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錬金術師(アルケミスト)の世界革命  作者: 悠々自適
第1章 隠れ里の孫娘
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錬金術師、謁見してもらう


白鬼院小梅さんに変なフラグを建てられた後、族長の紫さんに謁見を取り計らってもらった。


流石に今のツギハギだらけの学生服ではまずいと思い、ちゃちゃっと作った礼服を着て、僕は謁見する大広間へと向かった。


『しっかし、生産チートだねぇ、けー君。

わずか15分でそこまでしっかりした礼服作っちゃうとか反則だよ?』


「いや、反則って言われましても……確かに僕もまさかこんなに早く作れるとか想定外でしたけど。」


イナーヴァラビットの毛皮と竹の繊維を色々錬金しながらイメージして作ったら、即席ながらできてしまったのである。


案内の女中さんについていき、いよいよ謁見会場である大広間に来た。


「うわ、緊張してきた。」


『大丈夫だって。

だっちゃんも言ってたじゃん。

「畏まらなくても、挨拶して手紙を渡せば公式としての謁見は完了で、あとからゆっくり話せばいい」

ってさ。

礼儀と作法だけしっかりしておけば大丈夫だって。』


白鬼院小梅さんがそう言って鼓舞してくれるけど、流石にこういうしっかりした場は初めてだから緊張は解けないです、うん。


母さんは黒金家の1人娘だったうえ、若干実家と現在折り合いが悪いらしく、あまり親戚付き合いがない。

父さんは両親も親戚もおらず、育てた義父、一応僕の祖父にあたる人物も僕が生まれる前に鬼籍に入ったらしい。

よって、生まれてこのかた僕は冠婚葬祭とかのきっちりした公の場に出たことがないので、どう動けばいいのかわからないため、より緊張してしまう。


「では、お入りください、お客様。」


案内してくれた女中さんに促され、僕は大広間に入る。

中には蒼髪無精髭の中年男性、白髪赤目の女性、銀髪の老婆が大河ドラマとかにある戦国時代の会議するとかみたいに上座から真ん中を開けるよう横に座し、上座にはアメジストのような綺麗な透き通るような髪をした女性と、横に茶枳さんが正座していた。

視線に促され、僕は真ん中に用意された座布団に正座する。

というか、座布団あるのか。


「では、これより謁見を行います。

客人・黒金剣太様。手紙をこちらに。」


茶枳さんの言葉に懐から嘉納武蔵さんから預かった手紙を取り出し、近くにやってきた蒼髪の中年男性に手渡す。

そこから手紙を茶枳さんが受け取り、紫髪の女性にも渡し開封する。


しばらく手紙を読んでいるため沈黙が続いた後、


「確かに。

大義でした、黒金剣太様。」


紫髪の女性に頭を下げられ、こちらも慌てて頭を下げ返す。


「では、これにて公式謁見を終えます。」


茶枳さんの宣言とともに場にいた人全員がバッと息を合わせたかのように姿勢を崩し、


「あー、疲れた。」


「公式謁見とかいつ以来なんですか……」


「ワシが150年生きてきた中でも記憶がないからかなり昔じゃろうな。」


「そうですねー

確かハヤト君と榛名の姐さんが紫様の族長就任の時に来たとき以来ですから、約450年ちょい前ですかね。」


「そうだったかしら?私の記憶だとその300年後ぐらいにだっちゃんの結婚報告として望月先生がいらっしゃった時があったと思いますけど?」


「あぁ、そうじゃそうじゃ。

ワシの両親がよう話しておったなぁ。

『あの宰相様があそこまでヘタレな姿を見せるとはいいものを見た』と。」


「だぁ!!言わないでおいたのに何で言うんですか、紫様!!

あんた達もニマニマしない!!」


と急に宴会か何かのように騒がしくなった。

えっ!?えっ!?


『だから言ったでしょ、緊張しなくていいって。』


「いや、さっきまでの厳かな雰囲気はどこに!?」


あまりの変貌ぶりに動揺していると、紫髪の女性が話しかけてきた。


「あぁ、ごめんなさい。

公式謁見として一応形こそあるけど、そうやらないから皆も緊張していたのよ。」


そう微笑みながら説明してくれたのが、平塚才人さんと平塚紅さんの愛娘、【紫狐】にして【剛狐】、そして【天狐】へと昇華した平塚紫(ヒラツカ ムラサキ)さんだ。

紫色の、突然変異体、いわゆるアルビノみたいな【紫狐】の証たる長い髪は艶やかであり、母親似のタレ目にセクシーな泣きホクロ、紫色と黒の着物を纏い、その服装がきついと主張するような爆乳安産型という、見惚れる美人である。


『やっぱりメロメロになったね、けー君。』


「濡れ衣だ!?

