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魔法料理 ~異世界の料理は魔法よりも凄かった~  作者: 茜村人
第二章「大陸移動編 少年期」
21/51

第十七話「パーティー」

 冒険者


 RPGなどのゲームでは自然になる職業の一つ。

 子供の頃に誰もが憧れてなりたいと思った職業。

 そして、個人的になりたくない職業の一つ。


 理由は簡単。

 死ぬ可能性があるから。


 折角もう一度の人生を得たんだ。

 真っ当に生きて人生を楽しみたい。

 しかも、前世は戦死

 戦いはもう十分。

 冒険者ではないが同じような職種をもう経験している。

 それに俺は魔法の才能が皆無と来たもんだ。

 やりたいと思える訳がない。


 でも、今考えられるもので、路銀を稼げる方法がこれしかない……

 他にあるならそれを取るだろうが、情報がない。


「おにいちゃん、ここ…こあいよ……」

 ドア越しに中を覗いていたレナが怯えていた。

 そりゃあそうだろう。

 中はどデカイ剣やハンマーを担いだ厳つい人で賑わっている。

 しかも、たまに喧嘩らしきものもしている。

 少しだけ綺麗なお姉さんもいるけど比率で言えば男の方が圧倒的に多い。


(今からこの中に入らないといけないのか……、いやだなぁ……)


 頑張ろう……


「お兄ちゃんが居るから大丈夫だよ、レナはお兄ちゃんが守るから」


 元気付けるように優しく撫でた。


「おにいちゃんだっこ……」

「いいよ、おいで」

「……ん」


 レナを優しく抱き上げる。

 レナは周りが見えないように俺の胸に顔を(うず)めてきた。


 数度深く息を吐く

 心を固め扉を開ける。


 開けたと同時に視線が集まった。

 とても威圧の感じられる怖い視線。

 物珍しそうにこちらを見ている。


 直接言っては来ないものの

「おい、なんでぇ餓鬼がいるんだ?」

「親でも探しに来たんじゃねぇか?」

 など色々聞こえてくる。


 なるべく聞こえないフリをして、受け付けの列にならんだ。

 五人程の列だ。そこまで時間はかからないだろう。

 そう思って待っていると、何やら列の一番前が少し騒がしくなった。


 なんだろう?

 覗こうとしても前のおっさんのせいで何が起きてるか見えない。

 でけぇなおっさん身長寄越せ。


「…………後をお願い」


 目が駄目なら耳に頼るしかないと、聞き耳を立てていると、受け付けのお姉さんがそう言った。

 別に言葉には興味が沸かなかったが、その声が気になった。


(ん?なんか聞いたことのある声のような…)


 なんだろう。思い出せない……

 少ししか聞けなかったし、気のせいだろうか?


「先程は申し訳ございませんでした。担当変わりまして私、ミルクがお伺い致します。」


 考えていると受け付けの人が代わったようだ。

 一向に答えが出ないし、もしかしたら前世の時の奴の声かも知れない。それなら完全に他人の空似だろう。

 そう結論付けて大人しく列を待った。


 それから順調に前の人が減っていき、俺の番が来た。


「いらっしゃいませ…本日はどういったご用件……で…?」

 とても綺麗なお姉さんだが、俺の顔を見て少しだけ戸惑っているように見える。

「あの…」

「??え~っと、どうしたのぼく?迷子?」

「えっと、冒険者登録したいんですが」

「え?」

「冒険者になりたいです」

「……えっと、ぼくが?」

「はい」

「……冒険者ってとっても危ない事なのよ?」

「知ってます、あ、もしかして年齢制限とかありますか?」

「無いけど、ぼくのお父さんやお母さんは?」

「…………」

「あ、ごめんなさい。亡くなったのね……、わかりました。では――」

「おにいちゃん、なくなったってどうゆうこと?」


 お父さんとお母さんって言葉に反応してレナが聞いてきた。


「えっと、死んだって事だよ」

「しんだ?」

「そう。もう会えないって事」

「はい、それではこちらの――」

「…んでないもん……」

 小さくレナが何か呟いた。

「ん?」

「ぱぱもままもしんでないもん!!」


 ギルド中に響いた。



(しまった…)


