閑話その2 扇動者、知る
魔方陣によって転移させられた場所は、いわゆる書斎だった。
大量の本が入った本棚に山積みの書類や本が乗った机があり、上品な感じがある部屋だ。
・・・・・気のせいか、週刊少年○ャンプとかサ○デーとか、あと読○新聞やらその他もろもろの日本の新聞もある気がするんだが・・・
「さて、改めて名乗らせてもらおうか。
私は山村榛名。この夜刀神国の宰相だ。日本で言うところの総理大臣みたいな立場だね。まぁ、実態は独裁者みたいなものだけど。
そして真宵ヶ関中学3年7組所属だったけど、かれこれこっちで500年、地球なら5年は経ってるから中退してる日本人だよ。」
「いろいろとツッコミてーが、真宵ヶ関中学っつーことはマリーセレスト事件の・・・」
「あぁ、関係者、いや被害者だね。ベビルベリー王国に拉致召喚された、いわゆる先代勇者だよ。もっとも、私達の半分以上は魔王の配下なんだけどね。」
やっぱりあの不可解な事件、真宵ヶ関マリーセレスト事件の関係者か。
真宵中って聞いて嫌な予感はしてたが当たってやがったか。
「魔王っつーのはこの国の元首たる夜刀神か?」
「ハヤト君は私たちより年下だし、こっちでできたクラスメイトだよ。
私達のボスたる存在は今も昔も変わらず‘魂を見透かす魔王’にして‘バカップルの男の方’である平塚才人君、同級生の男子さ。」
「あぁん?‘魂を見透かす魔王’っつたら、女神を封じ、世界を支配しようとした奴で、それを倒すためにあんたらが召か・・・・・・・・いや、待て、まさか嘘なのか、この伝承が。
じゃねーと勇者として召喚されたあんたらのクラスメイトに魔王がいるとかいう訳のわからん理由にならねぇ。もしそうだとするなら、誰が女神を封じた?・・・・・・いるじゃねーか、怪しいの。天使教、いや、女神に成り代わり信仰を得ている天使が。
理由はわからないが、天使によるマッチポンプがあり得るのか?天使に敵対したから勇者を魔王としたのか?」
「流石。やっぱり君達の中での頭脳担当なだけある。よく天使まで繋げられたね。正解だよ。」
女は楽しそうに微笑み、本棚からごっそりと本を数冊抜き出し俺の前に持ってくる。
澪と麗奈とともに表紙を見てみると『トーカリオン教典』『地ノ聖書』『輪廻経典』『愛の叙事詩典』などなんともまぁ聞いたことはないが、ヤバい臭いしかしないものが書かれている。
「それは天使教、いやあのクソったれな連中曰く、不幸な事故で焼けたり砕かれたりした神殿や教会、寺院にあったものだ。そこから辛うじて持ち逃げてきた宗派の人や一族が寄進してくれたものだよ。それぞれ、
『祝福と幸福、そして試練を司る大地の女神【豊穣神】ヨシフィーノ』
『戦争と娯楽、そして食事を司る武の女神【雷神】トーカリオン』
『踊りと情熱、そして病を司る愛の女神【風神】ユヅカグ』
『生と死、そして輪廻転生を司る炎の女神【常世神】コットリオン』
の4女神を奉る宗教の教えだね。」
「今まであった宗教組織破壊とかもろじゃねーかよ・・・・・・時と影、そして恐怖を司る闇の女神様のもんが見当たらないのはどういうわけだ?」
宗教ものの本をペラペラとめくりつつ気付くことを尋ねる。
邪神と言われているキョーザだが、他のとこの記述を見ると邪神ではなくむしろ神としてしっかり奉られているようだしな。キョーザ教団とか書かれてたりしたりするし。
「ふふ。やっぱり君は頭がいい。キョーザ教は今は他の女神達より広く信仰がつづいていてね。やはり人間よりも、天使教が指す魔獣人と呼ばれる存在やキョーザが産み出した怪異から進化した怪異族といった存在が多く信奉してるのは大きいね。
だから、教典は焼かれることもなく守られているよ。
ここだけの話、今の頃は確か私達のクラスメイトの娘が持っているはずだ、ボーバン帝国でね。」
「・・・・・なぁ、さっきから気になっていたんだが、前回とか24回前とか俺らを見て懐かしがったり名前知ってたりとか、今みたいに今頃は、と確信めいて言ったりしたりするその点を教えてもらえるか?気になって気持ち悪い。」
「そうだね。とはいえ、聡い君なら当たりはつけているだろ?だからそうだね・・・・・園田澪さん、わかるかな?」
「うぇぇぇ!?私ですか!?」
突然振られた澪は大いにキョドる。
それを見て満足そうにククっと笑う露出ツインテ女。性悪な野郎だな、いや、女だから女郎か。今じゃ使わねぇからアマがいいのかもしれんが。
ついでにムカつくのが、マジで検討ついてるから、それを見越してくるのが悔しい。
「えっと・・・・えっと・・・・・麗奈、パス‼」
「えぇ!?えっと、その、あの・・・・・け、慶一君ヒント‼」
「・・・・確証はないが、ヒントは3つ。
