各々、動き始める ―扇動者は企てを開始する―
黒金が魔族と手を結び、織斑を殺そうとした、という情報がクラスを含め城内に浸透し始めた時、真っ先に澪と麗奈が俺の元に駆け込んできた。
「慶ちゃん、黒金君が!!」
「どうするの、慶一君!!」
2人は真っ青な顔をして今にも倒れそうなほどだ。
ちなみに、俺自身も顔から血の気が引いているのが自覚できるくらいに焦っている。
なにせ俺達3人、いや球磨川も含めて4人の恩人が死んだかもしれないんだからな。
が、今は不安を言っていられない状況だ。
冷静さを欠けば計画が狂うかもしれないからな。
「落ち着け、大丈夫だ、2人とも、クールになるんだ。
ほら、息を整えてー、ヒッヒッフー」
「「ヒッヒッフー」」
うむ、実に俺の言うとおりのノリに乗ってくれる子達だ。
「って慶ちゃん!!ラマーズってる場合じゃないし!!」
「そうだよ、慶一君!!」
よし、だいぶ今のやりとりでいつもの調子になってきた。
2人もその辺がわかっているから、血の気が戻り、やれやれ、と首を振っている。
「よし、落ち着いたな。
一応、今、考えられる一番正しい情報は、魔族と黒金が手を結んだっていうのはデマだってことだ。
何せ情報元があの黒田だ。何か都合がいいようにしていてもおかしくはない。
例えば織斑を上回る力を黒金が持っていたから、それを隠して織斑の功績にするため、とかな。」
俺が現状考えられる推論を伝える。
あながち間違っていないとは思う。
あいつの自己申告による異能の制限は、ぶっちゃけ自制していると考えてよさそうなレベル、と前にも似たようなことを考えた記憶がある。
澪も頷きながら、
「黒金君が高い戦闘能力を持っているかはわかんないけど、前に慶ちゃんが言ってた仮説『何でも作れる生産チート』だったらあり得るかもね。
例えばだけど、この世界にも銃はあるけど、火縄レベルな上、【猟師】じゃないと使いこなせないレベルの粗悪品だからねぇ。
正直、素人の私が使えば良くて不発、悪くて暴発って感じみたいだよ。
だから、もし地球の銃でも作れたら、十分この世界では過剰戦力だと思うよ。
ましてやライフルとか、ロケランとか作っちゃえば、確実に神様扱い間違いないんじゃないかな?」
戦闘職として、この世界の武器武具を調べてもらっただけあって澪の言葉は説得力が高く、太鼓判を押してくれた。
「私も澪ちゃんと同意見かな。
この世界、魔法や魔術が使えるからなのか、まともな飛び道具は弓矢ぐらいしかないんだよね。
慶一君が戦争系ゲームで好んで使う投石機とかの攻城兵器すらないみたい。
魔術で岩を飛ばせばいいし、飛んできてもバリアー張ればいいだけらしいし。
だからこそ、魔導じゃない、ただの技術が、この世界なら神の領域みたいな感じにはなるかも」
戦闘職として澪とは別方向でこの世界の戦闘技術を調べた麗奈も同意する。
というか、魔法・魔術に頼っているだけあって、やっぱり技術力がかなり低いな、この世界。
まぁ、適性とかはあるものの、簡易的なやつなら大体の人が使えるしな。
そりゃ不便を変えるための技術追求はないよな。
「なるほどな。もし黒金のやつがその辺の作れれば大活躍間違いなしで、情報改竄に黒田のやつも乗ってくる可能性は高いわけか。
なんにせよ、今言えるのは、黒田がデマを流している可能性が高いってことだ。
質が悪いのは、どこからどこまでが真実かわからないってことだが、それは今、球磨川が真実を語ること間違いない情報筋へ聞きに行ってる。
つーわけで、球磨川からの情報を受け次第、出奔するぞ」
俺の現状の推理と今後の計画を聞き、澪も麗奈も不敵な笑みを浮かべ、
「フッフッフ。何だか楽しみだねぇ。
案外失敗しないかで怖くなってくるかと思ってたけど、慶ちゃんと麗奈がいるからか、失敗する気がしないねぇ」
「そうだね。
まぁ、私は澪ちゃんと慶一君がいればどんなことでもやれる、ううん、やってみせるよ」
と気合い十分な発言をしてくれた。
士気は完璧だ。
さぁ、球磨川。
早く戻ってきて、教えてくれよ!!
――――――――――――
「というわけで、私も出奔に参加するわ」
おい、球磨川、何をどうしたら女帝と一緒に来ることができる上に、彼女まで出奔しようとさせられるようにできるんだよ。
なんかチートかバグでも使ったのか?
見てみろ。
澪も麗奈も予想外すぎて、完璧戸惑って、お互いをチラチラ見ながらアイコンタクトしながら、女帝に対して警戒してんじゃねーか。
「あー、まぁ、なんだ。
というわけで、雪風さんも仲間になりました。拍手ー」
「いや、しねーよ!!