 適当に誤魔化しておけば良かった……

 つい、冒険者になる(べつの)事に意識をいかせ過ぎた。


「ぱぱもままもいきてるもん!!またいっしょにごはんたべるもん!いっぱいあそぶもん!しんでないも…ん……いぎでるもん………うわあぁぁぁぁああぁぁ――」

「ごめんね、おにいちゃんもそう思うから、よしよし」

「うわぁぁしんでないのおぉおぉ、うわぁぁぁああぁぁん」

「よしよし、レナ、大丈夫、お兄ちゃんが絶対パパとママの所まで連れて行くから、絶対、だから」


(お願いだから泣き止んでくれ。)


 俺も意識しないようにしているんだ。

 その声を聞くと挫けそうになる。

 現実がどんなであれ今は何も見ないようにしているんだ。

 俺まで挫けたら、もう駄目だ。

 だから、お願いだから泣き止んでくれ。


「おにいちゃん、頑張るから、ね、レナ、お願いだから」


 俺の声にも涙が溢れてきた。

 これは本当に駄目だ。

 レナの感情が俺にも押し寄せてくる。

 頼むから…




「よし!あたいがあんた達のパパとママの所まで連れてってやるよ!」



 後ろのテーブルから、バンと叩く音と一緒に大きな声が届いた。


「ちょっとディナ!?」

「なんだいシリィ!こんな可哀想な子供達をほっとけって言うのかい!?あたいには無理だよ!」

「だからって!それに、もしかしたら詐欺かもしれないでしょ!」

「はっ!なにを!こんな可哀想な子供達があんな醜悪で汚い詐欺師な訳ないじゃないかい!それにシリィも助けたいって思ったろ!」

「……それは思ったけど」

「じゃあ満場一致で決定じゃないかえ!」

「でも、実際にどこまでとかあるじゃない!」

「おっとそれもそうだね」

 そう言うと、女はずんずんとこちらに歩いてきた。

「なぁ、あんた……あんたって言うのとなんか癪だね、あんた名前はなんて言うんだい

 !」

「あ、えっとサンって言います。こっちが妹のレナです」

 いつの間にか泣き止んでいたレナと一緒に女の方を見ていた。

 肌は結構焼けていて褐色色(かっしょくいろ)、黒い髪を全て後ろに括ってなんとも男気の強そうな人だ、おまけに筋肉も凄い。

「サンだね!それでサン!どこまで送ればいいんだい!どこにあんた達のパパとママは居るんだい!」

「え?えっと、確か…シュリまで……」

「シュリかえ!なんだい近いじゃないか!よぉし!あたい達が送って行ってやるよ!」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!どこが近いのよ!全然近くないじゃない!!」

「なんだいシリィ?たかが隣だろ?そんなもんすぐじゃないか!」

「隣って…隣町と隣国じゃ全然違うわよ!それに今はユダ川を直接渡れないのよ!直接渡れても片道2年はかかるわよ!どこが近いのよ!」

「なんだい!うだうだうだうだと、シリィは助けたいんじゃないのかい?」

「助けたいけど、この距離は流石に考えるわよ!!」

「はぁ、そんなんだからいつまで経っても結婚出来ないんだよ!」

「大きなお世話よ!」

「何をそんな怒ってるんだい!いいじゃないかえ!たまには旅行と思えばいいんだよ!」

「あぁ、そう……、はぁ……はいはい、わかったわよ。このパーティーのリーダーはディナよ、あなたが決めたなら従うわ、ほんとお人好しにも程があるわよ」

「じゃあ決定だね!あんた!さっさと冒険者登録してしまいな!それであたい達とパーティー組んでシュリまで向かうよ!」

「え、えっと……」

「さっさとする!時間は無限じゃないんだよ!」

「は、はい!」


(どうゆうこと?)


