表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師(アルケミスト)の世界革命  作者: 悠々自適
プロローグ いざ、異世界に
31/92

錬金術師、過去を見せられる その肆


違う場所に転移されてから、山村榛名(ヤマムラ ハルナ)さんと推定太公望こと太鼓原望月(タイコバラ モチヅキ)さんの話を絶望にうちひしがれながら聞かされた。



曰く、山村榛名さんは1億と10823回もこの地獄とも言える、同士討ちとそれから起こる悲劇や戦争を経験しており、今回が1億と10824回目だと。


曰く、太鼓原望月さんは1億と10823回目の時に、ある賭けをした結果、山村榛名さんと同じ条件で再びやり直しを始められたと。


曰く、今回が今までにおいて一番最善らしい上、これ以上クラスメイトを助けるのは無理だと。

この時は、色々と批難の声があがったが、今まで冷静に話していた山村榛名さんが声をあらげて、今までの地獄について話始めたことで批難の声はなくなった。

そりゃ自分達がどう死んだのか1人1人、しかも何百、何千、何万回のパターンを言われたら、誰も何も言えなくなる。

むしろ、それらを覚えている記憶力、そして精神力がもはや化け物じみた恐怖の対象にしか見えなくて、何も言えなかった。


説明を受け、多くの人達は絶望で戦う気力すらない感じだった。それは事前に推論し、説明も受けた僕でさえ、打ちひしがれた部分があるのだから、当然だろう。

異世界という非日常的な世界で自分達を精神的に、物理的に、あるいは権力的に守っていた正義が完全に否定されたのだから。

そんな中、誰よりも早く、平塚才人さんは、いの一番に天使達と戦うことを決意し、それをここにいる人々全員に表明した。

その時の彼の声には間違いなく憎しみや後悔といった感情があった。

同じようにちらほらと戦うことを表明する人達も出てきはじめ、絶望して戦う気力も生きる気力もなかった人達も次第と後方支援などを買って出るようになった。


こうして、反天使勢力、後に「解放軍」と呼ばれる勢力は自分達を巻き込み、平穏を奪った天使達と戦うこととなった。




それからも様々な平塚才人さんの記憶を見せられた。


素性を隠し、密かに修練を積んで鍛える記憶。


天使教によって迫害されている種族を逃がし、また自分達の仲間に引き入れた記憶。


自分達の種族を守るために犠牲になろうとしていた狐耳の少女を助けた記憶。


自分を祖とする種族のため、愛する主人のために戦う神代の魔物‘乾’と互いの意地を賭けて戦い、友となった記憶。


天使や天使教徒、祝福を受けた人々との戦いで傷付き、もはや助からないクラスメイトを泣きながら介錯した記憶。


自分に敵討ちを頼んだ親友との決着をつけた記憶。


この世界で巻き込まれた真宵ヶ関中学3年2組と同等に最も天使達を憎む‘魔族’と呼ばれる「時と夜、そして恐怖を司る闇の女神【祟神】キョーザ」の配下の堕天使となった存在達と協定を結んだ記憶。



そういった様々な出会いと別れの記憶を僕はずっと見ていた。


そして、最初から7年経過して、ついに天使教によって操られている人間達との全面戦争が起こった。

それは、天使教が主体であり【指導者】苗桐誠一さん率いる人間軍15万に対し、妖狐族・人狼族・鬼夜叉族・吸血鬼族・天狗衆および森人族・妖精族など様々な人間以外の種族からなる解放軍10万を率いる、いつからか“魂を見透かす魔王”と呼ばれるようになった【魂占術師】平塚才人さんのぶつかり合いだった。


この時、生きている解放軍のクラスメイトは平塚才人さんを含めた7人ほど。相手もまた残った勇者は苗桐誠一さんだけだった。


戦いは始まり、老若男女問わず、生き残るため相手を殺し、倒し、互いの大将首を ― 解放軍は苗桐誠一さんと近くにいるミカエルを、人間軍は全てを束ねる“魂を見透かす魔王”を ― 狙って戦った。



『久しぶりだな、苗桐。』


『そうだね、平塚君』


そして、陣形も何もかも壊れた乱戦状態の戦場でお互いの大将は刃を交えていた。


『やっぱり最後の最後まで無理そうだな、肉体までは。』


『あの時はとっさだったからね。

正気に戻せても、肉体までは矢から逃れさせれなかったのは失敗だったよ。』


過去に矢を受けたクラスメイトの人達と戦った記憶でわかったが、あの日、最後の苗桐誠一さんの言葉は「言葉を聞いた対象はそれに従う」というギ○ス系異能“言論の(フリーショット)”を使われていたのだった。

これによって、あの日、祝福を受け正気を奪われた人達は、平塚才人さん達と会うと正気に戻って会話ができるけど、体だけは戦闘行為をするという厄介な状態になっていた。


『……改めてだが、悪かったな、霧家を。』


『ううん。霧家さんを救ってくれてありがとう。

魂も奪われずに保護してくれてるんでしょ?』


そう。霧家響さんは既に平塚才人さんと戦って散り、そしてその魂は平塚才人さんが持つ刀、というか白鬼院小梅さんが作った今僕がいる“監獄(パンドラボックス)”だったかに封じ込められている。


