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錬金術師(アルケミスト)の世界革命  作者: 悠々自適
プロローグ いざ、異世界に
33/92

錬金術師、過去を見せられる その陸


群衆がいなくなったところで平塚才人さんは出入口前でカガチヒュドラを召喚した。

実は平塚才人さん、カガチヒュドラとは殺し合いをした結果、何だかんだで意気投合し、使い魔として契約していた。

今更だけど、太鼓原望月さんと思われる太公望がタウロスオーガ召喚してたし、セレア・バラライカ・山田さんも神代の魔物“坤”アンノウンキメラをペットにしてるし、そもそも魔王の1人が神代の魔物だし……あれ?レアな存在なはずだよね、神代の魔物。


そんなことを思っているうちに、カガチヒュドラに平塚才人さんは門番としてこの迷宮を守るように指示し、そして平塚紅さんがいる部屋へと向かい始めた。

気のせいか、動きが鈍くなってき始めている。


『ヤバイな……限界を迎え始めたか……』


一時的な蘇生の限界が体に現れ始めた証拠だった。


『もうちょっとだけもってくれよ、俺の体よ。

今死んだらかなりヤバいんだから』


自分にそう言い聞かせながら平塚才人さんは歩みを進め、平塚紅さんがいる部屋へとやってきた。


『くーちゃん、生きてるか?』


部屋に入っての第一声に彼女は手をあげて答える。


『ギリギリ……ギリギリなんとか生きてる感じ』


『よかった……つっても、お互いギリギリ生きてる感じだな……』そう言いつつ、平塚才人さんは立て掛けてあった愛用の刀を抜く。


『くーちゃん。俺の魂を取られないようにするためには俺自身もこいつに封印されなくちゃいけねぇ。』


『うん……だから私の我が儘はただ1つ。

私も一緒に封印して。』


彼女の目は至って真剣であった。


『……俺にくーちゃんを斬れ、って言うのか?

しかもそれを本人が言うのか?』


『言うよ。

私はもう身も心も魂も何もかも全て才人君に捧げてるの。

あなたに言われればなんだってするし、されるよ。

まぁ、流石に紫に関してだけは譲れないことは多々あるけどね』


彼女の満面の笑みを浮かべながらの発言に平塚才人さんは苦笑して刀を抜く。


『ったく。俺もくーちゃんに言われたら逆らえないよ。

もっとも、くーちゃん同様、娘に関してだけは譲る気はねーからな。』


『それでこそ才人君だよ。』


そして、重い足を引きずりながら平塚紅さんの元によると、彼女は最後の力を振り絞るように動いて平塚才人さんに抱き付いた。


『心中するっつーのに、何か、こう、陰鬱な感じじゃねーな』


『それはきっと私が才人君のそばにいて、才人君が私のそばにいるからじゃない?』


『ははっ。違いない。』


そうお互い笑顔を浮かべたまま、平塚才人さんは手に持った刀で彼女と自分を貫き、そして再び僕の視界は暗転した。


――――――――――――


「はっ!!」


気付くとちょっと前までいた視聴覚室にいた。


「さて、どうだったかしら?我らが魔王陛下様の記憶は?」


霧家響さんのからかい半分真面目半分の言葉に僕は相槌として頷き、


「よくわかりました。

500年前の戦いで天使教が勝ったわりには未だに抵抗勢力に余力がある理由とか、そもそも何故戦争が起こったのかわかりました。

……あの1つ聞きたいことがあります?」


「何かしら?あなた達に天使の祝福がされるとしたら、あと5ヶ月ほどでしょうね。誤差+1週間ぐらいで」


澄ました顔でさらっと聞きたかったことを答えられた。


ちなみにこの世界の暦はまだ妖精が魔族扱いされる前に、【春妖精】【夏妖精】【秋妖精】【冬妖精】がそれぞれ告げた時期を季節に分類してできた7日で1週間、28日で1月、13ヶ月・計364日を1年とした‘妖精歴’で運行している。

