第十四話「信用と嘘つきと」
今回の話にはグロテスクな表現が含まれています。苦手な方ごめんなさい。出来るだけ柔らかい表現で書いたつもりです。
翌日、俺はレナと一緒に小屋を出た。
地図を広げる。
今まで歩いた道と、これから歩く道の長さから見るに、昼過ぎ位には町に着けるのではないだろうか。
小屋から出て、そのまま西に歩く。
太陽を見ながら、方角を確認して進んでいった。
「ねぇ、おにいちゃんだっこ…」
「はいはい、おいで」
レナからは、よく抱っこをせがまれる。3歳の子が長距離を歩いているんだ、疲れるのも当然なのだろう。
それと同時に不安なのだろう。
俺が頑張らなければ。
少し森を進むと街道に出てきた。
ふぅ、これで少し安心出来るかな。
「レナ、町に着いたら何したい?」
ずっと暗い雰囲気なので少し気を紛らわせようと話しかけた。
どうやら寝ていたらしい、ふぅん?と目を擦りながら俺の胸から顔を出した。
「うー…っと、ぱぱのごはんたべたい」
「う、うーんおにいちゃんのじゃ駄目?レナの好きなオムライスでも作ろっか!」
「…………ん、いいお」
そう言えばラルクとユリやレオは……
……………………。
止めよう。
☆ ☆ ☆
少し歩いた高台からダリンの町が見えてきた。
ダリンの町
そこまで大きくないが一つ目の川に接触していて向こう側にもダリンの町がある。そこを行き来出来る橋がかけられていて、安全に向こうに渡るには、ここが一番なのだそうだ。そのお陰か結構、人で賑わっている。
今日はここで夜を過ごそう。
「ほら、レナ、町が見えてきたよ!」
「ふぁぁ、おはよぅ、ふぅん?おにいちゃん、なぁに?」
またも俺の胸で寝ていたようだ。
「あぉ、起こしちゃったね、ごめんごめん、ほら町が見えてきたよ」
「…………?ふあぁ、すごぉい!」
アルト村みたいな小さな集落と違いダリンは立派な町だ、川を安全に渡れる唯一の町でもあるので町の中でも立派な方だ。
そんな町を見てレナは興奮していた。
町の門までたどり着くと門番と思われる鎧を着た人が左右に立っていた。
鎧着てる人なんて初めて見たから何とも言えない高揚感が溢れてくる。
これがきっと男のロマンなんだな、多分。
鎧のおじさん―俺よりは若いと思う―二人に見られながら町に入った。
町に入ると、びっくりするほど活気に溢れていた。
遠目から見ても賑わっていたんだから、近くで見たらそりゃあそうなるか、それでもすげぇな。
「はは、見ろ……人がゴミのようだ…………」
「……?どうしたのおにいちゃん?」
「い、いや、何でもないよ!さぁ行こっか!」
「……?…うん」
さて、行こうとは言ったものの何処に行けばいいのやら、何からすればいい?
……あぉ、まずは宿を取らないと。
当たり前だが、この町に来た事は無い、宿の場所なんて勿論知らない。
(誰かに聞くか…、あの人当たりの優しそうな人に聞こう)
思い立ったが吉日
「あの……」
「ん?どうしたのぼく?」
「この近くに安い宿ってないですか?」
「……ぼくはお父さんやお母さんは一緒じゃないの?」
「あ、はい、妹と二人でオリンまで行きたくって」
「…そうなの、色々あったのね。安いのは花丸印のサニーさんの所が安くて良いって評判よ、私も今から行くところだから一緒に行きましょうか?」
「え?いいんですか?」
「えぇ、勿論」
「ありがとうございます!レナ、行こっか」
「……うん」
(優しいお姉さんで良かった)
この時の俺は、日本に居たときの常識をまだ、捨てきれていなかったのだろう。
「さぁ、こっちよ」
「はい」
大通りの角を曲がった。
少しだけ道が狭くなった。
また角を曲がった。
また少し道が狭くなった。
また曲がる。
また狭く。
また……
また…
少しずつ人影が消えていく。
少しすると後ろから足音が一つ増えた。
(しまった…)
…………正直ここまで来ると俺だって勘ぐる。
地雷を踏んでしまった。そんな気分になる。
