錬金術師、衝撃の出会いを果たす
「ここは……?」
目を覚ますと見覚えのない教室にいた。
周りには誰もおらず、整頓された机や椅子が並び、窓からは夕日が射している。
さっきまでカガチヒュドラと戦っていて、木っ端微塵にした記憶まではあるんだけど……
そこでハッとして左腕と右目を確認する。
噛み千切られたはずの左腕はいつも通りちゃんとあり、牙が刺さった右目も問題なく見えている。
ついでに確認すると、ボロボロで血塗れになったはずの学ランも綺麗になっていた。
「夢……だったのかな?」
だとしても、こんな見覚えのない教室にいる理由がわからない。
いったいどこなんだ、ここは?
「あ、目覚めたみたいだね、こんにちは。」
急に声が聞こえ、教壇の方を見てみると萌え袖状態の看守服を着た銀髪片目隠しの幼女がいた。
「幼女とは失敬な!!これでも15歳と500年弱だから、君より年上なんだからね!!」
プンスコ、と言わんばかりに頬を膨らませて怒ってくる幼女。
というか、なんで幼女って言ったのがバレたんだ?
「そりゃあ、この空間は生と死の狭間にボクが作ったんだよ?
魂の言葉が聞こえるのは当然さ。隠し事はさせるつもりはないし。」
作った!?いや、そもそも生と死の狭間ってどういうこと!?
「どういうことも何もそれがボクの役職【交霊術師】と異能“監獄”の力だからね。今の君は肉体が死にかけて、魂だけの状態でここにいるからね。」
「なっ!!」
魂だけがいるって何!?
というか、役職に異能まであるって何者だ、この幼女!?
「幼女って言わないでよ!!
私の名前は白鬼院小梅。まよ「お久しぶりです、白鬼院さん。」
何か彼女が言いかけたところでまた新たな女性が現れ、挨拶をしてきた。
無表情でポニテ、そして何より特筆すべきは巨乳メイドである。
ポニテ巨乳メイドである。
重要なので2回言いました。
「おりょ?もしかしてむっちゃん?
わぁお!!昔と全然変わらないね!!500年ぶりぐらい?」
「そうですね、ここに来るにはなかなか骨が折れますからね。」
どうやらこのメイドさんと白鬼院小梅さんは知り合いのようだ。
「で、どうしたの、むっちゃん?」
「畑君を呼んでください。
この瀕死の青年を治療するには彼しかいませんので」
「……かー君いるとか何したの、この子?」
「カガチヒュドラを殺しました」
「……はっ?マジで?
ちょっと待ってて!!あ、もしもし、さい君?うん、至急呼び出し。ひゅーちゃんがやられたっぽい」
何やら僕を置いて2人は話し始め、白鬼院小梅さんはどこからか携帯電話を取り出して連絡している。
するといつの間にかこの教室に白髪ポニテの長身な男性、紅髪で狐耳と尻尾を持つ女性、2人に比べると地味で平凡そうなのにどこか悟っているような男性がいた。
全員、軍服みたいな監守服を着ている。
というか狐耳ですよ、奥さん!!すごいなぁ、こっちの世界。本当にいたんだ、獣人。
「おっと青年、興奮するのはわかるけど、くーちゃんは既にさい君の奥さんだから手を出しちゃ駄目だぜ?」
「いや、手を出すつもりはまったくないんですけど!?」
なんだか興奮しただけでいわれのない冤罪を受けた。
「で、白鬼院。俺らを呼ぶってことは相当なのか?」
白髪ポニテの男性が面倒臭そうに尋ねると、白鬼院小梅さんは頷き、
「まぁね。封印破られて、この子が私達の主となる感じ。
ただ、今肉体が死にかけてるらしいから、かー君が必要だってむっちゃんが言ってた。」
……話がついていけない……僕が主となるって何が?
「………あー、なるほど。カガチを倒せる可能性を持つだけのポテンシャルあるよ、この男子」
と、唐突に僕を観察していた、地味な感じの男性が声をあげた。
「ほぅ?さい君がそこまで言うとはどんな感じなの?」
「彼は【錬金術師】。
こっちの世界の知識も地球の知識も兼ね備え、毒に対して強い耐性を持ってるね。たぶんカガチの毒で即死しなかったのはそれが影響してる。
さらに言えば地球でイメージされる錬金術はできるみたいだね。鉄を金に変えるとか。
で、異能は『夢幻の創造』。
自分がイメージしたものを創造する、なかなかのチートだね。
たぶん地球の伝承にある聖剣とか魔剣とか作れるんじゃない?物理法則とかいろいろ無視できるみたいだし。」
サラッと言われたが、僕はその瞬間からこの人に恐怖心を抱いた。
役職も異能も一文字も間違いなく当てられたのだ。何も言っていないのに。
何よりも恐怖を感じたのは、その発言をしたときの彼の目が、前田や球磨川の全盛期レベルに近いぐらい人っぽさがなかった。まるで人形のようであり、僕を見ているのに違うものを見ているようだった。
「あなたは、いったい……」
思わず恐怖で息を詰まらせながら問いかけてしまった。
恐る恐る待っていると、平凡そうな男性は周りから、
「ほら見ろ、怖がられてるじゃねーか」
「才人君、だから紫に泣かれるんだよ?」
「相変わらず空気が読めないようで何よりです」
とボコボコに言われていた。ちなみに男性は涙目になってた。
白鬼院小梅さんはため息をついてから、パンパンと手を叩いて注目を集めてから、
「はぁ、とりあえず1回自己紹介してからいろいろ説明しつついこうか。
改めて。ボクは白鬼院小梅。
真宵ヶ関中学3年2組の生徒だった子だよ」
と言ってきた。
…ってちょっと待って!?
真宵ヶ関中学って『まよ中』って呼ばれる、紅学園のある地区の有名な進学校のだよね!?
僕や前田、球磨川達は隣の学区だったから詳しくは知らないけど、聞いたことぐらいはあるよ、とある事件で!!
確かあれは“5年前”に1クラスがマリーセレスト号のように集団失踪し……まさか………
「ご明察だ。
俺は真宵ヶ関中学3年2組日村刀士郎だ。
この中じゃ2番目に死んでる。」
「同じく真宵ヶ関中学3年2組平塚才人。
『魂を見透かす魔王』って呼ばれてたな。」
「真宵ヶ関中学3年2組嘉納武蔵。
今は『無貌の魔王』自称キョーマ・ジャガーノートに仕えております。」
「才人君の妻の平塚紅です。
『女神に最も近い魔王』なんて呼ばれていました。」
どどどどういうことなんだってばよ!?
ツッコミ所が多過ぎる!!
伝承にある魔王とか、5年前に行方不明になった学校の人達がいるのとか、なんかもうその他諸々!!




