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魔法料理 ~異世界の料理は魔法よりも凄かった~  作者: 茜村人
第二章「大陸移動編 少年期」
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第二十七話「誕生日プレゼント その4」

少し短いです。

 あれが――ウルド


 洞窟の中は影があるとは言え、真っ暗な訳ではない。所々に発行石と呼ばれる魔石が光り輝いている。

 それなのに、ウルドと呼ばれた魔獣はまるで、闇の体現のように黒く、真っ赤に光る瞳のみが色を認識出来た。

 そして、なにより目につくのが男の首をはねた爪だ。

 先程の攻撃で分かったが、鋭利過ぎる。

 男の首をはねた時、ウルドはそこまで勢いがあった訳ではない。

 むしろ指を横に振った程度にしか見えなかった。

 だから動かなかった。

 それなのに、男の首が落ちたのだ。


(あれはヤバい……)


「グルルルル」


 ウルドはアルディナをじっと見つめる。

 その目はまるで、値踏みでもしているかのようだ。

 そして、俺の方を向いた。


(………ッ!?バレた!?)


 心臓がグンと早まると同時に戦況は動いた。


「がぁぁ!!」


 アルディナが吠えると同時にウルドに向かって走り出した。

 そのまま、大剣を力いっぱい降り下ろす。

 ウルドは爪をクロスさせ、大剣を受け止める。


「がぁぁ!」

「グルルルル」


 獣のように叫ぶアルディナとは反対に、ウルドは静かに唸る。

 力比べは拮抗しているように見えたが、それは、束の間だった。

 ウルドが大剣を押し弾いた。

 大剣を弾かれた事により、アルディナは後ろによろめいた。

 ウルドは、それを見逃さなかった。

 爪をアルディナの首狙って滑らせるが、ウルドは動きを止め、後ろに飛んだ。

 先程までウルドが居たところに、荒々しい鎌鼬(かまいたち)が通過した。


風の舞(ウィンターダンス)!!!!」


 シリィが詠唱すると、さっきと同じ鎌鼬が形成され、後退したウルド目掛けて発射される。

 と、同時に、体制を立て直したアルディナが突っ込む。


「サン君!ウルドを離すからその間に、子供をこっちまでお願い!」

「はい!」


 他に伏兵が出てくる様子が無かったのと、何かしなければと、シリィの元までかけると、シリィから声がかかった。


「これなら!」


 シリィの手から先程の魔法が形成される。

 その数五個。

 それを先読みするように、扇状に時間差で飛ばす。


「グルルル」


 ウルドは後ろに飛んで回避するが、そこにも魔法が飛んでくる。

 どんどんと後ろに飛ぶ。子供と反対方向へ


「今!」


 俺は迷わず走った。

 子供を見ると、うっすらと瞳を開けて涎を垂らしている。

 まるで薬でもキメているかのように。もしかしたら本当にキメられているのかも知れないが、指示をかけると指示通りに動いてくれる。

 ウルドはまだこっちまで来ていない。

 アルディナが壁になるようにこちらに背を向けて戦ってくれている。

 まだ他を見れるだけの理性はあるようだ。


(よしこれで……)


