女帝、発言する
女帝と呼ばれ畏れられる、黒髪ロングヘアーの美少女、雪風野分は前にクラスメイト達より1歩前に出る。
その堂々とした立ち振舞いと日本刀のように鋭く美しい大和撫子のような、そして凛々しい美貌の2つが相まって、ある者は魅力され、ある者は威圧で恐縮してしまう。
かく言う僕も彼女が何を言うのかが怖かった。
彼女が女帝と呼ばれるのは、何も見た目の麗しさと威風堂々とした態度だけではない。
『あまりにも道理に反している』
『陰湿な行いをしている』
こういったことを彼女が目にすると、真正面から正論で相手の心がへし折れるほどボコボコに殴るのである。
それが間違いではない、とは言い切れないが、流石にやり過ぎ感は否めない。そんな彼女の動向に僕を含めたクラスメイト全員が緊張した眼差してみている。
気のせいかもしれないが、こっちの世界の人達も彼女の一挙一動を見るのに緊張している気がする。
「私の名前は雪風野分と申します。
私は3つほどあなた方に問いかけます
まず、1つ目。
異世界に召喚された、という非現実的な点には目を瞑りますが、
こちらの同意なく召喚したという点から見て、誘拐罪として立派に成立すると思われますが、いかがお考えでしょうか?」
………確かにこれ、誘拐罪に当たる気がする。
異世界召喚もののラノベとかはそれなりに読んだことあるけど、そんなこと考えたことなかった。
「い、いくら勇者とはいえ、陛下を誘拐犯呼ばわりするとは何と無礼な!!」
王様の近くにいた骨と皮だけと表現しても過言ではないほどひょろひょろした文官のような人 ―恐らく宰相とかそれぐらいの立場の人だろう― が声を震えながら叫ぶ。
が、女帝はその言葉に怯むことなく続ける。
「無礼?事実を私は述べているのですが?貴方方は私達、紅学園2年7組の同意を得て召喚したとは言えないと思いますが?
この国の法律は詳しく知りませんが、皆様の衣装やこの場の装飾から見て、誘拐を野放しにするような野蛮で非文化的な国家ではないでしょう。
まずはその点についてどうお考えかお聞かせください、ヘンリー8世陛下
」
なんというか、女帝、すごいな……なんで異世界の国王相手に真正面から挑めるんだよ……
ヘンリー8世は苦虫を潰したような顔をしつつ、口を開いた。
「う、うむ。た、確かに貴殿らを召喚したのは無断であった。
しかし、この召喚魔法に関しては無作為に召喚するため、同意を得ることは無理なのである」
「なるほど。私達の世界に魔法がありませんから、どのような法則や決まりがあるかは知りませんが同意を得ず連れてきた、すなわち誘拐を認められるのですね?」
「け、結果的にはそうなるな、うむ」
国王、声が震えているよ……まぁ、無理もないが。
女帝はそんな様子の相手を気にするような素振りもなく、話を続ける。
「わかりました。では、そちらの過失として、減刑しましょう。」
僕の聞き間違えでなければ、女帝が異世界の国王を裁いているような気がする。
「では2つ目。
今回の集団誘拐に対してそちらの国はどのような補填を行うのでしょうか?
私としましては戦う意思が無い者はもとの世界に戻すこと、そして戦う意思を持つものには生命の安全保障をしていただきたいのですが?」
「そ、その点に関しては大変申し訳ないが、貴殿らをもとの世界に戻す手段を我が国は持っておらん。
しかし、貴殿が保障を求めるのであれば、私のできる範囲では叶えよう。」
もとの世界に戻る手段がない、と言われた途端、再びクラスがざわつくが、女帝が後ろの僕達を見てきたため、全員静かになった。
恐怖政治万歳(目逸らし
「まぁそうである可能性は考えておりましたので、そちらが仰ったように十分な保障をお願い致します。
保障に関する話し合いは後で担任の岩野教諭にお任せしますので、よろしくお願いします」
「え!?俺!?ま、まぁやるが、そこで俺を巻き込むのか……」
「現状、私達の保護者は先生しかおりませんから、先生に申し訳ありませんが、頼るしかありません。
では最後ですが、その異能や役職というのはどのようにわかるのでしょうか?説明をお願い致します」
なんだろう、女帝1人で十分じゃないかな、うん。