第十話「サンの誕生日 その3」
この話で出てくる料理を作ってみました。
作中に料理の写真が載っております。今回はとても簡単なので見た目重視で
良ければ見ていってください。
前回までのあらすじ
俺に魔法の才能が無かった。
「サ、サン…元気出して!頑張ればある程度は強くなれるから!」
泣きそう。
ユリが励ましの声をかけてくれる。けどさっきのラルクの言葉が俺の心を抉ってくれる。
俺には魔法使いの才能が無いらしい。
いや、欠片位はあるのかな。
一応使えてるし…………
治癒魔法はあれだったけど覇気は確かに使えたしな、めっちゃ威力低いって言われたけど。
さっきも言われたが魔法にタイムラグが出る人なんて聞いたことが無いらしい。
無詠唱ならありうるそうだが詠唱有りはまずあり得ないらしい。
それとこの威力を見ての判断なんだってさ。
はぁ……
いいさいいさ
俺はもう平民Aとして生きていくから。
そりゃあさ、こんな未知の世界にさ、生まれ変わってさ、しかも魔法を使えると来たもんだ。誰だってさ、期待の一つや二つするもんだよ。あわよくば俺が救世主――なんに対してかは知らん――なんかになってさ、世界を救ったりさ、すげぇ魔法使いになってさ、英雄や賢者とか呼ばれたりさ、少しは夢見たさ、いいよいいよもういいよ。俺は才能無いんですよー。
賢者つってもモードじゃねぇからな!
はぁ…………
ショック………
「大丈夫だよ、魔料理人になれば威力は上がるだろうし」
「…………ぅん…」
先の説明に聞いた通り魔料理人はイメージの擦り合わせ無しで魔法を使うことが出来る。イメージ伝達の際に生じる魔法の劣化を無くせば多少は威力が上がるかもしれない。
上がらないかもしれないが…………
…………まぁいいか
元々魔料理人になる予定だったんだ。
魔料理と料理を頑張ろう。
ついでに魔法も強くなったら万々歳だがそんなに上手くいくとも思えないし期待はしない方向で行こう。
覇気魔法"鋼の心"も俺が思っているよりは威力が出たようだしな。
これで低位威力なのが残念なのだが逆に捉えるんだ。低位でこの威力なのだ。中位、高位は一体どんな威力なのだろうか。
中位の威力位は出せるようになりたいな。
ん?俺は中位の魔料理を食べて低位――よりも低い――を使えるようになったんだよな?
つまり高位魔料理を食べれば中位を使えるあるいは今より威力があがるのでは?
「…ねぇ、パパ」
「ん?どうした?」
「パパは高位の魔料理は作れないの?」
「……あぁ、サンは本当に賢いな、確かに高位の魔料理を食べれば威力は上がるだろう」
「じゃあ……」
「ただ高位からはリスクがあるんだよ、魔素をある程度制御出来ない者が高位魔法以上を扱うと飽魔病と言う病気にかかるんだ。飽魔病は別名,四肢分離病とも言われている。発病するとすぐに高温で動けなくなり、そのあと魔素が崩壊を始める。そして約一ヶ月後、別名通り体がバラバラになって死ぬ。一度かかると治す手段がない。確実に死ぬ、だから高位は教えない」
え、なにそれ怖すぎない?
大いなる力には、大いなる責任が伴うってレベルじゃねぇぞ
全か死か、超リスキーじゃねぇか!天秤が片方重すぎてもう片方に乗せるのが躊躇われるわ!!
つーか高位だぞ下から3番目だぞそこまで高くないはずなのに!!
「…」
「さて、じゃあ魔料理を頑張ろうか」
魔法についてまだ色々考えないといけない事があるがとりあえず魔料理について聞こう。
時間は有限だ。
いつ死ぬかもわからない。
「魔料理の作り方だが――」
――
サンの3分<マジック>クッキング!!
さぁ始まりました!第72回サンの魔料理講座!!
今回はなんと!!
魔料理の作り方をレクチャーしちゃいます!!<ここでドンドンパヒュパヒュの効果音が流れます>
まずは材料を用意します!
材料はこちら!!
ダンジョンで生成されている魔草!!
と
ダンジョンに生息している魔獣!!
それをいつも通りに調理していきます!!!
た・だ・し!!!
そのまま作ってしまいますとただの美味しい料理になってしまいます!
それでは駄目なのです!!!これは魔料理講座!!!魔料理が出来なければ失敗なのです!なのです!!!
そこで隠し味を投入!!!
隠し味は"体内の魔素"!!<ここでデデンの効果音を挿入>
材料に魔素を込めて一つ一つ丁寧に作業を行います!