 ありのまま起こった事を話すぜ……

 俺はただ冒険者登録をしにきた筈なのに気付いたらディナって奴のパーティーに入れられてたんだ。

 何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからねぇ…


「で、ではこちらの方に記載をお願いします」

 口をぽかーんと開けて成り行きを見ていた受け付けのお姉さんが、はっ!としたように一枚の板とペンを渡してきた。

「い、一応、内容の確認と説明を致します。

 冒険者として登録後、ダンジョン内にて怪我、死亡した場合の責任についてはギルドは一切の責任を負いません。

 ギルドには各階位(クラス)が存在し、初級クラスFクラスからのスタート、いくつかの実績のち、評価により昇級となっております。行けるダンジョンに制限はございませんがダンジョンのクラスイコール自分のクラスと思って頂いても構いません。なので挑むダンジョンは十分お考えの上挑むようにしてください。ダンジョン内のアイテムの換金は全てギルドで行うものとします。それとギルドでは依頼(クエスト)を発注・受注することが出来ます。発注する際は依頼(クエスト)報酬を自分で設定する場合と、ギルドで設定する場合の二つがあります。ギルドで設定する場合はその時の相場(レート)により合算して設ける事になりますのでご注意ください。以上の点に不明な点等無ければ、この制約板にサインをお願いします」

 ほうほう、まぁ、大体想像力通りだな。

 何個か分からない点があるがまた後で聞こう。

「はい、……あれ?このペン…インク出ないですよ?」

 渡されたペンでサインをしようとしたのだが一向に文字がかけない。

 不備か?

「それは火の魔付がされていて、魔素を通すと発動する仕組みになっております」

「あ、ほんとだ」

 体内の魔素をペンに集めるとペン先が軽く熱を帯びて、板に刻むように書くことが出来た。

 このペン便利だな。

「わかりましたじゃあ……」

 板には名前・年齢を書く欄があり、そこに自分の名前と年齢を書いて登録した。


「少々お待ちください…………、お待たせ致しました。こちらが冒険者カードになります。更新はギルドにて行ってください、それでは、ようこそ、ギルドへ、あなた様のこれからのご活躍にギルド一同期待しております。………、それとさっきはごめんなさい。お父さんとお母さんに会えると良いね。お姉ちゃん応援してるから」

「パパとママもいきてるもん」

「うん、うん、お姉ちゃんが間違えちゃったの、パパとママも生きてるから、頑張って生きてね」

「ありがとうございます、レナもほら涙拭いて、ってこら、僕の服で鼻かもうとしない!パパとママは僕が見つけるから、お兄ちゃんが約束するから」

「うん、えへへ、おにいちゃんすき」

「良いお兄ちゃんね、頑張ってください、あ、あとアルディナさんは気前の良い方で、黒い噂も無くてギルドでも結構有名な人なのでパーティーに入れるなら入っておいて損はないかと思います」

「ありがとうございます!」

 ちらっとアルディナとか言う人を見ると目が合った。

「ん?終わったのかい?」

「あ、はい、今終わりました」

「よし、じゃあまずは腹が空いたね!何か食べに行くかい!」

 俺らさっき食べたばかりなんだが

「ちょ、それよりもまず紹介が先でしょ!」

 後ろから声がかかった。

 さっきアルディナと言い争ってた人だ。

(耳が長い――?)

 なんだこの人、耳がウサギみたいになっている。

 まるで、物語で見たエルフのようだ。

 ぼけっとエルフ(仮)さんを見ていると、こちらとも目が合った。

「あ、ごめんなさい」

 何か気まずくて謝ってしまった。

「えっと、あなた達は悪くないのよ、悪いのは全部この漢女のせいだから」

「あたいが悪いってかい!シリィも賛成したじゃないかえ!」

「あ~、とりあえず場所を変えましょう、さっきから私達、凄い目立ってるんだから!出てからお互い自己紹介しましょう」

「じゃあトーマスの所で軽く食べながらにしようか!」

「はいはい、あんたはいつも空腹でしょう!、あ、ごめんねいきなり、とりあえず一緒にご飯でも食べない?」

「あ、僕らはご飯た」

「よし、決定だね!行くよあんた達!」

 聞いてねぇ!!

