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錬金術師(アルケミスト)の世界革命  作者: 悠々自適
プロローグ いざ、異世界に
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錬金術師、相対する


義手を作り、凍結していた開発計画とかいろいろ再開して、魂の世界で思いついたことを試しにやってみて、嘉納武蔵さんと組手など鍛え、調節すること4日。


嘉納武蔵さんの話によれば、1週間前に僕がカガチヒュドラを仕留めたことで妖刀‘魂魄用無’を狙ってきた下っ端天使が2体くるらしい。

天使というか墓荒しの間違いなのではないだろうか?


で、そいつらと戦うように、と話を聞いたときは、何で戦わなくちゃいけないのか、と思ったけど、僕に生の天使というものを理解させるためらしい。

あと、今後世界を見聞するにあたって、命のやり取りの経験を積ませたいからなのだそうだ。


それにしても、やっぱり話が通じる(嘉納武蔵さん曰く「奴らに言葉は通じても話は通じません」)相手を殺すかもしれないと思うとやっぱり気が滅入る。

それに記憶を見たから天使の強さもわかっているだけにますます気落ちしてしまう。


『大丈夫だよ、けー君。

確かにあの方法は10分しかもたないし、体力結構奪うけど、10分あれば十分戦えるぐらい鍛えたからさ。』


妖刀‘魂魄用無’から頭に直接話しかけてくるのはお馴染み白鬼院小梅さんだ。


これは魂の専門家たる彼女だからこそできる魂から魂への念話のようなものだそうだ。


「いや、でも、天使と生で出会うのは初めてなんで、心配はしますよ。」


平塚才人さんの記憶を見ているときには、対話できる相手を殺したことが多々あったため、こういうとアレだけど比較的殺人への抵抗感は低くなっている。


とはいえ、僕は安全と約束された状態でかつ痛覚無しで殺し合いを見ていただけに過ぎないから、不安はある。



『まぁ、生きるため、素材のため命は奪っているわけだし、殺し合いも記憶を見たことで理解しているわけで、今のけー君は殺人素人童貞ってだけだし、大丈夫だよ。』


「殺人素人童貞って……」


……本当になんというか、ねぇ?少なくとも女性が素人童貞って言うのはどうかと思う。

僕がそんな風に困惑していると嘉納武蔵さんが声をかけてきた。


「黒金様。まもなく1週間前に私が送った連中が参ります。準備してください。」


嘉納武蔵さんの言葉に僕は武器を構える。


すると、この広間 ―平塚才人さん達解放軍が最後に集まったところ― の出入口の1つから突然背中から翼が生えた男性が2名飛び出してきた。


「どうい――貴様は何者だ、我らが所有物たる刀を持つ人間!!」


「なぜ翼が――誰だ、お前は!?」


なんかわからないけど、驚愕の表情を浮かべていた天使2名は僕の手にある刀を見て、そう言ってきた。


「1週間ぶりですね、愚かなる天使共。」


「っは!!ムサシ・カノウ!?なぜ貴様は我らと同じ羽を持つ!!」


天使の1人が嘉納武蔵さんを見て、ヒステリックに叫ぶ。


「私は貴方達のような偽りの白翼を持っているわけがありませんよ。

私が持っているのは、誇り高き黒翼です」


そう言って嘉納武蔵さんの背中から黒い翼がでてくる。

何も知らなかったら僕もビビるところだけど、鍛練のために色々見たから知っていたため、あーそういうことかー、と納得した。



ネタばらしをすれば、嘉納武蔵さんは天使ではない。


彼女の役職は【夢語部】。

他者の魂を劣化模倣し、そして魂と肉体の関係性から、己の肉体を変化させたり、他の役職になりかわることができるのだ。

僕との組手でも、半人半馬の姿になったり、狼の姿になったりと幅広い戦闘相手を1人でこなしてくださったのである。



で、これによって、今は一時的に天使の翼をだしているのだろう。


ちなみに、何故知っているのかと言えば、平塚才人さんの記憶と試してみたことの結果から知ったからだ。



「貴様!!堕天使か!!」


「はっ?堕天使は貴方方では?