男性なら誰しも見るって、あんなの!!」


「あらあら。若い子にそういう目で見られるなんて久しぶりね。」


白鬼院小梅さんによる冤罪に思わず失礼な言葉を発してしまったが、クスクスと可笑しそうに笑う紫さん。

よかった、寛大な人で。


「で、紫様と宰相様。

武蔵様からはなんてあったんです?」


蒼髪の男性が訪ねると紫さんは面白そうに、茶枳さんは嫌そうな顔をした。


「とりあえず紺を呼んできてもらえるかしら?」

「姫様をですか?」


「宰相様が嫌そうということは…なんとなく読めたのう。」


「やかましいですよ、銀火(ギンカ)!!」


白髪の老婆にそう言われて、ますます機嫌が悪くなる茶枳さん。

しかし、姫様、つまりさっきの天狐の子、紺さんが関わっていて、茶枳さんが不機嫌になる……婚姻を勧められたとか?

というか、さっきのやりとりがあったから、微妙に気まずい感じになりそうだなぁ……



ちょっと憂鬱になっていると、入ってきた襖の向こう側から、


「族長、紺です。」


「入っていらっしゃい。」


「失礼します。」


と呼ばれた紺さんが入室してきた。

彼女はこちらを一瞥し、僅かに嫌そうな表情を浮かべてから紫さんの前へ進む。


やっぱり僕のこと、相当嫌っているらしい。


「何用でしょうか?」


「そんな他人行儀じゃなくていいよ、紺ちゃん。

今は私用だし、いつもみたいに母様でいいわよ?」


「!!

お客人がおられるのですよ、族長!!そのような発言は…」


「あぁ、大丈夫ですよ、姫様。

黒金君にはもうこっちの関係は伝えてあるから。」


「……わかりました、母様、師匠。」


配下のような座り方から、リラックスしたような座り方に彼女は変わる。

真面目な感じだなぁ、今のやり取りからして。


「それで何故私を呼んだのでしょうか?」


「とりあえず2つお話があるからよ。

まず1つ目。

あなたのフシミ警備隊隊長の任を解きます。」


その言葉に紺さんだけでなく、茶枳さん以外の3人の妖狐族の人達もビクッと震えた。


「…………………それは私があの男に負けたから、ですか?

それとも、正式な使者の彼を攻撃したからですか?」


紺さんはこちらを睨み付けるように見ながらそう尋ねる。

……流石に僕のせいで解任とかなら助命嘆願した方がいいよね?


しかし、紫さんは首を横に振り、


「いいえ。

あなたはきっちり仕事をしたまでですし、それを咎めるつもりはないですよ?

それから、負けた、と言っても、かか様を相手になさったんでしょ?つまり、負けるのは当然です。」


と否定する。


というか、平塚紅さんの力を僕が使ったことは知っているのか。

……いや、知っているのは紫さんと茶枳さん、あとは当事者だけだったらしく、他の妖狐族の人達は困惑というか、混乱してるっぽい。


「紫様、紫様の母上、つまり天狐紅様の力を使者殿が使うとはどういうことですか?」


銀髪の女性が横から尋ねると茶枳さんが答える。


「紫様の父親が‘魂を見透かす魔王’というのは知ってるよね?

あの男が使っていた刀は、それに封印された人達の役職を借り受けることができるのよ。

で、あの男が使ってた刀を黒金君は継承した、と武蔵の姐さんが手紙に書いているよ。」


そう言って手紙をヒラヒラと動かす。


「しかも、それに加えて黒金君は封印された人達を自分に憑依させることができるらしくてね?

それで刀に封印されてる紅ちゃんを黒金君は憑依して、姫様と戦った、というわけよ。」


『正確には稽古付けらしいけどね、本人曰く。』


唐突に腰に帯びていた刀から白鬼院小梅さんが声をかけ、事情を知らない人達はギョッとしている。


「インテリジェンスソードだと……」


「稽古付けとな?」


「ふ、腹話術ですか!?」


なんか驚かせてすいません。


『そそ。稽古付け。

使いこなせていない力で戦う未熟な天狐だったから、見かねたらしいよ。

あ、私は白鬼院小梅だよ。

この刀‘魂魄用無’の中で魂の管理・封印を担っている程度のか弱い美少女だよ。

親しみを込めて小梅ちゃん、と呼んでもいいよ』


いつもよりやや長い自己紹介をする白鬼院小梅さん。

ちなみに、小梅ちゃんと呼んでいるのは、彼女のクラスメイトでも少ない、微妙な浸透率である。


「…これは驚きましたね。人格を有するどころか、かか様とと様同様名字まであるとは……

刀の銘と違う名前なのはわけが?」


「うんにゃ、紫ちゃん。

私は君のご両親と同級生、んー、同じ人間でね。

自分で自分をこの中に封印したのさ、あの忌々しい天使達に殺されたときにね。」


僅かに白鬼院小梅さんから殺気が漏れでる。

……そういえば白鬼院小梅さんがどうしてこの中に封印された、いや、したのか聞いたことがなかったか。今度聞いてみよう。


「はっ!!

それよりも母様。

では、なぜ私は解任されたのですか?」


あ、忘れてた。

本題は紺さんが呼ばれ、解任されたのは何故か、だった。

僕以外の人達も、そういえば、と表情にでている。


「あぁ、そうそう。

で、呼んだ理由の2つ目。

紺ちゃん、彼と一緒に諸国漫遊の修行に行きなさい。」


紫さんはにっこりと笑ってそう告げた。





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