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錬金術師(アルケミスト)の世界革命  作者: 悠々自適
第1章 隠れ里の孫娘
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錬金術師、困らせる

久々で大変申し訳ない。いろいろとバタバタしていました。


実戦稽古開始と同時に紺さんは双剣を構えて鋭く懐に潜り込もうと接近してきた。

それに応戦する形で僕は構えていた大剣を僅かに縦に振ることで彼女は突撃をやめ、双剣でそれを受け止め、そのまま刃の形にそって、こっちの刃を滑らせて威力と勢いを受け流した。

そしてバックステップでさがり、武器を構え直した。


やはり腕前高いなぁ。

受け止めるどころか受け流しまで完璧にこなして、再び距離をとりつつも隙を伺おうとする動きを最小限の動きで行うのは並みの才能ではないと感じさせられる。


僕が感心していると彼女は苦虫を潰したような声音で、


「体術はてんで駄目だというのに、驚くほど対応してきますね……今まで、わざとだったんですか?」

「いや、そんなに睨まれましても、よっと。僕は普通にやってるだけなんですけど……」

「……余裕で今の不意打ちを弾く時点で嫌味にしか聞こえませんね。」


会話している途中で距離を詰め、不意打ちとして振り下ろされた双剣の片方を峰で受け止めてから、無理やり振って紺さんを押し飛ばすと、ものすごく嫌そうな顔で睨まれた。


いや、まぁ、うん。正直僕もここまでやれるとか想定外なんですよ?あんなに強い紺さん相手に大剣で互角なんて。


そうこうしていると、再びダッシュで紺さんが間合いに飛び込み、今度は左右で交差するように双剣を振ってきた。

その一撃を刃で受け止めてから、それを読んでいたように下がろうとする紺さんにそのままの勢いで剣を振り下ろすが、寸でのところで双剣両方をクロスする形で受け止められ、そして先ほど同様、刃を滑らせて後ろに下がって回避された。

うーん。なんともやりにくい。


そんな、剣を振るう→受け止める→反撃→受け流しからの回避、というやり取りをし続けた結果、膠着してしまい、お互いに疲労が見え始めた。


「ぐぅ……やはり分が悪いですね。」

「同感。双剣の間合いは剣が、特に大剣は振りにくいからね。」

「………本当にムカつく男ですね、あなた。」


再び剣と剣をぶつけて防いでいる状態で、苛ついた表情で忌々しそうに言ってくる彼女。

何か悪いことを言った、今?


と少し気を緩めた瞬間だった。


「げぶふっ!?」


隙があった腹を思いっきり蹴られ、思わず大剣を手放してしまい、まずい、と悟った瞬間、組伏せられてしまった。

って、


「ちょいタンマ!!タンマ!!

痛い痛い痛い!!肩が外れる!?腕折れる!?」


容赦なく関節技を紺さんに訴えるが相手にされない。

というか、これは本気で潰しに来てる!?


そんな生命の危機、いや、死にはしないけど、それ的なものを感じたところで、


「そこまで。」


審判役の茶枳さんに止められ、組手は終わった。


あー、死ぬかと思った……いや、もっと死にそうな目にはあったけどもさ。


僕をうつ伏せに押し倒し、背中に跨がっていた紺さんはその言葉で退き、さっき以上に機嫌が悪そうな顔でこちらを睨む。

そして思わぬ言葉を茶枳さんが発した。


「姫様、わかっていますね?反則敗けです。」

「………はい?」


今、明らかに負けた僕ではなく紺さんが負け、しかも反則敗けってどういうこと!?


「まったく。ただの組手で本気で壊しにかかるなんて、やり過ぎですし、負けず嫌い過ぎですよ、姫様。」


あー、そういうこと。

というか、腕とか肩、壊されかけてた!?危なっ!?


「否定はしない。

だけど、組手とはいえ負けるのだけは嫌です。」


不機嫌そうな顔をして答える紺さんに茶枳さんは呆れ顔で溜め息をつき、


「………とりあえず姫様。

頭を冷やすために温泉に行き、汗を流してきてください。

黒金君は少し話したいことがあるので残ってくださいね。」


茶枳さんはそう言い、紺さんはそれに従って道場から出ていった。

そして、残った僕は何を言われるのかビクビクしながら正座で待機する。土下座する準備はできているぞ。


「さて、黒金君。」

「はい。」

「……とりあえず私みたいな土下座は今すぐやめて、顔をあげましょう、ね?

