錬金術師、申し込まれる
「丁重にお断りします!!」
クールな感じだった紺さんはキャラが原型をとどめないほど声を荒げて拒否する。
紫さんはそれに首を傾げ、
「でも、紺ちゃんが言う通り、黒金君はあなたより強い男子よ?」
「違います、母様。
あれはお祖母様の力であって、黒金さんの力ではありません。
よって、私に勝ったのは無効です。」
母親からの言葉にもぶれることなく反論する紺さん。
まぁ、さっき謝罪に来たときも似たようなこと言ってたし、事実、あれは平塚紅さんの力であり、僕の力じゃないから間違ってないね。
「えっと……こちらとしましても、彼女の主張に賛成します。
それにここまで嫌われていたら流石にどうかと思いますし、まだ会ったばかりですよ?
あと、決定的なことを言えば、僕、好きな人がいますから、お断りさせてほしいです。」
こういう時ははっきり自分の主張と事実は言っておくといいはずだ。
僕が抱く高町なずなさんへの純愛を示しておかないとダメでしょ、人として。
もしもの時に期待を与えないためにも。
…………これだけ格好つけて高町なずなさんにフラれたら笑い話だよな。
そんなことを考えていながら、状況を変えようと動いた僕に、
「そこをどうか!!そこをどうか頼む!!」
「うちの孫娘の今後がかかっているんだよ、剣太君!!」
平塚夫妻、ガチの土下座である。
それに合わせるように、この場にいた3人の妖狐族の人達も、
「一夫多妻は妖狐族的に問題ないですから、何卒頼み申す。」
「どうか120年ものの喪女…じゃない姫様を貰ってやってください、黒金様。」
「もう鬼籍に入った姫様の幼馴染み達やワシ達は婚姻する中、独り身を拗らせて喪女なままなのはかわいそうなんじゃよ。」
と口々に言って土下座し始める。
多数決的に5土下座で勝利である。
いや、だからと言って可決はしないけど!!
「な、なんでみんなして土下座するんですか!!
といいますか、銀姉さん、そんなこと思ってたのですか!?
あと琥白は覚えておきなさい!!誰が喪女ですか!!」
紺さん、大困惑と憤慨である。
その気持ち、よくわかる、うん。
そしてついには、
「大変、非常に大変不本意ではありますが、姫様を喪女にしてしまった責任は私にないとは言い切れません。
どうか、どうか姫様を貰っていただけないでしょうか?」
ついさっきの初遭遇時並みに茶枳さん、綺麗な土下座である。
というか、なんかもう、茶枳さん、土下座の手慣れてる感が半端ない。
「母親の私からもどうかうちの娘を貰っていただけないでしょうか?
妾でも構いませんから!!」
「師匠に母様まで!?」
流石にトップである紫さんが土下座したら色々とまずいだろうからされなかったが、頭は下げられた。
この瞬間、紺さんの味方はいなくなった。
ついでに僕の味方もいない。
おかしい。これだけ人がいて、当事者達の味方が誰もいないだなんて。
そんな所に救いの手が差し伸べられる。
「いやいや、みんな、落ち着こうよ。」
僕の高町なずなさんへの純粋な恋心を知っている白鬼院小梅さんだ。
………あれー、なんか嫌な予感しかしない。
「いいかい、みんな。
こーちゃんはけー君が自分の実力で勝ったら結婚するのもやぶさかじゃないって言っているんだよ?
そして、さい君にくーちゃん。僕達が育てたけー君が負けると思っているのかい?
つまり、もう一度、2人で戦わせて、白黒はっきりつけさせれば問題解決だろ?」
「何も解決してないですよ!?僕の意思はどこにあるんですか!?」
誰だ、救いの手とか言ったの。
救いの手どころか王手じゃないか。
「いいかい、けー君。
向こうは別に愛人でも構わないって言うんだ。
つまり君のなずなちゃんへの恋心を抱いたままでもOKなんだよ。
つまり、男子なら誰しもが夢見るだろうハーレムを許可されたんだよ?
そこに何でけー君の意思を尊重する必要があるのさ?」
「真顔でおかしなこと言わないでくださいよ!!
僕が間違ってるみたいじゃないですか!!
そりゃ、確かにハーレム物は嫌いじゃないですけど「よし、みんな言質はとったよ」話を最後まで聞いてくださいよ!!」
他の人達、顔を上げてから、歓喜の表情でこっちを見ない!!僕は認めてないですよ!?
紺さんは呆れたようにため息をつき、
「くだらないですね。
私と黒金さんが戦ったところで結果は目に見えていますよ。
つまり戦うだけ無駄です。」
「へぇ〜負けて婚姻するのが怖いんだ。
そりゃそうだよね。120年も喪女拗らせてるから、臆病にもなっちゃうよね?
ヘイヘーイ、バッタービビってるぅ!!」
「………いいでしょう、表に出なさい。今すぐ叩きのめしてあげますよ。」
殺意のこもった声で促してくる紺さん。
なんで煽ったんですか、白鬼院小梅さん!?
なんか紺さんがすっごいやる気満々、いや殺る気満々になったじゃないですか!?
「よし、両者了解を得たところで決まりです。
1週間後、姫様の嫁入り決定戦祭を行い、そこで決着をつけましょう。
そうと決まれば蒼介、琥白、銀火。一族全員に通達しなさい。」
「「「はっ!!かしこまりました!!」」」
土下座を解除して素早く茶枳さんが指示し、3人は蜘蛛の子を散らすように、ここから出ていく。
というか、僕、了解してないんですけどぉ!?
「じゃ、けー君、頑張ろうか。」
このカオスの元凶たる人物はニッコリ笑いながらそう告げる。
くっそ!!めちゃくちゃ愉悦してる!!
「あぁ、剣太。
1週間、みっちり鍛えてやるからな。」
「私達なしでもカガチヒュドラを倒せるぐらい強いところ、見せてあげよう!!」
師匠に当たる平塚夫妻はこちらを1週間鍛え上げる気満々である。
というか、先週からずっと僕、鍛練してない?また修行パートなの?
そして僕と同じ巻き込まれた被害者たる彼女は、
「私の強さを証明します。絶対に負けません。
決闘です、黒金剣太さん。」
被害者から加害者側にまわって、とても殺る気満々だった。
「どうしてこうなったぁぁぁぁ!!」
僕の悲痛の叫びは虚しく響くだけだった。




