閑話 迷い人、迷いこむ
「よう、生徒会長。ちょっと面貸せよ」
またか。
「化け物が!!死ね!!」
悪を倒す俺が化け物なわけがないだろ?
「な、な、なんでてめーは死なねーんだよ!!頭からバットで殴ったつーぐべぇらば」
正義だからに決まっているだろ。くだらん。
「やめろ、くるな!!」
何と言おうと悪を滅ぼすのが俺の仕事だ。ツマラナイ連中だ。
「おいおい…身体能力にあのメンタルといい、ガチで化け物じゃねーか。
俺、黒金に小6で会って、そのうえ更正しててよかったわ。じゃなきゃ今頃あいつによって死んでたな。
な、澪?」
「確かに御主じ、じゃなかった。慶ちゃんの言う通りだよね……ありがとう、黒金君。」
「本当にやるつもりなの、黒金剣太君?私が言うのもあれだけど、アレ、壊れてるよ?」
「なんというか、だからこそ放っておけないっていうかね?
というか、龍造寺麗奈さん、僕だけはフルネーム呼びなんだ…まぁ確かに前田と園田が君を助けた中心だから仕方がないけど、ちょっと凹むよ、うん。」
「それはお互い様だよ。」
「え?なんで!?」
「おーい、黒金。問答してないでちゃっちゃと済まそうぜ。俺、早くサイゼ行きてー」
「あー、はいはい、わかったよ。
さて、曲月中学生徒会長球磨川四万十君。いきなりだけど、僕の友達になってくれない?」
――――――――――――
「はっ!!」
懐かしい夢から目を覚ますと手足は縛られてベッドに繋がれていた。
場所としては剥き出しの岩肌に檻がある、まさに地下牢のようなところだ。が、地下牢的な周囲に反して、俺が寝かされているベッドの質は異様に高かった。
「どこだ、ここ?」
最後に記憶があるのは、織斑の追撃を受けながら、雪風抱えて、逃げようと転移能力使ったんだよな……記憶違いならいいが、その転移する瞬間、確か……
ガンガラガラガラ
俺が嫌な予感を感じながら思い出し始めていると、檻の向こうで物音がした。
驚いて見てみると、
「クマー……」
涙目になったメイド服姿の九十九里浜浦風が足元に水の入った桶をひっくり返していた。
やっぱり記憶違いじゃなかったのか。
あの転移の瞬間、九十九里浜が俺に抱き着いてきたのは。
――――――――――――
「目を覚ましたようで何よりだわ、元凶川君。」
泣きついてきた九十九里浜を宥めていると駆け足で雪風が入ってきて拘束する鎖を外しながら俺に声をかけてきた。
「あぁ、悪いな。迷惑をかけた。
ただ、俺の名前は球磨川であり、なんか諸悪の根源みたいな名前じゃない。」
「本気で現状に至った元凶だと思っていないのかしら?」
「………で、今はどんな状況なんだ?俺達はどこにいて、なんでお前ら2人はメイド服なんだ?」
雪風の睨みから目を逸らしながら、俺は現状最大の謎を尋ねる。
現在地もそうだが、今、俺の目の前には何故かメイド服を着た雪風と九十九里浜がいた。
ちなみに黒髪ロングのクール系メイドと金髪ツインテギャル系メイドとか色々と需要がありそうで困る。主に夜の主従関係的な意味で。
いや、だって想像してみろって。スラッとしつつも女性らしい線をした美少女メイドと男なら自然と視線を向けてしまうような爆乳美少女ギャルメイドだぞ?男なら仕方がない。
「そうね。まずここはある一族の収容所、中でも上等なところよ」
「まぁ牢屋っぽいわりに品質がいいと思ったが、そういうことか。で、その一族っていうのは?」
「えぇ、あなたに私達が巻き込まれて迷い込まされたここは―」
そこで牢屋の扉から知らない人物が入ってきた。
背が高く、スタイルもよい女性だ。黒の忍者服のような衣装を纏い、銀髪ポニテとかいう黒金のやつが好きそうなタイプだ。
で、特徴的なのは頭には犬耳が……犬耳?
「ここはこの世界の教義では‘魔獣人’と呼ばれる人狼族の住み処よ、球磨川君。
それでこの方は―「人狼族【銀狼種】イン家の長女、イン・シャーキだ。」
ハスキーボイスな犬耳女性は警戒心バリバリで俺に名を告げた。
あー、王国とかこっちの宗教じゃ魔獣人とか言われてる存在じゃねーか、めんどくせぇ。絶対いい感情持たれてないだろ。
と言ってもいうほど悪な存在なのか?と疑いは俺にはある。弾圧を教義に持つ宗教ほど怪しいもんはない。
ただ、だからといって知らない相手に対して安全であると認識するほど無警戒ではないがな。
ただまぁ、俺みたいに現実を見るまで信じない主義でも無さそうなうえ、特に偏見を持たされていそうな雪風や九十九里浜なんかがなにも抵抗してない辺り、大丈夫そうではあるんだが、果たしてどうか?
