閑話 八卦見、接触する
黒金君が行方不明になり、のわちゃん達が出奔し、私、高町なずなは黒金君が戻ってこれるように動くことを決めた大騒動から2週間ぐらい経った。
たった14日だったけれど、それはもう凄まじく大変だった。
まずクラスでは黒金君が裏切り者という話が広まったものの、一部のクラスメイトが主観的にとらえすぎでは?と疑問を呈した結果、黒金君が裏切った主張をする一誠君派と疑問を呈した賽河原初君の2派閥にクラスが大きく分断された。
数で言えば一誠君の方が16人、賽河原君の方が11人と少し一誠君の方が優勢ではあるけれども、賽河原君の方には【奇術師】宇都宮氷見子さん、【密偵】俵藤大吉君、【奉公童女】西条輝美さんといった前から一目置かれていた頭脳派や、【掃除屋】千ノ春真姫さん、【狩人】百瀬完次君、【一寸法師】越前飛優馬君といった元からだったり、こっちに来てから頭角を現したりした武闘派といった面々がついているため、ほぼ互角の力関係になっているみたいになっている。
40人いたクラスは行方不明になった黒金君と出奔したのわちゃん達、そしてそれに巻き込まれた九十九里浜さんを除いた33人となり、2つの派閥に別れてしまった。
ちなみに夢浮橋さんや橋爪さん、鑪さん達3人は城内にいるのはわかっているが、見かけないから何をしているのかわからないし、【忍者】大黒柱流子さんは女子の味方を自称するだけあってどちらの派閥にも入らず、他人を信用しない一匹狼の【吟遊詩人】楓ヶ崎赤城さんは我関せずでおり、そして私も2つの派閥に入らず、その間の緩衝材として奔走していた。
最初は一誠君にこちらの仲間になるように言われたけれど、それを断って今の立場になっているから、賽河原君派閥からは警戒されながらも仲良くできているけど、一誠君派閥の方では「織斑君の幼馴染だから調子にのってる」とか「どうせ織斑君が助けてくれると思っている」とか言われてとてもじゃないけど話し合いのできるような状況じゃない。
ちょっと正直小学生の頃を思い出して辛いけど、あの頃、黒金君に甘えたから、甘えてしまったから、また今言われるようなままなのだと自戒にもなるから、と言い聞かせて心を落ち着けさせられるから大丈夫だ……大丈夫だと思いたいかな。
さらにのわちゃん達の出奔騒動の際に、何者かに武器庫を荒らされたうえ、王家用の馬車を盗まれたらしく、魔族が現れたとの声もあって警備面で大騒動があり、しかも前田君達がそれに拐われたとのことまで情報が入って、王国側がより過保護になりながら、より厳しい訓練をやり始めるようになった。
前田君達も出奔するって聞いていたから、まさかとは思うけど、これは私だけ知っていることとして黙っている。
「?なんだろう、この手紙。なんで私の部屋に?」
そんな少し精神的に参っているなか、謎の手紙が私の部屋に置かれていたのは、嫌がらせに派閥問題、戦闘訓練と今までにないぐらい多忙を極めていた頃の、ちょうど騒動から1週間経ったときだった。
送り主は「義姉」。訳がわからないし、気味が悪い。私にはお兄ちゃんはいたけど、お姉ちゃん、ましてや義理のなんているはずがないし、いたとしてもこんなところに手紙が来るとは思わない。
警戒しながら開けてみると、その手紙はまず謝罪から始まっていた。
『我が夫が動けないため、私がこのような手紙をアポイントメントとして置いていくこと、鍵のかかった密室に不法侵入したこと、大変申し訳ございません。
ただ、私達が貴女に接触することはそれなりにリスクがあり、我が夫曰く「あの骨無しチキンナゲット野郎にバレたら面倒だし、会ったら殺したくなる」とのことですので、穏便にかつ秘密裏に動かざるをえなかったのです。
さて、本日、夕食後、お部屋にてお伝えしたいことがございます。ですので、部屋の鍵をかけてお一人でお待ちくださるようお願い致します。』
なんとも怪しい内容だよね、これ。誰かわからない人が1人で部屋にいてください会いに行きますから、なんて文章を送ってきているんだから不気味でしかない。
破棄しようか悩もうとしたところで、ふと気付いた。
『我が夫曰く「あの骨無しチキンナゲット野郎」』って確かお兄ちゃんが一誠君のことを評していた記憶が……でもなんで?どういうこと?
そう考えながら手紙を改めて確認すると裏にも文章があった。
『その際、黒金剣太様よりお預かりしたものをお渡しいたします。また、私の事情についてもお話いたしますので、無実の罪で指名手配されてしまっている彼のためにもどうか内密にお願い致します。
高町武蔵』
黒金君からの預かりもの!?
これだけで私はもう既に警戒しつつもこの手紙の主と会わなくてはならないと思った。
加えて、送り主の名前が私と同じ名字で、しかも日本人風な名前なことも聞かなくてはならない。
理由はわからない。でも、もしかしたら5年前に行方不明になったお兄ちゃんが関わっている気がして仕方がなかった。
そして、指定された時間がやって来た。