「グルァァァァ!!」

「……ガハッ!!」


 子供達をシリィの元まで運んだ時、ウルドが叫んだ。

 慌てて振り替えると、そこには、アルディナが吹き飛ばされる姿が写っていた。


「ディナ!!」


 ウルドの攻撃を大剣で受け止めたようだが、そのまま、岩に激突したアルディナはピクリとも動かなくなった。

 ルークと呼ばれるアルディナの愛剣も大きく上に飛ばされ、地面に深々と突き刺さった。


 これはマジでヤバい。


 動かなくなったアルディナを見て、攻撃動作を止めたウルドはこちらを向いた。

 その顔は、相変わらず漆黒のように黒いが、気味の悪い笑みを浮かべているように見える。


「……サン君逃げて」


 シリィが絞り出すように言った。


「私がウルドを引き付けるから、その間に子供達を連れて逃げて」


 無理だ。

 今、俺が逃げた所で、シリィ一人で時間稼ぎなんか出来る訳がない。

 後衛は前衛が居て、それでこそ後衛なのだから。

 それに、子供達はそこまで早く移動してくれない。

 さっきも走ってと指示したが、小走り程度だった。

 それに出口が近い訳でもない。

 レナだけを抱えて逃げたら、逃げれるかも知れない。

 そんな考えが頭を過ったが、すぐに捨てた。

 もし、それをしたら、俺はこの先ずっと、罪悪感に飲まれるだろうから、そうとなれば選択肢は一つしかないか。


「硬く堅く固く鋼たらしめるは心,信ずるは己,貫くは我が心 鋼の心(メタリックハート)


 入った時に、念のため二度使っている鋼の心(メタリックハート)を、もう一回使った。

 体から、とてつもない魔素が抜けていく。

 だが、これならば何とかなるだろう。


「僕も戦います」

「……は?何言ってるの、早く逃げるの!いつあいつが来るか――!?」


 ウルドが動いた。

 こちらを目掛けて突撃してきたのだ。


「………ッ!!土壁(ウォール)!」


 ウルドと俺達の間に壁が形成された。

 だが、それもウルドの一撃で砕け散った。


風の舞(ウィンターダンス)!」


 ウルド目掛けて鎌鼬が発射される。

 だが、鎌鼬が当たる事無く、跳躍によりかわされた。

 シリィも闇雲に撃った訳ではなく、動きを止めようと足を狙って撃ったのだが、それが仇となった。


「……ッ!!」


 シリィは襲いかかる恐怖に、魔法を詠唱出来なかったのだろうか、言葉を紡がなかった。

 このままじゃ死ぬ。

 その瞳はウルドを確かに捉えていた。

 そして、飛びかかるウルドに横からダガーを突き刺す俺の姿も捉えていた。


「ウルァ!!!」


 八歳の子が出さないような、声を上げながら俺はウルドの腹にダガーを刺した。


「グキャァァァ!!」


 ウルドは悶えるように鳴き、俺を認識すると、その爪で腕を切り落とそうとしてきた。

 俺は腰に携えたもう一本のダガーを抜き、ウルドの爪をなんとか防ごうとしたが、ウルドの攻撃は予想以上に強く、後ろに吹き飛ばされた。


「ッ!!ウルァァ!!」


 現在の配置は俺とウルド、シリィで三角形のようにいる。

 俺を狙うならまだ良いが、シリィの方には子供も居る。

 そして、そこにはレナもいる。

 そっちを狙われては厄介だ。

 だから、体制を立て直すと共に、ウルドに向かってダッシュした。


「グルァァァァ」


 迎え撃つようにウルドが爪を左右から振ってくる。

 それをダガーで迎え撃った。

 鋼の心(メタリックハート)を三回使っている今ならアルディナよりも力が上な自信はあったし、押し勝てると思っていた。

 甘かった。


(……マジかよ)