ただこれではどんな魔法になるか全く不明です!
使うと髪の毛が二十本位抜け落ちる魔法とかになっちゃうかも!?
あぁ恐ろしや恐ろしや
なので事前に用意しておいた魔法のイメージを出来るだけ具体的にイメージしながら魔素を込めています!!
今回は低位魔法の火玉をレッツクッキン!
イメージは直径10~50cm位の火の玉をお一つドゥーン!!!
あと魔法の属性によって料理の色や種類を変えると魔料理の成功率があがるよ!!
今回の属性は「火」!!
火遁!ごうか……おっと誰かry
さて属性は火なので火から連想されるものを作ると良いのだ!
そうだね例えばいっぱいファイヤーする炒め物や赤い物、辛い物などが火に分類される!
水ならスープ系など!
土と風ってなんだろう!!!
まだ習ってないからわかんないや!ハハッ!!
でもなんだろう土なら関係性の高い生野菜とか?例えばサラダ?
風は……え?なんだろちょっと本当に分からないぞ?
あと闇とか光とか覇気とか治癒とか呪殺とか何を作ればいいんだ。
皆目見当もつかないぞぉ?ハハッ!!
さて今回作るのは火だからファイヤーいっぱい使う炒め物にしようか、丁度名前に炒めるって入ってる炒飯にしよう!!
そして出来上がっているのがこちら!!
え?作る過程をどうしたって?
やだぁ~、さっき説明したじゃないですか~。
え?そうじゃなくて炒飯の作り方?
そんなの材料を炒めてスパパパパパでさぁ!!
え?ちゃんとしろよこの野郎?
…おkおk、分かった分かった。
まず一言言わせて欲しい。
炒飯の作り方位ggれ!!!
これは炒飯の作る三分じゃなくて魔料理を作る三分なんだよ!!!
今から説明すると3分過ぎるんだよ!!
今ですら1分42秒経ってるんだ!残り1分18秒とか卵炒めてる間に終わっちまうよ!!
さて気を取り直して
魔料理は成功すると頭の中に、イメージ補助なる詠唱の言葉が思い浮かびます!
因みに失敗すると面白いです。
ぐっちゃぐちゃな支離滅裂な言葉が頭の中に浮かんだり、元魔料理がダークマターになったり、爆発したりします!!!
階位の高い魔料理になればなる程失敗の威力が上がります!神位の爆発とか怖いですね!!!だから階位の高い魔料理に挑戦するのは結構勇気の要る事なんですよ!!
なので魔料理を創作する時は使用上の注意をよく読み用法・容量を守って正しく創作しましょう!
そして最後に!!!低位から高位までの基礎魔料理は魔料理教本に掲載されておりますのでそちらを是非ご活用くださいな!!!
さぁ今週はこれでおしまいです!!
来週のサンの3分クッキングは!
「ユリとラルクの夜のクッキング!」
「サーシャとお風呂でトラ〇ザム!」
「ルルのサンを尋ねて三千里!」
の3本!
来週も見てくれないと目ん玉クッキングしちゃうぞ☆
――――
とまぁ魔料理についてはこんな感じだ。
説明につい熱が入っちまった。いけないいけない。
勿論だがフィクションなので安心して欲しい。
この世界にテレビジョンなるものはないからな。
「よし、今から一緒に作ろうか、低位だから失敗しても問題ないだろうし何かあったらユリが治してくれる、感覚を掴むまで失敗した方がいい。低位を覚えたら次のステップだ」
現在ラルクと厨房、ユリやサーシャはさっき起きたレオとレナの相手をしている。
それにしても感覚か、なんの感覚なのかは分からないが多分魔素を込める感覚なのだろう。
そもそも魔素ってなんだ?
「パパ、魔素ってなに?」
「そうだな…魔法を使うときに感じた違和感って無かったか?それが魔素だよ」
確かにあった。
覇気魔法を使った時に何か変わったのを実感した。
それが魔素なのか
うーん、まだなんとなくしか分かっていないけどなんとなくは分かった。
それを込めるってどうやるんだ?
集中すればなんとかなるか
よし作ろう。
まず何の魔料理を作るか決めよう。
属性はなににしようかな、好きなものでいいのかな
じゃあ俺の好きな「風」で!
決して空を飛びたいなぁとか思ったわけではない。
風の低位の魔料理をレッツクッキーン!
低位から高位まで魔料理教本に載っている。
風の項目にページをめくる。
風の魔料理は
・木に生る実
・動く魔獣
・色は緑
等々
結構幅広いんだな
他の項目に目を向けてみたけど被っているのもあるようだ。
さて教本に載っている魔料理を作ろう。
今回作るのは「サンドウィッチ」
シンプルに卵と野菜とベーコンのサンドウィッチ!