まだこれから話始めるところなんですよ?」


声をかけられ、反射的に土下座してしまった僕にそう言われたので、顔をあげると困惑した表情を浮かべた茶枳さんが、‘魂魄用無’を片手に立っていた。

ふむふむ、なるほど。


「…えっと……やるなら一思いに頼みます。」

『よし、けー君、落ち着こう。

この刀、刃はないから斬られないってことを思い出そうか?』


慌てて刀から白鬼院小梅さんが声をかけるが、僕がそれを考慮していないわけがない。


「いや、でも茶枳さんなら……茶枳さんならきっと……」

『……短い付き合いだったね、けー君………』

「ちょっとぉ!?

私じゃ刃のない刀で人どころか物斬るのだって無理ですからね!!

むしろ刀使うぐらいなら素手の方が確実に殺せ…じゃなくて!!なんで私が黒金君を殺す前提になってるんですか!!」

「え?だって僕が紺さんの反則負けとはいえ、勝ったから秘密裏に……」

『おなじーく』

「しませんから!!

というか、小梅さんは私の尋ねたいことわかっているっぽいのに、ノリでそういうことしないでくれませんか!?」


茶枳さんは顔を赤くして叫ぶように否定する。

おお!!よかった。命は助かったらしい。

あと白鬼院小梅さんは基本ノリと勢いの人で、ギャグを挟まないと死んじゃう病なので、気にしたら負けですよ、茶枳さん。


『いや、だっちゃんからかうの楽しいし♪』


そして悪びれないまでがデフォなので頭を抱えても無駄ですよ、えぇ。経験者として語らせてもらいますよ。


「……………よし、切り替えましょう。

黒金君、尋ねますが、あなたは今までの体術で手を抜いていたわけではないですよね?」

「いや、そんなことしてませんって。」


気を取り直した茶枳さんからまで紺さんと同じような問いかけをされる。

そんなに違いすぎていたのだろうか?


「すごく不思議そうな表情ですけど、むしろ私の方が不思議なんですけど?

さっき、剣を振り回しているとき、体術に通じる足さばきや動きが完璧にできてたんですが?

しかも、教えたのにできなかった動きとかも完璧にやっていたんですけど。」


ものすごい疑いの眼差しを向けられる。

僕は無実です、茶枳さん。


『……ちょーっと気になったんだけどさ、けー君。

カガチヒュドラぶっ倒した時って、どやって倒したの?』


唐突に白鬼院小梅さんが何故かあの時の話を聞いてきた。


「はぁ?なんでまた急にカガチヒュドラとの戦いについて?今の話に関係なさそうですけど?」


というか、ほら。

神代の魔物を倒したって急に話すから、茶枳さんは目を見開き驚いているじゃないですか。


『いいからいいから。』

「いや、よくないですからね!?なんですか、カガチヒュドラ討伐とか!?」

「あー、いや、‘奈落’に落下しちゃって、そのあと探索してたらカガチヒュドラに遭遇して、自家製の使い捨て魔剣・聖剣数十本で斬りまくってから、とどめにロケランをぶっぱなしただけですよ。

というか、嘉納武蔵さんからの手紙に書かれてなかったんですか?」

「……えぇ。あそこに行かなきゃこの刀に会えないのは知ってますけど、カガチヒュドラ討伐は初耳ですよ。

てっきりカガチヒュドラは武蔵さんが引き付けていたのかと。

それにしても、えー……カガチヒュドラ討伐したとかもう姫様まずくないですかね……」


とりあえず茶枳さんに簡単に説明するとなんか頭を抱えてしゃがみこまれた。

まぁ、うん、そうなりますよね。なんかすいません。


「もう一回聞くけど、神代の魔物‘巽’を、‘【夜刀神】の一部’を、穢れの象徴たるカガチヒュドラを倒したって本当なんですか?しかも剣で?」


茶枳さんが信じられないというより、信じたくないという顔で見てくるが、こちらとしても、なんか聞き捨てならない知らない情報があるんですけど!?