「 硬く堅く固く鋼たらしめるは心,信ずるは己,貫くは我が心"鋼の心"」
無いとは思いたいが念のため、誰にも聞こえないように、小さく呟く。
「ぼく、何か言った?」
「いえ、ところで結構遠いんですね?」
「えぇ、でも、もうすぐよ」
またしばらく歩く。
何回角を曲がったか分からない。もう周りに人の影なんて無い。人影はないが、後ろからは足音が一つ。
また曲がる。
そのまま少し進んで女は止まった。
女はこちらに振り返り、指をパチンと鳴らした。
「僕?人を簡単に信じちゃだめよ?」
その言葉と共に、女の後ろと俺の後ろから、屈強そうな男が一人ずつ、建物の影から姿を現した。
「お、お姉さん、これは……!?」
「どうしたの僕?僕と妹ちゃんは、今日からこれが新しい家になるのよ?」
鉄の首輪を袋の中から取りだし愉しそうに笑っている。
「子供って結構な値段で売れるのよねぇ」
いくらで売れるかしら、オスはわかんねぇけどメスはありゃあ上玉の匂いがプンプンしやがるぜ、と男と愉しそうに談笑している。
要するに、この人達は『人拐い』だ。
「おにいちゃん…こあいょ……」
「レナ、俺から離れるなよ」
(どうする。退路は既に絶たれている。とりあえずは、油断させないと、隙を作って逃げれるなら……)
「あらぁ?妹ちゃんを庇ってるの?…アッハハ!!大層な兄弟愛だこと、お姉さん感動して涙が出てきちゃった、アハハ」
日本人は冷たかったが、それでも道を訪ねると殆どの人は丁寧に教えてくれる。
それが当たり前だと思っていた。
いや、当たり前なのだろう。地球では
この世界では人を信用してはいけない。
俺は新しく出来た教訓を胸に刻み、目の前の男を見る。
腰には海賊がしていそうな曲刀が二本、後ろの男も同じ、ニタニタと張り付いた笑みが醜悪さを増している。
「あんたたち、傷は付けるんじゃないよ」
「へい、わあってやすよ、おい餓鬼、無駄な抵抗して傷付くんじゃねぇぞ!」
「ギャハハ、兄貴、それは無理でしょ」
後ろからギャハハギャハハと煩い。今頭を回らせているんだから黙ってくれ。あといちいち声に反応して鼓動早くなんじゃねぇ気が散る。
「ご託はいいよ、さっさと捕まえて売っぱらうよ!」
「「へーい」」
「…………」
「お、どうした餓鬼、堪忍したか?あぁ?」
「ねぇお姉さん、僕達お姉さんに捕まったらどうなっちゃうの?」
「あん?そんなの決まってるじゃない、奴隷にして変態趣味の貴族に売るんだよ!子供ってのはこうやって捕まえちまえば、大人より手に入れやすいからね!楽な商売だよ!」
なるほど、この女に捕まるとドナドナされるのか……
前も後ろも、もう退路は無い。
なら、方法は交渉しか無いか。
「お姉さん」
「どうしたの僕?もしかして命ご――」
「僕と取引しませんか?」
「……あん?餓鬼が何言って――」
「ここに金石30枚あります」
荷物の中からお金の入った袋を取り出す。
「シュリに行くための全財産です、これで見逃して頂けないですか?」
「………はっ、こいつはとんだ大物を捕まえちまったみたいだねぇ」
大物か、アルト村の月の平均給料は金石数枚、この町だったら金石10枚くらいか?月給の3倍のお金、大金だわなそりゃあ
「どうしやすか姉さん?」
「………ねぇぼく?本当にそれで全部なの?」
「………はい」
「ふーん、いいだろう」
「ありが――」
「あんたたち!!その餓鬼から荷物全部奪っちまいな!この餓鬼まだ金を持ってるはずだよ」
「さっすが姉さん!!ひでぇもんだぜ!!」
(あぁ、やっぱり駄目だった)
これで逃げれたら安いかなと思ったのだけれど
「本当です!本当にそれだけなんです!」
荷物を前に出した。
「グルド」
「へい、姉さん」
女の後ろの男が、俺の方にやってくる。
男が一歩、また一歩と近付く度に鼓動が早くなる。
さっきから胸がドクンドクン煩い。
……はっ!まさか…!これが恋!?
