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錬金術師(アルケミスト)の世界革命  作者: 悠々自適
第1章 隠れ里の孫娘
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錬金術師、推薦される

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


「かか様!!」


さっきまでの大人の色香放っていたとは思えない勢いで紫さんは平塚紅さんへ抱きつきにいくが、空ぶって床にぶつかる。

その姿に平塚紅さんは悲しそうな表情を一瞬浮かべてから笑みを浮かべ、


「まったく。

あれから500年ぐらい経つのに慌てん坊なままなんだから、紫ちゃんは。

今の私は目に見えるだけの状態なの。

だからもう会えないと覚悟していたあなたを撫でることも抱き締めることもできないの。」


「う〜……かか様の意地悪!!」


「わがまま言わないの。

こうして話せるだけでも私は嬉しいんだから。」


涙を流す平塚紅さんの言葉に思わず涙がでかけるが、それよりも紫さんのキャラ崩壊にも近い幼児退行に困惑してしまう。

まぁ、4歳で両親と今生の別れをし、それから500年生きて再会ともなれば………あれ?妖狐族の寿命って長くても200年じゃなかったっけ?


首を傾げる僕をよそに、平塚紅さんと紫さんは互いに涙を流しながら会話する。


「それにしても我が孫娘だけじゃなく、紫ちゃんまで【天狐】になるなんて、そんなに旦那様がよかったの?」


「どういうこと、かか様?

私はかか様達と別れて10年後ぐらいに【天狐】になって、藍丸とは130年ぐらい前に婚姻したんだよ?」


「え!?【天狐】って最愛の人からの愛情でなるんじゃないの!?」


お互い首を傾げて相手に尋ね合う。


「では、ここでもう1人のゲストを召喚!!」


それを見ていた白鬼院小梅さんが言って指を鳴らすと、パッと平塚才人さんが現れた。


「話は聞かせてもらった、死ね、駄狐!!」


「あぁん!?やんのか、ロクデナシ!!」


そして、出現と同時に茶枳さんと睨み合う。

この2人、本当に仲悪いなぁ


「2人とも睨み合わないの!!紫ちゃんの教育に悪いから!!」


平塚紅さんがポンコツツッコミで仲裁に入る。

紫さんの教育に悪いって……

平塚才人さんと茶枳さんはお互いを指差し、


「「こいつが悪い!!」」


「どっちもだから!!」


平塚紅さんに叱られる。


おかしい。

涙の感動の再会なはずなのに、3人のやり取りを知らず、理解が追いつかない周りの人達は困惑、3人のやり取りを知っている僕も困惑、そしてこの元凶たる白鬼院小梅さんは爆笑しているのである。

最近思うんだけど、白鬼院小梅さん、実はただしっちゃかめっちゃかに場を荒して高見の見物をする前田みたいな性格じゃないのか?


「で、才人君。なんで来たの?」


さりげなく妻から毒舌を受けながら、何事もないように平塚才人さんは答える。


「ん?あぁ、くーちゃんと紫ちゃんの食い違いの説明をしに来たんだよ。」


「食い違い、ですか、とと様?」


きょとんと首を傾げる紫さん。

完全に幼児退行してません、あれ?なんかかわいいけど。


「母様、真面目に聞いちゃダメです。

お祖父様はいつもテキトーで嘘つきでペテンだと師匠から聞いています。」


「紺ちゃん!!失礼なこと言わないの!!」


そう言って紺さんは平塚才人さんを睨み、紫さんが諫めるように呼び掛ける。


「…………おい、コラ、駄狐。」


「駄枳ちゃん………」


平塚夫妻は元凶の茶枳さんをジト目で見る。


「じ、事実じゃん!!

勝手に動いて、紅ちゃん貰って、子供作って、生きて帰るとか言って結局2人とも私に紫様預けて死んだじゃん!!

テキトーで嘘つきで間違ってないでしょ!!」


その視線に慌てて反論する茶枳さん。必死である。

そして、その最後の言葉は平塚夫妻には結構ダメージがあったようで、2人とも沈痛な表情を浮かべる。


「まぁ、確かに茶枳ちゃんの言う通りか………」


「駄狐ごときに正論言われると凹むな、うん。」


「すっごい私をバカにしてやがりますね、クズ男!!」


キーッと悔しそうに足で床をバンバン踏む茶枳さん。

なんか、こう、もう少し落ち着いた雰囲気のある人……だったと思ったけど、白鬼院小梅さんに見せられた過去でも、ついさっきの初遭遇でもこんな感じだった気がする。

残念美女か……


「まぁ、とりあえず話の続きな。

孫娘に嫌われているお祖父ちゃんとしてはここらで1つ格好をつけさせてもらおうか。」


そう言うと平塚才人さんの雰囲気がいつぞやのように暗闇の中で見るマネキンのような気味の悪いものに変わり、そして戻った。

そして、平塚才人さんは目元を手のひらでぬぐってから言う。


「なるほどな。

紫と紺の2人とくーちゃんは同じ【天狐】だが、違う存在だな。」


その発言に僕だけでなく、他の人達もざわめく。


「ど、どういうことなの、才人君!?」


「そうだな………

くーちゃんは俺と相思相愛となり、揺るぎない絆で結ばれたから【天狐】へと至った。

一方、紫と紺はそもそも【天狐】へとなるだけの素質があり、紫の場合は俺達がたった4年だけだったが愛情をかけたことによって開化した感じだ。」


平塚才人さんの説明に紫さんと茶枳さんはハッとしたような表情を浮かべる。


「で、面白いのは紺だ。

【天狐】ではあるが、完全な状態じゃないな。

なんつーか、【天狐】ってのは、くーちゃんなら揺るがない愛、紫なら全力を注ぐ家族愛、という感じで、それぞれ何かしら特定の愛情を受けること、与えることで目覚めるみたいなんだよ。

