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錬金術師(アルケミスト)の世界革命  作者: 悠々自適
第1章 隠れ里の孫娘
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錬金術師、振るう

その魔剣は歪な形をしていた。

遠目で見れば斧、それもハルバートのような長い柄をもつ形をしている。

しかし、近くで見れば誰もが眼を疑うだろう。

持ち手となる柄は両手で握ることができる程度。

ハルバートであれば持ち手となる長い柄の部分は両刃の刀身であった。そして先端の近くで斧のような片刃になり、その先は鋭く槍の穂先のように尖っていた。

その槍であり斧であり大剣でありながらそれら全てを否定する形をした魔剣を作ったのは今から3日前ほど、世界の神秘に出会った後、キマシタワー建設阻止を決定した頃である。


――――――――――


ここ最近始めさせられた鍛練を終え、里の人達との交流もそこそこに、与えられた部屋に籠って“魂魄用無”の中へと意識を飛ばしていた。


「えーっと、けー君?何してるの?」


白鬼院小梅さんの作った世界の中で僕は自分の作業場を展開し、武器を作ろうとしていた。

そこにいつものように神出鬼没な白鬼院小梅さんが訝しげに尋ねてきた。


「決まっているじゃないですか。

魔剣を作り始めたんですよ。切り札として。」

「あれ?でも、こっちの世界だと地球の聖剣魔剣って伝承がないことで存在矛盾が生じて砕けるんじゃないっけ?」


そう。太公望こと太鼓原望月さんとのやりとりでわかったことである。

僕が創り上げた向こうの世界に伝承がある魔剣や聖剣は『不壊』を付与しても、こちらの世界に伝承がないせいで存在矛盾が生じて崩壊してしまうのである。

一応実験で“絶望の谷”で“アマノハバキリ”を創ってみたが、やっぱり3振りぐらいで砕けてしまった。


しかーし、覚えているだろうか?

僕の創り上げた武器が1品だけ手元に無いことを。


そう。高町なずなさんが持つ“詠唱の槍”。

あれに元ネタはない。見た目とかのイメージこそ魔法少女の杖系統、特に赤い髪の槍使いの子のやつを真似ているけど、性能はオリジナルだ。

つまり、あれ同様、モチーフはあれど、性能が違えばセーフなのである。


で、試しに作ったのが魔法術式のみを斬り弾き防ぐ平たい大剣“防鮃(フォルネウス)”なのである。

名前は72柱の序列30番の大公爵、召喚された際には、海の怪物の姿をとって現れ、修辞学、言語の知識や、良い名前を授ける力を持ち、人を敵から友人同様に愛されるようにする力も持っている悪魔の名前だ。

しかし、拝借したのは名前だけで剣の能力は全く関係ないオリジナルだ。

果たしてどうなったかと言えば、どれだけ振ろうと、打ち合おうと壊れることはなかった。あ、いや、日村刀士郎さんには斬られたけど。


なんにせよ、ある程度ルールはわかったので、改めてこの世界的には大量殺戮兵器になり得る魔剣を創ることにしたのである。


魔剣聖剣は自主封印したんじゃないのか?という声が聞こえそうだけど、カガチヒュドラとの戦いで瀕死になり、かつての魔王達一派にしごかれ、天使相手に1人では攻めきれず、紺さんにボコボコにされ続ければ、流石に力不足を感じるし、武装しても大丈夫、むしろしないと死ぬ、という考えになってしまうのは自然な流れだと思う。


「はー、なるほど。面倒だねぇ、そりゃ。」

「まぁ、使い捨てとしてなら使えなくは無いですよ?」

「聖剣魔剣を使い捨てにするとか傲慢が過ぎるしwwww」


白鬼院小梅さんは僕の使い捨て戦法を聞き、豪勢かつもったいない攻撃に笑う。


「で、創るのにどれぐらいかかるの?」

「そうですねぇ・・・・・魔力の関係上1日に1本創れれば良いですかね・・・・あー、でもこの世界でなら時間経過は体感時間ですから、疲労度を考慮して現実世界の3日ほどで10本ぐらいは作れると思いますよ。」


なんでも創れるとはいえ、魔力がなくなってしまえば話にならないわけで、そればかりはどうしようもない。

幸いなのは時間は白鬼院小梅さんのおかげで通常の3倍ぐらいはかけれるし、ここ最近は地獄のような鍛練のおかげか魔力も前より増えた感じな上、扱いやすくなったから、生産速度は上がったのだ。

そんな僕の発言を聞いて、何故か白鬼院小梅さんは顔をしかめ、苦虫を潰したかのような表情を浮かべていた。


「いや、けー君。自覚ないみたいだから言わせてもらうけど、今のけー君、息をするだけで魔力作れているからね?