「あー、球磨川四万十だ。どこまでこの2人から聞いたか尋ねても?」
「問題ない。
彼女達によれば、ベビルベリー王国に勇者として召喚された異世界の住人だそうだな。」
俺の問いかけに警戒心こそあれど憎悪などといった悪意は感じない応答をされる。
ふむ。思っていたほど、そこまで自分達を弾圧する人間に悪い感情を持ってはいない感じか?一応まだ警戒するに越したことはないが。
「怪しんだりは……?」
「したさ。何せ私達の一族は500年前からここに隠れながら人間、ひいては天使を相手に戦っているんだ。
そんなところに人間が、それも3人も来れば十分怪しい。
それに加え、山1つにタッカーニェ公国、そしてボーバン帝国を挟む先のベビルベリーから来たと言う上、そうとは思えないほど荷物もない者達だ。
長老がいなかったら確実に殺されていてもおかしくなかったな。」
げっ!?意識失っているうちに、わりとヤバい感じに命の危機があったのか……危ねぇ。
「ほぅ。長老、ねぇ。なんで俺達は長老様のおかげで助かったんだ?」
「現長老はかつて500年前に、我らが祖・フェンリル様と共に戦われた、存命される3人のお1人だ。
そんな方が『信じるに値する言葉だ』と仰られるのだ。
仕方がないから、主犯格の貴様は牢へ投獄、女2名は貴様の面倒を見させ、そして今に至るわけだ。」
主犯格って……いや、まぁ、ある意味不法侵入みたいなもんか……
にしても、ボーバンにタッカーニェがベビルベリーの間にあるっつーことは………
「1つ尋ねるが、ここは霧幻の谷か?」
その瞬間、俺は飛び掛かってきたシャーキさんに組み伏されかけたので、咄嗟に合気道で迎撃しつつ、柔道技を組み込んだプロレス技で片手の関節を全て押さえ込みつつ、組み伏してしまった。
俗に言う腕挫十字固というやつだ。
あまりの一瞬の出来事に、彼女も俺も雪風も九十九里浜も呆然と、いや、技食らってるシャーキさんは痛みを堪えながら、空いている手で布団を叩いているギブアップの合図なので俺は手を離す。
すると、解放された彼女は素早く俺から距離を取り、
「やはり信用ならないやからだったか!!」
と警戒心どころか、殺意剥き出しで睨んできた。
これは大変よろしくない。
「よし、待ってください。話し合いましょう。」
「話すことなどない。貴様のような、暗殺の技術を持つものがまともなわけがないだろう。」
「……球磨川君、あなた、何をしてくれるのかしら、まったく。
死にたいのなら私や巻き込んでしまった九十九里浜さんまで一緒にしようとしないでちょうだい」
俺の誠心誠意の土下座懇願も殺意剥き出しの女性と毒舌説教には敵わないようだ。
必殺の土下座が通じないとか、やべぇ、八方塞がりじゃね?
くそっ。こんなときに限って、我が親友にして悪友にして盟友であり、バカ正直の代名詞たる黒金剣太とか、口から生まれた出任せ男こと前田慶一はいないんだよ、チクショウが!!
「そこまでにしときなさい、シャーキちゃんや」
一触即発の空気が壊したのは、部屋に入ってきた幼女だった。
背丈は120㎝ほど。銀髪ツインテールでやれやれといった表情を浮かべている。
「大ババ様!!しかし……」
「今のは確かにワシら人狼族銀狼種が徒手空拳でターゲットを殺すための体術の技じゃった。
だが、それらの体術は全て元は空手や柔道や合気道、あとは『ぷろれす』?じゃったかな?まぁ護身用や制圧するためのもの異世界の技じゃ。
あれほどのキレがある動きはフェンリル様を平伏させたあの‘魂を見透かす魔王’以来じゃわい。」
「……あなたは?」
よくわからんが、こっちじゃ柔道や合気道、プロレス技とかは暗殺者の技らしい。
そして異世界のが元ネタだと知っているこの幼女、いや推定ロリババアはただものではない。まぁ、予想はついているが。
「カッカッカッ。ワシは【銀狼種】の【荊狼】にして【憑狼】として浅ましく生き長らえておる、ただのババァじゃよ。」
やっぱりロリババァだったか。だが、どうも普通のやつじゃない気がするな。この世界じゃ確か【役職】は1つが普通らしいが、目の前のロリババァは少なくとも3つはあげたよな?
「……ただのババァだったら、俺のこの体術を合気道や柔道とか見極められるわけないんじゃないですかね?」
皮肉を言ってみると、ロリババァは満面の笑みを浮かべ、大爆笑しながら、
「クソ生意気なガキだねぇ。気に入ったよ。
そうだよ。ワシはなにせ500年前、フェンリル様や平塚才人殿、数多くの同胞達と共に天使や人間達と戦ったもんじゃよ。」
と言ってきた。
え、何それ怖い。改めて考えると500年も生きてるってどういうことなのさ。
つーか、なんか日本人の名前出てきたし、そいつらと天使相手に戦っただと?
何が起こってやがるんだよ!?




