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魔法料理 ~異世界の料理は魔法よりも凄かった~  作者: 茜村人
第一章「アルト村編 幼少期」
3/51

第二話「父の本気」

 最近父がよく出掛ける。


 正確には週に二日程どこかへ出掛けるようになった。


「ねぇ、パパはどこにいったの?」

「んん? お父さんはね、材料を取りに行ったのよ」


 母に聞いた。

 俺は母の膝の上で頭を撫でられている。

 父がいきなり週に二日も居なくなったら気にもなるだろう。

 俺の中の親父像は、仕事以外は基本家でダラダラとテレビを見ているのが主流であった。それは勿論戦争前の話だが、今の現状から察するに戦争後よりも戦争前の方がこの世界のいや、この村の雰囲気には沿っているだろう。


 まぁ無いだろうと思いながら、浮気では? と勘ぐっていたが、どうも道具屋の仕入れと料理の材料を調達しているようだ。


 何故、最近になって仕入れをしているのかと思ったが、どうやら俺が生まれた時は店を少しの間だけ閉めたらしい。

 俺の為に。

 初めての子供で仕事どころじゃなかったんだな。

 それもそうか、家族がいきなり増えたのだ。それも理性のある大人や躾のなっている犬とかではなく、泣き叫び、もう少し成長すれば暴れ回り、そしてまた泣き叫ぶモンスターと言っても過言では無いような奴が家族になるんだ。

 ありがとうパパン。そして、ごめんよ……。


 だが、この村で道具屋を営んでいるのはここだけらしく、村長から頼むから店を開けてくれと懇願され、その際に色々融通を聞いてもらったようだ。

 その一つに道具の仕入れなどを手伝う、俗に言う『お手伝いさん』を寄越してもらい、それで三年間仕入れに行かなくても良かったみたいだ。

 一度だけそのお手伝いさんを見たが、……なんと言うかメイド服を着たボディビルダーみたいな人だった。簡単に言えばムキムキマッチョメイド、いや、ムキムキマッチョ冥土と言った所か。一瞬男かと思ったけど声の高さや仕草からして女のようなのだ。もしかしたらオカマなのかも知れないが、声は男の裏声なんかでは誤魔化せない女成分がふんだんに含まれていた。

 あんまり信じられないけど女なのだろう。世の中怖いなぁ。


 話が逸れた。


 とまぁ、俺がある程度育ったのと、目利きや勘がが鈍るといけないからと言った理由で、最近また自分で仕入れに行き始めたそうだ。

 パパ様は依然頑張ってらっしゃる。


 浮気とかじゃなくて良かった。


 修羅場は経験した事はないが、良くないことが起きる事は想像に難くないしな……。


 まぁ次の日には色んなもの背負って帰ってくるんだけどね。


 その持って帰る物のひとつに興味が惹かれた。

 持って帰ってくるものは大きく分けて3種類

 道具屋の何か、多分売り物や備品なんだろう。

 それと俺のわからない食材。

 なんかはじめて見る葉っぱとか、食べれるのか分からないもの。もしかしたら、道具屋の何かに使うのかも知れない。

 そして、『俺のわかる食材』。


 たまにじゃがいもやら米やらを持って帰ってくるのだ。

 更に、鶏や豚も連れてくる。

 まさかの生態系が被ってました。これには流石に驚いた。生命の進化とはこんな偶然も生むんだね。

 俺の知っている食材なんだが、少し違う。

 一言で言うと、でけぇ。


 俺の知ってる鶏は大体1mにも満たない。大きくて精々50cm前後だろう。ヒヨコの時代なんかは手乗りサイズで手羽先と同じ位、いかん料理の話をすると恋しくなる。流石にあそこまで味の濃いものは食べさせてくれない。

