錬金術師、実戦投入してみる
「もう我慢ならん!!貴様らを今ここで滅ぼさん!!」
天使の1人がついにキレて光の矢の術式を展開していく。
それに合わせて小柄な方の天使も同じように術式を展開する。
『けー君、まずは調子上げに刀の術式を使ってみよう。
場合によってはアレを使わなくていいかもよ?
使うのは…とー君でいいかな?』
「ですね。
役職解放【辻斬り】日村刀士郎!!」
刀を構え、僕の方も刀の術式を展開すると、刀から力が伝わってくる。
役職【辻斬り】。
肉体だけでなく魂を切ることすらでき、さらには魂のみを切ることも肉体から魂を切り離すこともできるかなり強い役職だ。
これだけでも中々凶悪だが、日村刀士郎さんの異能“一人太刀”が組み合わさるとますますヤバイんだよなぁ。
ネタを教えてもらったのを聞く限り、そりゃ最強の一角だと思ったよ。
もっとも、その異能は今は使えないからスルーする。
ちなみに刃のない刀なので、今のままだと、峰打ちのみで戦うことになる。
が、これの歴代所有者の日村刀士郎さんも平塚才人さんもこれでなんでも、それこそ「斬れないものはほとんどない」と言われていたほどの切れ味を振るっていたのだが、これに関しては追々話そう。
相手もこっちの力を認識したらしく、
「おとなしく我らに浄化され、その魂を渡せ!!」
と展開していた光の矢の術式を解放してきた。
が、
「‘時元回廊’」
嘉納武蔵さんの異能によってそれらの矢は運動エネルギーなどを持ったまま天使達に向けて降り注ぐよう転移された。
「おのれ、ムサシ・カノウ!!」
「あの異世界人の魂は私が浄化する。
ムサシ・カノウの足止めを頼む」
こうしてタッグマッチ(なお個人戦)が始まった。
――――――――――――
「先ほどのムサシ・カノウの援護が入ったことから、貴様は遠距離攻撃になすすべがないのであろう。
なれば、ムサシ・カノウの助太刀が入らぬ今ならば貴様を浄化できる!!」
そう言って光の矢を飛ばしてくる。
が、戦闘開始時に密かにかけた肉体強化魔法によって動体視力が上がっている僕には回避余裕どころか運痴でも刀を振って叩き落とせるぐらいの余裕があった。
というわけで、飛んできた光の矢をすべて叩き落とし、そのまま一気に接近戦に持ち込むよう駆け出す。
「っ!!このっ!!」
しかし、小柄な天使は飛び上がり飛行で手も刀も届かない上へと逃げる。
「はっはっは!!貴様は接近戦に持ち込もうとしたところから、遠距離攻撃技がないのだろう?
ならば届かぬ場所から攻撃させてもらおう!!」
再び光の矢を飛ばしながら小柄な天使は勝ち誇った表情で告げる。
実際、僕では遠距離攻撃手段はない。
一応、基礎魔導として火・水・土・風の球を生じさせ、投げることはできるが、それでもせいぜい人間がボールを投げる程度の射程距離しかない。
第一、これらの基礎魔導は攻撃力が低い。生活魔導の一種だからだろう、多分。
『あちゃー、これは無理だね、けー君。
魔法にしろ魔術にしろ遠距離攻撃か範囲攻撃ができればいいけど、けー君、原理は理解できても素質ないからなぁ……
アレ、使うしかなくない?』
「いえ、まだどうにかできると思いますよ」
理解できても攻撃系魔導習得の才がない僕だけど、手がないわけじゃない。
何せ目には見えない素材がいっぱいあるのだから。
「大気中の窒素と酸素を水に錬金!!」
僕の言葉と同時に洞窟の上から雨が降り注ぐ。
その雨量は、このホールといえるほど大きい空間にある空気全てなのだから、ものすごい量だ。
