迷い人、見かける
また視点が一時的に変わります
異世界に来て1ヶ月。
落ちこぼれや役立たずと評された俺、球磨川四万十は手に入れた力の訓練を人知れず行っていた。
俺の役職は【迷い人】
魔術以外すべての攻撃を受け付けない、というチート能力だ。
まぁ、俺が攻撃を仕掛けた場合、カウンターは食らうため、専ら守り、というより逃げる能力だ。
とはいえ、普通に強いのでこっちの能力は隠し、距離に関係なく、知っている場所へ瞬間移動するできる能力だけを公表しておいた。
こっちの能力も中々のチート具合だが、目視できていないと正確な場所指定ができず(と言っても定番の『石の中にいる』にはならないようだが)、距離が長いほど疲れるといった面倒な制約はある。
あと流石にもとの世界には行けなかった。この世界限定らしい。
そして異能は【見つけたもの勝ち】
空気のように周りに溶け込み、認識されないものだ。要するに気配遮断だな。
こちらは使いようによっては暗殺とかできそうだが、誰かいることは何となく認識されるし、さらに言えば言葉にだされて認識されると解除されるという、微妙な感じだ。
あと、誰かに見られている状態で異能を使用した場合、その見ていた人物は俺を認識できるという致命的な問題がある。
ある意味男の夢である透明人間能力と思いきや、いることはバレているため、ろくに使えやしない。残念。
さて、俺はこれらを使いこなすため、他のやつらが鍛練している時に俺も能力を使っている。おかげで最初は疲労の関係で10mほどしか転移できなかったが、最近は500mまではいけるようになった。
そんなある日、いつものように異能で隠れ、役職の力で瞬間移動をする鍛練をしていると、
裏庭に行く通路で親友にして悪友にして盟友の黒金とクラストップカーストとも言える高町が会話をしていた。
まぁ、知らない人から見れば、スクールカーストでもトップの高町が黒金ごときに何故構うのか、なんて思う奴は多いだろう。
だが、俺は知っている。
というか、本人に問いただしたから知っている。
なんの冗談か、高町は何故か黒金に惚れているのだ。
地味な男子に美少女が惚れてるとか、どこの少年向け漫画だ。ジャ○プ?マ○ジン?サ○デー?
前に、急に黒金のやつに関わり始めたとき、周囲が騒がしくなったので、黒金に害をなさせないために、こっそり問いただしたから間違いない。
惚れた理由までは知らないが、決してふざけてなどではないことが質疑応答でわかったので、俺は密かに応援している。
それに高町は気付いていないが、間違いなく黒金自身も高町へ好意を抱いている。
まぁ、それが『憧れ』や『羨望』である割合が高いが、あいつはいつも自分に言い聞かせるように
「高町さんは優しい人だから」
と言っているからな。
まぁ、俺らみたいなクラスでも低い立場の男子としては好かれると思わないから、予防線を張るのは仕方がない、うん。
なんにせよ、両思いなのにすれ違う2人を俺は応援している。
なんで2人を手伝わないのかって?
自覚がないやつを手伝うのは間違っているだろう、うん。ちゃんと自分と向き合って自分たちで解決しなくちゃな。
……決して面倒臭いからや、見てる方が楽しいから、なんて理由じゃないんだからな。
ただ、唯一面倒なことは、高町の幼馴染みである織斑も彼女に好意を抱いていることだ。
あの「ことなかれ主義」の偽善男は高町に告白するとクラスだけでなく、学校全体で騒動が起こるとわかっているから動かないが、言わなくてもわかるだろ?みたいな態度はよく見える。
はっきり言えば、俺はあいつが大嫌いだ。
ことなかれ主義で周囲とうわべだけの関係を築き、清さだけの、一方的な大衆的正義 ―要するに「自分たちは正しく、人助けをしているのだ」という自己満足― をかざして人を助けようとする態度は吐き気を催す。
周りの奴らも「流石、織斑君」と思考を止め、あいつの行動の成功点しか見やしない。
清だけの正義じゃ破綻が生じることを理解していない。
裏で黒田と雪風がしわ寄せを直したり、受けたりしているのかわかっていないのだろう。
雪風に至っては、あのアンチぶりからして、もう関わりたくないのだろう。
本当にかつての自分を見るようで嫌になる。
願わくは何事もなく黒金と高町が結ばれて、少しは苦い現実を見てほしいものだ。
まぁ、なんにせよ、2人が結ばれることを俺は望むよ。