐになれるよ」
ん?ちょっと待て
「……僕は魔料理人になるの?」
「ん?嫌なら別に教えないが料理を教えるんだ、ついでに魔料理も覚えても損はないと思うが?」
「ラルクさん魔料理をついでってぇ…」
何か俺の将来が確定しているような言い方が気になったので聞いてみたが、どうせ料理を教わるんだ魔料理も教わっても問題ないだろう。ラルクは強制するつもりは無いようだし将来の選択肢は多いほうが良いだろうしな。
サーシャは何か言いたそうにしていたが
「…分かった魔料理頑張って覚える!!」
「よし、その意気だサン」
やると言ったからには頑張ろう。どうも料理の延長らしいし5歳児に出来る事だろうからそこまでハードではないのだろう、多分――
「じゃあ、まずサンが覚えた魔法について教えるよ、おいで」
そう言ってラルクは庭に出て行った。
これから人生初魔法。
心が高まる!
〇〇9じゃ隠しきれてない?そんなの知りませんよ!!!ちゃんと隠してますもの!!