 思い出すだけで苦行になる。忘れよう。


 だがここの鶏は1mを余裕で越えている。今の俺なんかよりも当然大きいし、間近で見ると少し怖いとすら思えてしまう。

 鶏でそれなんだ、豚なんて父を軽々と越えて2mはある。

 これで子豚だと聞いた時は、理解するのに少し時間がかかってしまった。


 じゃがいもとかも比較的大きい。

 小麦は大きいと言うより長い。


 そして俺の知ってる食材を持って帰った時は、とても満足げな顔で帰ってくる。

 他のも満足げな顔なんだが、俺の知ってる食材の時が一番ドヤ顔してる。

 良く分からんが俺は俺で知っている物があるってだけで惹かれる。惹かれる物には近付こうとするし、触りたくもなる。

 もしかしたら、俺がそんなだから父がドヤっているのかも知れないな。

 今後はもう少し大人しくするべきだろうか、迷いどころだな。


 今日も仕入れから帰って来た。

 豚やら兎やら大豆やら玉ねぎやらと、今日は俺でも分かっちゃうDayのようだ。


「たっだいま~! ユリ~! サン~! 帰ったよ~!」


 鼻歌混じりの声が響いた。


「おかえりなさいアナタ」


 母はそう言いながら父と唇を軽く重ねた。



 うーん……。



 うーん。なんと言うか、犯罪臭が……。

 いや、別に父と母は結婚している訳だから、何をしようと犯罪にはならないんだけどさ、ほら、何て言うか、見た目が、ね。

 父は紫色の目、白い髪で眼鏡をしてる。白髪の可能性もあるが、全てが白い髪なので白髪では無いと思いたい。その父だが白い髪のせいか老けて見える。多分三十歳位だと思う。もしかしたらそれ以上。


 それに対して母は若い。

 黒い目、青い髪を後ろにキュッと括りポニーテールにしている。

 そして顔が凄く若い。若いと言う言い方には語弊がある。凄く幼い。所謂(いわゆる)、童顔って奴だ。

 正直JKと言われても信じる。

 見た目が片や三十路、片や十代、そんな二人がイチャイチャしてるんだ。

 おじさんがお金払って若いおねぇちゃんと遊んでいるようにしか見えない。


 俺の考えは前世での常識であって、この世界の常識はまた違う可能性も出てくる。


(もしかして俺もあんな若い子と結婚出来るのか……?)


 そう思うと凄く期待してしまう。

 期待に胸を熱くする。


 前世は童貞と言うわけではないが結婚はしてなかったし。あまり長続きもしなかった。



 そんな俺を尻目に両親は二人の世界へと入っているのだ――――



 ――俺が見てるのに。



 グルルルルルル


 と、不意に俺の腹部の魔物が唸り始めた。


(腹減った……)


「パパ、おなかすいたぁ」


 最近覚えたスキル『うるうる目』を使用した。


「おっと、それじゃあご飯にして、その後風呂にするか、今日はこれを使うからユリ手伝ってくれ」


 そう言いながら今日仕入れてきた食材(ぶた)を持ち上げた。

 重そうなのに、よく持てるな。

 豚はもしかして軽いのか? いやいや、そんな質量とか物理とかそこらへんの法則を無視するような現状ある訳がない。あるならとっくに気付いているはずだ。

 丸々一匹ではなく、食べる部位だけを切り取って持って帰って来ているがそれでもずっしりとしていてとても重そうだ。

 まぁ、魔法がある世界なんだし他にも何かあるんだろう。


「わかりました。サン」


 名前を呼びながら俺をおぶる。

 母におぶられ三人仲良く厨房に入った。


(相変わらず、すげぇなここ……)


 料理を出しているだけあって、キッチンなんて生易しいものではない。

 厨房と言った方がしっくりくる。

 中華鍋や寸胴、包丁なんかもいっぱいある。おまけに調味料もある。有りすぎて何が何やらさっぱりだ。


 この世界に電化製品と言うものはない。

 多分だが文明はそこまで発展していないと思う。

 家は少し前のフランス辺りにありそうな雰囲気のある家造りが多い。

 街灯はあるが電気ではない。


 そんな中、何故か食文化だけがぶっ飛んで進んでいる。

 俺の前世と大差ないんじゃないか?

 あんな前世の入れ物では無いが、ケチャップやマヨネーズもある。

 

 なんで料理だけぶっ飛んでるのか不明だが、調味料も凄い豊富だ。

 もしかしてそうゆう文化なのか?

 それかここだけ特別なのか?