霧家響さん以外にも戦ったクラスメイトの人や介錯したクラスメイトの人達の魂も封印されている。


そもそも封印している理由は単純で、異能を持つほど強力な力を持つ魂を、力の亡者になっている天使達に渡すわけにはいかなかったからだ。

この刀に封印されているせいで、天使達も平塚才人さんを最優先討伐対象にしている。

そう、これが後世で“魂を見透かす魔王”の知名度が圧倒的に高い理由なのだ。


『むしろ僕の方こそ桑原君との約束を破って君に負担をしいてごめん。』


『気にしなくていいさ。

怜慈と全力で殺しあった時に許しは貰っといた。』


『そっか。それじゃあ後は……』


『あぁ。お前を…殺すだけだ。

ただ、正直お互いわかってるだろ?』


『……多分片方が死んで、片方も即死しなくても致命傷は負うだろうね。

せめて僕が無抵抗でいられればいいけど』


『異能の力で既に縛られてるから、変更も効かないんだろ?』


『流石“魂を見透かす魔王”。バレてたか。』


刃を交わしながら、2人はどこか寂しげに笑いあった。


『しかし、戦闘系異能じゃないのによく俺と戦えるよ、まったく。』


『まぁ、伊達に上に立つために鍛練を怠らなかったわけじゃないからね、っと。』




そんなやり取りをすること……数十分。

何度か横槍(主に人間側)が来たけど、どこからともなく平塚紅さん(この時点で既に3歳になる子持ち。父親は平塚才人さん)が火球を投げつけて防いだり、神代の魔物でありながら犬耳はやしたイケメンになっているフェン・リィルさんに叩き潰されたりしていた。


そして、ついに2人は互いを武器で貫き、その場に膝をついた。

瞬間、騒がしかった戦場が静まり返り、


『…敵将、苗桐…誠一、討ち取ったり』


平塚才人さんの声に静寂につつまれた戦場が一気に沸いた。致命傷を負いながらも、ギリギリで平塚才人さんは苗桐誠一さんに勝ったのだった。



自軍の象徴である勇者・苗桐誠一を失い、その上「一鬼当千」を掲げるたった100人の鬼夜叉族によって既に15万の兵の3分の2近くを潰されたり人間軍は慌てて指揮を取り始めた天使達を無視して逃げだし始める。


一方、解放軍も唯一無二の総大将が致命傷を受け、撤退を始めていた。

というのも、最初から「ミカエル及び苗桐誠一を倒すにあたって、平塚才人が死亡あるいは瀕死に陥った際、各種族は彼と“大賢者”山村榛名が用意したマニュアルに従い撤退、雌伏を始める」と決めていたからだ。

これを妖狐・人狼・鬼夜叉・吸血鬼・妖精・天狗衆および森人族など主要種族だけでなく、人魚・半女鳥・怪異・猫又族などの少数民族、そして誰よりも天使を憎む魔族こと堕天使達全員を納得させているのだ。とんでもないカリスマである。


そうした理由は色々と複雑だけど、簡単に言えば「平塚才人さんの力がないと天使とかを倒せない」らしい。



そんなわけで両軍痛み分け、いや解放軍が優勢のまま両軍撤退で終結するかと思ったが、


『に、逃がしませんよぉ』


『おう!!まだ強い奴らは生きてるな!!よし、俺と戦え!!』


『今はそんなことしてる場合じゃないのよぉ、バカリエルゥ。勇者達の魂、何かあの男が持ってちゃってるから、回収しなくちゃいけないでしょぉ?』


『フハハハ。安心せよ、人間共よ!!憎いことに我らの希望たる勇者は憎き魔王に殺された。

だが、勇者は最後まで戦い続け、魔王に致命傷を与えた。そして、今こそ千載一遇の機会である。

我ら4天使も力を貸すゆえ、戦うのだ!!』


根暗(ラファエル)脳筋(ウリエル)、色ボケ(ガブリエル)、そして自意識過剰(ミカエル)が慌てて現れ、人間軍を鼓舞し、指揮して、こちらへ攻撃を始めてきた。

半壊していた人間軍も天使教における最上位天使4名が現れたことで勇気を、あるいは狂気を得たのか、再びこちらへと進軍してきた。



はっきり言おう。

すげぇあの天使共ウザい!!なんでこのタイミングで現れた上、面倒臭いことしていくんですかねぇ!?


『……やれやれ。あのクソッタレ共は戦況や空気がわかんねーのか?』


神代の魔物‘乾’にして『神に最も近い魔王』フェン・リィルさんは人の姿をやめ、本性である巨大な漆黒の狼になる。


『天使共が空気を読めておったら、今頃神々は封印されておらんわ。』


天狗衆を率いていた最高齢の仲間、『外界より来たりし魔王』クラマさんは溜め息をついてから天狗衆と森人族へ指揮を飛ばす。


『クラマの爺が言う通りだな。

さてと、鬼夜叉百鬼夜行軍!!我らが総大将を逃すため、これより殿(しんがり)を務めるぞ!!何人生き延びている?』


鬼夜叉族族長、『一鬼当万の魔王』と恐れられる酒呑朱天(サカノミ シュテン)さんは一瞬で殿を務めることを決意した。


『こりゃ、一発殴ってから撤退するべきか。

殿以外の軍勢はみんな予定通り撤退しろ。何が何でも平塚を守れ!!』


激を飛ばし、相手へ既に威嚇攻撃を始めている人は解放軍側にいる勇者にして、『無貌の魔王』にして、高町なずなさんのお兄さん、高町倫太郎さんだ。


その4人の死の覚悟を感じとりながら、平塚才人さんの意識はそこで途切れた。




誤字脱字等ございましたら、お気軽に教えてくださいまっせー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