錬金術師、建てる
「えっと………とりあえず入ってきたら?」
僕を隙間から睨むように見てくる彼女に声をかけると、そこから離れて縁側から天狐の子は入ってきた。
改めて見るとかなり美少女だなぁ。
平塚紅さんの孫とはいえ、彼女と違い、つり目なクール系っぽい感じだ。姉御肌キャラの次に女子に好かれるタイプの。
というか、ポニテが素晴らしい。
艶のある綺麗なサファイアのような長い髪を纏めることで耳が見え、かつ少し動くだけでゆらゆらと揺れるのが実にいい。
ゆらゆらと揺れるのはポニテだけじゃないけど。というか、ゆさゆさが正しいか。
ブラなりサラシなりしていないのだろうか?クーパー靭帯が心配になる。
せっかく素晴らしいポニテ巨乳なんだから、より美しさを得て、保ってほしいなぁ。
そんな彼女は、僕の前で正座し、再び睨むように見てくる。
親の仇を見るようなぐらい睨まれてるんだけど……
「あの……何か僕、しました?」
もしかしてコテンパンにしてしまったことを怒っているのだろうか……
あれは僕の責任なのか?平塚紅さんの暴走なんじゃ……
はっ!!そうか、これが嘉納武蔵さんのいう‘責任’か!!
僕がそう考えながら何を言われるか身構えていると、彼女は、
「本当に使者だったというのに、私は攻撃し申し訳なかった。」
と声を出してから頭を下げてきた。
意外!!それは謝罪!!
思わずジョジョみたいになるレベルで不意を討たれた。
というか、正座のせいでほぼ土下座にしか見えない。
とはいえ、僕としては彼女の言い分もわからないことはないから、しっかり伝えなくては。
「いや、それは仕方ないですって。
僕を妖狐族を害しに来た不審者だと思って、里を守るために動いたわけなんですし。」
そう主張すると、彼女は頭をあげてキッと睨み、
「そう言っていただけるなら幸いです。
ただ、私はお婆様に負けたのであって、人間のあなたに負けたわけではないので、そこだけは勘違いしないでください。」
そう言って立ち上がり、縁側からサッと出ていった。
……え、なんで最後あんなこと言われたの?
もしかして彼女を叩きのめしたから、自分を侮られていると思われた?
んな、理不尽な。
『ぷっぷっぷ。
いやはや、けー君もフラグを建てちゃったか。』
呆気にとられていると、傍らにずっと置かれていた‘魂魄用無’から白鬼院小梅さんが笑いながら話しかけてきた。
今、絶対この人、お腹を抱えて爆笑したいのを堪えてるな。
「いや、フラグって……あぁ、再戦フラグ的な?」
よく思い返してみれば、典型的な「お前の実力、認めてねーから!!」発言からの再戦フラグっぽい感じだったか。
なるほど、つまり悔しさからの発言か。
「いやwwwそれもwwwそうなんだけどさwwwww」
堪えきれずに爆笑し始めた白鬼院小梅さん。
いったい、何がおかしいのだろう?間違ってないと思うんだけど…
『ヒント:初代天狐』
爆笑しながら何かヒントを出してきた。
初代天狐……平塚紅さん……なんかあったっけ?
………………あ。
「いやいやいやいや!!偶然でしょ!?そんなのでフラグ建ったら、晩婚化なんて起きませんって!!」
思い出した。
見せられた平塚才人さんの記憶の中に思い当たるのがあった。
平塚紅さんが平塚才人さんと出会ったとき、窮地を救われて言った言葉が、
『助けてくださってありがとうございます。だけど、人間族であるあなたの力に助けられたなんて認めません!!』
だった。
で、後の平塚紅さんの話によれば、颯爽と現れ、助けてくれた姿に惚れたけど、色々といっぱいいっぱいで余裕がなく、素直じゃなかったとのこと。
うん、確かになんか似てる。
似てるけどさぁ!!
「そんな簡単にフラグなんて建つわけないじゃんか!!」
そんなにフラグが簡単に建つなら、今頃僕は高町なずなさんに告白フラグ建てて回収されているはずでしょ!!成否は問わないけど。
『まぁね。
確かに似てるだけで、くーちゃんとこーちゃんは別人だから感情まで同じなわけないし。』
爆笑から一息つき、白鬼院小梅さんはサラッと言う。
なんだ、わかっているじゃないですか。
「そうですよ。
たまたま発言が似ているだけでフラグ云々って失礼になりかねませんよ。
だからあれは単純に尊敬する祖母に負けて悔しい!!って感じなんじゃないですかね?」
あるいは、その祖母の力を掲げる僕への嫌悪や憎悪とか。
なんにせよ、今度会った時、戦いを挑まれかねないかな、うん。
『そう、このとき、まだ彼は知らなかった。冗談で話した恋愛フラグが本当に建っていたことを。』
「変なモノローグいれないでください!!」




