錬金術師、旅立つ
2話連続投稿です
「さて、黒金様。お説教です。」
英霊憑依を解除し、疲労でぐったりしているところに嘉納武蔵さんが無表情ながら怒りのオーラを纏って来た。
理由は、まぁ、わかる。
命を奪うというのを他人に任せたことだろう。
嘉納武蔵さんとの鍛練でさんざん言われ続けたことだ。
ただ、言い訳としては今の僕では対人用の手が足りていないのだ。
あれからそれなりに装備は作っているものの、まだ完成はしていないし、肝心のメイン武器‘魂魄用無’は普通の手段じゃ斬ることができない。
つまり現状、相手を殺す場合、日村刀士郎さんか平塚才人さんを呼ばないときついのだ。
「もちろん私も鬼ではありません。
黒金様の言い分はわかっております。
ですが、理性と文化をもつ生物を殺す覚悟を決めたのでしたら、自分の手でやるのが筋ではないでしょうか?
それを人任せになってしまう手段を使うのは、鍛練でダメだと言ったはずですが?
貴方は私達の積年の復讐を代行せずに見聞をし判断するという最善の手を選んだというのに、その私達の手を借りるどころか利用して責任を逃れるというのは都合が良すぎませんか?」
「うぐっ……ごもっともです。」
僕は意気消沈してしまい、そんな中で白鬼院小梅さんが刀から声を伝えて仲裁にはいる。
『まぁまぁ、むっちゃん。
‘役職解放’は刀の性能なわけだし、‘英霊憑依’もけー君の力で完成してるものなんだし、そこを責めるのは流石に筋違いじゃないかな?』
「完成であって、完全ではないのですよ?
そもそも、力を使うなとは言いませんが、他人に命のやりとりの責任を任せきるということに私は苦言を呈しているのです。
自分の覚悟を他者に任せて失敗したら後悔しますよ?T○KI○だってそんな歌を歌っていますよ?
それに白鬼院さん。
私達だって復讐を黒金様に押し付けることだけはしないようにしているように、黒金様も頼りきらないようにするべきではないですか?」
『ぐぬぬ……確かに……ぐぅ…』
しかし、その仲裁役は嘉納武蔵さんによって、ぐぅの音を出させられていた。
というか、白鬼院小梅さん、この状況でもよくギャグをはさめる余裕がよくあるなぁ、と思う。
彼女はギャグを挟まないと死んじゃう病の患者なのだろうか?
そんなくだらないことを考えてしまっていると、嘉納武蔵さんは急に説教から呆れたような口調に変わり、
「しかし、やはり、といったところですが、黒金様も大概狂気がありますね。少し安心しましたよ。」
「はい!?」
と、何故か唐突に狂気持ち判定をされたうえ、何故かそれを安心された。
嘉納武蔵さんは、自覚無しですか、とさらに呆れた口調で、
「普通、死体を見れば嫌悪感やあるいは拒否感を抱きます。
私も慣れるまではそうでしたから。
それに今回に至っては魂ごと一刀両断された死体がそこに転がっているグロテスクな状況です。
常人なら発狂こそしないでしょうが、心に闇を抱くでしょう。
ですが、黒金様は嫌悪感どころか関心すら抱いていませんね。非現実的な死体があるというのに。
これを狂気と言わずして何と言うのでしょうか?
もちろんそれが悪いとは思いません。今後、命を奪った後に罪悪感などから自我を壊さなくて済むのですから。」
そう言われてハッとした。
確かに死体があるのに、僕は、それは自分にもう関わるものじゃないから、と無意識のうちにスルーしていて気持ち悪さや嫌悪感すら感じてなかった。
が、まぁ、うん。おおよそそんな感じになっているのは、多分両親の影響だろう。
超リアルな、まるで見てきたかのようなグロテスクな絵も描く売れっ子絵師の母さんの〆切前日を手伝わされたり、
たぶん嘘だろうけど戦争で傭兵やったときに何人か斬り殺しているという父さんの話を聞いたりして、その辺のメンタルは鍛えられている自信はある。
あとは死体ではないが、母校・曲月中学はかなり荒れていただけあって、殴り合いや蹴落とし合いは日常茶飯事で血とかは見慣れてしまっていることか。
…………あれ?なんか気のせいか、僕、サイコパスっぽくないか、これ?