そして、内部の空気がなくなった、つまり真空になったせいで気圧の変化が生じ、出入り口から水量に負けないほど、ものすごい勢いの風となって空気が流れ込んでくる。そうなれば、結果としてたった数秒だが、嵐のような状況となり、吹き荒れる風雨によって小柄な天使は壁へと叩き付けられた。
ちなみにここの空気一帯が恐らく軽く25mプール5つ分以上はある水へ変えて降り注がせた上、さらに風を吹き荒れさせる、というかなりむちゃくちゃなことをしたので小柄な天使どころか、僕自身も滝のように降り注いできた水と吹き荒れる暴風で地面に叩き付けられたし、向こうで嘉納武蔵さんが相手をしている天使も同じようになっていた。
嘉納武蔵さん?異能でこの暴風雨が起こった一瞬だけ違う場所に行って免れてたよ。
「貴様……何をした………」
小規模な暴風雨が落ち着き、小柄な天使は辛うじて生きていたみたいだが、墜落によるダメージで一気に弱々しくなっていた。
そういう僕自身も地面に叩きつけられ、暴力として降り注いだ水を受けて、満身創痍になっていた。
もうこの手段は例え今後似たような状態になっても、二度と使わない。
こんなにひどい状態になるとか想定外だった。
もうちょいイメージすればよかった。使用する酸素と窒素の量を。
「何を……酸素と窒素を水に変えただけですよ」
「酸…素?……なんだそれは…?」
やっぱ知らないよね、うん。
僕の知識によると、専門で研究でもしていなければ、酸素や窒素、その他諸々の気体について、この世界の人たちは知らないっぽいからね。
まだまだ中世よりちょっと上ぐらいの世界だから仕方ないね。
「なかなかえげつないことをサラッとしましたね、黒金様。
私じゃなかったら味方まで死んでましたよ?」
『そうだよ、けー君。
君だって鍛えてなかったらあの車に轢かれた蛙みたいな羽虫達みたいに潰されていたかもしれないよ?』
「ははは……いや、ご迷惑をおかけしました。」
無表情のままの嘉納武蔵さんと呆れた声で話しかけてくる白鬼院小梅さんに説教されてしまった。
「死んでない!!死んでないからな!!天使を侮るな、貴様ら!!」
「おや、生きていましたか。
ゴキブリのような生命力ですね。大変申し訳ないのですが、生理的に無理です。死んでください。」
「ゴキブリと言うのが何かは知らんが、確実に我らを侮辱したことは理解した!!」
……名前も知らない天使さん、なんか、こう、ドンマイ。
しかし言われてみて、知識を探ると、どうもこの世界にはゴキブリもそれに該当する虫もいないらしい。何この素晴らしい世界。少しだけこの世界を見直した。
「おのれぇ!!我らを侮りおって!!許さん!!」
小柄な天使はフラフラとしながらも僕に向かって再び光の矢を放つが、もはや先ほどまでの威力も勢いもなく、それらを避けながら僕は小柄な天使に近付き、刀を一閃した。
が、まぁご存じの通り、妖刀‘魂魄用無’には刃がないため、細い鉄の棒で殴られた程度しかダメージはない。いや、十分それも痛いけど。
それに加えて、向こうよりダメージがないとはいえ、こちらもダメージを受けているので、力も少し入らないから、そんなに威力はないはずだ。
「舐めているのか、貴様!!
この期に及んで峰打ちをしてきただと!!」
僕に小突かれてよろめき尻餅をついた小柄な天使はわめく。
「峰打ち?
この刀には刃がないんだから、斬られるわけがないじゃん。」
「何っ!?」
あれ?刀に刃がないこと知らないの?
