錬金術師、治療を始められる
「『魂を見透かす魔王』っていったら500年前に【指導者】に討ち取られた存在で、『女神に最も近い魔王』はその魔王と共に散ったって存在がいるとかどういうことですか!?
というか、あの真宵ヶ関中学行方不明事件の被害者さん達が関わってるってやっぱりそういうことなんですか?」
もし言っていることが真実なら、今まさに目の前に、歴史に埋もれた500年前の人物がいることになるわけで、前に調べたときにわからなかったことが色々わかりそうだ。
しかもそれが5年前に行方不明となった人達となればますます何かきな臭いものがある。
平凡そうな男性は照れたように頭を掻きながら、
「とりあえず恥ずかしいから『魂を見透かす魔王』はやめて。そんな対したもんじゃないから。
俺なんかより『ベビルベリーの切り裂き魔』とかの方が強いよ?な、日村?」
「単純な戦闘能力だけならな。
だが、あのクソッタレ共から『神敵』扱いされているのはお前と嫁さん、あとはここにいるのは嘉納ぐらいだろ?
向こうなら、生きてるか知らんが、山村にセレア、狂人、オタクにドシスコン、あとは先生くらいだろ。な、魔王陛下」
何となく前田や球磨川とのやり取りを彷彿とさせるからかい合いだった。
というか、ベビルベリーの切り裂き魔ってどういうこと!?
いろいろ調べた情報によれば、王国にいた狂人だったそうで、処刑されたってある最悪の通り魔じゃん。
「まぁ、そこはあれだよ、青年。
国家の闇の部分ってやつだよ。
まさか召喚した勇者様が王国内で人を切り殺しまくるとか言えるわけないじゃん?」
「あ、てめ、白鬼院!!誤解の生じる言い方しやがって。
俺はただ、貧民からたかるチンピラや不良兵士を裁いただけだぞ!!」
「捌いた、の間違いでは?」
「嘉納さんの言葉の方が正しそうだよね、日村君だし。」
「別に問題ねーだろ?
こっちは斬りながら治安維持ができる、国は治安が守られる。Win-Winだろ?」
「そこで『斬りながら』って言うところがなかなか罪深いよな、日村は……」
たった一言でこの騒動である。
とりあえずわかったのは日村刀士郎さんは危険人物。
「おい、なんかこの男子から危険人物を見る目で見られるようになったじゃねーか、お前らのせいで。」
「それは自業自得っていうんだよ、とー君。
さて、それよりもむっちゃん!!かー君がいるんだったよね?
今から呼んで、一時的に使用できるようにするから、外で待ってて。
で、治療中、一応私達の身の上話はしておくからさ。」
「わかりました、白鬼院さん。」
そう言って一礼し、嘉納武蔵さんは瞬きしたら目の前から消えていた。
それからすぐに白鬼院小梅さんが携帯電話を使い始める。
「さてと。
あ、もしもし、かー君?寝起き?え、何?今あんたに起こされた?しらないなぁ。まぁ、囚人なんだから、監守の言うことは聞きなさいって。
今、久々にむっちゃんが来て…むっちゃんって嘉納ちゃん。そう、あのむっちゃん。で、力借りたくて、許可出すから、ちゃちゃっと来てねー。
じゃ、そういうことで。」
彼女が電話を切った瞬間、またいつの間にか今度は学ランを着た白髪片目隠しの男性が現れた。
「はい、来ましたよ、監守長殿。
というか、魔王陛下にくーちゃん、日村まで集めて何?また戦争でもするの?」
「うむ。苦しゅうないぞ、我が下僕よ。
で、まぁ、間違ってはないかな。ほら、この子。」
と白鬼院小梅さんが話していたと思ったら、いつの間にか僕の後ろにおり、背中を押して白髪片目隠しの男性の前にだす。
それにしても白鬼院小梅さん、フリーダム過ぎない?
「んー、見かけない子だけど誰?太鼓原がついに死んだ?