 


 そうやって俺は冒険者になった。

 ついでにパーティーも組まされた…のか?


 ☆  ☆  ☆


「改めて!あたいがこのパーティー"サンダルウッド"のリーダー、アルディナ・サルグールだよ!!職業は戦士!!それでこれが愛剣のルークだ!格好いいだろう!!それでこっちが――」

「ちょっと勝手に私の紹介もしないでよ!おほん!改めまして"サンダルウッド"の魔療師を担当しているシリィ・リズベルトです。と言ってもこのパーティー私達しか居ないんだけどね、あと私はエルフって人種になるの」

 やはりエルフか、初めて見た。

 昔の本ではオークにくっ殺展開が王道だったがこっちはどうなんだろう。僕、気になります!

「はっ!あたい達のパーティーに弱っちぃ奴なんて要らないよ!それにあたい達はこう見えてもAランクパーティーだよ!そこいらの男共なんかには遅れは取らないよ!それでサンだったかい!ほら!自己紹介しな!」

「あ、はい、サン・グライドって言います。こっちは妹のレナ・グライド、職業は、えっと…………」

「あんた得意な魔法や武器は無いのかい!それで職業が決まるんだよ!」

 長所みたいな感じか

「武器は無いです。得意な魔法はえっと、覇気と水です。一応治癒も使えるんですが、僕才能無いみたいで……」

「治癒も使えるなら魔療師だね!凄いじゃないかえ、その年で三種類の魔法が使えるなんて、もしかして、貴族のボンボンかい?」

「ディナ、さっきの言葉聞いてなかったの?ほら、両親は……」

「あぁ、すまない事を聞いたね」

「いえ、あと、三種類じゃなくて六種類使えます。一応……」

 訂正しようと持っただけなのだが、二人の顔がキョトンとなった。

「……は?」

「……今なんて言ったんだい?六種類って聞こえたんだが、あたいの聞き間違いかえ?」

「え?いえ、六種類です、光と闇と呪殺以外使えます」

「………はっは、サン、子供だからって見栄を張らなくてもいいんだよ!」

「えぇ、そんなに覚えるのなんて魔料理人だけよ、普通魔法は高いから才能がある一種類に限定して覚えるのが基本なの、だからそんな見栄を張らなくてもいいのよ」

 魔料理人なんだが

 あれ、もしかして言ってはいけない事言ってる?これ以上バラすのはもしかしてやばいやつか?

