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錬金術師(アルケミスト)の世界革命  作者: 悠々自適
第1章 隠れ里の孫娘
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錬金術師、ぶっ倒れる


憑依が解除され、死にかけながら、僕は平塚紅さんが張った火焔の壁をぶち破ってきた有角九尾の妖狐族の女性を見る。


見た目は肩まではだけた赤いミニスカ着物に短めな青のツインテール、気配から高位の妖狐族と察することができるが、それ以上に妖狐族としては異端なものがあった。

額から、まるで般若面などの鬼のような2本の角が生えているのだ。


「うぅ……師匠……」


「大丈夫ですか、紺様!!

私が来たからにはもう紺様をボッコボコにした愚物は排除しますからね!!」


尻餅をついている天狐の子を介抱しながら、こちらを睨み、


「オイコラ、ワレェ!!

うちの大切な大切な姫様をよくもまぁボコってくれたなぁ!!

骨の欠片すら残らんようギッタンギタン…の……!!!?」


ものすごいガラの悪い口調で脅してきたと思ったら目を見開き、そして手元の天狐の子を寝かせてから、瞬間的に土下座の体勢になった。

あまりにも綺麗な手のひら返しっぷりに僕だけでなく、鎮火した周囲にいる妖狐族の人達や、抱えられていた天狐の子も呆けてしまった。


「え、あの…」


「うちの姫様が大変申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!」


「えぇ…」


なんかものすごく態度が違いすぎて理解が追い付けてない。


「あの、茶枳さん?」


僕はその人物、【九尾】にして【茶枳尼天】、そして平塚紅さんの幼馴染みである茶枳(ダッキ)さんに恐る恐る話しかける。


茶枳さんは顔をあげ、畏れ多いといった表情で、


「どなたかはまだ存じ上げませんが、その刀を帯刀しているということは間違いなく武蔵の姐さんの許可を得たお方に違いありません。」


「ええっと……」


「もはやその刀を見たことがある妖狐族のものは私しかおりません故、配下の者達が多大なるご迷惑をおかけして大変申し訳ございません!!

ですが、どうか罰するのでしたら、この私の首だけで勘弁してください!!」


この言葉に周りのあっけにとられていた人達もザワザワと騒ぎ始める。

まぁ、そりゃ間違いなく立場的に最上位っぽい人が土下座しながら、自分の首で勘弁してください、とか言ったら混乱するよね。


『あー、うん。

けー君、悪いんだけど刀、地面に刺してもらえる?』


「え?はい」


白鬼院小梅さんに言われ地面に刺すと、


『さて、やってみるかな?

‘霊界公開’』


すると刀を中心とした約3メートル以内の圏内に結界のようなものが張られ、そしてゆっくりと見たことがある姿の人達がでてきた。


その人影を見て、茶枳さんは涙を流し始めた。


現れたのはお馴染み、萌え袖をもったロリババアJK白鬼院小梅さん。

先ほど憑依して無双した平塚紅さん。

そして、その旦那の平塚才人さんだった。


「久しぶり、茶枳ちゃん」


「紅ちゃん!!」


茶枳さんはその姿を見た瞬間、立ち上がり平塚紅さんに飛び付くが、あえなくすり抜ける。


「あー、一応一定範囲内で可視化させるだけだから、触れることはできないんだ。」


白鬼院小梅さんの言葉に茶枳さんは彼女を睨みながら平塚才人さんを指差し、


「じゃあ紅ちゃんを死に至らしめたこのクソ野郎に鉄槌を下せないじゃないですか!!」


「クソ野郎で悪かったな、ヘタレズ女!!」


「誰がヘタレズ女ですか!!」


と言い合いを始めてしまった。

再び周りはあっけにとられ、2人の過去を知っている僕は体力の限界で死にかけていた。



平塚紅さんの幼馴染み、茶枳さん。

彼女を一言で言うなら「シスコン」ならぬ「紅コン」。

それはもう凄まじいぐらい平塚紅さん大好きであり、彼女のために強くなろうと鍛え上げた結果、亜神や現世神と分類される存在、【茶枳尼天】に【蒼狐】から進化してしまったのである。

ちなみに、額から生えた角は鬼神とも言われる【茶枳尼天】の象徴である。


で、彼女。

平塚紅さんとラブラブな平塚才人さんがとにかく大嫌い。

そして平塚才人さんも平塚紅さんとのイチャイチャを邪魔する彼女と顔を合わせると、ミカエル達天使共と相対した時同様に忌々しそうな態度をとるぐらい大嫌い。

そんなわけで、もう顔をあわせば、お互い嫌味皮肉を言うのは当たり前、とっくみあいをするのは通常運転というほどだ。


まさに水と油、犬猿の仲である。ちょうど茶枳さん、犬科に分類される狐で、平塚才人さんは霊長類だし。

間に平塚紅さんの仲裁がなかったら、おそらく解放軍は纏まりきらなかったと思う。仲裁があるから、漫才として笑いを提供できていた感じだったし。


なお、お互い平塚紅さんが大切であるという同志ではあるゆえなのか、互いの思考を理解できるぐらいであり、かつて天使達が内部分裂を謀って茶枳さんに話を持ちかけたら、

「私が寝返ったら紅ちゃんとあの男が2人っきりになるだろう、ふざけるな!」

と逆上して叩き潰したらしい。

で、その話を聞いた平塚才人さんは、

「いっそ寝返るような奴だったら、くーちゃんと2人っきりになりやすいのに。」

と茶枳さんの目の前で言ったのである。


こんな感じの人が有角九尾の大妖狐、茶枳さんである。


ちなみに平塚才人さんの記憶を見て思ったんだけど、茶枳さん、紅コンなだけで、どうも太公望こと太鼓原望月さんに好意を抱いている節があった気がする。

名前的にどうなんだろうとか思ったんだよな、太公望と茶枳とか。




「とりあえず茶枳ちゃん。

この子、黒金剣太君を運んであげてもらえる?」


「もちろん!!ほら、周囲の皆、彼を館に運んで運んで。

‘魂魄用無’は私が運べばいい?」


「そだねー。くーちゃん、さい君、悪いけどまた一旦刀に入ってねー。感動の再会はまたあとでやるから。

あ、それからむっちゃんから手紙をけー君預かっているから、後で見といてね、だっちゃん。」


「だ、だっちゃん……というかあなたはどなたですか?」


「ん?あ、そっか。前はまだ念話で、しかも、さい君としか話せなかったから知らないか。

初めまして、さい君の同級生にあたる白鬼院小梅だよ。親しみを込めて小梅ちゃんと呼んでくれていいんだよ?」


「あ、ご丁寧にどうも。

紅ちゃんの幼馴染みで現妖狐族宰相の茶枳です。」


僕は妖狐族の人達に運ばれ始めながらそんなやり取りを見ていた。


そういえば、あの天狐の子は………あー、うん。まぁ、そうだよね。


あっけにとられ過ぎた上、尊敬する祖母に出会えばそりゃ気絶もするよね。



僕と同じように運ばれる姿を見つつ、体力の限界を迎えた僕は意識を失った。





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