だけど、あいつ、ここまで目が綺麗だったか?もっと危ない人間だった気がするんだが…」
「あー、違う違う。
さい君の次の主になる予定の子。
ただし、今、絶賛死にかけてるから、【神医】のかー君に治して欲しいんだって。むっちゃんが言ってた。」
「ほー、なるほどね。
了解。じゃ、軽く診察してから行く感じでいい?」
「いいよー。私の前に来れば許可したようなもんだし」
目の前でなんだかわからない内に話が進んでいると、白髪片目隠しの男性が僕を見据えてきた。
「ふむ……あ、そうそう。担当医の畑神威です。親がDQNネーム好きでね、ハハッ。
役職【神医】のおかげで医療チートみたいなもんなんだよ、よろしく。
えっと、君は……」
「え、あ、く、黒金剣太です。」
「はい、黒金君ね。
で、君、何やったの?
左腕噛み千切られたように無くなってるし、
肺に肋骨5本刺さってるし、
胃に穴空いてるし、
右目潰れてるし、
右肩は腱が切れて普通なら二度と動かせない状態だし、
瘴気中毒で髪が脱色して白髪になっちゃって、肺とか呼吸器系ボロボロだし、
こんなひどい状態の患者、始めて見るんだけど?
普通ならもう死んでるんじゃね?」
すごく不思議そうに尋ねられた。
僕もそんな重傷で生きていることにびっくりしました、今。瘴気中毒で髪が脱色して白髪になってるとか知らなかったですよ。あと肺がヤバい状態とか。
「えっと……なんでわかったんですか?今、見た目は全然普通なんですけど?」
「ん?簡単なことだよ。魂っていうのは自分が無意識の内にイメージした姿をとるからね。だから見た目は変わらないように見えるんだよ
で、今、君がここにいるのは瀕死なだけで、魂魄が剥離したわけじゃないから、その繋がりを見れば魄の状態がわかるってわけ。わかるかな?」
「な、なんとなくは……」
つまり、今の姿はアバターでアバターの接続元を見ている、って感じなのかな?
「ま、なんとなくなら大丈夫だろうね。
で、何したの?ここまで来たってことはカガチから逃げるときに何かあったのかな?」
「えっと、カガチヒュドラを木っ端微塵に……」
「ほうほう、へー。カガチを木っ端微塵に…………うん?カガチヒュドラを木っ端微塵って、つまり倒したの!?」
「だから言ったでしょ、かー君。」
白鬼院小梅さんが畑神威さんの後ろでドヤ顔している。
というか、またいつの間にか動いたんだ、この人。
畑神威さんは呆れたように驚嘆した表情を浮かべ、
「マジかぁ……カガチヒュドラを平塚以外の人が倒したの、始めて聞いたわ。はぁ…倒せるんだな、あれ。
ま、とりあえず問診は終了。
見立てだとまず左腕は諦めてほしい。無からは作れないからね。同じように右目も無理。
あとはだいたい治せるけど、君の体内に入ったカガチの毒を抜いたり、瘴気による弊害を手術したりを考えると肉体は3日ほど使えないから、よろしく。」
やっぱり左腕と右目はダメだったか……
…いや、いっそ男子の憧れ、サイボーグとかやってみるかな?
ハガレンのエドの腕みたいな感じにしたら、かっこいいかも。
ちょうど僕は【錬金術師】だしいけるんじゃないかな?
僕がそんな思いに耽っている内に、
「さて、じゃ、久々に頑張りますか。
白鬼院さん、よろしく」
「はいはーい」
そう言って白鬼院小梅さんが指をならした瞬間、畑神威さんは目の前から消失した。
……しかし、こう、なんだろう。
夢見てるんじゃないのかな、これ。
伝承の魔王がでてきたり、世間を騒がせた失踪事件の人たちに会ったり、色々と現実味が無さすぎる。
「さて、と。
じゃ、黒金君の肉体が治るまで色々教えたり稽古つけたりしようか。
さい君、体育館使えるようにしといて。
とー君、視聴覚室にひーちゃん達文官メンバー集めといて。
くーちゃんはグラウンドとプールの準備を。」
流れるように白鬼院小梅さんが指示を3人に出してから、彼女は実に楽しそうな笑みを僕に向けて言ってきた。
「さぁ、楽しい学校の時間だよ!!」
ちなみに教室は某めだか箱の、親しみを込めて「あんしんいんさん」と呼ばせようする人がクマーに最初の過負荷渡したり、善ちゃんに目をあげたりした場所をイメージしてください。
あの作品、面白かったなぁ




