錬金術師、外交する
結論から言って、あの球技大会、二度と参加したくない。
【役職】“異能”なんでもありのせいで、もうひどいひどい。
米原さやかさんが打ったフライを、彼女が祈祷して何故かタライ降らせて妨害するのはまだ優しい。
日村刀士郎さんが投げたボールはバット斬るし、香坂恭介さんは塁に滑る呪いかけるから事故多発。
一番酷かったのは一番常識人のはずの苗桐誠一さんがボールに命令してホームラン打つのとか、もう理不尽すぎた。
かなりカオスで、もう二度とやりたくないけど、悔しいことに確かに魂の鍛練にはなった。
僕も瞬間的に何か作らなければボールに触れられないし、当てれないし、最悪死んでいたかもしれなかった状況だったからだ。
一応、白鬼院小梅さん曰く「死にかけても、この世界なら私がどうにかできるし、問題ないよ」と保証はあるらしいが、誰が好き好んで死のうというのか、というね?
そんなこんなで、なんとか平塚才人さん率いる魔王チームが27対23で勝利し、鍛練終了として、僕は意識を戻すこととなった。
………ところで、岩をも砕ける金属バットとか、グローブという名の某爆乳ハイパーシノビバトルにでてくるような手甲とか、スタートダッシュと同時に音速まで加速できるスパイクとかどうしよう、これ。
というか、この世界で作ったのに、空間収納に入れたら現実世界に持ち込めるとか反則過ぎないかな?
なんてぼんやり考えながら目を開ければ和風の天井が見えた。
「あ、意識を戻されましたか。
誰かおるか?宰相様にお客人が目を覚まされたとお伝えしてくれ。」
僕の横には白衣を着たお爺ちゃん妖狐がおり、そう指示をしていた。
「お客人。体の調子はいかがかな?
診察を勝手にさせていただいたが、姫様との戦い以前にもなかなかの手傷を負っておいでだったようだいうのに、綺麗に治療されておってたまげましたわい。
特に左腕の義手は最初、義手だと気付かなかったわい。」
「えっと……」
「坊!!黒金君が目覚めたか!!」
物凄い勢いで襖が開けられ、そこには茶枳さんがいた。
ただでさえミニスカ着物なのに肉付きがいいというエロスの塊なのに、走ってきたせいなのか、その衣装が乱れて肩まで露出し、息があがっているせいでますますエロい。
役得として口移しで薬を飲ませてきた嘉納武蔵さんといい、なんでこう、思春期の男子を困らせる女性ばかりなんですかねぇ。
「宰相様、はしたないですぞ。
あといつも言ってますが、坊はやめてください。」
「【古狐】になったからといって、まだ120年ぐらいしか生きていない、赤ちゃんの頃から知っている子なんだから諦めなさい、と言ってるじゃないですかー。」
着物を直しながら答える茶枳さんに、ご老人は、はぁ、とため息をついた。
ちなみに、人間や人狼族、妖狐族の寿命は約100年。それ以上となると長老種として役職が増え、寿命が2倍、つまり約200年になるのだ。
なお、鬼夜叉族は約200年、森人族は約500年が寿命で、吸血鬼族・怪異族・妖精族は寿命はないらしい。
まぁ、ほぼ不死身たる吸血鬼族に、魔物たる怪異から進化している怪異族、現象が生物化したような妖精族だからそれぞれ寿命がないのもわからなくはない。
「じゃあ、坊。私は彼に用があるか退室してもらえる?」
「はいはい、若者使いの荒い方じゃい。」
そう愚痴りながらご老人は部屋から出ていく。
がんばれ、お爺ちゃん、応援はします。支援するとは言わないけど。
そして、茶枳さんと2人きりになった。
「さて。改めてこんにちは、黒金剣太君。」
「僕の名前……あぁ、白鬼院小梅さんですか。」
「はい。
とりあえず白鬼院小梅さんと紅ちゃんから、あなたがあの忌々しい王国に喚ばれたこと、見聞のために旅をし始めたこと、紅ちゃん達を憑依させることができること、それを制御するために魂の鍛練をしていること、その辺りは聞きました。」
「忌々しい王国、ですか。」
茶枳さんの恨みのこもった声に、やはり人間との戦いの恨みは根深いのか、と僕は改めて溝の深さを感じる。
僕の言葉に茶枳さんは忌々しそうな声で、
「そりゃ、もう!!
あの国があの忌々しいクズ男を召喚しなければ、私の紅ちゃんは盗られなかったのに!!
だけど、召喚しなかったら、紅ちゃんはみんなを守ってあの時死んでただろうし、旦那様とも出会えなかったし、紫様や紺様が産まれなかったわけで、いいこともしたから対応に困ります。」
と喜怒が混ざったような複雑な表情を浮かべる。
僕は思わずずっこけかける。
種族の問題ではなく、個人的な問題だったんかい!!
こちらの内心を知ってか知らずか茶枳さんは話を進める。
「あと、今回の勇者達はまだ矢を受けていない、というのも聞きました。
だから、矢を受ける前になんとかしてベビルベリーから逃がすよう武蔵の姐さんから小梅さんに話があったみたいです。」
嘉納武蔵さん、そんなこと企んでいたのか。
「わかりました。
じゃあ僕からは茶枳さんと族長の平t…紫さんに嘉納武蔵さんからの手紙を預かってます。」
平塚紫さん、って言おうとしたらめちゃくちゃ睨まれた。
多分あれだ。平塚才人さんの娘だと認めたくないパターンだ。
「はい、了解しました。
では、こちらの準備が整い次第、紫様との謁見を行わせていただきますので、よろしくお願いします。」
お互いに頭を下げて茶枳さんは部屋からでていく。
とりあえず外交?的なのは完了かな。
一息つくと、ふと誰かに見られている気配を感じた。
キョロキョロと辺りを見回してみると………
ジー
…………和室唯一の窓である障子の隙間から見覚えのある紫と青の中間のような髪をした子が覗いていた。