つーか、そのゾンビみたいな顔で棒読みやめろや!!
それから何でこうなったんだ!?」
「球磨川君、球磨川君。
いくらなんでも、雪風さんを口説いてくるのは予想外だったんだけど、私」
「ちょっと流石に私も事前に連絡してほしいと思ったなぁ、球磨川君。
あと慶一君への、仲間になるときの音楽は『チャラララチャチャチャッチャー』の方がいいよ。」
いや待て、麗奈。そのツッコミはおかしい。間違ってないけど、今はそこじゃない。
球磨川は俺と澪、それから一応麗奈からの批判を受けるが、反論とも言える次の一言といつもより死んでいる目で納得させてきた。
「前田、園田、龍造寺。
知っているか?女帝からは逃げられないんだよ」
「「「なら仕方がない」」」
「少し貴方達の中での私について話し合いましょうか?」
話し合うことは何も無いです、女帝陛下。
そんなクラスのラスボスとか、某ドラゴンをクエストするやつのVのエス●ークとかそんなことは思っていません。
「で、黒金は魔族の方に助けられてそう、ってわけか。
面倒なことになりそうだな……」
球磨川と雪風から聞いた事実は実に面倒臭いものだった。
黒金の生存の希望は見出だせたが、あいつの現状を考えるとかなりまずい。
「まぁな。
高町の前では言わないでいたが、『魔族と繋がっている』って汚名を晴らすのは厳しいかもしれん」
「あー、確かにそれはヤバイかも。
黒金君がせめて自力で這い上がってきてくれればいいけど、流石に無理だろうし、そうなると魔族と仲良くなりそうだよねぇ」
まぁ黒金君なら逆に魔族に好かれそうだけど、という澪の言葉に俺も同意する。
どういうわけか、あいつはアウトローな奴に好かれる部分があるからな。俺や澪然り、球磨川然り。
「もしかすると黒田君もその辺に気付いていて、そう言っているのかもしれないよね。
あの人、性格悪いし。」
「そうね。あの男、人の情には疎いくせに、そういう細かいことには敏感だから、気付いている可能性は十分あるわ」
麗奈と雪風の意見は十分ありえるだろう。
「まぁ、考えても仕方がねぇ。
俺達は俺達で出奔して、生き延びればいいさ。
そうすりゃその内何か思い付くだろうしよ。
だからまぁ《心配すんな》。」
「それもそうね。
で、どうするつもりなのかしら、前田君?
出奔するにしたって、しっかりした策は必要よ?」
雪風の問いかけに俺は少し悩む。
ここは素直に俺の能力を言って、作戦を伝えた方がいいと思う反面、あまりにもチート過ぎる故、知られたくないと思うからだ。
しかし、俺の苦悩は球磨川の一言によって、後者が決断された。
「前田、今、雪風、いやあるいは俺達全員に何か能力を使っているだろ?」
その問いかけに俺は一瞬硬直してしまう。
やはり俺達の中で一番の天才である球磨川は気付くのか?
それとも、初めて異能の力を使ってみたんだが、わかりやすいかったのか?
それらがわからない以上、警戒して誤魔化すに限る。
「何言ってるんだよ、球磨川。
俺の役職の能力は『2択を選ぶ』で、異能は『1対1で強制的に戦うことができる』だぞ?
今、ここで使えるような力じゃねーぞ?
