第四話「グライド家の日常」
ユリが妊娠した。
ここ二ヶ月来てないそうで
町医者に診てもらったらおめでただった。
現在お昼過ぎ、グライド家はソファーで仲睦まじく談笑している。
「男の子でしょうか?女の子でしょうか?名前どうしますかアナタ?」
妊娠した当の本人は鼻歌でも歌いそうな勢いだ。
「そうだな……ユリ」
妊娠させた本人はユリとは裏腹に何か諭すように呟いた。
嬉しくないのか……?
「はい……?……あっ」
その言葉を聞いてユリは何かを思い出したように俺を抱き寄せ、頭を撫でた。
「おいで、サンは私たちの大事な大事な家族だからね」
(……あぁ、そうゆう事か)
前回色んなストレスと俺は家族じゃないと言う些細なきっかけで泣いた。
これは俺にしか分からないことだ。
だから二人は二人で考えたんだろう。
何故泣いたかを
泣いた状況からしてユリがルルに構っている時の号泣
結論出るわなそりゃあ
俺がルルに嫉妬したと思われているのだ。
だから今回も気を使っているのだ。俺に。
なんとまぁ家族心溢れる良いお話じゃないか
でも俺は産まれて来る妹か弟か妹か妹かの方が気になる。
「うん!ママ!おんなのこかな?おとこのこかな?」
明るく気にしていないと振舞った。
まぁ実際気にもしていない。
気にするほど精神は細くない。
(俺が原因だしな……)
罪悪感はあるが
「サン……、サンは妹か弟どっちがいい?」
「うーん、うーん、いもうと!!!」
男より女、男の性だね。
「俺はユリの子供ならどっちでもいいよ」
「アナタったら……」
おーお、昼間っからバカップルしてるねぇ
……っておい!!!キスしない!!!!
俺の目の前でキスしない!!!!
過度なスキンシップ禁止!!!
ああぁぁぁあぁあああ羨ましいいいぃぃぃいぃぃぃぃぃぃいい
現在俺はユリの膝の上だ。
超至近距離で30歳(推定)と16歳(推定)のイチャつきを見ているのだ。
親とは言え、羨ましすぎて殺意すら湧く
おまわりさーん!ここでーす!
不純異性交遊でーす!!
現行犯でいっちゃってくださーい!!!!!
よし別の事を考えよう。
今最も熱いトレンドの話題を考えよう。
……妹がいいな
切に、妹が、いいな
記憶も薄れているし多分フラッシュバックしないだろうけど弟と妹の選択肢があるなら間違いなく妹をチョイスする。
もうむさい家族は嫌だ。
別に男ばっかりの家族も嫌ではない。実際楽しかったし。
だが今まで妹の居た人生が無い。
だから経験したいのである。
これはれっきとした知識欲である。
決して妹のお風呂で遭遇なんてシチュエーションを考えての事ではない。
まぁ、そんなアニメの世界の出来事が現実で起こるなんて思っていもいないけどな。
てか、前世の妹持ちの奴らってそこまで妹と仲良く無かったよな……?
(いや、俺ならいける。既に精神も知識も一通り持ち合わせている俺なら!)
神様ユリ様、是非妹を……私めに妹を……
おっと……
なにか変な方に行ってたぞ俺
俺も現実に戻らなければ
そろそろ終わっているだろう。
そう思い頭上のバカップルを見た。
……確かにキスとかはしてない。
うん、してない。
ただ、まだ二人の世界だ。
ユリはラルクの肩に頭を預けている。
ラルクはその頭をゆっくりと撫でていた。
ユリさん御満悦のようで
ただ俺の事もほっとかないよって意思表示だろうか。
俺の頭をユリが撫でる。
ラルクがユリを撫でてユリが俺を撫でる。
バケツリレーの一種だろうか……?