「え、えっと、ごめんなさい、見栄を張ってました」

 なんか駄目な感じがしたので魔料理人なのは隠すことにした。

 頭を下げるとアルディナが頭をぐしゃと撫でてきた。

 撫でてきたって表現が正しいのか擦り付けるって表現が正しいのかは分からないが

「よしよし、それでも三種類は凄いよ!それに覇気と水を使えるなんて、その年にしちゃあ凄いじゃないかえ!生き残る確率がぐんと上がるからねぇ!」

「え?なんで…」

「ダンジョン内じゃ飲み水が無いときもあるからね!最悪水さへ飲めれば少しはもつだろ?覇気は言わなくても分かるだろ!」

 まぁ身体能力が上がれば死ににくいか


「えっと、でも僕魔法の才能が全然無いようで…」

 先に言っておかねば、使えると思って使えなかったら悲しいからな。


「なんだい魔法は自分の保身に使いな!!子供は黙ってあたい達に守られてりゃあいいんだよ!」

「そうね、でも、魔法の使い方は私が教えてあげるわ、まぁなんだし、これからよろしくね」

「あ、はい、よろしくお願いします」

「よし、じゃあ今日は飲むかえ!!!」

「何言ってるの!!!チャートまで行くんだから、さっさと準備しましょう!」

 チャート?チャートって小さな島国が集まって出来た国の事か?そっちを通ると「く」の字に進むことになるから結構な遠まわりになるんだが…

「え?そのままユダ川を越えないんですか?」

「子供は知らなくても無理はないわね、今サイラ魔法同盟とオリン共同連合は少し危ない状態に入っていて直接行くことが出来ないのよ、サイラ(ここ)からオリンに行こうと思えば他国、ここだとチャートを経由するか密航するしかないの」

 危ない状況?戦争でもしてるのしてるのか…

「よし!そうと決まれば食料の調達に行くよ!!!あんた達!!!ついてきな!!!」

「え、あ、ちょっと待ってください」

「ごめんね、うちの漢女が、いつもあんな感じなんだけど、これからよろしくね」

「何こそこそ喋ってるんだい!置いてっちまうよ!!」

「はいはい、さ、行こうサン君」


 こうして正式にパーティー"サンダルウッド"に参加したのであった。




 ―エリシアの場合―



「ふぅ……、昨日は死ぬかと思ったわ…」


 昨日は散々だった。

 質の良さそうな子供(えもの)が居たと思ったら、ザンもグルドも殺されたし、これじゃあ小銭稼ぎも出来ない。

 それに、信用させる為にいつも顔は隠さなかったのだけど、それが仇になった。

 顔が知れてしまった。

 どうせ見つかったら死ぬと思ってたし、顔を隠すと用心されちゃうから顔を隠さなかったのに、こんな事になるなんて思って無かった……

 これからどうしよう……


「どうしたのエリ?」


 暗い顔をしていると横から声が届いた。


「ちょっと昨日、怖い目に遭って……」

「昨日って非番の日よね?どうしたの?もしかしてストーカー?」

「え、えぇ、そんな所よ」

「駄目よ、エリは可愛いんだから!用心しなきゃ!!それにか弱いし!誰にやられたの!もしかして冒険者?」

「え?冒険者じゃないと……思う……」

「うーん、心配ね、次何かあったらすぐに言うのよ?私が力になるから!」

「……ありがとう、ミル」


(昨日、子供を拐おうとしたら返り討ちに遭ったなんて言えないよね)



「何してるの!今日もギルド(ここ)冒険者(きゃく)で大忙しなのよ!そんな所で怠けてないでさっさと働きなさい!」

「「はい!」」

「……ふふ、行こっかエリー」

「そうね、ミル、今日も頑張りましょう」


 でも、宿を探してたって言ってたしこの町の人間じゃなかったみたい、そう簡単には会わないわよね。


 自分で結論を出して少し落ち着くと、朝の点呼の時間になった。

 出勤の確認をして、最後は主任からの一喝(ひとこと)


「今日も要らないって位、冒険者(きゃく)が来るわよ!いい?アナタ達はギルドの顔です!鬱陶しい冒険者(きゃく)、迷惑な冒険者(きゃく)は私が対応します!だからアナタ達はギルドの顔として相応しい対応を心掛ける事!!良いわね!!」


「「「はい!!」」」


 私を含む全員が返事をした。

 今日も仕事をしなければ、これでもギルドの受け付けとして二年やってきたんだから

 それに、ここならあんな子供は来ないだろうし

 だって、ここは冒険者ギルドで強そうな人や(いか)つそうな人が一杯で子供が入るには勇気が要る。だから今は仕事に集中!