主たる女神様を裏切り、人間を駒として操り、人狼や妖狐、鬼や吸血鬼達を虐げているのですから。それを堕ちたと言わずしてなんと言うのでしょう?」


鼻で笑って、憎悪と軽蔑の感情を込めた皮肉を真正面から叩き込む嘉納武蔵さん。

1週間ほどの付き合いだけど、かなりキレていることは理解できた。



それもそうか。

嘉納武蔵さんもベビルベリー王国の勇者召喚による被害者なわけだし、そのすべての元凶は天使達なわけだから、怒らないわけがないか。

………なんか、そう考えたら、僕らもこいつらや、王国に巻き込まれたわけだよね。しかも、関係の無い異世界の戦いに…………今さらだけど、ちょっと王国にしっぺ返ししないといけない気がしてきたよ、うん。


まぁ、王国も運がいいのは僕がしっぺ返ししようと考えたってことだよね。

前田達だったら間違いなくベビルベリー王国が王政をやめるようにするだろうし、球磨川だったら文字通りベビルベリー王国を消滅させかねないからね、うん。


僕はせいぜい能力使って粗悪品や偽造品を流通させたり、逆に高価なものの価値を暴落させたりする程度しかできないからね、うん。

鉱物資源とかばらまけば価格変動で嫌がらせできるかな?


そんなとりとめのないありふれた復讐計画をふと思いついて練っていると、天使達が怒りの表情を浮かべてこちらに言葉を向け始めた。


「異世界から来た青年よ。

貴様が持っている刀はそもそも我ら天界が管理していたもの。

渡してもらおうか。」


嘘である。

この妖刀‘魂魄用無’、元は祭礼用の刃が潰された刀であり、人間が鬼夜叉族の集落を襲った際に強奪したものが流れに流れてベビルベリー王国に辿り着き、【辻斬り】日村刀士郎さんが愛用し過ぎて妖刀となり、白鬼院小梅さんが彼と自分の魂を移してから今に至るようになったのである。


つまり、天界要素0だ。

それを向こうが欲する理由はただひとつ。

高エネルギーの固まりたる勇者の魂が封じられているからだ。


僕は思わず笑ってしまった。

そもそも嘉納武蔵さんがいる時点で、この刀がなんなのか聞かないわけがないのに、それに天使達は気付いてない感じなのが、また哀れだ。


「何を笑っている、人間。」


「いや、僕をバカにし過ぎでしょ?

僕が何も知らないでこの刀を握っているわけ無いじゃんか。

この刀は元は鬼夜叉族のものであり、天界が管理しているはずがないんだよ。」


僕が言い返すと天使2人は息を飲んで、目を見開いて驚いていた。


「何故人間がそれを……」


「貴様が教えたのか、ムサシ・カノウ!!」


嘉納武蔵さんを睨むが、シラを切るとかできないのかな、こいつら。

「それは魔族の嘘だ」みたいなことを。


嘉納武蔵さんも、ふぅ、と溜め息をついてから、


「語るに落ちてますね、愚か者らしい。

シラを切らずに自白を堂々とするほど腹芸ができないとは、やはりあの脳筋バカの派閥天使らしいですね。」


声を荒げる天使達に嘉納武蔵さんは中指だけを上にたてた、まぁ俗にいう「ファッ○○ー」の指ポーズを向ける。

なんというか、相手への嫌悪感半端ないなぁ、嘉納武蔵さん。


「貴様ぁぁぁぁ!!」


「我らが主、ウリエル様を貶めるか、魔の存在がぁぁぁ!!」


怒りで、なんかもうヤバイ表情の天使達。

しかし、彼女はサラッと言う。


「誰も脳筋バカ=ウリエルとは言っていないのですが、そう思うとは、あなた方も大概貶めていると思いますよ?」


「「っな!?」」


この言葉に血の気が引いた天使達。

……絶好調だなぁ、嘉納武蔵さん。




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