ちなみに現在は‘妖精歴’ではなく‘天使歴’と呼ばれているそうだ。どれだけ天使共(ヤツら)は自分達大好きなんだろう。


そんなことよりも、半年ぐらいしかないのか……


「その苦々しそうな顔からして余程クラスに執着があるみたいね。」


「執着、ですか…まぁ確かにあると言えばありますかね。」


はっきり言えば、クラスに対しては特にない。

あんな独り善がりな正義を盲信あるいは考えなしに追従するクラスは危ないし。

そもそも前田に球磨川、それから園田さんに龍造寺さんの4人がいれば、別に他はいらないぐらいには思って……あとまぁ、高町なずなさんも気になるかな?


「ほうほう、へぇへぇ。」


いつの間にかパワーポインターの近くに移動していた白鬼院小梅さんがこちらをニヤニヤと見てきていた。

………そう言えば心の中の声、ここだと彼女に筒抜けなんだっけ……


「何か?」


「いや、別になんでもないよ、黒金君。

そんな君のクラスの歪さや君が感情に蓋をしようとしているなんてボクにはわからないよぉ〜」


うわ、ウザい。

まさかここまでズカズカと踏み込んでくるか…


「ま、君がどうしてそう考えているのかとかは追々話してくれると信じて別の話としようか。

ここまでの話からして、ボク達が君に何を期待しているかはわかるかな?」


飄々とした態度のまま白鬼院小梅さんは尋ねてきた。

何のため、か……まぁ、普通に考えればあれだよな。


「僕に天使教とかを潰させたい、ですか?」


「せーかーい。

ボク達から変化のない退屈で平穏な生活を奪い去ったあげく、ボク達を駒として利用してくれた、このクソみたいな最低最悪の世界を生み出しやがった全ての元凶たる天使共を駆逐したいんだよ。」


「一応言っておくけれど、白鬼院さんの言葉は少々過激だけど、私達全員が少なからず天使共や天使教、あるいはこの世界の人間に対して憎悪を抱いているわ。」


周りの人達も怒りと憎しみの感情がこもった気を放ちながら頷いた。

確かに正直言えば僕も憎悪やら色々この世界に対してないわけではないから理解できないわけはない。

とはいえ、無条件に白鬼院小梅さん達の話を鵜呑みにするほど僕は純粋ではない。

第一、人から言われて復讐をするのは操られているのと変わらないと思う。


「……なるほどね。

君の考えはよくわかったよ。」


「えっと……怒ってます?」


「いやいや。むしろその方が好感を抱けるよ。

こっちから一方的に言われて動くような考えなしの根なし草だったら、君の魂壊して、自我を奪って操るつもりだったし」


ふぁっ!?なんか知らないうちにとんでもない危機から身を守れてた!?

驚愕に打ちのめされている僕をスルーして白鬼院小梅さんは話を進める。


「要するに君は、平塚君の記憶を見たからといって、天使共に虐げられたり、理不尽なことを見たりした経験がないから実感がわかない、ってことだろ?

だったら簡単さ。ボク達と一緒に世界を回ってみよう。

そうすればいかにこの世界が天使共によって汚され腐っているかがわかるよ。」


世界を回る、か……確かにいい判断材料となる情報かもしれない。

となれば、早くベビルベリーに戻って前田達に話して一緒に行くかを聞かなくちゃいけないな。


「ところがどっこい。非常に悪いお知らせを3つほど。

むっちゃん、よろしく!!」


「はい。

黒金様。残念ながら昨日、あなた様はベビルベリー王国において魔族に通じた罪で指名手配されました。

また前田様、園田様、龍造寺様の3名は詐欺・窃盗罪に重ねて国外逃亡したらしく、同じく指名手配されました。

それから最後ですが、球磨川様は雪風様ともう一人の方と共に行方不明となりました。ちなみにこちらは他の勇者と交戦したため、遅かれ早かれ国家反逆罪あたりで指名手配になるでしょう。」


……………はっ?


「何してるんだよ、みんな!?」


僕が一拍おいて絶叫したのは仕方がないと思う。




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