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魔法料理 ~異世界の料理は魔法よりも凄かった~  作者: 茜村人
第二章「大陸移動編 少年期」
39/51

・間話「見送り」

 まさか本当に負けるなんて思ってもいなかった。

 サンがウルドを退けたのを聞いたから、もしかしたらとは思っていたが、まさか本当に……。



 苦肉の策だった。

 あの子は賢い、だから、二人で出ていく事も考えれた、もし決断したならあの子はすぐに実行に移すと考えたから、急いであんな提案をした。


 あの子は才能が有りすぎる。戦闘技術、身体能力、そして、なんと言っても殺意を隠すのがずば抜けて巧い。あの子が実は暗殺者(アサシン)だ、と言われても納得しちまうよ。

 そんなあの子があたい達に気付かれないように、二人で出るなんて造作もないだろうさ。


 案の定あの子は、二人で行くことも考えてたと言った。

 なんて子だいと、何度も驚かされるよ全く。

 まだ一日も経っていないのに、そうすっぱりとその考えに行き着くなんて、本当に八歳かと疑ってしまう。


 ここは意地でも止めなければ、止まらないとも思った。

 だから、全力でルークを振った。

 ただ、いくら強化されてるとは言え、あたいの全力をまともに食らったら、死ぬかも知れない。

 だから、全力で避けやすいよう(・・・・・・)にルークを振った。

 スタミナが無くなったのを見計らって、首筋にルークを当てればそれでも勝てる。


 そう思っていたのに、それを逆手に取ってくるなんて。

 しかも、下手をすれば死んでいた。

 なんて度胸だよ、呆れて物も言えないよ。


 ただ、二人で行くことは心配だった。

 元々はあたいが連れていくと提案した事だから、中途半端に終わってしまうのが嫌だってのかも知れないね。


 でも、約束したことを曲げる訳には行かない。

 あたい達は目的は決まってるけど、目的地は存在しない。だから、サイラに居ようがオリンだろうが、問題は無かった。

 ただ、ここでシリィを反国家にしてしまうと、サイラでの活動が著しく阻害される。

 サイラ魔法同盟はこの大陸の三分の一以上を締める大国だ。

 そんな場所で活動出来なくなると、目的に大きく支障が出る。


 あたいも悩んださ。


 大きく言っちまえば、サンを取るか、シリィを取るか。


 あたいは、シリィを取った。

 恨んでくれても構わない。


 でも、やっぱりシリィはあたいの家族なんだよ。


「……ごめんね」


 あたい達は宿に向かって歩いてると、シリィがぽつりと呟いた。


「何言ってんだい、あんたのせいじゃないよ」

「でも……」

「誰かの責任にするなら、この国のせいだよ、勘違いしちゃいけないよ」

「…………」


 この国が悪い、時期が悪い、そんな空気のような手に取ろうとしても取れない。当たろうとしても当たれないもののせいにしても、気分は晴れない。だから、自分のせいにしたいのは分かるよ。あたいもそんな時期があったからね。


「はぁ、それなら、負けたあたいにも責任があるよ」

「ディナのせいじゃ――」

「そう思うならシリィのせいでもないよ、わかったかえ」

「……ありがと、ディナ――」


 宿に戻ると、サンがちらちらとこちらを見てくる。まぁ、こんな空気だから、仕方ないね。

 あたいが負けなければ、こんな急展開にならなかったのにね……。考えても仕方ない事だね。


 あたいは早とちりした後悔をため息と一緒に吐き出すと、サンに向き直った。


「二人で行くことは止めない。これは約束だからね。ただ少しだけ、時間をくれないかえ、一時的とは言え、パーティーメンバーのあんたを見送るんだい、一発盛大にぱぁっと見送ろうじゃないかえ」