 まだ比べる対象物がないのでなんとも言えないが、どちらにしろ食文化だけは異様に進んでいる。


 父の料理は相変わらず凄い。

 大雑把な表現だが、前世ではレトルトをチンするか、乾燥麺をお湯に入れて三分待って出来上がる位しか料理が出来ないんだから、正直に言って父が何をしているのかさっぱりだわ。

 俺に美味〇んぼみたいなコメントは出来ない。

 どんなに捻り出しても精々、食材の宝石箱やぁ程度だ。

 そんな事を考えているうちに料理がどんどん作られていく。

「あ」

 と言っている間にもう料理が出来上がってしまった。


 本日のメニューは兎の肉を使ったカレーライスとサラダ


 どうやら今日取ってきた材料で作ったようだ。


「サン、いっぱい食えよ、今日は本気で作ったからな!」

 と、父が揚々と言ってくる。


 本気とはどうゆうことなんだろうか、見た目は相変わらず綺麗だ。


「ほら、サン、お口開けて、あーん」


 そんな事を考えていると、母のスプーンが伸びた。


「あーん」


 三十八歳独身男性、この年になって若い娘にあーんされる事案発生。

 前世ならこれだけで捕まりそうだ。

 ま、まぁ見た目は3歳なんだし言葉もまだ拙い。

 イケルイケル、ウンイケルイケル。

 ワンチャンスアルヨ。


 ……罪悪感が凄いね。

 (カルマ)が溜まっていきそうだ……。


 そんな事を考えているとは露知らず、母はニコニコしながら父の作った料理を食べさせてくれる。

 一口、口に入れる。




 なんだろう。体が少しぽかぽかする。暖かい。

 食事を取ったときとはまた違う暖かさ。

 どう表現すればいいのか、心の芯の方がこう、じわぁって温もっていく感じだ。


 もちろん美味しい。

 前世のカレーとは少し違う味、まだ俺が幼いから辛さはだいぶ抑えてある。

 これなら子供でも食べれる。


 これが父の本気……。


 よく分からないが父が本気で料理すれば心がほっこりするようだ。


 多分この時だろう。

 俺はラルクの作る料理に惹かれた。


「パパ、ぼくもつくりたい」


 気付けばそんな言葉が出ていた。


 父は何のことだと首を傾げた。


「パパのごはん……」


「あぁ、うーん、刃物は危ないからもう少しすればな」


 やぶからステックに言う俺に対し、教えるのは嫌ではないようだ。だが、如何せん俺は幼い、そんな子供に包丁を持たせて良いのかと思ったらしい。

 もっとも俺は銃もナイフもある程度は扱えるから問題ないのだが、向こうはそんな事知らないし言う気も無い。

 そんなこんなで俺は父の料理を見て真似ると言う作業をし始めた。

 父は最初は渋っていたものの俺が辞めないと分かると、諦めたのか簡単な作業をやらせるようになった。

 パパ様はやっぱり俺が大好きらしい。


 ただ、子供の真似と言うのは如何せんしんどい。体力は有り余って仕方ないのだが、精神的にくるものがある。


 俺は空気の読める男だ。

 周りの期待にも応えてあげたい。

 現状の周りの期待は俺が三歳らしい振る舞いをすることだ。

 そうなると必然的に子供の真似をしなければならない。

 道具屋のマスコットに抜擢されるときは尚更俺のストレスは溜まっていた。


 それを解決してくれたのは意外にも”ボール”だった。

 道具屋に来るのが大人だけとは限らない。

 子供連れの奥様も来る。


 今日も来た。


 五歳から七歳位だろう。そういった子とキャッチボールをするのが最近のストレス発散だ。

 手加減はしない。俺は三歳、相手は年上。

 日本で言えば小学校1年生VS幼稚園最年少もしくはそれ以下だ。

 図体的にも若干差がある。

 ただ俺はボールの投げ方を知っているし取り方も知っている。

 筋肉はまだ発展途上だが、それをカバーしてもお釣りがくる程の知識がある。負ける気がしなかった。


「あらあら、サトルったらちゃんと手加減出来て偉いわね」


 濁点をつければ自転車の部品になりそうな6歳の子供を褒める奥様。

 超悔しがるサトル君。

 何も知らない風な顔を作る俺。


 いやぁ、楽しいね。


「いつも息子と遊んで頂いてありがとうございます」

「あら、いいんですわよそんなの、サトルも楽しそうですし、これからも連れてきますわ」


 そう言いながら帰る親子。


 そうした親子が何人か来る。

 その殆どの子とキャッチボールやら圧勝出来そうな事で遊んだ。

 優越感ってのはストレスには特効薬だな。

 女の子も居たけどおままごとをしようと言い出すやつばかりで、一度だけ付き合ったがストレス発散どころか、蓄積されて白髪が生えんじゃねぇかって思ったわ。

 いや、もう髪の毛白いけどな。


 髪は父、目は母の血を受け継いだようで、白い髪に黒い目をしている。


 そんなことよりやっぱり体を動かすのは楽しい。昼はマスコット、夕方は両親と料理、そんな生活。

 料理と言っても基本的な事しか教えてくれない。

 後は見て盗め方針らしい。

 たまにこっそり包丁を持ったりもした。

 どう見ても業物だ。これ骨まで切れんじゃね?