若干気まずいがまぁ良い。
この年になって頭を撫でられるのは如何せん恥ずかしい部分もあるが、心地良い。
大人になって両親に頭なんて撫でられた事はない。
嫌ではなかった、だが大人としての俺が言い出せなかった。
と言うより大人になって親と過度に触れる事も無くなった。
少し寂しい気持ちも確かにあったががそれも一瞬、慣れと言う飽和によって記憶の隅に追いやられた。
こんなに心が落ち着くなら最後の時におかんにしてやれば良かったな。
……
駄目だ、哀愁に浸ってしまう。
よし、今のは無かった事にしよう。
話を戻そう。
なんの話だっけ
そうだ、俺は今バケツリレー方式でラルクの愛情をユリが頭から受信してその愛情とユリの愛情を俺が頭から受け取っている最中だ。
うーんやっぱり気まずい。
手から愛情が伝わっては来るんだが完全に二人の世界なんだよなぁ……
「ごめんくぁーさーい!!!」
ルルの声が響いた。
(ナイスルル!!!)
ルルの言葉で鎖国されていた二人が帰ってきた。
おかえり
あれ?
今日探索の日だっけ?
確か3日後じゃ……
「あらルルちゃん、今日は一人?」
ウィルは居ないようだ。
「パパがね!!!おねぇちゃんがおかあさんになったって!!これ!!!」
手には色とりどりの花が握られていた。
「ありがとう、ルルちゃんは優しいのね」
花を受け取り優しくルルの頭を撫でた。
「えへへ、あとしゃんくんとあそびにきたの!」
ルルのトレンドはもっぱら俺
俺は俺の方でルルと遊ぶのが嫌いではないので良い。
おままごとしよう!とか言ってこないし
追いかけっこや隠れんぼなどが多いので楽しい。
キスはよくされるけど
「るるちゃんなにしてあそぶ?」
「かくえんぼ!」
「じゃあぼくがみつけるね」
「……ねぇルルちゃん」
3歳ズが遊び始めようとした時、ユリから静止の声がかかった。
「なぁに、おねぇちゃん!」
「ルルちゃんがここに居るってウィルさん、パパは知ってるのかな?」
「んーん!!!」
ドヤ顔のルル
「……ルルちゃん、ルルちゃんが居なくなったらパパ心配しちゃうんじゃないかな?」
無断外出ってやつか、まだ3歳だしな。いくら治安が良くて近所といってもウィルからすればどこに行ったのかも分からない、もしかしたら町から出てるかもしれないとも考えれるか。
不安だろうな
「俺が行って来るよ」
「アナタ、ありがとう。」
「ルルちゃん、勝手に行っちゃ駄目だよ?今お父さんの所に行ってくるからサンと遊んどくんだよ?」
「はぁい!!」
流石3歳
何も分かっていないご様子で
グライド家とルル達の宿泊してる宿は近い。
歩いて10分も掛からない。
20分が経った。
それなのにラルクは帰ってこない。
もしかして向こうで男同士で喋り混んでいるのだろうか。
しばらくルルと遊んでいるとラルクがウィルを連れて帰ってきた。
1時間程だろうか
「ルル!!」
息の荒らさや目に溜まった涙から察するにラルクと楽しく喋っていたって訳じゃないようだ。
ルルが居なくなって町中探していたのだろう。
ウィルが慌ててルルに駆けつけるとルルも気付いたのだろう。
「あ!パパ!!ねぇねぇパパ!おねぇちゃんおかあさんなんだって!!」
さっきウィルから聞いたって言ってなかったか?
一瞬ウィルの顔が歪んだように見えた。
多分怒ったんだろう。
そりゃあ怒るだろう。
俺なら怒鳴るね間違いなく。
だがウィルは何かを言おうとしたが、ぐっと抑えるように唇を噛んだ。
そしてそのまま大きく息を吐いた。
「……はぁ……ルル、お願いだからどこかへ行くときはパパに言ってくれ……」
凄く疲れた声
大人は辛いね。
「……そうか、そうだな、ルルが知ってるのここだけだったな……はぁ……」
普通はいの一番にここに来るものだろうに、パニックで頭が回ってなかったんだな。
本当にご愁傷様
そういえば奥さんは居ないのか?