だから、まだ紺は素質だけで【天狐】になっている感じだな。

だから、くーちゃんからすれば未熟で不完全に見えるわけだ。」


「嘘ですね。

私が力を覚醒しきっていないのだったら、【天狐】として力は振るえませんし、この里で師匠と母様以外に負けないほど強くないはずです。

そもそも愛情で目覚めるだなんてあり得ません。」


「いえ、姫様。あり得るんですよ、それが。」


平塚才人さんの解説に紺さんが反論するが、茶枳さんがまさかの平塚才人さんを援護をする。


「癪ですが、確かにその通りなんですよ。

紫様が14の時、自分を捨てたと思っていた両親達が、短命であった自分を生かすために【剛狐】にまでさせ、愛情を注いでいた、と話したことがきっかけとなり、それから旦那様や榛名様、武蔵の姐さん達からも色々教えてもらい、そして現世神たる【天狐】へと進化したんですよ。」


その説明に再び平塚夫妻は膝をついて落ち込む。


「捨てられた……」


「そんな風に思われていただなんて……」


「ち、違いますから、とと様、かか様!!

あの頃は反抗期みたいなものと、とと様達がいない寂しさから荒んでいただけなんです!!

今はもうとと様達が生後3年で死ぬといわれていた【紫狐】だった私を生かすために【剛狐】に育てたこととか知ってますから!!」


ガチ凹みの両親に慌てて声をかける紫さん。


なんだか微笑ましい。


そんな中、平塚才人さんの説明にショックを受け、呆然としていた紺さんが再び問いかける。


「では、お祖父様。

私が完全になるためにはどのような愛が必要なのですか?」


「あぁ。流石にそれははっきりわからん。」


平塚才人さんの堂々とした、わからないという答えに紺さんは失望と嘲りの表情を浮かべ。


「わからない、だなんて、やっぱり嘘臭いですね、お祖父様。」


「まぁそれは悪いとしか言えないな。

俺はいくら他者の【役職】や“異能”が見えるからといって、自分の目には見えない魔力の流れや感情といったものを見ることはできないからな。

ただ、言えることは1つある。

恋をしてみろ、ってことだ。」


悪態をつかれてもなんということがないように平塚才人さんは話を受け流し、そう教える。

というか、元アンチ恋愛至上主義だった平塚才人さんが言うとギャグにしか聞こえない………


祖父の言葉に紺さんは顔をしかめ、


「恋?私にはそんなもの不要です。

私より弱い男なんかお断りですよ、お祖父様。」


と答える。

そして、その彼女の言葉に頭を抱える平塚夫妻と苦笑いの紫さんとひきつった笑顔の茶枳さん。


「やっぱり駄狐に任せるんじゃなかったか……」


「まさか行き遅れの代名詞の駄枳ちゃんと同じことを孫娘が言うなんて……」


「い、一応、私の夫はだっちゃんが望月先生と作った子だから、だっちゃんは行き遅れじゃないですよ、かか様。」


「そ、そうですよ!!もう行き遅れの汚名返上は済んでるんですよ!!」


「ううん。ヘタレだっただけで茶枳ちゃんは相手がいたから行き遅れ(笑)だったんだよ。

相手がいないこの子がそう言うのは問題なんだよ……」


おぉう。なんだか急に雰囲気が漫画とか小説とかで行き遅れキャラが親戚にやんややんや言われている感じになっていた。


「い、行き遅れじゃないですから!!

ま、まだ私は120歳です!!」


「寿命のない現世神の天狐だからいいが、普通の妖狐族なら行き遅れどころか、すでに死んでるな。」


平塚才人さんの言葉に紺さんは膝をつき、本気で落ち込む。


あと、天狐は現世神になるのか。

だから紫さんは500年経っても生きているわけか……

そして、紺さん、同い年ぐらいの見た目で120歳なのか。


「族長、宰相様、それから魔王陛下様方。

姫様の主張、もはや解決しておりませんか?」


どんよりとした空気のなか、僕同様蚊帳の外にいた、銀火と呼ばれた老婆が唐突に会話に入っていった。


「主張の解決?」


「姫様は自分より弱い男と恋するのが嫌なのでしょう?」


………おや?なにやら嫌な予感がしてきたぞ。

他の人達は何か納得したように頷きながらこっちを見てくるし、平塚夫妻は光明を見つけたような視線を向けてくるし、白鬼院小梅さんはニマニマとした笑みで見てくる。

背中を伝う冷や汗がマジヤバいと感じさせてくれる。


そして、嫌な予感通り、老婆の言葉は大変困るものだった。


「ならば、姫様を倒した黒金様がお相手なら問題ないのでは?」






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