だから能力は使ってないから《気にするなよ》」
誤魔化しながら異能を混ぜた俺の言葉に、球磨川も腑に落ちなさそうではあるが、納得したようだ。
こりゃ、あれだな。天才だから気付いた、って方だな。
そう考えると、この異能、チート過ぎるわ。でもって、球磨川こえぇ……こいつがもしも織斑とか側のやつだったら多分逃げられる気がしねぇ。
そんな自分の力に恐れながら、俺は作戦説明を始める。
「とりあえず、俺には騒動を起こす方法があるからよ。
それを使って人手不足や大混乱を誘発させて、その隙に逃げるって作戦だ。
目標逃亡予定地は、この世界で一番信仰されている『天使教』に対して、存在するだけで真正面から喧嘩を売っている『夜刀神国』だ。」
俺はこの1ヵ月調べまくった他国の中で、最も良さそうな国の名前をあげた。
夜刀神国。
『魔国』や『邪神国家』と天使教最大国家『サニャーア天使教国』から烙印を押されている国だ。
何せ天使教に伝わる神話を真正面から否定し続ける存在が王として君臨しているからだ。
君臨している王の名は『ハヤト』。
500年前の魔王と勇者の戦いにおいて、魔王に味方した『闘争と商売、そして信頼を司る復讐神』【夜刀神】というガチの神様なのだとか。
ちなみにどういうわけか伝承が少ない十魔王の中で数少ない知られた魔王、
「神に最も近い魔王」
「女神に最も近い魔王」
「宵闇の支配者たる魔王」
の3人と並び、「神を殺した邪神の魔王」として伝承がギリギリある存在だ。
というか実在してるんだし、伝承がなかったら逆に怖い。
ちなみにこの4魔王の知名度をわかりやすく言えば、織田四天王ぐらいの知名度だ。「魂を見透かす魔王」がビッグネーム過ぎて目立たないが。
なんにせよ、そんな存在だ。
そりゃ天使教と相反するわけだ。世界を運営していた神々の代わりをしている天使たちの前に、神様がいるんだから。
国家としては、どういうわけか日本に近い民主主義である。議会があり、多種多様な議員たちが政治を運営しているようだ。
あとは様々な点で似ている部分があるが、違う点としては多民族国家で「バラスィー吸血公国」や「鬼隠しの里」などの自治区が多く、国家群と言った方が正しそうだ。
なんというか、ひとつの群れでひとつの個体と言われる元の世界にある伝承の夜刀神みたいで、少し面白い。
国教は何もなく、強いていうなら、夜刀神信教だが、まぁほとんど自由信仰らしい。
どれぐらい自由かと言うと、自分達を魔国や邪神国家扱いする天使教を信仰している人がおり、それに対して何もアクションがないぐらいらしい。頭がおかしいとしか思えない。
ちなみに、日本以上に厳しく政教分離をしており、宗教的思惑をいれないよう徹底されているらしい。
宰相の“大賢者”や、何故か外交官の“大仙人”と呼ばれる人達が建国約500年ほど前から常に上にいるからこそできるそうだ。500年ほど前からいるとか、間違いなく化け物だろ。
王である夜刀神は『君臨すれど支配せず』という形で存在し、国の名物であるコロシアムで闘いを楽しんでいるそうだ。
そんな、どこか日本に似た頭のおかしい国へ逃げるのは、単純に近場かつ王国の追っ手が来づらいからというわけだ。
どれぐらい近場かと言うと、夜刀神国に属する自治区とこの王国が接しているぐらいだ。
「なるほどね。
逃亡というよりは亡命に近いかたちなのね。
でも、5人で動くのは目立つから見つかる危険性はないかしら?」
「まぁ、そこは二手に別れて、あとで合流だな。
雪風さんは俺・澪・麗奈か球磨川、どっちと行く?」
「流石、ハブられ川君ね。まさか友人付き合いのある人からもハブられるだなんて」
「………おい待て、前田。俺は1人で行動する予定だぞ?なぜ雪風の選択肢にいれる。
あとハブられてないから。自己申告でソロになっただけだから。」
……咄嗟のやり取りでこの連携……この2人、相性も仲もいいな、うん。
なんかやり取りが夫婦漫才みたいな感じだ。
気付けば警戒していた澪も麗奈も生暖かい目で2人のやり取りを見ている。
しかし、まぁ、球磨川を気にし始める奇特な女子が『もう1人』増えるとは、許しがたいリア充だな、こいつ。
1回刺されればいいのに。
「なんか、今、お前にだけは言われたくないことを言われた気がしたんだが?」
「気のせいだろ。
それよりも理由だが、まぁ俺ら3人はもはや阿吽の呼吸レベルで連携できるからな。
そこに1人加えても、その4人というよりは3+1人って感じになっちまうからな。」
「なるほど、素晴らしい配慮だ。それなら文句はない。
あれだな。『はい、2人組作ってー。』という呪いの言葉による被害と同じことを起こさないのは大切なことだ」
「全くもってその通りだよね。あの呪いはなくなればいいのに」
いつものように目が死んでる球磨川に加えて、中学時代までの関係で麗奈まで目から生気がない。
というか、ハイライト消さないでくれ、麗奈。なんか、こうヤンデレっぽいというか、雛●沢症候群発症みたいに見えるから。
「だが、それなら雪風と俺とお前ら3人で別れればよくないか?」
「球磨川。考えてみろ。
日本でならそれでもいいかもしれんが、ここは治安が悪い世界だ。
そこに美少女1人とか『私を襲ってください』と言っているようなもんだぞ?」
俺の説明に球磨川は、あー、と頷いてから、
「確かに凍らされる被害を防がないと無実な被害者がでるかもしれんな」
「それはどういう意味かしら、球磨川君?」
満面の笑顔で球磨川に問いかける雪風。
俺達はそれを見て、「笑顔とは本来(ry)」の正しさを実感させられた。
「まぁまぁ、雪風さん。
とりあえず、球磨っちは雪風さんと一緒でいい?」
澪の仲裁と確認で、球磨川は不承不承そうながら頷いた。
「じゃ、闇に紛れて逃げれるよう夕飯後に行動開始するから、準備しとけよ」
さぁて。
俺達を敵に回した黒田と王国へ、目にもの見せてやるとするか。
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