……冗談はさておき、本当に心臓が煩い。
少しでいいから黙ってくれ、怯えてるのは演技だけでいい。
本当に体が怯えてはいけない。少しだけ前に戻したいんだ。
だから心臓、黙ってくれ。
「おい餓鬼、荷物を寄越しな」
黙って荷物を前に置いた。
出来るだけ怯えたフリをしながら
「おにいちゃん……」
「大丈夫、レナ、僕が良いって言うまで目を瞑ってて」
「…え?でも」
「レナ、お兄ちゃんがなんとかするから」
「…ん、わあった」
相手に聞こえない程度でレナに命じた。
これから何か起こるだろうから。
グルドとか言う男は俺から荷物を取ると、俺なんて眼中もないと言わんばかりに、その場で中を漁りだした。
「こ、こりゃあ圧縮袋じゃねぇか!しかも耐水の魔付までされてやがる!フライパンに包丁に……お?これか?」
底の方に入れといたお金に気付いたようだ。
「…ビンゴ!どれどれ~……、こいつぁすげぇ!!」
その目には全財産が写ったのだろう。欲でまた一つ醜悪になっている。
グルドは女に金を見せようと袋を持ったまま振り返った。
(――今だ)
「見てくだせぇ姉さん金石ひゃく…うぉ!!」
男が後ろを向いたと同時に、俺は男の脚を払った。
完全に不意を突いた一撃、しかも魔法で強化されているから足を払うのは容易かった。
体制を崩した男は無防備のこちらに倒れてくる。両手には俺の圧縮袋と金を持っている。こんな時まで金とはがめつい奴だ。
俺はそれを左に避けながら男の曲刀の一本を引き抜いた。
そして、そのまま男に追従するかのように曲刀を追わせ
――首を刺し切った。
両手は袋に塞がれて、男は何も出来ず、絶命した。
「まず一人」
ようやく心が切り替わった。
殺し合いは怖いものだろう。
血を見て、断面図を見て、内臓を見て、もしくは肉塊を見て
許容出来ない色んな感情が押し寄せて、胃液が無くなるまで吐くだろう。
初めてだったら。
残念ながらこれが初めてでは無い。
こっちに来てからは初めてだから一応、初めてと言えば初めてでも通用するか
戦争ってのは人を殺さなきゃ始まらない。
殺して殺されて、そんなくだらない事が戦争。
そんな中に俺は一年居た。
誰も殺してないなんてあり得ない。積極的とまではいかないが結構アクティブに殺した。
初めて殺した時は、遠くの敵を銃で打った。
倒れるのしか見えなくてあまり実感は沸かなかった。
あ、これ結構余裕じゃね?とか考えていたような気もする。
次に殺したのも遠くの敵
当然のごとく、殺したと言う実感は無く、どえらいスピードの玉が出る筒状の金属の引き金を引いただけ、ただ遠目で人が倒れるのを見て喜んでたのは覚えてる。それが何度か続いた。何度も何度も。
ある時、掃討作戦と呼ばれるものに参加した。
建物の内部などに隠れた敵兵を一掃する作戦、同僚が"残党狩りじゃあ!!"と叫んでいたのを覚えている。
その時の俺は、そいつらと一緒に"おぉぉぉぉ!"と叫んだ。
もう殺し慣れた。
そう思っていた。
作戦は順調に進んだ。
残党が残っていると思われる建物を包囲する。
あとは乗り込んで倒すだけ。
仲間の合図で一斉に乗り込む、勿論俺も入って行った。
奥に進んで行く。ちょっと遠くの方では銃声が鳴り響いている。もう始まってるみたいだ。
銃撃戦が繰り広げられているであろう場所まで来た。
俺が合図を出して突撃する。
そこで見たのはまさしく地獄だった。
突撃して最初に目にしたのは赤と白の物体
それが顔にかかった。なんだこれは?と触るとぬちゃぬちゃしている。
今は敵が居る。前を見ないと、と前を向いたときすぐ目の前には、昨日まで笑いあった同僚がいた。
――頭が無い状態で
頭の無い同僚は
――それは溢れ出るようにゆっくりと
――それはマグマが進行するかのように力強く
――それは拒絶するように不気味に
赤い液体を流してた。
もう一度俺にかかった物を見た。白くて赤くてドロドロとゼリーのような、皮のような
俺はコレを見たことは無いが知っている。
人間が必ず持っている一番大切な物
脳〇そだと
それを理解したとき感情が一気に爆発した。
自我なんて無かった。保てなかった。
