錬金術師、話し合う
お互い落ち着いたところで紺さんが口を開いた。
「それにしてもなんと言いますか、意外でしたね、あなたが自分に自信がないというのは。」
「え?いや、そりゃないよ。
クラスじゃ関わらない方がいいメンバーの扱いだったし、僕自身そういう立場を理解していたからこそ高町なずなさんへの好意に蓋をして見ないフリをしていたぐらいには自分に自信がないさ。」
どちらかと言えば少々太ってて、ゲーム大好きアニメ大好きの、薄い本ならヒロインを襲って主人公から寝取るタイプのキモオタに分類されるような感じだったからなぁ、うん。
それが今じゃ瘴気の影響で痩せて、髪が脱色して……やめよう。落ち着いた精神がまた荒んでしまう。
「よくわからないですけど、つまりは自分に自信がないから好いた相手と距離を取っていたと?」
「まぁ、うん、そんな感じ」
「なるほど、ただのヘタレですか」
「ぐぼはっ!?」
紺さん の こうげき
痛恨 の 一撃
剣太 は 死んでしまった
おお 剣太よ 死んでしまうとは 情けない
そんなダメージを負いながら、僕は主張する。
「いや、ヘタレじゃないから!!ヘタレじゃないから!!」
「そうでしょうか?
私は恋をしたことがないのでわかりませんが、死んでいった幼馴染み達は皆、好きな人には好きと言っていましたよ。」
そう言う紺さんの表情はどこか寂しげだった。
そりゃそうか。自分は寿命がないに等しいのに、周りの人たちはほとんど死んでいくんだから、そんな感じにもなるよね……ん?もしかして……
「紺さん。
もしかして結婚とかした場合、自分は寿命がないに等しいのに、相手は死んでしまうから、したくないと思ってないですか?」
「!?」
今度は紺さんが僕からの痛恨の一撃で大ダメージを負ったようだった。
やっぱりビンゴだったか……
「な、何を仰っているのか理解に苦しみますね。
私がそんなまさかそんなことを考えているとでも?
勘違い甚だしいですね。
そんな父様が亡くなったのを見て、母様や師匠が悲しんでいるのを見て、結婚とかしたくないと思ったとかないですから。」
ものずごい勢いで自白する紺さん。
あー、うん。やっぱりポンコツ【天狐】だった。可愛い。
「何をニヤニヤしているのですか、気持ち悪い。」
「いや、なんというか紺さんのツンデレっぽさがかわいいな……はっ!?」
思わずまた口からポロっと本音が零れ、紺さんは真っ赤な顔でプルプルと震えている。
「わ、私よりも若いくせに生意気なことを……」
「ここに来て年齢をだしますか?」
「………いえ、なかったことにしてください。
ただでさえ、行き遅れ扱いされ始めたところに年増扱いまでされ始めたら死にたくなります。」
虚ろな眼差しでこちらを見てくる紺さん。
なんか、うん……やっぱり女性に歳関係の話はいけないね、うん。
「話を変えましょう。
私は強くなるためには恋をしなくてはいけないらしいので尋ねます。
あなたは恋しているそうですが、その相手とはどういう人なのですか?」
「うーん…高町なずなさんのことかぁ……」
照れや触れてはいけない話の流れを断ち切るためにすごく話を変えられた。
高町なずなさんねぇ……
「まず巨乳だね。」
「死ねばいいと思います。」
つい前田達と話すときの掴みから入ったら、ウジ虫を見るような蔑みの眼差しで睨まれた。
一部ではご褒美なんだろうけど、僕にそんな趣味はないので性急に謝罪をいれる。
「いや、うん、待って、ごめんなさい。
今のは失言だった。
高町なずなさんはそうだね……周りの評価とかを気にせず自分が見たものを信じて動くタイプかな?
実際、クラスじゃ浮いていた僕達にも普通に接してくれたからね。
で、そんな性格なのに優しいから、自分に不利益が生じるとわかっても他人に優しくする天使…あ、いや女神メンタルの人だね。」
こっちの世界の真実をしる人の基準的に天使メンタルって言葉は侮辱になるね、うん。
「ふーん。
つまり空気を読まず、自分勝手に世話を焼く面倒な女性なんですね。」
「いや、待って!?なんでそうなるの!?」
なんか物凄い不機嫌そうな表情で褒めた言葉をひねくれた捉え方にされた。
「だってそうでしょう?
周りの目を気にしない自分勝手さ、自分の行動がどう相手に影響するのか考えていない浅慮さ、自己犠牲は……まぁ、大目に見たとしても、自己中心的に善意を押し付ける迷惑で面倒な女性ではないですか?」
紺さんの言葉を聞き、思わず僕は絶句してしまった。
いつも高町なずなさんは善人であり、自分より人を大切にするすごい人だと思ってたけど、そういう捉え方は今まで考えたこともなかった。
とはいえ、ちょっと悪意がありすぎないかな……
「何かこう、紺さん、怒ってます?」
「いえ?まったく怒ってませんよ。
ただ、なんだかその女性がやけに気になるといいますか、腹がたつといいますか……あー、モヤモヤしますね。何なんですか、この感情は。」
「いや、僕に聞かれても知りませんよ?」
不機嫌そうな表情のまま、考える紺さんの問いかけにそう答えるしかなかった。
高町なずなさんが腹がたつぐらい気になるか……はっ!!まさか…
「キマシタワー建設フラグか!?」
「何か言いましたか?」
「あ、いや。こっちの話だから気にしないで。」
マジかぁ……異世界でキマシタワー建設か……
いや、僕は百合に関して理解はある。
だけど、流石に好きな女の子にそういうフラグが……いや、そういえば女帝・雪風野分さんと高町なずなさんはめちゃくちゃ仲がよかったよね……
あれ?もしかしてキマシタワーはすでに建設済みだったりするのか!?
「何をまた頭を抱えて悶え始めているんですか?」
「い、いや、こっちの話だから気にしないで!!」
くっ。今はすでに建設完了済みの危険性があるキマシタワーより、目の前にあるキマシタワー建設を阻止しなくては!!
どうすればいい……考えろ……考えろ……紺さんを高町なずなさんに近付けない?…紺さんが高町なずなさん以外に恋心を抱かせるようにする?…出会いが限られている状態で高町なずなさん以外への恋心を抱かせる方法……はっ!!
「今度の決闘で僕が勝って紺さんをめとれば、高町なずなさんにフラグを建てることを阻止でき……いや、それだと本末転倒か……ぐぬぬぬぬ」
「あ、あの、黒金さん?
何をぶつぶつ言いながら百面相しているんですか?」
紺さんが何か声をかけてきたけれども、今はそれどころじゃない。
好きな子に建ちかけているキマシタワーフラグを阻止しなくちゃいけないんだから。
そんなことを考えること数日。
ついに運命の決闘の日になったのであった。




