錬金術師、過去を見せられる その弍
しばらく過去話が続くんじゃよ
数が増えていた天使達は各々が魔導を撃っていた。
そしてそれをツインテールの女性、山村榛名さんだっけ?はさっきよりは余裕がない感じだけど、華麗にさばいていた。
『大口を叩いていたわりには既にボロボロだな、小娘』
『そうか?ギリギリに追い詰められて、ようやく力量差を悟って、ネクラに脳筋、色ボケを呼んでいるのは君じゃないのかい、ミカエル?』
『ッ!!言わせておけば!!』
『こ、これは確かに、な、生意気な、こ、小娘ですなぁ』
『ガッハッハ!!強いこの小娘の言葉も一理あるな!!』
『ないわよぉ、バカリエルゥ。超絶的に美しい私様を色ボケだなんて愚弄も甚だしいわぁ。』
そんなことを言い合いながらお互いに魔導を撃つことを緩めることなく戦っていた。
というか、防戦一方になっているのに山村榛名さんの言葉には挑発があるぐらい余裕あるなぁ……何時如何なる時もハッタリと挑発を欠かさないスタイルの前田みたいだ、うん。
『榛名ちゃーん!!手伝った方がいい?』
『いや、そっちの作業に回ってくれ、望月。
もう少しだけ時間を稼ぐ。』
山村榛名さんにそう言われた推定太公望はそれを了承したようで、指で印を結び始める。
『さて、仕込みをするかな。
みんな、悪いけどさっき渡した情報は各自整理処理しといてねー。
さてと。「我は死をもってして―――」』
推定太公望はクラスメイト達にそんなことを言ってから、呪文を唱え始めた。
周りの人達は立ち上がり始めてはいるものの、やはりキツそうではあった。
『説明が欲しいが、仕方ない。見てみるか』
ふらつきから回復した視点主の平塚才人さんはさっき渡された刀を観察し始める。
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なんか眺めたまま硬直しているんだけど、大丈夫なんだろうか、これ。
そんな僕の心配は当たり、こちらに魔導の撃ち合いの余波で、さっき砕けた天井の瓦礫が飛んできた。
僕はとっさに回避行動をとろうとしたが、記憶を見ているだけだから、体は動かない。
そして当たると思い、目を瞑っても、瓦礫が迫る光景はずっと見え、これはまずい、と覚悟した。
その時、目を疑うことが起こった。
シュッ、という音と共に瓦礫が文字通り木っ端微塵、粉末のようになってしまった。
『うわっ!?マジか!!マジでできた!?日村スゲー!!』
原因は刀を鞘から抜いていた平塚才人さんだった。
…えっと……つまり粉末状になるほどに斬ったのは平塚才人さん?
……流石、魂を見透かす魔王って言ってただけあって、こんなに強いのか。
でも何で日村さん?
僕は思わず感心しつつ首をかしげたが、そんなことを言っていられないことになった。
『ラファエル!!ウリエル!!ガブリエル!!少しだけこの女を足止めしろ。
我の推測が正しければ、勇者共を傀儡にできる』
ミカエルはそう言って急に戦闘から離れたかと思うと、
『さぁ、無差別無制御で我が祝福を授けてやろう!!』
ミカエルの周囲、いや、僕達の頭上に光の矢を出現させ始めた。
その数はざっと見て100以上はあると思う。
この矢が「天使の祝福」か!!で、それを降り注ごうとしているのか!!
『なっ!!今までにないパターンだと!?させるわけには――』
『ぼ、妨害のための、え、詠唱の隙は、あ、与えませんよぉ』
『もちろん、無詠唱の暇も与えんぞ!!』
『この全世界で最も美しい私を相手によそ見は厳禁よぉ』
上空の山村榛名さんは魔導を撃ち込まれまくり、さらに近接攻撃までされ始め、完全に足止めされている。
『ちっ。まだアレを手に入れていないのに、もう不幸が来るとかやっぱり僕はついてないなぁ。
みんな!!絶対あの矢に当たらないように!!あの矢の効果はさっき教えた通りだから!!』
何か術を練っている推定太公望も警告するだけで妨害をしに動けないみたいだ。
というか、無茶でしょ、あれだけの数の矢に当たらないようにするとか!!
雨みたいに降り注ごうとしているんだよ!!
思った通り、降り注いできた矢を、始めこそ射落としたり瓦礫で防いだりしていたけど、時間が経つにつれて、数人に矢が刺さり始め、降り注ぎ終わってみれば、ここにいる生きている人たちの3分の1が矢を受けていた。
『正気を保て、兄弟!!君が守った富士宮君は無事だ!!だから正気に戻るんだ!!』
『何を……言ってる……兄弟。
俺は……俺は…ずっと正気だぜ?』
『しっかりして和田君!!石田さんに手をあげていることに違和感を持って!!』
リーゼントの男性がポニテの女性と小柄な女性に手をあげ始め、
『米原ちゃんは俺のものなんだよぉ!!なんでお前がぁぁ!!』
『く、桑原君!?何言ってるの?』
『米原さん、下がって!!桑原君!!しっかりするんだ!!』
『うるせぇ!!余裕ぶってうぜぇんだよ、苗桐!!』
ちょっとDQNっぽいチャラ男が猟銃を逆手に持って、鈍器のように振り回しながら黒髪ロングの女性と小柄なアホ毛男子を襲っている。
そんな同士討ちとしか見えない状況が周囲で起き始めた。
『フハハハハハ!!思った通りだ。狙って祝福を授けようとすれば妨害を受けたが、無差別に狙い定めず祝福を授ければ貴様は妨害できないようだな!!』
『ぐっ……まさかそんな手を打たれるなんて……今までにこんな風にされたことは1度もないぞ……変異点は望月と一緒ということだから、それが原因か?』
悔しそうに山村榛名さんは唸りながら、飛んでくる魔導を別の魔導で薙ぎ払う。
というか、なんか残りの3人の天使、今、目視もされず、簡単にあしらわれて苦い顔してるんだけど………
しかし、そんな上空の楽勝とは逆に、矢が降り注いだ地上では、貴族っぽい人たちは兵士に殺されたり、クラスの人達も互いに泣きながら攻撃したりとまさに地獄絵図となっていた。
『【現在の天使の祝福を限り無くなかったことに!!】』
この言葉が聞こえるまでは。




