錬金術師、真実(とどうでもいいこと)を知る その参
僕の答えに霧家響さんは満足したように頷き、
「正解よ。
本当の、あいつらに改竄された歴史はこうなのよ。
かつて、天使達は『5』女神の『姉妹』に仕える存在でした。
しかし、彼らは魂が持つエネルギーの強さに惹かれ、そして主に隠れて魂を吸収し、増大な力を得ていきました。
すると当然その力に驕り始め、『自分達こそ神にふさわしい』と言い始め、ヨシフィーノの筆頭大天使だったミカエルを中心に、ウリエル、ガブリエル、ラファエル達は5女神の内、4女神と今は言われている主人に対して反旗を翻し、彼女達を封印しました。
封印だったのは、神は殺すことができなかったからよ。
さて、そんな中、5女神の内、配下誰一人からも裏切られず、配下とともに、
『時と夜、そして恐怖を司る闇の女神【祟神】キョーザ』
はミカエル達に妹達に当たる女神達の復讐をするたも戦ったけれど、多勢に無勢。彼女もまた封印を施されました。
彼女に仕え、共に戦った配下の天使達は住処であった天界を捨て、地上で密かに牙を研ぎ始めました。
しかし、ミカエル達は自分達が敬われるため、また地上に隠れた自分達にとって都合が悪い存在を排除するために、人間達へ
『キョーザが彼女を信奉する者達と共に他の女神を殺めた』
と虚報を流したわ。
そこからわかるでしょ?
もともとキョーザ様を信奉する者の多くは吸血鬼や鬼、人狼といった、今で言う『人外』達だったから、人々は彼らを迫害し始め、またキョーザ様に仕える天使達は『魔族』として人間達に討伐するよう天啓を授けたわ。
そして奴らはついに女神信仰を廃れさせ、自分達を敬わせるために非道な手段にでた。」
スクリーンには弓矢を構えた天使の絵が現れた。
「『天使の祝福』と呼ばれる洗脳魔術ともいえる弓矢を権力者や女神信仰の長達に刺し、『女神は滅び、その正統な後継者たるミカエル・ウリエル・ガブリエル・ラファエルを敬いたまえ』と洗脳したのよ。
そうして女神信仰は急速に廃れ、天使教が生じた。
それから徐々に勢力は増していき、人外とされた者達や魔族にされた天使達は迫害や攻撃をされ、そして彼らもまた反撃をして、という戦争に発展していったわ。
そしてベビルベリー王国がそんな連中を倒すために勇者召喚、という拉致行為を行った。
その被害者が私達、真宵ヶ関中学3年2組だったのよ。」
スクリーンに映し出された写真つきのクラス名簿を見て、僕はふと先程気になった言葉について尋ねた。
「高町倫太郎さんって……」
その瞬間、霧家響さんだけでなく、教室にいた人達全員が遠い目をし始めた。
霧家響さんは諦めた目のまま、非常に嫌そうに教えてくれた。
「超が付くほどのドシスコン。
まだ『妹と結婚する』とか言ってないだけマシだけど、誰も聞いていないのに妹自慢したり、妹に近寄る幼馴染みに授業中でも構わず呪詛を唱えたりしていた真性のド変態よ。
一番ひどかった頃のは『あの男がいるせいで俺のラブリーマイエンジェルなずなちゃんが虐げられているんだ!!だから俺が殺しにいくのは正当な理由なんだ!!』と世迷い言を目が据わった状態でほざきながら鉄パイプ片手にどこかに行こうとしていたのを和田君や大井さんといった武道派が止めたこともあったわね。
彼がどうかしたのかしら?……………まさか……」
霧家響さんの顔から血の気が引き始めている。
多分気付いてしまったんだと思う。
しかし、こう、高町倫太郎さんは、何か凄くヤバい人の気配しかしない。
というか、ラブリーマイエンジェルなずなちゃんってやっぱり高町なずなさんの関係者かぁぁ!!
