錬金術師、戻ってくる
こうして地獄を経験すること2日。(ちなみに魂の世界では時間の流れを感じないせいで、まだ1日も経っていない感じがする)
僕は白鬼院小梅さん達に見送られ、再び現実世界へと戻ってきた。
と、同時に、
「うぎゃぁぁぁぁぁああああああ!!!!!?」
身体中を激痛が走った。
畑神威さんから手術後による欠損箇所の痛みはないと言われていたし、実際負傷したところからの痛みではない。
「筋肉痛と成長痛が同時に来てる感じで筋肉と関節と骨が痛い!!!!」
痛みで悶えて転がると、転がる刺激でさらなる痛みが襲い掛かってくるという地獄の無限ループが発生するぐらいヤバい。
「ちょっと痛いですよ」
痛みでのたうちまわっているところに、そんな言葉が聞こえた瞬間、手足を押さえつけられたと思ったら柔らかい感触が唇を襲い、そして何かを飲まされた。
あまりにも一瞬過ぎて理解できなかったが、謎の液体を飲み込むと体から痛みが引き、そして冷静に周囲を見ることができるようになった。
僕を押さえつけていたのは、黒髪ポニテ巨乳のメイドさんだった……いや、まぁ、見覚えあるけど。
「嘉納武蔵さん、ですよね?」
「はい。先程ぶりですね、黒金様。」
「……あの、今…」
「筋肉痛と成長痛でのたうちまわっておいでだったので、押さえつけ、口移しで疲労回復ポーションを飲ませて、超回復を起こしただけです。」
すっごい淡々と作業のように説明された。
というか、口移しされてた、やっぱり!!
そういうわけじゃないとわかっていても、思春期真っ只中な僕には、かなり好み、いや黒髪ポニテとかドストライクな美女にキスされたと思うと、こう、なんかムラムラっとくるものがある。
だが、自制するんだ、僕。相手は人妻。2児の母親。いくら押さえつけられ、口移しのためにキスされたからって冷静になるんだ。
そう言い聞かせていると、嘉納武蔵さんは押さえつけを解放してくれた。
「さて、リアル男子高校生とキスできた役得は置いておき、さっそく現状をお話しましょうか。」
「待って!!なんか今、聞き流しちゃいけない言葉が最初の辺にありましたよね!?」
「お互いWin-Winというだけですよ、黒金様。
息子はすでに結婚し、私の孫にあたる子もいますから、若さある男性が身近におらず、なかなかもどかしいのですよ。
仕える主にして夫が若々しいとはいえ、リアル17歳というわけではありませんから。
まぁ、感覚的にはおばさんのジャニーズ系好きみたいなものですよ。」
孫までおられましたか、そうですか。
「それに比べてうちの娘はかれこれ200歳にはなるというのに、未だに身をかためず、今では婚期逃しかけているアラサーキャリアウーマンみたいになっていますし……仕えている相手が王子様ならまだしも、お姫様ですから出会いもそうないでしょうし、親としては心配なんですよ。」
またなんともリアクションに困る愚痴を聞かされた。
ちなみにこの世界では婚期は14〜24歳ぐらい。
それ以上になってくると年増という感じになるわけである。
にしても、200歳とか、嘉納武蔵さん達、人間なのにどういうことなんだろうか……
「おっと。思わず愚痴を言ってしまいました。
さて、では現状を把握されますか?」
彼女の問いかけに僕は頷く。
左腕の欠損はわかっている。義手を作るつもりだし。
ただ、同じように失ったはずの右目に異常を感じな……いや、なんか、こう魔力の流れ?カガチヒュドラが放っていた瘴気みたいなのが漂い、まとわりついてくるのが見える。
「とりあえず、まず右目の説明をお願いします…
なんか瘴気みたいなのが見えますし、そもそも右目は失ったはずですよね?」
「えぇ。人間の目はもはや無理でしたので、拾ったカガチヒュドラの眼球を移植しました。」
「ふぁい!?」
なんかとんでもないこと言われた。
え、どういうことなの?俺の目、カガチヒュドラのやつなの?なんで?どうして?
「黒金様が木っ端微塵にした肉片の中に、奇跡的に使えそうな眼がありましたので、それを移植しただけです。
カガチヒュドラは魔力が貯まって淀んだ結果の瘴気を操るだけあって、魔力を見透かす、などと言われておりますからね。
目に見えておいでなのは大気中に含まれる魔力の流れかと。」
説明されれば、なるほど、確かに。
とはいえ、人間やめました、に1歩近づいてしまった気がしないでもない。
「まぁ、義眼を作らなくてラッキーだと思いますよ。
それじゃ、いでよ『どこからでもドア』」
神代の魔物から眼球移植された現実から逃げつつ、義手を作るために僕は工房を呼び寄せた。
「……………これは驚きました。
異空間に部屋を作り出すとは、並外れた魔力かあるいは才能がないと無理だと思っていましたが、これほどの複雑な術式を数万種類組み合わせるだけでできるとは……」
「わかります?」
個人的にこの工房を生み出した術式を褒められたうえ、見抜かれたのは超嬉しい。
がんばって作ったガンプラを誉めてもらった感じ。
「はい。私の異能はまさに空間を操るものですゆえ。
では、さっそく作業をなさるのでしたら、お手伝いいたしますよ?」
「あ、すいません、お願いします。
左腕作るのにそれなりに時間がかかりますから、その間、食事とかお世話になります」
こうして、僕は欠損した左腕を補うための作業へと取りかかった。
嘉納武蔵さんはヒロインじゃないので安心してください。
人妻キャラは好きだけど