いや、待って、落ち着こう。そんなわけがない。
暇潰しで自分に疑いがかからないようにしながら学級崩壊どころか学年崩壊を起こさせた前田。
自己満足のためだけに女子を拉致した不良グループを全員再起不能になるまで文字通り叩き潰した球磨川。
この2人の方がよっぽど僕よりメンタルはヤバい。
それに前田の命令なら命すら絶てるほど忠実な駒だった、いや、更生したとはいえたぶん今もかわってない園田。
絶望の中で救ってくれた前田と園田を盲信し信奉し狂信している、一歩間違えれば精神科に行きかねなかった、あ、いや、行きかけてる龍造寺。
この2人みたいに手遅れでもないだろうし、うん、セーフセーフ。
そんな風に我が親友にして悪友にして盟友な4人を思いながら精神安定をしていると、
「まぁ、なんにせよ、黒金様は、タウロスオーガやカガチヒュドラ相手に容赦ない攻撃を躊躇いなくできていますからね。
いずれ対人戦闘も私達に頼りきらずに難なくこなせるでしょう。」
と嘉納武蔵さんの変な方向に信頼している言葉をかけられ、僕は苦笑をするしかなかった。
――――――――――――
説教をされ、天使の死骸を剥ぎ取り、もといアンデッド化しないようしっかり処理して、諸作業をすること数時間後。
荷物を空間収納し、‘魂魄用無’も腰に帯びて、ついにこの洞窟から脱出することとなった。
「では、場所は例のところでよろしいですね?」
この地底からの脱出方法は嘉納武蔵さんの異能“時元回廊”を使うだけだ。
そういえば嘉納武蔵さんの異能について触れてなかった気がする。
“時元回廊”は今までにも見せられていたことからわかるように、どこぞの東の方のプロジェクトにいるスキマ大妖怪のように、別々の場所を繋げた門を作る異能だ。
当初は距離だけだったらしいが、今では1週間先までなら時間すら越えて一方通行で送れるそうだ。
あ、そういえば前にこの辺りでは“異能”を使えなかったことがあったけど、実は問題ない。
それ、僕の勘違いだった。
ここら辺、かつて【呪術師】香坂恭介さんが【役職】による暗殺や戦闘を起こさせないために、【役職】の力を使えないように呪った場所だったそうだ。
僕が前に“異能”でイメージ通りに錬金できなかったのは、電子配列を弄るという【錬金術師】の能力を無意識に使ってしまっていたかららしい。
ちなみに今は【陰陽師】石田清夏さんの力で解呪されているので役職能力が使える。だから‘役職解放’が使えたのだ。
話がちょっと逸れた。
まぁ、つまり今から嘉納武蔵さんによって外に出てから、僕は5ヵ月後に備えた鍛練を兼ねた旅を開始するのだ。
「それでは彼女達によろしくお伝えください、黒金様。
それから‘英霊憑依’は改善を重ねるようにするのですよ。
あとこの世界の文化は遅れており、特に貧民街は基本危険ですから気を付けてください。
また、食事も稀によく毒同然のがありますから気を付けてください。
美味しいものが食べたかったら、明治時代ぐらいにまで発展しております夜刀神国へ向かうといいですよ。
オススメはバラスィー吸血鬼公国の‘串刺し肉’ですね。吸血鬼族の伝統料理です。
あとは………」
『むっちゃん、話が長いし、子供を心配する親みたいになってる。
ぶっちゃけ年寄り臭い』
こちらが気圧されるほどの勢いでとても饒舌に話す嘉納武蔵さんに刀から白鬼院小梅さんがサラッと毒を吐く。
嘉納武蔵さんは無表情ながらやや顔を赤らめ、
「………おほん。
お恥ずかしいところをお見せいたしました、申し訳ございません。
では、改めて最後に。
私はまた王国に潜入いたします。それが仕事ですので。
今回は前までのように男性のフリをせずメイドとして潜入できますので楽ですね。」
そう。
嘉納武蔵さん、実は役職能力で、あの騎士団副団長に変身していたのだ。
はっきり言って、死体がなかったせいですっかり忘れていた。
ちなみに何故死んだフリをしたかというと、定期的に潜入キャラを変えるタイミングだったからだそうだ。
ついでにあのお気楽勇者・織斑一誠君とかに死というものを教えるためだったそうだ。
なんというか、また手間のかかることを……
ちなみに潜入理由は「どこかのドシスコンが500年ぶりの生妹に暴走して超過保護になっているだけです」と真顔ながら怒気を込めた声をだしていた。
高町倫太郎さんェ………
「英霊憑依に関してはしっかり調整して大丈夫なようにします。
それから親書を長とその教育係に渡せばいいんですね?
あと僕からの手紙も高町なずなさんにお願いします。」
「はい。任せましたし、任されました。
くれぐれもあの不完全なままの完成品を使いすぎて責任逃れをしないようにしてくださいね。」
そして嘉納武蔵さんは僕の最初の目的地へのスキマ?門?まぁ空間の穴を開いた。
「それではまたお会いいたしましょう。」
「はい。嘉納武蔵さんもお元気で。」
こうして僕は『霧幻の山林』こと妖狐の隠れ集落『フシミ』へと通じる道へ足を踏み入れた。