 包丁はどれも高そうだ。

 やっぱりうちのパパ様は頑張っているようだ。


 そんな生活を送っていると、ある変化が起きた。

 いつものように父が仕入れに行って、その日の夕方帰ってきた。



 男を連れて。



「お帰りなさいアナ……タ……? そちらの方は?」

 動揺する母。


「あぁ、星草で出会ってな、ピッグに襲われていたんだ。怪我をしていてな、一応治療はしたが少し休ませた方が良いと思ってな」


「初めまして、ラルクさんがもう少し遅かったら本当に危ないところでした。ありがとうございます。ほら、ルルも」

 そう言うと女の子が男の後ろからちょこんと顔を出した。男の袖をぎゅっと握っている。


「……パパ……こわい」

「……すいませんまださっきのが堪えているようで」


 さっきのとはピッグとやらに襲われた事だろう。


「まぁ立ち話もなんだし上がってください。ユリ、お茶を入れてもらえるかな」

「はい、何もないですがゆっくりしていって下さい。えっと……」

「あ、すいません、申し送れました。私、ウィル・カーリアと申します。こちらは娘のルル・カーリア」

「カーリアさんよろしくお願いします、私はラルクの妻のユリ・グライド、それと息子のサン・グライドです」


 そう言いながら俺を横に紹介した。

 父とは既に自己紹介を終えているのだろう。


「それとルルちゃん、もう大丈夫だよ、頑張ったね、偉いね」


 母はルルに優しく笑いかけた。


「……ほんとう? 」

「えぇ、今暖かい飲み物入れるね」

「パパもいっしょにのむ……」

「こら、ルルあまり我がままを」

「いえ、ゆっくりしていって下さい。ルルちゃんもパパと一緒に飲みたいよね、今淹れるね」


 それから五人でご飯を食べた。

 ウィルは並べられた料理に目を丸くしていた。

 やっぱりうちのパパ様はプロのようだ。

 少し落ち着いたルルが目を輝かせながら、ご飯を頬張り食べていた。


 今は食べ終え五人はリビングで一休みしている。


 ルルはお腹いっぱいになると安心したのか、ソファーでぐっすり寝ている。


 落ち着いた感じの子だろうか。ユリより明るめの青髪をしていて目は澄んだ緑色。なんとまぁ存在自体がリラックス効果のありそうな事で。


 大人たちは星草と言う場所で起きた事を話している。

 話を聞いていると、星草と言う場所で資材? 集めをしている所にピッグの群れが襲ってきたらしい。

 ピッグとはあのでっかい豚だそうだ。

 あれ凶暴だったんだ。

 あれが群れで襲ってくる所を想像すると怖いな。


 襲われた時、危ない状況だったようだ。


「いつもならあんな簡単にやられはしないんですがルルが真っ先に狙われてしまって、それで……、ラルクさん本当にありがとうございます」


 ルルを町に置いて行こうとしたらしいが、ルルが泣きに泣いて、仕方なく連れて行ったそうだ。


「いえいえ、助けられて良かった。今日はうちでゆっくりしていってください。二階に空いてる部屋があるので使ってください」

「……本当に何から何までありがとうございます」


 ウィルはグライド家に対して深々と頭を下げた。


「それにしてもラルクさんは凄いですね、あんなにもお強いのに治癒魔法まで使えるなんて」

「いえ、ピッグはよく仕留めているので慣れているだけですよ。それよりウィルさんはこれからどうされるんですか?」

「それでも凄かったですよ。……そうですね、この近辺で見入りの良い場所が星草くらいしかないのでこの村を拠点にまた探索しようと思ってます」

「あの……、もしウィルさんが良かったら、探索の間だけでもルルちゃんをうちで預かるというのはどうでしょう?」

「いえ、そこまでしてもらうわけには…」


 ユリの提案にウィルは悩んでいるようだ。現状すでに良くしてもらっていて更に良くしてもらうんだ、気を使って当たり前だろう。


「そうだなユリ、それは良い案だ、……ウィルさん一つ提案があるのですが」

「……はい? なんでしょうか?」

