錬金術師、襲われる
その日の夜、ここ最近のように夜這い防止の鍵をかけて、工房に増設された自分の個室で僕は寝ていたはずだった。
個室と言っても、簡易ベッド1つと冷蔵庫、あとトイレがある、ビジネスホテルのようなところだけれども。ビジネスホテル行ったことないけど。
そんな質素な部屋で寝ていたはずなのに、ふと気付くとピンクな幻想的な明かりに加え、某P4でしかみたことないけど、俗に言う回転ベッドの上で僕は寝ていた。
「なんだ、これ?」
正直、理解が追い付かないけど、何故かそれが普通だと僕のなかでは理解できている部分が強く、なんだか頭も回らない。
シャワーの音もするから、紺さんがいるんだろう。いや、なんでいるんだろう?ん?何かおかしいのかな?
「お待たせしました。」
何かモヤモヤしているとバスタオル1枚だけを纏い、髪を湿らせて艶っぽい紺さんが唐突に現れた。
ここまで来て納得した。なるほど、これが淫夢か。
どうやら僕は思ったより溜まっていたらしく、こんな夢を見てしまっているのか。
「どうかしましたか?惚けた顔をしてますよ?」
そう言いながら、やたらとエロい紺さんがしなだれかかってくる。
うーむ、柔らかい女体の神秘が気持ちいい。まるで本物みたいだ。
そんな感じで頭が回らず、気付くと紺さんを押し倒していた。
「きて・・・ください・・・・」
その言葉を合図に口付けをしようとしたところだった。
「はい、そこまでだよ。悪いけど、お姉さん的にちょーと見過ごせない相手で、ギリギリ間に合って良かったよ。」
突然どこからともなく、いつものような神出鬼没な白鬼院小梅さんがニヤニヤと笑いながら声をかけてきた。
「小梅さん・・・・?」
「何者ッスか?」
僕達は小梅さんの方を向く。
小梅さんはやれやれ、と首を振ってから、
「夢と理解していて、まぁ、夢だしみたいにボーッとしちゃって、少しばかり腑抜けてるんじゃないかい、けー君。」
そうして目の前に来たと思ったら、パンっと猫だましをされた。
その瞬間、頭にかかっていた靄が晴れ、そして横にいた紺さんを見て驚いた。
「うえっ!?誰ですか、貴女は!?」
そこには赤髪ウェーブかかったポニテで、紐で最低限な部分を隠したドエロい格好をした、イメージしやすいサキュバスみたいな人がいた。
「それはこっちの質問ッスよ。何が目的かわからないッスけど、どうせ人間のことッスから、ウチらのお仲間を浚って売り捌くことを企んでいるんスよね?
さぁ、堪忍して妖狐を解放するッス‼」
「・・・・・・・もしかして、観念?堪忍してって許してどうするのさ?」
「あぅ!?そ、そうとも言うッス‼も、もう1回警告するッスよ‼妖狐の子を解放するッス‼さっきの感じからして性奴隷目的ッスよね!!」
険しい表情で言うが、なんか残念な人だった。たぶん、アホの子だ、この人。いや、口調的に小悪党気質とかパシり気質とかいう感じの下っ端妖精なんじゃないかな?
って、そんなこと思ってる場合じゃない、誤解を解かなきゃ‼
「や、僕と紺さんは・・・・」
そこで気付く。
僕達ってどういう関係なんだ?恋人ではないけど、友人かと言われると紺さんが僕に恋慕の情を向けているから違うと言えるし、同行者といえばそうなんだけどそれで区切られるほど浅い付き合いでもないし・・・・・えぇ、なんなんだろう、この関係、説明できないぞ?