「あれれぇ?天界の刀なのに、知らないなんておかしいよねぇ?」
あまりにも間抜けなリアクションに思わず前田のように挑発してしまった。
この言葉によって小柄な天使は再び闘争心を昂らせ、
「愚弄するな、小僧!!」
と光の矢を至近距離で放ってきたが、【辻斬り】の副次効果及び鍛えられた成果のおかげで、無意識にそれを叩き斬った。
「何っ!?」
相手は驚くが、こっちも驚いている。
まさかとっさにこんな風に動けるとは予想外だった。
『あー、若干だけど、鍛練の影響でけー君の魂魄が両方とも刀の中のとー君の魂に引っ張られてるからだね。
放置したら若干まずいけど、どうする?』
「サラッとなんか聞き捨てならないこと伝えないでくださいよ、白鬼院小梅さん…
どう問題になるかはわかりませんけど、どうにかできるなら早期の内にお願いします。」
『OKOK。
でも、まぁ、それやるなら目の前の天使を殺すなりしてくれないとまずいかな?
術式調節しながらそっちの処理するのはちょっときつい。』
珍しく気弱な発言に僕は深く息を吐く。
殺す、か。
思った通り、容赦なく攻撃はできるが、やはり殺すことには躊躇いがでてきてしまう。
しかし、今一瞬躊躇った隙をみて、小柄な天使は口元を緩め、僕を突き飛ばし、再び上空にあがった。
「なるほどなるほど。
容赦ない攻撃だったが、殺すことには慣れていないみたいだな。
どうだ?今ならばその刀を置き、降伏すれば助けないわけではないぞ?」
ニマニマとした表情を見ればわかる通り、こっちの躊躇いはバレバレか……
「助けないわけではない、か。」
僕は刀を構えて相対する。
当たり前だ。
相手は「助ける」と言ったのであり、「命を奪わない」とは言っていないのだ。死が救い、みたいなこと言いかねないし、相手。
「置かぬか、愚かな」
「置いたら置いたで殺すくせに。」
僕の答えに小柄な天使は心外だ、という表情を浮かべ、
「何を言う。その穢れた魂を救い、我らの力となることは救いだろ?
この世界の生物は皆、我ら天使達が支配する物だ。」
うわぁ……予想通りだった。
「僕は異世界人なんですけどね。」
「異世界人ならば、よりその強き魂のエネルギーを世界に役立たせねばなるまい。
実に幸運だな、貴様らは。
世界の一部となることを選ばれた物だぞ。」
……よーくわかった。
確かにこれは自分達という存在に増長している上、話は通じない。
自分達以外を駒かオモチャか餌としてしか見てないわ。
だからといって、対話はできるし、なんか、こう人型のせいで殺すのはなぁ、と思ってしまう。
そんなことを知ってか知らずか小柄な天使は不遜な笑みを浮かべたままペラペラと話す。
「どちらにせよ、今回の勇者達こそは我らのために戦い、魂を捧げてもらうからな。
すでによい魂は見繕っている。
【指導者】に【騎士】、【侍】と実にエネルギーが高く、すでに誰が手に入れるか争奪戦が始まっている。」
そして奴はだらしない笑みを浮かべ禁句を言った。
「それから特に【八卦見】や【道化師】など実に力が満ち溢れている。どちらの器たる女も人間にしておくには惜しい美貌だ。
魂を得たあと、我が物にしようとする天使達は数多いだろうな。」
その言葉で僕の中のずっと蓋をして見ないフリをしていた感情が爆発し、それが躊躇っていた理性のような何かを切った。
「白鬼院小梅さん、アレ、やりますよ。」
『うん、了解。
そして、わかったでしょ、奴らがどういうのか。』
白鬼院小梅さんの問い掛けに頷き、
「はい。もう躊躇いません。
僕だけならまだしも、前田達、そして高町なずなさんにまで手を出すっていうならもう躊躇いません。」
『ひゅー、かっこいいぞ、思春期高校生!!惚れた女に手は出させない、ってか!!』
気付かないフリをしていた高町なずなさんへの恋愛感情を知っていた白鬼院小梅さんはノリノリでからかってくる。
僕は苦笑いをしてから息を大きく吸い、
「茶化さないでくださいよ。
それじゃあ、いきますよ。
英霊憑依・ベビルベリーの切り裂き魔【辻斬り】日村刀士郎!!」
運痴で武道の心得がない僕が考え付いた方法を発動させた。