「探索の間、私とパーティーを組みませんか? 」

「え……? いいのですか? ラルクさんは私よりずっとお強いようですが……」

「私も星草でよく探索するんです、でも一人で居ると、どうしても作業になって気が滅入るんですよ。もちろんウィルさんが良かったらですが、私では駄目でしょうか? 」

「め、滅相もないです!! むしろ私の方こそよろしくお願いします!!!」

「では探索中はルルちゃんを一人残すのはパーティー仲間として見過ごせないですね、うちにはサンも居る事ですから遊び相手に困らないでしょう。どうでしょう、探索中はうちで面倒を見ると言うのは」

「……………本当に何から何までありがとうございます」


 ウィルはもう一度深々と、それはもう深々と頭を下げた。


「じゃあ決まりですね、主人をよろしくお願いします」

「ウィルさん、なんか足早に色々決めさせてしまってすいません」


 俺を除くグライド家が頭を下げた。


「いえ、こちらこそこんなに助けていただいて……本当にありがとうございます」


 大人勢が頭を下げあう光景。どっかで見たな。

 あぁ、契約の持ち込みの話の時こんな空気になったの覚えてるわ。あんな腹の探りあいみたいな内容じゃなくて、めっちゃ良い内容だけどね今回。



 ――翌日。



「本当にありがとうございます。私たちは近くの宿を使う予定です。ほらルル、ありがとうございます、は? 」


「……あいがとうございましゅ」

 段々声が小さくなり最後の「しゅ」なんて殆ど聞こえなかった。恥ずかしがってるのかな。


「これからよろしくお願いします、今のところ四日後に星草に行く予定ですがウィルさんの手持ちの都合は大丈夫ですか? もう少し早めましょうか?」

「いえ、それくらいでしたら大丈夫です。四日後ですね、分かりました」

「これからよろしくお願いします」


 硬く握手するウィルとラルク、握手が終わるとウィルはユリと俺の方に向いた。


「これからお世話になります。よろしくお願いします。それとサン君もルルをよろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。サンもよろしくお願いします、は?」

「よろしくおねがいします」


 俺はルルの方に向いて小さくよろしくねと言った。

 ルルはあまり意思表明しないタイプのようだウィルのズボンをぎゅっと握って顔を隠した。


 そしてウィルはラルクと喋った後、宿に消えていった。




 さて、俺が状況を掴めていない。


(……どうゆうことだ? )


 まとめてみよう

 ラルクの仕入れに星草という場所を探索するという項目があり、星草で探索してると、あのでっかい豚の群れに襲われているカーリア家に出会わして、ラルクが颯爽(多分)と救出、ウィルが怪我をしていてラルクが治癒魔法で治した後、家に帰宅。

 帰宅後は省略。


 って事で合ってるのか……?

 て事は、あの豚って買ってきてるんじゃないのか。

 凄いでかいし、その群れの中カーリア家を救出できるって父は相当強い、のか?

 それと治癒魔法使えるのか、なんで指を切ったときは使ってくれなかったんだろう。


 疑問は残るが今は聞いても答えてくれなさそうなので、思考をめぐらせる事をやめた。


(もう少し大きくなったら教えてくれるか)



 それから四日後ウィルとラルクは星草に行った。

 行くところは割愛、前回同様にまたウィルさんが頭下げまくるんだもん。

 同じ展開はもういいよ。

 違ったところはルルが残った事くらい。

 ルルは俺と同い年らしい。

 いや、三十八歳じゃないからな。


 生後三年。


 スキル『走り回る』を覚える頃。




「るるちゃんあそぼ? 」

 なるべく子供らしく無邪気な感じに俺はルルをエスコートした。



「……いや!!!」

 おもいっきり睨まれて顔を逸らされた。

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