がむしゃらに引き金を引いた。敵はすぐ目の前、誰かを銃で撃つ度に、その人のナニカが俺にかかる。
気付いた時はベースキャンプの中だった。
はっきりしない意識の中、俺は自分の体を見る。
服や体には血がべったり付いて、手には――強く握り締めていたのか――銃を握った痕が残っている。
夢や幻覚なんかではない。
吐いた。
何も食べていなかったから、出るはずも無く、ただ胃液を吐いた。
何度も何度も
初めて人を殺したと実感させられた。
だが地獄はこれだけでは無かった。
掃討作戦は何度も続いた。
その度に吐いた。
感情が全て塗りつぶして、心がどこかに行ってしまって
気がつくとベースキャンプに居る。
周りの奴らを見る。
そいつらは楽しそうに笑っていやがった。
何がそんなに楽しいんだ。こんなに気持ち悪くて何がそんなに笑えるんだ。
最初はそう思っていた。
だが、違った。
俺が感情に塗りつぶされたように、こいつらも感情に塗りつぶされているだけなのだ。
まさしく楽しそうに笑って嫌がったのだ。
何度目だろうか。
俺はある答えを出した。
感情が塗りつぶすなら、それより強い感情で塗りつぶせば良いんだと
心がどこかへ行くのなら元からどこかへ置いておこうと
この時だけ、俺は俺じゃないのだと
その時から俺は感情をどこかに置いていった。
狂ったって表現の方が正しいのかもしれないが
感情を感情で押しつぶして
心は俺の一つ後ろに置いておく
そうすると、テレビを見ているような、そんな感覚に陥る。
出演者は勿論俺
殺しているのも勿論俺
でもそれが他人のように思えてくる。
俺は俺では無く第三者のような、そんな感覚
俺はこの感覚を戦闘時だけ使うように決めた。
同僚まで殺しそうになったから。
――切り替えれるように
目の前の男を見る。
喉元を切られて白目を剥いて絶命している。
荷物に血が付かないように素早く回収。
「グルド!!!!、糞餓鬼!よくもグルドを!!!」
女が声を上げた。何故そんなに怒るのか
そっちから仕掛けたのだから、報復をされても文句は言えないだろうに
レナを見る。
言いつけ通り目を瞑っている。良い子だ。
「レナ、目を開けちゃ駄目だよ、それと耳を手で塞げる?」
「…う、うん」
「じゃあ、すぐに終わらせるから耳も塞いどいて」
レナは大人しく耳を塞いでくれた。
「てめぇよくもアニキを!!!」
後ろの男が剣を引き抜いてこちらに襲い掛かってきた。
男の方に向き直る。
……正直に言おう。
見るに耐えない。
確かに本気で殺しに掛かっているのは分かる。
ただ遅い。ラルクなら既に俺の後ろまで回って、首をはね終わっているだろう。
俺はそれに対応出来るくらいには上達している。
まだかなぁっと、グルドとか言う男の曲刀を弄びながら男が来るのを待つ。
「ザイ!まちな!!!」
後ろから女が声を掛けるが男はもう俺の前まで来ている。ここで止まれる訳がない。
「死ねぇ!糞ガキャ!!!!!!」
縦一直線の綺麗な一閃、当たれば頭から真っ二つだろう。見た目によらず剣の腕はあるようだ。
――だが遅いって
俺は曲刀を左手に持ち替える。
斜め右に飛んで一閃を避けながら、ザイとか言う男の腹に曲刀を突き刺した。
「ぐふっ!!」
俺はそのまま後ろに回りこみ、よろめいた男の足を思いっきり蹴り払う。
横向きに倒れそうになり、男は慌てて曲刀を離し手を着く。
なんとか四つん這いの状態で腹部への衝撃を緩和したみたいだが苦痛に顔が歪んでいる。
「く…そがきゃあ…………!!」
俺はそのまま腹に刺さった曲刀を蹴り上げた。
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悶えている間に男が落とした曲刀を拾い上げる、それと同時に女を見る。
その顔には恐怖が張り付いており尻餅をついている。
あれじゃあ男に助太刀なんて出来ないだろう。
「や、やめ!たすけてぐれ!!俺が悪かった!!!だから!!」
「煩いよ」
そのまま曲刀を心の臓に突き立てた。
「うぎゃあああぁぁあぁぁぁぁぁああ、いでぇ!!いでぇよ!!!姉さん!!!だすげていでぇよ!!!姉ざん!!姉……ざ…………」
最後まで煩い事だ。
「さて」
女を見た。
「ひっ!!!」