 あの子にはとても世話になった。

 シリィに料理を教えてくれたおかげで、レパートリーの幅がグンと広がった。

 それに、あの子とパーティーを組むまでは、シリィは笑わなかった。

 笑顔は作るが、上部だけ。

 口ではお互いに許しあったけど、夫とユマの事をまだ引きずっているの見て分かる。

 あたいも引きずってないと言ったら嘘になる、けど、一番辛かった時期を支えてくれたのは、あたいのもう一人の子供―――シリィだ。

 これ以上子供の前で、情けない顔を晒せない。

 だから、窓を開けて、空気を変えるように、この不恰好なあたい達を仕切り直したかった。

 その時に、あの子が現れた。

 まだ十歳にも満たない体で、必死に生きてたこの子に。

 その姿を見て、あたいは、息を吹き返した。

 盲目的にウルドを殺すと誓ったけど、心の何処かではウルドに殺されたいと願っていたのだろう。そんな理由でウルドを探していた。

 多分、シリィもそうだ。

 だけど、ユマと同じような年のこの子は、妹を抱え必死に生きていた。

 生きようとしていた。

 その姿に惹かれたのだろうか。気付いたらあたいは叫んでいた。


「よし!あたいがあんた達のパパとママの所まで連れてってやるよ!」


 と。


 それからは、本当に楽しい日々だった。

 なにより嬉しかったのは、上部だけの笑顔だったシリィが心の底から笑っていた事だ。

 良く良く考えてもみると、あたいもそんな顔をしていたのかも知れないね。


 本当に感謝しても、しきれない。

 出来れば、この関係が何時までも続いて欲しかった。


 後悔しても遅いね。

 せめて最後くらい、違うね、最後まで楽しくいこうじゃないかえ。

 そう思っての提案だった。


「…………はい、ありがとうございます」


 少しだけ静寂が支配した、この静寂が一体何を示しているのかはあたいにはわからないが、この子はあたいの思いを察したのか、提案に乗った。


 それから、いつに出発するか話し合い。結果三日後に出ることになった。

 心配だったあたいは、二人の旅に必要なものを買いに行くと提案したが、既に持っているらしく、やんわり断ったのちにシリィと喋っていた。

 喋っていたとは語弊があるかも知れない。サンがシリィを元気付けていた。


 サンが二人で出ると決まってから、シリィはあからさまに落ちこんだ。そりゃあ、誰が見ても分かるくらいね。

 それだけ四人の旅は楽しかったんだろう。あたいも楽しかったしね。


 そして、出講前日に四人で小さなパーティーを開いた。


「死ぬんじゃないよ!」

「はい、家族を見つけてこっちに戻ってくる事があれば、必ず二人を探します。それまで死ぬつもりは無いです」

「よく言った!その約束努々(ゆめゆめ)忘れるんじゃないよ!」

「はい!武士に二言はありませんから!武士じゃないですけど」

「ぶ、ぶし?なんだいそりゃ」

「あ、いえ、なんでもないです……」

 ぶし、とはなんだ?とサンを観察すると小声で「ことわざは無いんだった」とか言ってたけど、よくわからん子だね。


「本当に二人で行っちゃうの……?」


 シリィはまだ、受け入れてないようで、少しだけ仕草が退行したように見える。

 元々は教育と言う教育や、勉強と呼べるものもしてこなかったからね。今までお姉さんぶってたけど、それが剥がれ落ちたんだろうね。


「……ごめんなさい、あまり、早くレナを両親の元に届けたいんです」


 なんだか自分の親じゃないような言い方をする。けど、今更そんな事を確認するのも気が引けるから、疑問ごと空の彼方に捨てる。


「……そっか」

「またこっちに戻ってくることがあれば絶対探します」

「なにしけた(つら)してんだい、折角のパーティーがしおらしくなっちますよ。シリィも最後までしっかりお姉さんしな!ええ?」

「なっ!私はずっとお姉さんよ!失礼ね!」

「そんなすぐに機嫌がころころ変わるんじゃお姉さんには、まだ早いんじゃねいかえ?」

「うぐっ……」

「ほら、この子の前ではお姉さんらしくしな、なんだったらこの子にお姉ちゃんって呼んでもらえば良いじゃないかえ、なぁ?」