「簡単な話ですよ。
私と剣太さんはセ○レですよ。彼が本命にちゃんと好意を告げるまでに籠絡を狙うセフ○が私ですね。」
「ぶふっ!?何言ってるの、紺さん!?というか、なんでここにいるんですか!?や、その前にここってどこなんですか!?」
平然と現れ、とんでもない爆弾発言を落とした紺さんに、僕はツッコミをいれつつ、忘れていた現状把握を行う。
「あぁ、ここはけー君の夢を利用して作られた場所、ボク達の刀の中と同じような魂の世界ってとこだね。人は寝ている間は魂が抜け出ていて・・・あー、うん、長くなるし、けー君の知識なら知ってるだろうからカットするよ。
よーするに、けー君を夢の中で二重の意味でハメようとしていたのさ、そこの恋妖精はさ。
最初は幻術でこーちゃんに化けて、けー君から搾り取ろうとしてたわけだから、流石にまずいかなぁ、と思って、この子が作った夢の空間の支配権を軽く乗っ取らせて貰ったんだよ。で、けー君の幻術催眠状態を解除して、ついでにこーちゃんの意識も連れてきたってわけだよ。」
やっぱりサキュバスだった!!いや、あのエロさに夢関係にあの見た目で違うとか言われたら、犬を猫と言っているようなものだけどさ‼
というか、なんか僕の夢の中なのに僕に支配権なくて、もはや夢なのかどうなのかわかんなくなってきたよ?
「それで貴女は何者ですか?剣太さんの貞操を私より、彼の想い人より先に奪おうとは万死に値しますよ?」
「何言ってるかわかんないッスけど、セ、○フレとかふ、不潔ッス‼男女交際は清く正しくするもんッスよ!!」
「清く正しい男女交際の行き着く先は生殖行為ですので不潔ではないかと思いますが?」
「慎みを持てって言ってるんスよ!!」
紺さんの爆弾発言に顔を真っ赤にして怒るサキュバスさん。
というか、おまいうじゃないのかな、これ?サキュバスが、しかも現状でドエロい格好をした人がいう言葉じゃないでしょ、それ!?
「いやいやいや、男から精を搾り取る恋妖精がそれを言うのかい?」
僕の思ったことを小梅さんが苦笑いしながら困惑の眼差しで尋ねる。
「む、妖精差別ッスよ!!恋妖精だからって普通の恋愛に憧れたり、貞操観念がしっかりしてたりぐらいはするッス。
そもそも、ウチの種族は精を餌にできるだけで、精しか食えない訳じゃないッスからね。そりゃ確かに空腹も睡眠欲も性欲も解消できるんでそっち関係を好むのもいるッスけど、少なくともウチは軍人としての規律と風紀は守るッスよ。」
エッヘン、とドヤ顔で鼻を膨らませているが、少なくとも今ので彼女は軍人で、妖精郷の軍部所属ってことはわかった。
やっぱりアホの子みたいだ。
小梅さんもそれを理解しているらしくニヤニヤしている。
なお、箱入り天然娘はわかっていないみたいである。可愛い。
「ふーん。その軍人さんがなんでまたけー君の夢なんかに侵入して搾ろうとしてたのさ?」
「そりゃウチの150年ぐらい前に作った最高傑作である迷宮樹海を壊されたからには、敵かどうか確認しなくちゃまずいじゃないッスか、職業的にもプライド的にも。」
自慢げに言うが、この子、軍人なのに口軽すぎない?大丈夫?
というかあの大作である幻術を彼女一人で作り上げたっていうの!?
流石の小梅さんもこれには目を見開いているし、紺さんも驚いている。何せ自分達の里じゃ複数人ががりのを1人でやったっていうのだから無理もない。
「で、そちらさんは結局どこの勢力のもんなんスか?
妖狐族の子といかがわしい関係な上、ウチの独壇場に近い夢の世界を制圧する人間がいて、さらにウチの最高傑作ぶっ壊すことができるとかただもんじゃないッスよね?」
アホの子ぶった雰囲気から一転、殺気を放ってくる恋妖精さん。
150年とか言ってたから伊達に力をつけていないわけではないってところか。幻術をこの樹海一帯にかけ続けている辺りからも、舐めてはかかれない相手だったか。アホの子ぶってた態度で騙されていたよ。
「OKOK。わかったよ、恋妖精ちゃん。
君はつまり仕事の問題上、ボク達が攻めてきた相手かどうか知りたいわけだ。で、ボク達としては敵意がないことを示したい。どうしたらいいかな?」
小梅さんの提案に彼女はうーん、と唸ってからしばらく黙りこみ、
「どうしたらいいかわかんないんで、とりあえずウチの詰め所に来るッス。そこならウチの部下が考えてくれるッス。」
前言撤回。やっぱりアホの子だわ、この人。めちゃくちゃ満面の笑みで丸投げしちゃったよ。