もしかして二人家族?
それなら尚更心配するだろうな……
「あい!!」
そんな苦労も知ったこっちゃないと言わんばかりにめっちゃ良い笑顔
ウィルさん結構苦労してんだな……
「それとユリさん、おめでとうございます」
ルルへの対応を一通り終えるとユリに向き直った。
「ありがとうございます」
「本当はもう少し後に二人で行くつもりだったのですがルルが勝手に行ったようで……すいません……」
「いえ、ルルちゃんに貰った花嬉しかったですし、こちらこそ連絡が遅くなってごめんなさい……」
連絡遅くはなかったと思うが?
まぁこう言った方が都合がいいか
「いえ、ラルクさんが来てなかったらずっと探していましたよ……本当に……、後日改めてお伺い致します……ほら、ルル行くよ」
「はぁい!!しゃんくん、おねぇちゃんまたね!!!」
お別れのキスをするガキんちょ達
「るるちゃんばいばい」
後日カーリア家がお祝いに来て、その後ルルがまた遊びに来るようになった。
ルルには困ったもんだよ全く。
ウィルさんお疲れ様です
ウィルがよく星草に行くようになって最近はルルとばっかり遊んでいる。
ラルクが空いている時は二人で行くが空いていない時は一人で行っているようだ。
ウィルも結構強いみたいで気がかりが居なければ星草は余裕なんだとか
そのウィルよりラルクは強いらしい。
全く見えないが。
今日はラルクは違う仕入れで居ない。
ルルも話題のトレンドがグライド家に居るので素直にうちにお呼ばれする。
「しゃんくんきすしよ?」
来ていきなりこれ
ロリコンが聞いたらもう鼻血ものだろう。
生憎だが俺は特殊な性癖など持ち合わせてはいない。
はぁ。
「るるちゃん、ぼくとうぃるおじさんとしかしちゃだめだよ?」
念には念を押しておかないと……
「わあってるもん!すきなひととしかしないもん!」
おっと?
いきなりの直球プロポーズかぁ?
ロリコンならもう出血多量で死んでるんじゃねぇか?
最近のルルはもうそれは大人しくなったよ。最初と比べたらもうギャップなんてもんじゃねぇよ。
例えるなら、大切に育てていたトマトから美しい鶴がいきなり産まれて来る位の衝撃だよ。
俺も想像できねぇよこの例え
でもこれ位の衝撃なんだよ!
「しゃんくん……るるのこときらい……?」
そんな指と指をつんつんしながらいじけたように言われるとか……
……あぁ、ルルは間違いなく将来魔性の女になるよ。
確信したよ……
一昔前の好戦的なルルはどこに行ったの!
アグレッシヴルルカムバーク!!!
「ううん、すきだよ」
そう言って俺はルルにちゅっとキスした。
「はぁ……、サンが女ったらしに……」
そんな3歳の幼稚で幼い、それはもう幼ーい戯れを見ながらユリが呟いた。
パニックにはならないが俺の事が心配で仕方ないらしい。
心外な、俺は紳士だ。
「じゃあなにしよっか?」
「かくえんぼ!」
「じゃあぼくがみつけるね?」
「うん!」
「よーしいくよー!いーち、にー・・・」
現在夕暮れ
ルルとユリと俺の三人でご飯を食べている。
ラルクとウィルはまだ帰って来ていない。
本日の晩御飯は「ハンバーグ」と「キノコのスープ」
作者は勿論ユリ様だ。
ラルクには及ばないけどユリのご飯も勿論美味しい。
「おねぇちゃん!これおいしい!!」
そう言ってルルはご飯をがつがつ食べている。
「ありがとうルルちゃん、おかわりあるから一杯食べてね」
ご飯を褒められて上機嫌なユリ
うちにはクッキングモンスターことラルクが料理界を牛耳っているのであまり褒められない。
いや、ラルクも凄く褒めるんだけど実力がモノを言ってるからね……
褒められてる気があまりしないのだろう。
ニコニコだなぁやっぱり
さっきまでニコニコだった顔が少し真剣な顔になっていた。
ん?あれ?ユリが何かを考え込んでいる。
(どうしたんだろう。)
「ねぇ、ルルちゃん」
「なぁにおねぇちゃん!」
「ルルちゃんはサンの事好き?」
ちょ、ママ!