だから疲労こそあれど魔力はほぼ尽きないんじゃないかな?」

「・・・・・はい?」


なんか聞き捨てならないことを言われた。

え?なんで息をするだけで魔力を作れているんですか?


「さて、けー君、問題です。

君の右目は何でしょう?」

「……えぅ!?いや。ちょ、えっ!?」


僕の右目、すなわちカガチヒュドラから移植された魔眼とも言うべき、厨二病チックなオッドアイを白鬼院小梅さんは指摘してきた。


「考えてみなよ、けー君。

君は人間だ。それなのに神代の魔物の目を移植されて普通でいられると思っているのかい?」


ものすごく嫌な汗が背中をつたうのがわかった。

僕は無言で息を呑むしかできなかった。


「予想はできたみたいだね?十中八九今の君は人間でありながら人間を半分やめているんだよ。

右目の副作用とも言うべきか、君は大気にある魔力を見るだけじゃなく、本能としてそれを自動的に防御の層として活用することができ、そして空気中の魔力を自分の魔力として吸収できるようになっているんだよ。」

「なんですか、そのチート!?」


何でも創れる能力チートだけでなく、気付けば魔力無制限かつ防御障壁、ポケットなモンスターでいうところの“リフレクター”あるいは“光の壁”を手に入れてしまっていた。

というか、大丈夫なのかな、そんな化け物みたいな僕!?


「こっそり主治医の畑君に見てもらったけど、右目移植の副作用とは言え、むしろ強くなれている感じで体に害はないらしいよ、今のところは。」

「はい、不安な言葉、『今のところは』いただきましたぁ!!」


でしょうねぇ!!今のところは害なくても、何が起こるかわからないから怖すぎるんだよぉ!!


「まぁまぁ、けー君。これで君はますます強くなって勝ち目が見えたと思えばラッキーじゃないか。

こっちとしても天使共をぶっ殺せる力がつくなら実にありがたいって話しだし。

とりあえず、今のけー君ならものすごい魔力消費をしてもすぐに回復するだろうから魔剣創り放題だよ!」


ものすごく不安はあるものの、確かに魔剣や聖剣を今までよりも創り易いと思えば悪くはないかな……

そう考えることにして、やばそうな現実から目を背けつつ、僕は目前に控える紺さん用の切り札を想像して創造し始めることにした。


どういう剣がいいかな……その形状から斬る、突く、鉤爪で引っかける、鉤爪で叩くだけでなく、鉤爪で鎧や兜を破壊したり、馬上から敵を引き摺り降ろしたり、敵の足を払ったりと、様々な使い方が可能な“槍斧”、ようするにハルバートを意識しつつ、斬馬刀の先端部分を斧の刃と槍の穂先にするのが面白そうかな?

そうなるとなかなか厳つい見た目になるし、重量もあるから性能は……

あ、そうだ。イメージ通りの武器なら名前も60の軍団を率いる序列15番の地獄の公爵から拝借して、“エリゴール”ってつけたいし、そう考えるといい能力があるじゃんか。


「おー、すごいすごい。まったく他所事考えているのに目の前の石がうにょんうにょん粘土みたいに練られたかと思うと、石が金属になって、また練られて斧?剣?槍?なんとも不思議な武器に変形しちゃったよ。

初めて作ってるとこみたけど、チート過ぎでしょ、これ。」


白鬼院小梅さんが何か言っているけど、答えてる暇はない。

さぁ、ここからが創るときに面白いところだぞ。

できた型を熱して冷ましてトンチンカンのリズムで叩きながら形成を整え、そしてその作業の合間合間に剣としての性能に加え、魔剣としての力を付与していく。

重さは素早く振れるように見た目に反して軽くする。そして、大型武器の利点たる重量からの重い斬撃を捨てる代わりに、この仕掛けを仕込んで、あとは不壊を付与して、ついでにこの機能もつけて、と。


「というわけで、完成。銘は“三振両腕堕(エリゴール)”だ。」



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