閑話その2 扇動者、困惑する
次に眼が覚めると、俺は映像で見たことがある典型的な警察署にあるような感じの檻の中にいた。
一瞬、さっきまでいた世界は夢で、なんかわからんがついにへまをして役所を騙してるのがばれて捕まったのかと思ったが、冷静に記憶を思い出しても、警察に捕まった記憶ではなく突然現れたツインテの露出度が高い姉ちゃんに捕まった記憶しかない。
となると、夢みたいな異世界は現実であり、現在地もそこなのだろう。
・・・・・・いやでも、中世ぐらいの世界だったはずなのに、なんで現代レベルの場所があるんだ?
「あぁ、よかった。やっぱり早まってるのか。ちょうど良かったよ。」
急に声をかけられ、檻の向こう側を見ると白髪でウェーブかかった長髪のパーカーを着た男性がいた。
「誰ですか、あなたは?」
「あぁ、悪いけど、今は問答してる場合じゃないからさ。君の意志に関わらず、ちょっと行くよ。」
俺の警戒心満ち溢れた問い掛けをスルーしてその男は檻の中に入ってきた。
いや待て、どうやって入ってきやがった!?檻の出入口じゃなく、まるで檻がないかのように歩いて来たと思ったら目の前にいやがったぞ!?
「さて、ちょっと飛ぶよ。
中庭までの距離を限りなくなかったことに。」
そう言って俺を掴み、ほんのちょっと動いたところで目の前の光景が一変した。
「アアアアアアアアァァァァ!!!!」
「3班、そっちじゃない!!対巨人ネットはこっちだ!」
「こちら4班!!もはや制圧道具がすべて破壊されました‼」
「ぐわぁぁぁ!!」
「あぁ!!ヤンチャム総長がまた吹っ飛ばされた‼」
「持ちこたえろ‼太公望様が来るまでの辛抱だ‼」
・・・・・・なんだ、この阿鼻叫喚の地獄は。
塀に囲まれた中庭とも言えるところで甲冑を纏った複数の大人がまるで象とかでかい獣、それこそドラハンの竜と戦うときみたいに連携して戦ってやがる。
が、目の前にいるのは竜でも獣でもない。
「ケイチャン・・・・ケイチャンヲカエセェ・・・・・」
「ケイイチクン・・・・ケイイチクン・・・・ケイイチクン・・・・・」
俺の駒達であった。
澪は人間離れした怪力を使え、人間離れした動きができるその異能で向けられた武器を片手で砕くわ、パンチ1発で鎧を凹ませ、着てる人が気絶してるわ、恐ろしいことになっている。
麗奈は麗奈で囲ってこようとする相手に対し、隠し持つ武器をハリネズミが毛を逆立てるように全方位に向けながら暴れまわり、手をつけれなくなっている。
そして2人とも正気を失っており、ただただ俺を探しに来ているようだ。うん、流石だ。あとで誉めてやろう。
「いやぁ、まさか君達がこんなに早く目を覚ますと思ってなくてね。
榛名ちゃんも丁度でてるし、本当に僕がいなかったら天使に相対する前に国が滅ぼされかねなかったよ。
で、いきなりで悪いんだけど、ちょっとあの2人を止めてもらえる、前田慶一君?」
「・・・・・なんで名前を知っているのかは知らないし、そもそも拉致られた方としては協力する理由がないんですが?」
「ごもっとも。ただ、この騒動、僕でも止められるけど、そうなると彼女達を死なせちゃうし、それは困るから穏便な方を頼んでいるんだよ?
それにこれ以上収容所を壊されると文無しな君達から賠償金要求とかするよ?君は嫌いだもんね、必要でもない経費を払うの。」
ヘラヘラと笑うこの男にますます俺は警戒心をあげる。なんで俺の嫌なことを知ってやがる。
「そうやって人を煽って交渉しない。
君には前の記憶があるから友達感覚かも知れないけど、前田君は初対面なんだ。あの中で1番警戒心が強い子を警戒させたら話が進まないだろ、望月。
私が早めに切り上げて帰ってこなかったらどうなっていたことやら。」
澪と麗奈が暴れまわるなか、睨みあっていた俺と男の間に俺らを拉致った人物が割り込んでき、男の方の頭を杖で小突いた。
「宰相様、助けてくださいよ!!対巨獣用睡眠ライフルを撃ったのに、怯んだと思ったら眠ることなく突撃していた上、耐性まで作り上げたんですけど、あのポニテ少女!?」
「こっちの小柄なロリ巨乳っ子もやべぇッスよ!!気絶した仲間の武器を殺す気満々で投げ付けてくるし、武器を鎧みたいに纏うもんだから近付けないし、死者がなんとか出てないのは奇跡な状況ッスよ‼」
「はっはっは。そりゃそうだよ。37564回も愛する男を殺した世界を住んでいる人間全員と共に心中させたような子達だよ?