なに、【夜刀神】の一部って!?


平塚才人さんの記憶を見たとき、確かカガチヒュドラはカガチヒュドラであって、現:夜刀神国のトップであり、平塚才人さん達の戦友である【夜刀神】とは関係なかったような……


「あれ?その顔はご存知じゃない感じですかね?

【夜刀神】のハヤトさん、あの戦争のあと、自分の力不足を悔いて、しばらく行方不明になったと思ったら、自分はカガチヒュドラであり、カガチヒュドラは自分であるとかわけのわからないこと言いながら戻ってきたんですよ。

でも、あの天使共に造られた対魔王生物兵器が私と同じ亜神の気配を纏った上、カガチヒュドラ同様のことができれば信用するしかないですし、何より榛名の姐さんは『規定路線よりも早くて助かる』なんて言ってましたからね。

あー、それならいっか、と話は終わったんですよ。」


ふむぅ……平塚才人さん達のこっちでできたクラスメイトである夜刀神ハヤトさんこと、天使によって造られた対魔王生物兵器【夜刀神】がそんな存在だったとは………

やっぱり僕の【役職】によって知っているこの世界の知識は人間サイド、それも天使によって書き換えられた知識なのかと改めて思い知らされた。


しっかし、山村榛名さんは何度も歴史をやり直してるって言ってるわりに、“異能”については詳しく話してこないし、平塚才人さんは【魂占術師】で把握してるから詳しく聞こうとしなかったから、どこまで、そして何を彼女は知っているのかわかんないなぁ……

僕が今、ここにいることすら彼女の思惑通りだとしたら、なんとも気持ち悪いことだ。


そんなことを考えていると茶枳さんは、ふぅ、と溜め息をついてから、


「………話を戻しましょうか。脱線しましたし。

で、剣でカガチヒュドラを倒したっていうのはマジってことなんですね?」

「いや、正確には最後ロケランでズドーンと爆殺したんですけどね。

それのお陰で眼球が拾えて、こっちの目にカガチヒュドラの目を移植できたって嘉納武蔵さんは言ってましたね。」


そう言いながら某西海の兄貴みたいな布で覆っている右目をめくってカガチヒュドラから移植した目を見せると、茶枳さんは再び頭を抱えてしまった。


「なんなんですか!!なんなんですか、これ!!

もうなんか色々とおかしくて、ツッコミ所ばかりなのに、それ以上に頭が痛くなるようなことばっかで……剣でカガチヒュドラを相手できる時点で頭おかしいし、ろけらん?とか言うので爆殺って何!?って感じだし、あげく手紙に書かれてた失明した右目がカガチヒュドラの目になってるとか、あー、もう!!なんなんですか!!」


………なんだろう、この茶枳さんのSAN値を削ってしまった感は。


『ちょっとSANチェック判定失敗しただっちゃんは置いといて、ボクが建てた仮説なんだけどさ。

けー君、もしかして剣の才能だけ特化してるとかあるんじゃない?』


と白鬼院小梅さんは茶枳を放置して話を進める。

というか、またわけのわからないことを。


「いや、ないんじゃないですか?

だって前にそっちで鍛えた時、剣を振っても安定と信頼の運動音痴だったじゃないですか。」

『うんにゃ。確かにそうだったけど、多分けー君、長いこと剣を振るうとかなかったから体が鈍ってて、それが魂に影響してたとかあり得ると思うんだよねぇ。』


うーむ。そういうこともあり得るのか……

……あ、いや、ないな。


「タウロスオーガを倒した時も剣振るって戦って倒しましたし、やっぱり鈍ってるってのはないんじゃないですかね?」



…あ、しまった。

茶枳さんが今の発言で「なんで神代の魔物2体もほふってるんですかねぇ!?」とますます頭を抱えてしまった……


『あー、そっか…うーん。確かにそうだねぇ……けー君不思議な子だねぇ。』


白鬼院小梅さんはなんとも難しそうな声でしみじみと言う。

謎は深まるばかりである。





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