 答えは均衡であった。

 ナーガの顔をワンパンで粉々にした力で同レベとか勘弁して欲しい。

 そのまま、何度か爪とダガーがぶつかり合う。

 お互いに傷を付けることは出来ず、刃物と爪だけがぶつかる。

 だが、それは形勢を保っている訳ではない。

 俺が持っていたダガーは二本、その内の一本は現在ウルドの腹に刺さっている。


 対する相手は腕が二つ


 一本のダガーで両手の爪を捌くのは流石にきつい。


 均衡を保っていたはずの俺には、徐々に生傷が増えていく。


「サン君どいて!」


 後ろから指示が飛ぶ。


 シリィに援護をお願いしたいのは山々なのだが、ウルドのやつ余裕が出来たのか、目がシリィ達を捉え始めている。

 まるで、俺の相手を終えたように。

 俺とウルドの位置が反転したら、確実にシリィを狙う。

 そんな気がした。

 だから、ウルドとシリィの間に入るように戦っている。

 つまり、シリィの魔法の射線上に俺がいる。

 援助は見込めない。


 そして、何よりも辛いのがリーチの差。


 腕も爪も長いこいつに比べて、俺は腕もダガーも短い。

 長い方が良いとは言わないが、今の状況では有利と言わざる負えない。

 俺が攻撃を当てれないのだから。

 せめて、腹のダガーをどうにかして……


「グルァァァァ!!!」


 ウルドが爪を、地面に擦りながら振り上げてきた。

 それをダガーで受けようとして、失敗に気付いた。


(やばい!!)


 咄嗟に渾身の力で爪を弾き返した。

 その反動で双方がバランスを崩した。

 爪はダガーで弾き返せたが、同時に飛んできた泥までは弾き返せなかった。

 そのまま、顔に泥が当たり、思わず目を瞑る。


「グフッ!」


 咄嗟にガード体制をとった。

 何かが腹にのめり込む感覚が伝わった。

 その衝撃は余りにも大きく、酷く痛かった。


(……しくった、内臓がやられたっぽい、いてぇ、くそっ!)


 歪む顔に活をいれ、泥を落とした。

 目を開けると、ウルドが姿を消していた。

 慌てて目線をシリィの方に向ける。


 そこには子供を狙って、走るウルドの姿があった。


(くそ!出し惜しみしてる場合じゃねぇ!!間に合え!!)


 ☆  ☆  ☆


 サン君は私の思っている以上に強い。


「サン君どいて!」


 だが一人で、ウルドの相手は不利だ。

 サン君の獲物が短すぎる。

 援護しようと叫んだが、一瞥もされずに無視された。

 どうすればいい?私には接近戦はただの足手まといにしかならない。

 だが、魔法を放とうにも斜線上にサン君が居る。

 援護しようにも援護する事が出来ない。


 サン君が押され始めた。

 少しずつ傷が増えている。


(……傷…!?そうだ!ウルドの爪には毒物が付いてる事言わなくちゃ!)


 フレイの死因となった毒、あれはウルドの爪からだった。


「サンく――!」


 その時、サン君が吹き飛ばされた。

 相打ちのように見えた攻防だが、泥をかけられ、蹴りを捌ききれなかったのだ。


 そして、ウルドはそのままこちらに走ってきた。

 あまりにも早く。


「……ッ!!土壁(ウォール)土壁(ウォール)!!土壁(ウォール)!!!」


 持てる全力で壁を形成する。

 ウルドは失速せず壁に突っ込んだ。

 だが、流石に分厚い壁を一撃で穴を開ける事は叶わず、ドン!と音を立てながら、速度をなくした。


(よし!次!!)


風の(ウィンター)…!?」


 魔法を使おうとした時、壁から大きな爆発音が鳴った。

 粉塵の中から、何かが飛んできた。

 慌てて横にジャンプする事で回避した。

 少しはもつだろうと思っていたのに、こんなにあっけなく突破されるなんて。そして、その飛んできたのが、壁の一部だと気付いた。


(物を投げるの!?魔獣に物を使う知識なんて――!?)


 そんな人間染みた芸当、有り得ない。

 それを理解した瞬間、背中から冷たい感覚が上がってきた。

 全身が今まで以上に警告してくる。


(こいつは何なの…!?)


 理解が追いつかない。

 知ってはいけない深淵に触れた。そんな気がして仕方ない。


 と、その時、粉塵の中からウルドが飛び出してきた。

 魔法を詠唱しようとした。

 だが、その赤く光る目を見ると、体が竦んだ。

 上手く言葉がでない。

 怖い。


 私はここで死ぬの…?


 ウルドは先ほどまでと違い四本の足を使って走ってくる。


(ディナ、フレイさん、ユマ…ごめんなさい……)


 ウルドが大きな牙をむき出しにして、襲い掛かってくる。


 そして、目にした。





 ウルドを吹き飛ばすサン君の姿を。

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