「……妹さんは高町なずなさん、ですよね?」
そう聞いた瞬間、周りの人全員から絶望の感情が漏れだした。
あの白鬼院小梅さんすら絶望に染まった表情を浮かべている。
……肯定かぁ……すごく否定してほしかった。
僕は意を決して、皆さんにとって絶望の一言を発した。
「………クラスメイトです」
「「「「「「「「「「「「「「世界終わった(確信」」」」」」」」」」」」」」」
全員の心と言葉が一致した瞬間だった。
――――――――――――
「取り乱してしまって申し訳ないわね。
そう……あのド変態の妹さん、なずなさんが来てしまったのね………」
「間違いなく世界滅びたね、うん」
「いつからいるかは知らないが、むしろよく今の今まで世界は滅びなかった。」
「いや、今、滅びる手前なのかもしれない」
クラスメイトにここまで言われるとか、どんだけなんですかねぇ、高町なずなさんのお兄さん……
まぁ、でもそこまで皆さんが言うのに何も起こってないのは引っ掛かるなぁ……
「その辺りにつきましては私がお話ししましょう。」
教室のドアを空け、見事なまでのジョジョ立ちをしているメイドさんが現れた。
さっきまでいた嘉納武蔵さんだった。
「あれ?むっちゃん、もう手術終わったの?」
「はい。あとは自己治癒で何とかなるそうです。
さて。皆様お久しぶりですね。嘉納武蔵です。」
嘉納武蔵さんの挨拶に周りの人達はどよめく。
雰囲気的に同窓会で久々に会った人へのリアクションみたいな感じかな?同窓会やったことないから知らないけど。
「嘉納さん。まずは君が息災だったことを喜ぼう。
あの頃はもう誰が生きていて、誰が正気で、誰が敵なのかわからなかったからな。君は無事、正気のまま生き延びていてよかったよ。
私は兄弟に殺されかけてしまったからな。ハッハッハ。」
白学ランでポニテのお姉さんが朗らかにものすごく不穏なことをサラッと何事もなかったように言った途端、
「ぐぅ……その件についてはマジで悪かった、兄弟。確かにあのときの俺はどうかしていた。
富士宮も悪かった、許してくれ」
「あわわわわ!!も、もう許したじゃん!!500年前のことだし、原因は和田君じゃなかったんだから」
リーゼントの不良系男子が突然土下座して、小柄な少女が困惑し始め、周りの人達はそれを暖かい目で見守っていた。
いったい彼らに何があったんだろう……気になる……
「……なるほど。和田君、石田さん、富士宮さんは無事和解されたのですね、よかったです。
高町君が安心できる報告ができそうで何よりです。」
「そう言えば忘れていたべ。嘉納が高町のことを知っとるってどういうことなんだべ?」
ドレッドヘアーの男性が首をかしげながら脇道の本筋を尋ねる。
嘉納武蔵さんは何と言うこともないように言い放った。
「そのことでしたら私の今の格好からお察しできるように、メイドとして『無貌の魔王』高町倫太郎改めキョーマ・ジャガーノートに仕えております。」
その瞬間、教室に何と言えばいいのか、という微妙な空気が漂った。
まぁ、確かに同級生がメイドになって同級生に仕えているとかリアクションに困るよね、うん。
「えっと……マジ?」
「マジですよ、白鬼院さん。ついでに言えば2人ほど産みました。」
「「「「「「「「「「「「「「「何を!?」」」」」」」」」」」」」」」
再び教室にいた人全員の心が一致した瞬間であった。
嘉納武蔵さんは首をかしげ、不思議そうに、
「?変なことを聞きますね、皆様。
子供に決まっているじゃないですか。息子1人と娘が1人います。」
「ま、まさか父親は……」
「はい。高町倫太郎さんですよ?」
恐る恐る聞いた霧家響さんはその場でスッ転んでいた。
いや、教室にいる人全員がその場で腰を抜かすなり、スッ転んだりしていた。
しかもそのあと、僕と嘉納武蔵さんを除いた全員でかたまって、
「おい、あのド変態が父親になっただと」
「そ、そ、そんなことはあるまい、兄弟!!
きっと私達は幻覚を見ているんだ!!正気に戻れ!!」
「あそこまで淡々と言われたら、逆に信じられるような気がするよ……」
と現状と現実の認識を始めた。
そこへ嘉納武蔵さんは手を叩いて注目を集め、
「その話は追々するとしまして、高町君が暴走して世界を壊していない理由ですが、1つ目は500年前の戦いで負った傷、というか魂が3分の1削られたのが後遺症となって、日常生活に支障は無くなるまでリハビリしましたが、昔のように戦うことは無理だからです。
2つ目ですが、山村さんに『どう足掻いても貴方の妹さんを含んで勇者召喚をされるから、妨害せず準備しろ』と脅され、体が動けない分、全力でそちらに時間を費やしました。
3つ目ですが、まぁ、あまり関係は無いですが、息子と娘を可愛がるのに忙しそうでしたね。」
((((((((((絶対それが一番の理由だ!!))))))))))
心の声も一致した瞬間だった。
というか、クラスメイトの人達にここまで言われる高町なずなさんのお兄さん、いったい何者……シスコンか。でも、かなりヤバい人な気がするよ。
「以上より高町君はまだ世界を滅ぼしていません。」
「まだ、なんだ……」
皆さんが冷や汗をかいている。
僕も引いている。
「………とりあえず話を戻しましょうか。」
霧家響さんの言葉はまさにこの収拾がつかなくなっていた状態を本題に戻す言葉だった。
おかしい。何故こんなカオスな話ができたんだ……