いきなり何言い出すの!!!
驚いてスプーンが上手く口に入らなかったよ!もう!!
まだ早いよ!!
「うん!すき!!」
「そっか……じゃあサンの事宜しくね」
ユリの言う宜しくは”そうゆう”宜しくなんだろう。
「うん!!」
「サンもルルちゃん一筋にするのよ?」
そう言って俺の方を見る。
なんだろう。
背筋がぞわぞわってした。
ユリお母様?笑顔が怖いよ?
目が全然笑ってないよ?
俺は女ったらしにならないから安心して下さいユリお母様や……
「……はい」
怖くて返事が小さくなった。
ユリはそれを釘を打たれて凹んでると捉えたらしい。
「サン?」
めっちゃにこやかに笑ってらっしゃる……
怖い怖い怖い怖い
だだだだ大丈夫だって本当に怖いからやめてユリお母様!!
「まま……こわい……」
おっとつい本音が
「あ、ごめんねサン、でもちゃんと一人だけにするのよ?」
「はい!」
今度は勘違いされないようにはっきり即答した。
「ただーいまー」
この声はラルクだな。
「おじさんおかえりなさい!!!」
「おかえりなさいアナタ」
「パパおかえり」
リビングで食事をしながらお出迎え。
「お、ルルちゃんも一緒か、ウィルさんは星草に?」
「はい、もうそろそろ帰ってくると……」
「お邪魔します、ルルー迎えに来たよー」
「あ、パパ!!!!おかえりなしゃい!!!!」
「こら!まだ家じゃないぞルル、ここはグライドさんのおうちだからね!」
確かに
まぁ、ルルからしてみればよく来てるし家みたいなものだろうけど。
「おかえりなさいウィルさん」
「た、ただいまです……、ユリさん、いつもルルはお世話になりっぱなしで」
「いえいえ、私もサンも楽しいのでこちらこそありがとうございます」
「きょうね!おねえちゃんがごはんつくったの!とってもおいしかったの!!」
ルルちゃんパパ様大好きだねやっぱり、超元気じゃん
「そうか、良かったなルル、ありがとうございますユリさん」
「いえ、良かったらウィルさんも食べていきませんか?ちょっと作り過ぎちゃって……」
「私もご一緒しても良いのでしょうか……?」
普段は遠慮してうちでご飯を食べないが今日は腹を空かせているらしく珍しくお呼ばれに乗り気だ。
「ウィルさんも食べていってください。ユリの料理は美味しいから」
「アナタ程じゃありません!」
あ、若干ユリがむくれた。嫌味に捉えたらしい。
「俺はユリの料理が世界で一番好きだよ」
「……本当ですか?」
「勿論」
はぁ……
だーかーらー
いちゃつくの禁止!!!!
抱き寄せない!目をトロンとさせない!!!!
ほら!ウィルさんがぽかんとしてるよ!!!
戻ってきて俺以外のグライド家!!!!
「では、私も頂きます」
さすが大人、こうゆう時の対応が紳士だね。
そしておかえり、俺以外のグライド家
久しぶりに5人で食事をしてカーリア親子は仲良くが帰って行った。
現在はまたユリとラルクがいちゃいちゃしている。
なんか見すぎて慣れてきている……
だが俺の目は死んでいる。
「そういえば今日は随分遅かったですけど何を買っていたのですか?」
「ん?あぁ、サンの勉強用に本を何冊か買ってきてたんだよ」
”本”
俺はその言葉で生き返った。