次に作る魔法を決めよう。
低位の風魔法「風の刃」にしよう。
低位の中でも割と上位らしい。
目標は高くがモットー
まずはイメージをしよう教本には丁寧に絵が書いてあり想像がしやすくなっている。有り難い事だ。
コレで下準備は完成だ。
次は調理だがその前に少し実験
体をダランとリラックスさせる。そのまま魔法を使った時の違和感を思い出す。それを手にぎゅうと集まるように集中する。
すると、なにかが右手に集まってくるのが分かった。
おぉ、これが魔素なのか、な?
結構集まってくるのがわかる。
集中したら右手から左手、左手から右手に動かせる事も出来た。
これをどうするのか分からないけど自在に動かせて不便は無かろう。
よし調理開始だ。
まずパンだが俺はまだパンを作れん!
だからパンはユリが作ってくれた。
次に卵を炒める。両手に魔素を集中させて言われた通り魔法をイメージしながら作業を進める。
「……」
なにかラルクが険しい顔をして見ているが何も言わないのでそのまま次に進む。
野菜を切って?むしって、ベーコンを軽く炙る。
パンの両面を焼いて塩胡椒で味付け
完成!
至ってシンプルだ。
と、その時異変が起きた。
『吹き荒れる風よ、その荒れ狂う刃を解き放て』
突如言葉が脳裏に浮かんだ。
何だコレ?
あ、なんだっけ魔料理が出来たら言葉が出てくるんだっけ?
どう考えても支離滅裂でもなければぐっちゃぐちゃでもないよな?
てことは、もしかして……?
「パパ、これって」
「サン」
ラルクを見ると初めて見る位真剣な顔していた。
「…成功している」
「え?でも……」
「これは間違いなく魔料理だよ」
え?確か1年位頑張れや坊主的な事言われた気がするのだが
「俺も正直驚いてる、サン、普通は魔素を手に集めるのに半年位掛かるんだよ、それをサンは自然に出来ていた。それにイメージも完璧に注がれている、これは天性の才能なのかもしれない――」
「え?……え?……」
そんな難しい事じゃなかったぞ?むしろすぐに出来たし簡単な方だったんだけど?
え?完成してるの?
「食べてみるかい?」
「…食べても大丈夫なの?」
「あぁ、俺が保障しよう」
「…ん、いただきます」
サンドウィッチを食べた。
…あぁ、この感覚が魔法を覚える感覚なのか。
俺はこの感覚を知っている。いや、覚えている。
ラルクが本気で料理してくれた時の心が温かくなる感覚
完食した。めっちゃ食いにくかった。
見た目重視にするんじゃなかった。
「よし、じゃあ魔法を使ってみようか」
「うん……吹き荒れる風よ、その荒れ狂う刃を解き放て"風の刃"!」
庭の木に向けて放った。
右手から風が形成される。そして風が刃の形を作ると木に向かっていった。
ザクッと木に傷跡が出来る。
本当に俺が作った魔法が出たよ。
正確には本のイメージなんだけど、俺が作った魔料理が成功した証拠には変わらないだろう。
「さっきよりは少しマシかな」
なにがとは聞かない。勿論威力の話だ。
やっぱり俺には魔法の才能は無いのだろう。
風が形成されるまで結構かかったしな
「あら?あなた?魔料理の練習はもう終わったの?」
双子をもう一度寝かしつけてユリが入ってきた。
サーシャはまだ寝顔を見ている。
「……あぁ、練習はもう終わったよ」
俺は喜んで良いのか悲しんだらいいのか分からないから神妙な顔をしていた。
「サン……魔料理は何度も失敗して初めて出来るものだから失敗しても仕方無いことよ、ママも手伝えることがあったら一緒に手伝えるから諦めないでこれからも一緒に頑張ろう?ね?」
俺の顔を失敗して悲しんでると取ったのだろう。
「ママ……」
実は成功しました~って言える感じではないよな、うん。
主に俺の顔のせいで
「それなんだがユリ」
「はい?」
「サンは魔料理を習得したよ」
「……へ?」
ユリがすっとんきょんな声を上げた。
「サンもう一度使える?」
「多分?……吹き荒れる風よ、その荒れ狂う刃を解き放て"風の刃"」
また木に向かって放った。形成された風は再び木に傷を付けた。
少しドヤ顔でユリを見た。
「……え?…えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
その声は家中に響き渡った。
余談だがその声でレオとレナが泣き出したのは言うまでもない。