「……え!?僕ですか?……シリィさんが良いなら呼びますけど……」


 珍しい。こんな提案に乗るなんて、いつもはこんな提案どこか恥ずかしがるように断るのに、この子もシリィを気遣ってるのかねぇ。

 八歳に気を遣われるって……。


「……うーん、最後だし、……そっか最後なんだ、そうだね最後だし、お願いしようかな」

「……ううう、わかりました」


 やっぱり恥ずかしいんだね。深く深呼吸をして、小さな声で言葉を出した。


「……シリィお姉ちゃん」

「グフッ!?」


 上目遣いで放たれた言葉を聞いたシリィは、なにやらショックを受けたようによろめいて、膝から崩れ落ちた。


「シリィさん大丈夫ですか!?やっぱりこんなおっさ……じゃないや、こんな僕じゃ駄目ですよね!ごめんなさ――」

「――わいい」

「……え?」

「……可愛い」

「あれ?シリィさん?大丈夫ですか……?」

「大丈夫じゃないかも、だからもう一回言って」

「はい分かりまし……た、って……ん?なにか違うような」

「違わないから、もう一回言ってサン君!」


 先ほどとは打って変わったように。凄い勢いでサンに迫った。


「は、はい!」


 その剣幕に負けたのか、サンの声に若干の恐怖が(うかが)える。


「……シリィお姉ちゃん」

「……ディナ」

「なんだい」

「私サン君のお姉ちゃんになる」

「なに言ってんだい、早く現実に戻ってきな」

「サン君!!今日はずっと私の事お姉ちゃんって呼んでいいからね!」

「え、いえ、出来ればこれで終わりに……」

「い・い・か・ら・ね・?」

「は、はい……」

「ディナ!」

「またかえ、なんだい全く」

「私頑張る!」

「何をだい!」


 そんな調子でパーティーは無事とは言い難いが無事に終わった。

 因みにサンは、出来る限りシリィの名前を呼ばないように心がけながらその日を過ごしていた。


 次の日になり船まで見送ると、昨日はあんな不思議テンションだったシリィがまたうな垂れていた。


「今までお世話になりました!もしこっちに戻ってくる事があったら、またパーティーに入れてください」

「お世話になりまいた!」

「あいよ!元気でやんな!」

「こっちこそありがとう、サン君のおかげで料理も大分上手くなれたし、とても楽しかったよ、また会ったら一緒にダンジョンに潜ろうね」


 うな垂れていはいたが返事を返せるくらいには現実を受け入れたようだ。少しだけ胸をホッと撫で下ろした。

 ただ、目には今にも零れそうな程の涙が溜まっている。受け入れてはいるが、それをまだ頭が処理しきれていないようだね。


「ほら、シリィも泣くんじゃないよ!最後はこう、ぱあっと見送ってやるもんさ!なぁに、人生長いんだ、また会えるよ!なぁ!」

「はい!必ずまた会いに行きます!」

「……サン君、……ありがとう!そうね!また会おうね!私達も強くなっとくから!」

「はい!僕もそれまでにもっと強くなっておきます!」

「……いや、それ以上は」


 シリィの言葉に心の中で便乗する。それ以上強くなってどうするんだい。

 と、汽笛が鳴った。出航前の合図だね。

 いつかまた会いたいね。


「っとそろそろ出航の時間です。本当に今までありがとうございました、このご恩は一生忘れません」

「ありがとうございました!」

「サン君!」


 隣で何かを決断したように拳を力いっぱい握って、シリィが叫んだ。


「本当にありがとう!絶対ぜぇったいまた会おうね!それで今度もまたパーティー組もう!」


 ……本当、良い顔になったよ。

 自慢の娘だよ。


 あたい達はサンとレナが見えなくなるまで手を振り続けた。


「……ねぇ、ディナ」

「なんだいシリィ」

「私、強くなる、強くなってウルド倒して――」


 シリィもこんな顔出来るようになったんだね……。本当に……。


「――サン君のお姉ちゃんになる」

「……ん?あんた、変な決意してないかえ?」


 一瞬でも自慢の娘と思ったあたいの気持ちを返して欲しいと、心の底から願った。

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