 ☆  ☆  ☆


「――はい、確かにリトルフィッシュ20匹、依頼達成(クエストクリア)ですね、それではあちらの依頼(クエスト)報告所の方にこちらの報告板をお渡しください。そちらにて報酬が支払われます。ありがとうございました。次の方どうぞ――」


 ふぅ、そろそろお腹が空いてきた。多分交代の時間はとっくに過ぎているだろう。交代まだかな………

「――お疲れ様エリ、休憩だって交代しよう」

 そんな事を考えていると後ろからミルが声をかけてきた。

 時計を見ると、やはりお昼はとっくに終わっていて、もうすぐおやつの時間にかかろうとしていた。

「あ、もうこんな時間なんだ……、次の人終わったら交代よろしく」

「もう、そんな仕事ばっかりして、体壊しちゃだめだよ?」

「はいはい、次の方どう――」


 私はもうすぐ休憩と言うことで緩んだ気を引き締めて直した。


 その時ギルドの扉が開いた。

 ギルドの扉が開くのは、日常茶飯事なのだが、何故かふと開くのが目に入った。

 目に入っただけで視線を冒険者(きゃく)に戻そうと思ったその時、二つの影が見えた。見えてしまった。

 十歳にも満たない白い髪をした子供と四歳位の青い髪をした子供。


 間違いなく昨日の子供。


「………ひぃっ!」


 無意識に声が上がった。


(どうして、ここに居るの!?どうして……っ!もしかして、私を殺しに?どうやって見つけたの!?でも、きっとそうよ!どうしようこのままじゃ私殺されちゃう!!どうしようどうしようどうしよう…………)


「えっと依頼(クエスト)報告をお願いしたいんですけど……」


 何も言わない私を不審に思ったのか、目の前の冒険者が声をかけてきた。

 声をかけるが私の目と耳は、今入ってきた人物に全神経を使っていた。今二人は受け付けの列に並んでいる。私の列(・・・)

 そんな状況でまともに返答なんて出来るはずもなく。

「あっ、えっ」

 と言葉になっていない声を出していた。

「……?どうしたのエリ」

 どうしようもない位に同様し始めた私が気になったのか、交代出来るように後ろに控えていたミルが声をかけて来てくれた。

「え?、あ、ミル、お願い、代わって」

 出来る限り小さな声で気付かれないように喋った。

「え?……えぇ、良いけど」

「あ、あ、ありがとうミル、後をお願い……」


 私は逃げるように、見付からないようにその場を去っていった。

 こんなに神経を使って歩いた事が今まであっただろうか。

 ギルドの裏手のドアを通る。

 見付かっていないのかは分からないが、追っては来ていない。

(……もう大丈夫??だい、じょうぶ…よね……)

 声にもならない大量の息が肺から吐き出された。

 どうやら呼吸もしていなかったらしい。


 怖かった。

 なんであんな場所にあんな奴(こども)が入ってくるの、あり得ない。

 その日の休憩はご飯を食べる気力にもなれずに、ただ身を隠すようにギルドの中に籠った。

 でも休憩はいつまでも続かない訳で、また受け付けをしなければいけない時間に。

(もし、戻っても居たらどうしよう……)

 出ていった時同様、ひっそりと戻った。

「あ、エリー、どうしたの?いきなり代わってって言うし……って言うか顔色悪いわよ?大丈夫?」

「あんまり大丈夫じゃないかも、それより子供が来なかった?」

「え?来たわよ?アルディナさんのパーティーが勧誘して、そのまま出て行ったみたいよ?」

「……そう、出ていったのね…良かった。」

「どうしたの?その子供知り合いなの?」

「え?え~っと……そう!あ、ちが、交代するときに入ってくるのが見えたから、ちょっと気になって、でもアルディナさんの所なら大丈夫そうね、安心したわ」

「ふ~ん、それより体調は大丈夫?さっき凄い顔が青かったわよ?」

「…えぇ!も、もう大丈夫よ!ちょっと疲れて何も食べれなかったから、あと少しだし、終わったら一杯食べるから大丈夫よ!」

「そう?無理したら駄目よ?」

「ありがとうミル」


 アルディナのパーティーは今日中にこの町を離れたらしい。本当に一安心だ。


 でも、これからは真っ当に生きよう。

 次はもうないだろうから……

 エリシアはそう決意するのであった。

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