錬金術師、相対する
女性の耳はエルフ耳の獣耳バージョン、10本の尾を広げていることから妖狐族であることは見てわかる。
巫女装束と軍服を足して2で割ったような衣装を纏い、紫と青の中間のような髪色のポニーテール美少女であり、その胸は豊満だった。
というか、衣装がパツパツな上、谷間が若干見えてなかなかエロい。推定B96のEカップ。
その表情からわかるのは、こちらに警戒心むき出しであることだ。
「人間、何をしにきた?」
その警戒心むき出しの声に優しく笑みを浮かべて僕は言葉を返す。
「僕は旅のものでね?
旅のついでに妖狐族の族長とその教育係さんに手紙を渡すように言われてね。」
「!!?
人間がはh…族長と師匠に手紙など信じられない。
せいぜい人間からの手紙は給仕服の女性が直接届けにくるぐらいだ。
真正面から来るのはあり得ない。
そもそも私の狐火を食らったのに死んでいない時点で危険人物に変わりはない。」
一瞬動揺してから、まくし立てるようにこちらを否定してきた。
うーん……やっぱり直接送ってもらうべきだったか。
「えっと……その人から任された、って言ったら信じてもらえる?」
「否。」
「ですよねー。」
なんかヤバくないかな、これ?
具体的には不審者として命を奪われそうなタイプ。
冷や汗が背中を伝った時、想定通りの言葉をかけられた。
「里へ近付く不審者として排除する。」
それと同時に、彼女はこちらへと飛び掛かってきた。
僕は彼女の拳を刀の峰でそれを受け止めると、彼女はその体勢から反発力を利用してバックステップで下がりつつ、追撃されないようにか、尾から狐火を放ってきた。
「ぐっ…」
それらをさばきつつ、避けると刀から白鬼院小梅さんが声をかけてきた。
『うっわ、驚いた!!
けー君、彼女、10本の尾だから、まさかと思ってたけど、あれ、【天狐】っぽい。』
「はい!?」
思わず僕は声が裏返ってしまった。
確かに妖狐族は尾の数で格があり、多ければ多いほど強いとは知っていたけど、まさか【天狐】だなんて……
「【天狐】って、あの【天狐】ですか!?」
『うん、くーちゃんと同じ【天狐】。今、けー君が借りてる力と同じ。』
そんなバカな!!
女神に近いと言われているような存在がそう何人もほいほいいるわけがない!!いてたまるか!!
信じたくない現実に思わず声を荒げかけるが、戦いにおいて動揺は危険という教えから、なんとか飲み込む。
「インテリジェンスソード……ますます危険人物と判断。」
一方、妖狐族の少女は、白鬼院小梅さんの言葉こそ距離の関係で聞こえなかっただろうが、刀と話していることを察したのかより警戒心を高める。
そして、手を前にかざして、
「冥狐の術!!」
彼女は死の気配を帯びた黒い魔力の塊を投げ放ってきた。
が、平塚紅さんの知識でわかる。
冥狐の術は、当たると‘死の宣告’と呼ばれる状態異常になり、衰弱させられ、最悪言葉通り死に至る術だ。
だが、そうとわかれば回避すればいいだけのこと!!
そうして左に避けると、突然左足に激痛が走った。
「いったぁぁぁ!!!?」
見てみればふくらはぎに剣で斬られたかのような傷を負っていた。
「狡狐の術。」
中指と人差し指だけを立て顔の前に左手をかざしながら彼女は言う。
狡狐の術。
切り傷を空気中に仕込み、任意のタイミングでそれを開いて真空を発生させてカマイタチで切る術だ。
しかし、あれだ。何をされたか、されるのか理解できても、相手の手数の多さに戦いなれていない僕としては非常にやりづらい。
それからも狐火の牽制しつつ、そこに冥狐の術を混ぜながら放ち、狡狐の術で動きを抑制してき、さらに【紅狐】の能力で竹を操り、しならせてから叩きつけてくる攻撃をしてくる。
テクニカルな動きに翻弄されながらも、怪我したふくらはぎや脇腹などを庇いつつ僕は回避と防御に専念していた。
逆に言えば、専念するしかなかった。
‘役職解放’で【天狐】から変更すれば確実に相手が見えなくなる現状、【辻斬り】や【山立】といった攻撃系にはできない。
同様に‘英霊憑依’も【天狐】じゃないと無理だし、まだまったく改良に手をつけていないから、「憑依=肉体乗っ取られ」でまた戦闘から逃げている状態になってしまう。
「なかなかしぶとい。
警戒度さらに上昇。」
そして相手からしてみれば、仕留めきれずに立ち回られるから、ますます警戒することになる。
しかし、流石に出血量的にもこの傷を負ったまま立ち回るのはきついなぁ……
『けー君、むっちゃんに注意されたばかりで悪いんだけど、くーちゃんが‘英霊憑依’させてくれって。』
そんな中で白鬼院小梅さんがそう伝えてきた。
「え、でも……」
『くーちゃんが【天狐】としての格の違いを教え込んであげたいんだってさ。
それにむっちゃんの言い付けは「命のやり取りの責任を放棄しない」だからね。
別に彼女の命を奪うつもりはないんでしょ?
だったら、こういうときに‘英霊憑依’による問題点を改善するために魂の鍛練としてやってもいいんじゃないかな?』
「うーん……確かに命までとろうとは思ってないですけど、向こうはそうじゃないですよ?」
こちらとしては下手に命を奪えば今後の立ち回りが非常にヤバイが、向こうからすれば不審者を殺してでも止めようとしてきているわけで、面倒なことに命のやり取りになっているわけだ。
しかし、白鬼院小梅さんはニヤリと笑ったような声で答える。
『命のやり取り?いいや、これは鍛練だ。
‘英霊憑依’を改善するための鍛練であり、相手もまた上位の相手に揉まれて鍛えられる。
ほら、命のやり取りなんてないだろ?』
あー…うーん…すごく屁理屈なのに間違っていない気がするので困る。
確かに問題点はわかっているし、対処法は魂をより鍛えて容量を増やすか、術式をより強く組み直すかだから、‘英霊憑依’で魂を鍛えられるならありかな?
「わかりました。やりましょう!!
‘英霊憑依’女神に最も近い魔王【天狐】平塚紅!!」
「!!!!なんでその名前を!?」
術式展開と同時に僕の言葉に驚いた表情の彼女を見ているうちに体の感覚がなくなった。