そして666回は愛する男のために女神の1柱を道連れにして死ぬし、はっきり言って世界最狂の存在だからね、その2人。」
「そんな化け物と俺らを戦わせないでもらえませんかねぇ‼法に訴えますよ‼」
「相手が私なのに?私は宰相だよ?。それぐらいの案件、握り潰せるよ?」
「畜生‼権力持つパワハラ上司が憎い‼」
よくわからんが、笑顔が絶えない仕事場なのは把握した。ブラックな会話っぽいが、恐らくここに勤める人達はこの宰相とかいう女を信頼しており、彼女もまたそれに答えるからギャグとして受け答えて、阿鼻叫喚の地獄から笑顔のある場所にしてやがる。
「さて、前田慶一君。手荒に浚って悪かったね。
君達は早めに出会って確保しておいた方が世界との心中やら神殺しやら絶望を伝染させるやら、きりが無いぐらい厄介なことを引き起こさなくて済むから強引になってしまったよ。」
「貴女といい、そこの男性といい、なんで私のことを知っているかんじなんですか?」
「くくっ。自然なチンピラタメ口口調でいいよ、前田君。その辺について話すためにもあそこの2人を止めてもらえるかな?」
「・・・・・・では、お言葉に甘えて、ごほん。気になるのは確かだが、なんで拉致った張本人に頼まれて、はいそうですか、と頷くと思うんだよ、おい。俺らに説明する前に、俺を納得させてもらえませんかね?」
俺の言葉に目の前の女は可笑しそうに笑い、そして涙を浮かべる。
「お、おい・・・・」
「あぁ、いや、ゴメンゴメン。24回目ぶりのやりとりでね。前回の次ぐらいに惜しかった時みたいで泣けてきちゃったよ。
私の名前は山村榛名。迷ヶ関中学中退の522歳の日本人だよ。
で、こっちの白髪男は私の旦那で太鼓原望月。同じ境遇だよ。」
「はぁ!?何言ってるんだ、おい!?」
白髪の男をひっぱりながらとんでもないことを言ってきやがった。
522歳の日本人で、しかも聞き覚えのある隣市の中学校名とかどういうことだ、目の前の露出女は!?つーかなんだ、前回やら24回目ぶりとかなんだ!?
「さて、これ以上話をするならあの2人を止めてもらえるかな?」
ニヤリと笑いながら頼んでくる露出女。
だー、もう。仕方ねぇ。止めておかないと話聞けなくて気になるじゃねーかよ。
「澪‼麗奈‼あー、おすわり‼」
その言葉を発した瞬間、2人は周りにいた大人をぶっ飛ばして俺の目の前に飛び込んできてからしゃがみこんで顔を上げた。
「無事だったんだね、慶ちゃん。」
「あんなことやこんなことされてない、大丈夫?」
「心配するな、大丈夫だぜ。お前らの方はケガしてないか?」
「大丈夫だよ。私の異能‘超人’があれば自己再生能力高いから、致命傷は無傷レベルだよ。」
「私も人を近付けなかったから全然問題ないよ。」
今の2人は「誉めて誉めて」と尻尾を振っている犬の姿に見える。
ったく、ほんとに可愛いやつらだなぁ。よーしよしよし。
「きゃう~ん♥」
「はぅぅん♥」
「そろそろ撫でておっぱい揉む系のいつものイチャつきをしながらでいいから、話してもいいかな?」
ケラケラと笑いながら露出ツインテ女は割り込んでくる。
そのことに機嫌が良くなっていた2人はグルルルルと威嚇音を出す。お前らは人間なんだから犬みたいなことしない。
「じゃあ、移動しようか。
望月。処理は任せたからよろしく。私は先に行くから。」
「了解。5分ぐらいしたら行くよ。」
そういって白髪の男は澪と麗奈を相手に武装集団が引き起こした惨状の現場へ歩みを・・・・・気のせいか瞬きしたらもうかなりの距離離れてるんだが、テレポートでもしたのか?
俺が理解できていない状況にいる中、山村榛名だっけか?露出ツインテ女は杖をかざして俺達の足元に魔方陣を張った。
「さて、それじゃ、私達も行こうか。私の居城、国会議事堂へ。
言っておくけど、ゴジラに壊されるような柔な造りじゃないから、暴れるだけ無駄だからね。」
あ、間違いない。日本人だわ、この女。