初対面なのに何回も会っているかのような振る舞い。
まるで未来を知っているかのように俺らへ施している対策。
そして俺らと同じ日本生まれで拉致された存在。
答えは1つだ。」
「お?某名探偵の孫かな?」
露出ツインテ女は面白そうに煽ってくる。つーか、そういう風にボケを解説されるのは恥ずかしいからやめろし。
そんな俺を他所に俺からヒントを受け、2人はヒソヒソと話してから頷き答える。
「普通ならありえないよ。」
「だけどこっちの世界で手に入るものならあり得る。それは・・・・」
「「死に戻りの“異能”‼」」
「だーいせーかーい、とは言えないけど、おおよそ当たりだよ。
私の“異能”は死ぬと過去のある地点に記憶や経験、能力やある程度の物品を持って戻る“死に覚え”だ。これでかれこれ1億と10823回やり直して、今は1億と10824回目のやり直しをやっているところさ。
ちなみに今までの経験によって僕は500年は余裕に生きていけることができる寿命と不老を得ているから、ピッチピチの22歳のままだよ。」
面白そうに笑う女に俺は呆然とする。
おいおい、マジかよ、ゲームじゃねーか、それ。しかも1億とか正気じゃねぇ。それだけこの女は死んでは生き返りを繰り返してやがるのか。本当に正気じゃねぇ。狂ってやがる。
「ま、というわけで、何度もやり直していると君達の事も知っているし、他にも今、球磨川四万十君がどこに誰といるのかも知っているし、君達の知りたいことも知っているよ。」
「・・・・・・・・・・・つまり黒金は確定で生きている、と言い切れるんですね?」
「はっはっは。生きているけど、これ以上は詳しく話せないね。知っているからこそ言わないこともあるんだよ。君達の未来もある程度わかるけど、私はあえて何も言わないよ。」
「あ、榛名ちゃん、紺ちゃんと無事狐の里から出たって、黒金君。だっちゃんからさっき連絡が来たよ。」
悪人面のキメ顔で言ったタイミングで唐突に現れた白髪の男が大変気になる情報をくれた。
静まり返る書斎。固まるツインテ女。やっべぇ、という感じで引きつった笑みを浮かべる白髪の男。
そして、
「なんで君はよりにもよってこのタイミングでその情報を流す‼」
「痛い痛い痛い!!!!アイアンクローはやめて‼砕けりゅー‼」
「何が砕けりゅー‼だ、このダメ亭主‼前の時と同じことをなんでするんだよぉ‼」
「そりゃ固い空気を柔らかくギャァァ!!!?」
「やっぱりわざとか、貴様ァァ‼」
メシメシと音をたてるアイアンクローと吊り上げられる白髪の男の顔面。
てか、魔法系だと舐めてたがこの山村榛名とかいう先輩さんは身体能力もだいぶやべぇな。“異能”抜きで凶暴化した澪と張り合えそうな力はまずありやがる。伊達に1億と10823回もやり直していないし、生きてないってわけか。
俺の【役職】も“異能”も知ってるだろうから、多分通せるが対策してくるだろうから、労力に見会わなさそうだことになりそうだし、敵には回したくねぇな、こりゃ。
「黒金の奴が生きてて、どこにいるのかはわかった。で、その紺ってのはなんだ?」
「・・・・紺ちゃんは私達の孫娘だよ。正確にはこの男の孫娘。私の義理の息子である妖狐族の子と族長であり‘魂を見透かす魔王’と‘女神に最も近い魔王’の忘れ形見との間の子だよ。
そして今までで初めての変異点だよ。」
「あぁん?どういうことだよ?」
俺の問いかけに吊り上げられたまま白髪の男が答える。
「紺ちゃんは前回の時にはいなかった。榛名ちゃん曰く今までも僕かだっちゃんが死んでるかあるいはそれに近い状況で僕とだっちゃんとの子が生まれず、必然的に紺ちゃんは生まれなかった。
でも、今回は僕が【大仙人】の中にある【尸解仙】の役職と榛名ちゃんの賭けが成功してね。それで僕も前回の知識だけはあるから、だっちゃんとともに生き延びて子作りして血を繋げたのさ。」
「なんつーか、色々と言いたいが、つまりはあれか?もういままでどおりじゃねぇ、ってことか。
おいおい。未来を知っていて、しかも何パターンもわかってることが有利なのにいいのかよ、そんなことして?」
「まぁね。前田君が言う通り、普通なら天使共に対する有利を捨てるとか正気じゃないね。
ただね、正気じゃ太刀打ちできないのを知ってしまうと賭けなくちゃいけないんだよ。
ここまで言ってしまえばもう僕達生き残ったクラスメイトと各種族の族長だけが知っていることも教えるよ。」
そう発言する露出ツインテ女、いや、山村榛名の表情は深刻なものであり、そしてそのあとに続いた説明で俺達は知ってしまう。
ここまでの事が単純じゃねぇってことを。
とりあえず閑話はここまで。次からは新章です