その顔は引き攣っていて、股間の辺りからは何かが滴っている。
「お姉さん」
「は、はい!!」
「今日見たことは無かったことにしてくれませんか?もし無かった事にしてくれるなら殺しはしないですよ?」
「……へ?」
「してくれませんか?」
ニコっと無邪気に笑ったつもりなのだが、何を勘違いしたのか女の顔がみるみる青くなっていく。
「は!はい!!今日は何もありませんでした!!私は何も見ていません!何も知りません!神に誓います!!!だから!ですから!!命だけは……!!」
悪人が神に誓うのかよ。
「わかりました。次からはこんな事は辞めて真っ当に生きてくださいね」
我ながら甘いと思う。
甘いと思うが、敵意の無い人を襲うのは、関係ない一般人を殺した時と同じくらい胸糞が悪い。
だから殺さなくていいなら殺したくない。
「それと、宿を教えて頂けませんか?」
「は、はい!宿は――」
必要な情報は入った。
切り替えよう。
――よし。
「レナ」
「おにいちゃん?」
「おっとっと、まだ目は開けちゃ駄目だよ。手だけ外そっか、お兄ちゃん宿の場所が分かったから行こ」
レナを抱き上げ、そのまま顔を胸に持ってくる。
「……うん」
今の現状をレナに見せたくない。こんな場所はキツイだろう。
女を置いて、その場を去った。
少し歩くと言われた宿に到着した。
花丸がドでかく書かれた看板、なるほど実に目立つ。
扉を開けると、中は沢山の人で賑わっている。
てか宿屋にしては賑わい過ぎだろ。
「へい!らっしゃい!!」
なんともまぁ宿屋とは思えない、酒場とかが似合いそうな、いらっしゃいませだ。
てか、ここ酒場じゃねぇか。
「どうした坊主!こんな所に迷い混んで!!」
気前の良さそうな、おじさんが声をかけてきた。
「えっと、宿を探してて、場所間違えたみたいです」
「がっはっは!!坊主、まちがっちゃいねぇよ!ここがダリンいち評判の良い宿屋だよ!!受付はあっちだ!迷うんじゃねぇぞ!!」
がっはっは、と大声を残してカウンターの中へ去っていった。
あれ、店員かよ、びっくりしたわ。
どうも一階が酒場らしい。
受付に行く、迷うも何も、受付は目と鼻の先だった。
あぁ、受付のお姉さん綺麗だな……
「あの……」
「どうしたの僕?もしかして迷子?」
「えっと、宿を取りたくて」
「僕とその子と?二人で?」
「は、はい」
綺麗なお姉さんと喋るとやっぱり緊張するな。
「………二人で一泊銀石一枚だけどお金足りる?」
「はい、大丈夫です」
「それと、朝食なんだけど付けるなら…………」
「あ、えっと、どこか調理する場所って無いですか?」
外食より自分で作った方が安く済むのは俺の中では超常識である。
「……え?調理所なら隣にあるけど?」
「ありがとうございます、じゃあ一泊お願いします」
☆ ☆ ☆
「ふぅ~~」
現在俺は宿のベットにレナと横たわってる。
久し振りのベット、横になるだけで疲れが抜けていくのが実感できる。
控えめに言っても最高だ。
「ぶわぁぁ、疲れたよぉぉぉレナぁぁぁ」
ここ数日のストレスからか、行動が退行している気がするが仕方ないだろう。
凄い疲れたのだから
「おにいちゃんくるしいよ」
「あぁ、ごめんねレナ」
「おにいちゃん、め!」
「はい」
むぎゅうとレナを抱き締めたら怒られた。
しょぼーん。
でもなんとか宿にたどり着けた。
疲れた。
なんでこんな事してるんだ俺、ってなってるけどレナが見ているから俺頑張る。
「レナ、明日は何作ろっか?」
さっき宿の飯を食べたのだが、普通だった。
美味しくもなく、不味くもなく。
普通。
周りはうめぇうめぇって言ってる人が結構居たけど、レナも神妙な顔してたから俺の言ってる事はきっと正しい。
これなら俺が作った方が美味しい。
てか、明日からその調理所とか言うところで俺が作る。
決めた。
「れなおむらいすたべたい!」
そう言えば作るって言ったっけ。
よし。
「よぉし!じゃあお兄ちゃん明日頑張っちゃうぞ!!でも、今日はもう疲れたしそろそろ寝ようか」
「うん!」
そうして明日の献立を考えながらゆっくり眠った。
もし、これが夢で、覚めたら皆が居るのでは、とそう思いながら。




